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真城のもやもや

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「じゃあ」と遠慮がちに手を上げた蓮は見た目から想像していたイメージとは随分違った。
「またな」と手を上げ返し、何故か蓮と連れ立っているクリスには頭を下げておいた。

執行部の主要メンバーはまだまだ帰る気配など無いのに無言の申し合わせで帰っていく2人の後ろ姿を見送っていると腹の底に正体の見えないモヤモヤが溜まった。

真城が実行委員のメンバーに潜り込むには結構大変だったのだ。
開催まで間の無いこの時期に手伝いをさせてくれと申し出ても、昨年の学祭が終わってすぐに始動していた準備はもう佳境なのだ。当然のように「当日に頼む」と断られた。
そこで諦めたりはせずに知り合いや先輩を辿って企画を持ち込み、自分で全てをやる前提で無理矢理潜り込んだのに何故か蓮だけが特別扱いになっている。

小さなプライドから蓮にはプロを目指している訳では無いと言ったがそれは嘘だった。

プロを目指す。
それはバンドを組んだ中学生の時から変わってない。

大学に通うなんて保険を掛けているだけだと笑う奴もいるだろうがそうではない。
音学活動を将来の仕事として真面目に考えているからこそ……どんなに厳しく、どんなに希な事だとわかっているからこそ大学に通っているのだ。

芽が出無いまま社会に出ても働きながらの音楽活動など日常に追われて破綻するのは目に見えている。
だから今だった。有難いことに親が無償で援助をしてくれるこの4年に掛けていた。

ライブに人を集める難しさは身に染みている。
半日貸切12万の小さな箱を5組のバンドで分け合っても利益どころか赤字の心配が先に立つのが常だった。

万の学生がいる大学の学祭なら宣伝費は無料なのに通り掛かりでも何でも聞いてくれる、目に留めてもらえる。
聞いてくれさえすれば少しでも伸びる足掛かりに出来ると踏んでいた。

だから前夜祭でのライブは時間が大切だった。
みんなが模擬店などの準備を終えてお祭りモードに入るのは夕方から夜の筈だ。なのに、持ち込んだ企画に付いた条件としてトリは蓮に譲らなければならない。

「あんな……やる気も無い奴に……」

蓮に独特の雰囲気があるのは認めるが、盗み見た手には楽器を触った形跡が一切無かった。例えボーカルを専任していたとしても素人の集まりで何一つ楽器を触ってないなんて成り立つ訳が無い。
なけなしのお金を集めてやっと開いたライブでもメンバーの誰かが欠ける事はあるだろう。
練習でもそれは同じだ。
つまり、真面目に取り組んでいるようには見えないのだ。
ライブへの出演は何気に権力者である栗栖を取り込んでいる為に得た特権に思えた。
勿論だがサブステージの準備は蓮と協力してやるつもりをしている。……しているがモヤモヤするのは当たり前だろう。

「ま……レベルチェックには参加してもらうから……」

そこで見せてもらう。
そして見せてやる。
真剣に取り組んでいるかどうか。
やる気の程を。
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