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作戦決行
しおりを挟む外出の解禁から2日目、そう、今日は金曜日だ。
ブカブカの革ジャンにヘルメットを持って準備万端。健二と二人で噂の元ヤンに一度返したバイクをもう一回借りに行った。
健二の友達だと言うから同じ様にチャラい男を想像していたが、赤い屋根のマイホームから出て来たのは、the公務員って感じの爽やか短髪、眼鏡、赤ちゃんを抱っこした若いお父さんだった。
そして、家を離れてからエンジンを掛けてくれって………なら、元ヤン仕様のバイクなんか捨てろよ。売りはらえよ、ちゃんとした物に整備しろよ。
持っていけとジュースをくれたから言わないけどね。ついでにって渡された紙袋が何なのかは知らないけどいい人だった。
健二の友達と別れた後はクソ馬鹿重いバイクを転がし、車通りの多いコンビニまで行ってそのまま暗くなるのを待った。
何にせよ作戦開始は深夜になる。
ジュースを飲んだりオヤツを食べたりしながら夕食を吹っ飛ばすのは楽しいし、それでも余った時間でカラオケ屋に行った。
雨風の避難場所とか仮眠の為に入った事はあるけど歌を歌うのは初めてだ。
マイクを使って声を出すって結構恥ずかしくて勇気がいったけど相手は健二だ、人の歌なんて聞いてないし、自分も歌ってる。
そこでちょっと信じられない事を聞いた。
「え?椎名さんって俺の事を前から知ってたって事ですか?」
「うん、ほら、学校の夏休みが始まると深夜徘徊とかの取り締まりが厳しくなるだろ?何年前かな、俺が喧嘩でとっ捕まった時に迎えに来てくれた椎名が葵を見かけたんだって」
「へえ………そうなんだ、正にその深夜徘徊で補導されたんですけど、あいつら俺を小学生の群れに入れやがってさ、まあ、一緒に捕まった奴が14なのにまんま小学生でさ、そいつのせいで食らったとばっちりだと思う」
ふーんってニヤニヤするのはやめろ、健二。
何も言ってこないけど、その顔だけで有罪。
殴るか蹴るか迷ったけど、それにしても荒れた子供の群れは全校集会の後の廊下みたいにごった返していたのだ。見かけたと言っても特段目立つ顔をしている訳じゃないし目立つ服も着ていない。
喚いたり悪態をつく奴が他に沢山いる中、何故一度見かけただけで覚えられたのかが気になる。
椎名の勝手だからどうでもいいけど、健二の薄笑いから逃れる為に詳しく聞く事にした。
「どうして…椎名さんはそんなつまらない事を覚えてたのかな」
「葵はさ、その時何かした覚えない?」
「何もしてないけど逃げた覚えはある」
「……してるじゃん」
「そんなに印象に残る程派手な事はしてません、そっと逃げただけです」
「お前も……ウロウロしてたんだな」
「……捕まったのは……一回か…二回です」
ずっと嫌だったけど、物心付いた頃からずっと嫌だったけど、特に中学の3年間はとにかく家にいるのが嫌だった。
親父の生態がどんなものか、普通のお父さんがどんなものかがよく見えるようになったからだと思う。
家が嫌になると飛び出して街に出るといつも一緒になる奴いた。申し合わせたとか、連絡を取っていたとか、気が合うとかではない。
街をぶらつくといつもその辺にいたのだ。
本当かどうかはわからないけど帰る家は無いと言っていた。
一緒にいてもあんまり喋らないし、特段悪い事したいって訳でもなさそうだから、何となくだが時々合流していただけだ。
真っ白い顔に赤い唇が印象的で、名前に付いた「雪」って文字がピッタリだなって思ったのを覚えている。
そいつと二人で纏めて補導された日、その雪の字が名前に付く奴は静かだった。慌てもせず、争いもせず、文句一つ言わないでトイレに行くと言ったまま消えてしまった。
誰も気付いてなかった。気付いたのはそれとは無しに待っていた俺だけだったと思う。
一人で逃げたんだと思うと自分の無能さに腹が立ち、ヤケになって正面突破を試みた。
それは無駄だったけど、鉄格子の無い窓を見つけたから今度はそこから逃げた。
門を出るまでに捕まったけどね。
「……目立ってるじゃないか」
「署内ではもっと目立つ奴がわんさかといたんです、それに捕まったのは門の辺だから建物の中からは見えないでしょう、外にいたんですか?」
「さあ、それはわからないけどタフだなって感心したらしいよ」
「捕まってるじゃん、一緒に補導された奴は逃げたんですよ?あいつら親父が迎えに来るまで帰せないって言うけど俺の親父が来るわけ無いし、結局次の日の昼に学校の担任が来るまで暗い部屋に閉じ込められていただけです。タフでも何でもない」
「そこが面白いなあって思ったから覚えてたんじゃない?」
「だからって……」
そもそも何故椎名が健二の世話を焼いてんだか、その関係性もわからない。
俺の場合は…………
タフな奴の腎臓はタフだって思ったのかな?
この腎臓はタフだから高いよ、とか取引の材料になるのかな。
もっと色々健二に聞きたかったけど、「後10分」と店からのコールが来てカラオケ屋を出なければならなくなった。
気になる事が多過ぎて消化不良だけど、残りは10分何でもいいから知ってる曲を入れまくって、まだ音楽が流れている中カラオケ屋を出て来た。
この後はお楽しみだ、爆音を鳴らしての深夜ドライブ。
楽しいったら無い。
健二も楽しいらしい。
バイクがうるさくて自分にも聞こえないのをいい事に、カラオケ屋で歌ったナンバーを見境なく大声で歌っていると健二も合わせてくれた。
走る~走る~オレーターチー♫
綺麗なお月様が笑いながら付いてくる。
健二の背中に張り付いて、歌って笑って何かハイになっていたのだと思う。
GPSが落ちていた交差点まで来るとエンジンを止めたバイクの横で、どちからともなくギューっと抱き合った。
変なの。
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