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できれば知られたくない事
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その筈だったのに……。
マイクを置こうとすると「上手いな」って拍手を貰った。
「所々作曲してたけどな」と言われても知らない所は流れに合わせたから適当だったのだが、それは失敗だったらしい。
どうやらみんなで補助をしたり一緒に歌ったりしながら仲間に入るきっかけを作ろうとしてくれたらしいのに誰も口を挟めないような歌い方をしてしまった。
「めちゃくちゃですいません、もう帰ります」
「だからさ、すぐに帰るって脅すなよ、本当に度胸があるのか大人しいのかわかんない奴だな」
「いてもいなくても……同じだし…」
寧ろいない方がみんな楽しいのでは、とさえ思う。
「500円は佐竹さんに渡しておいたらいいですか?」
「500円って一部屋の値段だからね、お前は払わなくていい、その代わりさ」
もう一曲歌えと歌が入り、マイクを手放すタイミングを失った。
頑張れ!と檄が飛んだ。
はっきり言って邪魔な手拍子まで始まってしまう。
すぐに始まったイントロはスキマスイッチの全力少年だった。この歌なら前に歌った事があったから全部知っている。(多分)
やめときゃいいのに普通に歌ったら今度は「意外な特技だな」と呆れ顔をされた。
「素直にマイクを受け取る訳だ」って?
歌うよりも何よりも目立ちたく無いだけだった。
話題の中心に据えられ困っているだけだ。
こんな所が1番駄目だとわかっているのに、嫌なのに、もっともっとと次々に曲を入れられて、誰もマイクを変わってくれない。
いつの間にか手拍子も止み、とうとう水を打ったように鎮まりかえってしまった。
「あの……何か…ごめんなさい」
「謝らなくていいけど……本当に意外だな、カラオケにはよく来るの?」
「え?……いえ…」
カラオケに来たのは二回目だし前に来た時は何故そこに自分がいるのかわからないまま座っていただけだ。
抑えたつもりがやり過ぎたらしく、ちょっと考え込んでるメンバーもいる。
ハッと何かを思い出したようにスマホを触る姿を見て、早く逃げなければと慌ててマイクを置いた。
「あの…俺は帰ります」
「いや、ちょっと待って、なあ……お前の名前は蓮だろ、ちょっと思い出したんだけど、蓮って…もしかしてあのRENかな…」
そう言ったのは多分「田代」って苗字をひっくり返して「シロタ」と呼ばれている上級生だった。
「あのREN」と言われてギクッとしたけど頑張って惚けた。
「何ですか?」
「君さ、バンド組んでない?」
「バンドなんて組んでません」
何々?と他のメンバーが食い付いて来たけど、バンドなんてやってないのは本当だった。
しかし、バンドと聞いて変な興味を引いてしまったらしい、佐竹が「何の事?」とシロタに聞いた。
「5、6年前かな、多分インディーズだと思うけど、バイト先で流れてたFMラジオでよくかかってた曲があるんだけど…」
「それが?」
「うん、RENってグループなんだけどプロフィールとかは一切不明でさ、新曲を待ってのにそのまま消えちゃったからどうなったかのか気になってたんだ、そうだろ?」
「違う?」と真面目な顔で聞かれてヒヤ~ッと背中が冷たくなった。
「…………何か勘違いしてませんか?」
「いや、俺は結構好きだったから多分間違いないと思う、声が似てるってか、そのものってか……でも……ちょっと信じられないな」
信じられないなら信じなくていい。
これ以上掘り下げて欲しく無いのに、今まで会話が無かった分そのまま続いた。
「ラジオ?それってプロって事?まあ……知らないって言った割に難易度の高い曲をサラッと歌ったけど……まさか……な……」
こんな地味男がって言いたいんだろう。
それでいいからもうやめて欲しかった。
実はシロタの言った事は本当だった。
そんな気は無かったし、今もそんな気は無いのに一曲だけ…本当に一曲だけ配信会社と契約したせいでラジオとかで流れる羽目になった。
黒幕は黒江と言うベーシスト兼ギタリスト兼ドラムとキーボード、何でもバイオリンも弾けるらしいマルチな暇人だ。
黒江と知り合ったのは中学の時だった。
学校に行くのが嫌で公園でウジウジしていた午前中から正午に変わる頃だったと思う。
割れて散らばったガラスの瓶がまるで混ざり物の無い氷のようだなと思いながら見ていた。
それだけだったのに突然声を掛けられてレンタルのスタジオに連れて行かれた。
そこでもう一回歌って欲しいと乞われても、自分が歌っているとは気付いて無かった。
だからマイクを渡されても困ったし、期待されたらもっと困る。仕方ないからまたまた適当に歌ったら今度は録音されてた訳なのだが、それは脅しのネタと同じだった。
今なら無視も出来たのだろうが、何もわからない中学生だったから「ここが」「あそこが」と撮り直しを要求されて、次はいつ何時にどこと指定されたスタジオに何度も通う羽目になった。
黒江は「歌う度にメロディも歌詞も違ったらそれは商品にならない」という。
毎回同じように歌えと言われても意味がわからない。しかも商品にすると言われても現実味は無く、やる気も無いのに、しつこく迫られて何とか一曲だけ覚えたのだ。
その音源を黒江が編曲したり伴奏をミックスしたりして「REN」って名前で配信会社と契約したって訳だ。
しかし、それだけだ。
収益がある訳じゃないからプロでは無いのだ。
「お前RENだろ?」ってもう一回聞かれたけど笑うしか出来なかった。
マイクを置こうとすると「上手いな」って拍手を貰った。
「所々作曲してたけどな」と言われても知らない所は流れに合わせたから適当だったのだが、それは失敗だったらしい。
どうやらみんなで補助をしたり一緒に歌ったりしながら仲間に入るきっかけを作ろうとしてくれたらしいのに誰も口を挟めないような歌い方をしてしまった。
「めちゃくちゃですいません、もう帰ります」
「だからさ、すぐに帰るって脅すなよ、本当に度胸があるのか大人しいのかわかんない奴だな」
「いてもいなくても……同じだし…」
寧ろいない方がみんな楽しいのでは、とさえ思う。
「500円は佐竹さんに渡しておいたらいいですか?」
「500円って一部屋の値段だからね、お前は払わなくていい、その代わりさ」
もう一曲歌えと歌が入り、マイクを手放すタイミングを失った。
頑張れ!と檄が飛んだ。
はっきり言って邪魔な手拍子まで始まってしまう。
すぐに始まったイントロはスキマスイッチの全力少年だった。この歌なら前に歌った事があったから全部知っている。(多分)
やめときゃいいのに普通に歌ったら今度は「意外な特技だな」と呆れ顔をされた。
「素直にマイクを受け取る訳だ」って?
