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カチャって…
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「最初から……そのつもりだったんですね」
クリスの方を見たくなくてそっぽを向いたまま聞いた。
「好きとか嘘ばっかり」
「………そこを疑われると悲しいね」
「疑ってなんかいないよ」
確信だろう。
大学の学祭には巨額の予算が使われると執行部の佐竹が言っていた。
サークルや部活動、各課から出す模擬店は遊びではなく利益を見込んでいる。本格的なステージを組み、有名なプロアーティストを呼んでのコンサートは規模は大きい。
そこを全部学生会の執行部で仕切るのだから権限に伴い責任も重大だろう。
その一部に利用しようと言うのだ………「NIKEの靴下」さえ説き伏せる説得力を持って。
付き合うとか好きだというクリスの言葉を100%本当だと信じていたわけでは無いが、少し残念な気持ちになった。
好きだと言ってくれる人がいるなんて思わなかったから嬉しかったんだと思う。
クリスのような人に構ってもらえたのだから贅沢を言うなと言われそうだが、ムカつくのは当然だろう。
どこまでが本当で、どこまでが嘘なのかはてんでわからないが、どうやら結構大掛かりに揶揄われていたのだ。学祭でのライブだって「REN」には集客力なんか無いし、30分どころか15分だってステージをもたせる事も出来ないとその目で確かめた筈だ。
「すいません、そこの角で止めてください」
会話がなくなってシンとしていたからだと思う。
「はい」と返事をした運転手さんは言ったとおり滑るように車を止めてくれた。
クリスが座っている左側のドアが開いたが手近なドアを自分で開けて車を降りた。
何も言わないクリスに「ありがとう」とお礼を言った後はもう振り返ったりしなかった。
クリスが何を思い、どんな顔をしているかなんてもう気にならない。
一人で電車に乗って、一人で帰る道はいつもの倍くらいの距離に感じたけど、アパートに帰り着くとほっとした。
肩の力が抜けて何だか憑き物が落ちたようだった。リアルに取り憑かれていたのだと思ったら笑えてきた。
「……そうだよな……わかってたのに…」
変だ変だと思いながらも、あり得ないくらいの勢いに流されてこの様だ。
誰かに恥をかかせて笑いたい奴ってどこにでもいる。学校で言えばクラスに2人くらいは必ずいる。そこに迎合する奴が何人かいて、後の大半は見て見ぬ振りをするものだ。
似合いもしない奴が冴えない歌を晒しているのを知って、誰かの楽しみに使われただけ。
つまり揶揄われていただけだなのだ。
そして、とても残念だがこれはよくある事だ。
「……ハハッ…馬鹿みたい…」
一度笑い出すと止まらなくなり寝転がって笑って、笑って、着ていたTシャツで鼻水を拭いたら酷く汗臭かった。
「………お風呂に入ろ」
笑うのをやめたら音が無くなった。
突然の静寂は途切れた伴奏を思い起こして何だか苦手なのだ。こんな時には目を閉じて心臓の音を聴く、安定したリズムがいつもの自分を思い出させてくれる。
少し早い心音はまださっきまでの興奮が収まってないって事だと思う。
大の字になって寝転がっていた玄関先から起き上がって、風呂場に行こうとした時だった。
玄関のドアからカチャンと鍵の回る音が聞こえて飛び上がる程肩が跳ねた。
「え?え?……」
誰だとか何だとか思う前に開いた玄関の扉から顔を出したのはたったさっき決別した筈のあの人だ。素の顔で「ただいま」と笑う。
「ちょっと!!一体鍵を何個持ってるの?!!」
「何個って………やだなぁ」
「また……その顔!やだなはこっちのセリフです!!もう2つも取り上げたのにおかしいでしょ!」
「それはいいけど座りなさい」
「それもこれも良く無い!座れって何?!」
「いいから、そこでいいからまず座って」
いつになく強い命令口調で言われて、尖った口を治めるつもりは無いけど座るくらいならいい。
奥に通すつもりはもう無いからリビングのドアを跨いだ状態でその場に座った。
「もしかしてお風呂に入ろうとしてた?」
「臭いですからね、サッパリしたいんです、だからなるべく早く出て行って貰えると助かります」
「急いで買い物したつもりだけどギリギリだったね、間に合ってよかったよ、ほら、怒るのとお風呂は後にしてまずはこれを飲みなさい」
スッと腰を落としてハイと出て来たのは500mlのペットボトルだ。結露の水滴が滴る程濡れている。
「スポーツドリンク?」
「あんなに汗をかいたのに水を少し飲んだだけだろう?このままお風呂になんか入ったら脱水になるよ」
「飲もうと思っていた水を取り上げたくせに……まぁいいです、俺の事は放っておいてください、自分の事は自分で出来ます」
「いいからまずは飲みなさい、話はその後にしよう」
「……話す事なんて無いですけどね」
汗っかきなのは昔からだし体調だって悪くは無いのだ。手を出さないまま横を向くとパチンと蓋を開けて手の中に置かれた。
飲めば帰ってくれるんなら飲む。
「ゆっくり飲んで」
ペットボトルに口を当てると、まるで子供の食事を見守るお母さんのように覗き込んでくる。
クッと喉を開けると容器から伝い落ちた水滴が顎を流れて行くのを感じた。
服はもうすぐ脱ぐし、床に落ちてもどうって事ないから放っておくと、クリスの指がそっと掬い取った。