歌うよりも何よりも目立ちたく無いだけだった。
話題の中心に据えられ困っているだけだ。
こんな所が1番駄目だとわかっているのに、嫌なのに、もっともっとと次々に曲を入れられて、誰もマイクを変わってくれない。
いつの間にか手拍子も止み、とうとう水を打ったように鎮まりかえってしまった。
「あの……何か…ごめんなさい」
「謝らなくていいけど……本当に意外だな、カラオケにはよく来るの?」
「え?……いえ…」
カラオケに来たのは二回目だし前に来た時は何故そこに自分がいるのかわからないまま座っていただけだ。
抑えたつもりがやり過ぎたらしく、ちょっと考え込んでるメンバーもいる。
ハッと何かを思い出したようにスマホを触る姿を見て、早く逃げなければと慌ててマイクを置いた。
「あの…俺は帰ります」
「いや、ちょっと待って、なあ……お前の名前は蓮だろ、ちょっと思い出したんだけど、蓮って…もしかしてあのRENかな…」
そう言ったのは多分「田代」って苗字をひっくり返して「シロタ」と呼ばれている上級生だった。
「あのREN」と言われてギクッとしたけど頑張って惚けた。
「何ですか?」
「君さ、バンド組んでない?」
「バンドなんて組んでません」
何々?と他のメンバーが食い付いて来たけど、バンドなんてやってないのは本当だった。
しかし、バンドと聞いて変な興味を引いてしまったらしい、佐竹が「何の事?」とシロタに聞いた。
「5、6年前かな、多分インディーズだと思うけど、バイト先で流れてたFMラジオでよくかかってた曲があるんだけど…」
「それが?」
「うん、RENってグループなんだけどプロフィールとかは一切不明でさ、新曲を待ってのにそのまま消えちゃったからどうなったかのか気になってたんだ、そうだろ?」
「違う?」と真面目な顔で聞かれてヒヤ~ッと背中が冷たくなった。
「…………何か勘違いしてませんか?」
「いや、俺は結構好きだったから多分間違いないと思う、声が似てるってか、そのものってか……でも……ちょっと信じられないな」
信じられないなら信じなくていい。
これ以上掘り下げて欲しく無いのに、今まで会話が無かった分そのまま続いた。
「ラジオ?それってプロって事?まあ……知らないって言った割に難易度の高い曲をサラッと歌ったけど……まさか……な……」
こんな地味男がって言いたいんだろう。
それでいいからもうやめて欲しかった。
実はシロタの言った事は本当だった。
そんな気は無かったし、今もそんな気は無いのに一曲だけ…本当に一曲だけ配信会社と契約したせいでラジオとかで流れる羽目になった。
黒幕は黒江と言うベーシスト兼ギタリスト兼ドラムとキーボード、何でもバイオリンも弾けるらしいマルチな暇人だ。
黒江と知り合ったのは中学の時だった。
学校に行くのが嫌で公園でウジウジしていた午前中から正午に変わる頃だったと思う。
割れて散らばったガラスの瓶がまるで混ざり物の無い氷のようだなと思いながら見ていた。
それだけだったのに突然声を掛けられてレンタルのスタジオに連れて行かれた。
そこでもう一回歌って欲しいと乞われても、自分が歌っているとは気付いて無かった。
だからマイクを渡されても困ったし、期待されたらもっと困る。仕方ないからまたまた適当に歌ったら今度は録音されてた訳なのだが、それは脅しのネタと同じだった。
今なら無視も出来たのだろうが、何もわからない中学生だったから「ここが」「あそこが」と撮り直しを要求されて、次はいつ何時にどこと指定されたスタジオに何度も通う羽目になった。
黒江は「歌う度にメロディも歌詞も違ったらそれは商品にならない」という。
毎回同じように歌えと言われても意味がわからない。しかも商品にすると言われても現実味は無く、やる気も無いのに、しつこく迫られて何とか一曲だけ覚えたのだ。
その音源を黒江が編曲したり伴奏をミックスしたりして「REN」って名前で配信会社と契約したって訳だ。
しかし、それだけだ。
収益がある訳じゃないからプロでは無いのだ。
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