そして、指に着いた水滴を舐めたのだ。
クリスの方を見たくなくてそっぽを向いたまま聞いた。
「好きとか嘘ばっかり」
「………そこを疑われると悲しいね」
「疑ってなんかいないよ」
確信だろう。
大学の学祭には巨額の予算が使われると執行部の佐竹が言っていた。
サークルや部活動、各課から出す模擬店は遊びではなく利益を見込んでいる。本格的なステージを組み、有名なプロアーティストを呼んでのコンサートは規模は大きい。
そこを全部学生会の執行部で仕切るのだから権限に伴い責任も重大だろう。
その一部に利用しようと言うのだ………「NIKEの靴下」さえ説き伏せる説得力を持って。
付き合うとか好きだというクリスの言葉を100%本当だと信じていたわけでは無いが、少し残念な気持ちになった。
好きだと言ってくれる人がいるなんて思わなかったから嬉しかったんだと思う。
クリスのような人に構ってもらえたのだから贅沢を言うなと言われそうだが、ムカつくのは当然だろう。
どこまでが本当で、どこまでが嘘なのかはてんでわからないが、どうやら結構大掛かりに揶揄われていたのだ。学祭でのライブだって「REN」には集客力なんか無いし、30分どころか15分だってステージをもたせる事も出来ないとその目で確かめた筈だ。
「すいません、そこの角で止めてください」
会話がなくなってシンとしていたからだと思う。
「はい」と返事をした運転手さんは言ったとおり滑るように車を止めてくれた。
クリスが座っている左側のドアが開いたが手近なドアを自分で開けて車を降りた。
何も言わないクリスに「ありがとう」とお礼を言った後はもう振り返ったりしなかった。
クリスが何を思い、どんな顔をしているかなんてもう気にならない。
一人で電車に乗って、一人で帰る道はいつもの倍くらいの距離に感じたけど、アパートに帰り着くとほっとした。
肩の力が抜けて何だか憑き物が落ちたようだった。リアルに取り憑かれていたのだと思ったら笑えてきた。
「……そうだよな……わかってたのに…」
変だ変だと思いながらも、あり得ないくらいの勢いに流されてこの様だ。
誰かに恥をかかせて笑いたい奴ってどこにでもいる。学校で言えばクラスに2人くらいは必ずいる。そこに迎合する奴が何人かいて、後の大半は見て見ぬ振りをするものだ。
似合いもしない奴が冴えない歌を晒しているのを知って、誰かの楽しみに使われただけ。
つまり揶揄われていただけだなのだ。
そして、とても残念だがこれはよくある事だ。
「……ハハッ…馬鹿みたい…」
一度笑い出すと止まらなくなり寝転がって笑って、笑って、着ていたTシャツで鼻水を拭いたら酷く汗臭かった。
「………お風呂に入ろ」
笑うのをやめたら音が無くなった。
突然の静寂は途切れた伴奏を思い起こして何だか苦手なのだ。こんな時には目を閉じて心臓の音を聴く、安定したリズムがいつもの自分を思い出させてくれる。
少し早い心音はまださっきまでの興奮が収まってないって事だと思う。
大の字になって寝転がっていた玄関先から起き上がって、風呂場に行こうとした時だった。
玄関のドアからカチャンと鍵の回る音が聞こえて飛び上がる程肩が跳ねた。
「え?え?……」
誰だとか何だとか思う前に開いた玄関の扉から顔を出したのはたったさっき決別した筈のあの人だ。素の顔で「ただいま」と笑う。
「ちょっと!!一体鍵を何個持ってるの?!!」
「何個って………やだなぁ」
「また……その顔!やだなはこっちのセリフです!!もう2つも取り上げたのにおかしいでしょ!」
「それはいいけど座りなさい」
「それもこれも良く無い!座れって何?!」
「いいから、そこでいいからまず座って」
いつになく強い命令口調で言われて、尖った口を治めるつもりは無いけど座るくらいならいい。
奥に通すつもりはもう無いからリビングのドアを跨いだ状態でその場に座った。
「もしかしてお風呂に入ろうとしてた?」
「臭いですからね、サッパリしたいんです、だからなるべく早く出て行って貰えると助かります」
「急いで買い物したつもりだけどギリギリだったね、間に合ってよかったよ、ほら、怒るのとお風呂は後にしてまずはこれを飲みなさい」
スッと腰を落としてハイと出て来たのは500mlのペットボトルだ。結露の水滴が滴る程濡れている。
「スポーツドリンク?」
「あんなに汗をかいたのに水を少し飲んだだけだろう?このままお風呂になんか入ったら脱水になるよ」
「飲もうと思っていた水を取り上げたくせに……まぁいいです、俺の事は放っておいてください、自分の事は自分で出来ます」
「いいからまずは飲みなさい、話はその後にしよう」
「……話す事なんて無いですけどね」
汗っかきなのは昔からだし体調だって悪くは無いのだ。手を出さないまま横を向くとパチンと蓋を開けて手の中に置かれた。
飲めば帰ってくれるんなら飲む。
「ゆっくり飲んで」
ペットボトルに口を当てると、まるで子供の食事を見守るお母さんのように覗き込んでくる。
クッと喉を開けると容器から伝い落ちた水滴が顎を流れて行くのを感じた。
服はもうすぐ脱ぐし、床に落ちてもどうって事ないから放っておくと、クリスの指がそっと掬い取った。
そして、指に着いた水滴を舐めたのだ。
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