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健二の性癖
しおりを挟む健二の運転はスピードが超遅い。
走り出すまでが遅い、走る速度が遅い、それなのにブレーキは急。
そして、元ヤンに借りたバイクは超煩い。
音だけ聞いていると時速300キロで走っているみたいなのだ。
交通量の少ないシンと沈んだ道路を煩いバイクで走るのは楽しいけど深夜だもん、みんな寝ているかゆっくりしている所に迷惑を掛けているなとは思う。
早く帰った方がいいと思うのに「ちょっと遊んで行こう」と健二が言って遠回りをした。
よもや暴走行為でもするのかと思えば、連れて行ってくれたのはスーパー銭湯だ。
昔からよく世話になったし大きいお風呂もサウナも暖かくて気持ちいいリラクゼーションルームも好きだけど一気に嫌いになった。
お金は持ってないから健二に任せていると、フロントがジッと俺の顔を見て言ったのだ。
「申し訳ございません、当店は23時以降、未成年のご入浴をお断りしております」
「は?」
後ろに並んだ他の誰かに言っているのかな、と思って振り返ると誰もいない。
向き直ると、フロントは俺の顔から目を離さずにうん、と頷いた。
「俺は子供じゃない!未成年じゃない!どこ見て言ってんだ馬鹿!」
即座に怒鳴り返してしまった俺は一直線に出口の方へ走ったが、健二のタックルを食らって………
今は健二と並んでサウナの中でホカホカしてる。
「葵はさ、本当に見かけによらず直情だな」
「………しみじみと言わないでください」
「もうはっきり言っていいか?」
「はっきりの内容によりますが…聞きましょう」
「葵はさ、可愛いと…」
「フロントの人は可愛いなんて言ってません」
「……だから聞けよ、葵はさ、自分の見た目が歳より若く見えるって自覚があるんだろう?それなら一々怒ってないでそれを上手く利用しろよ」
「お前は未成年に見えるから風呂に入るなって言われて、そうですかって笑えと?」
「じゃなくてな、せっかく可愛い顔をしているんだから、今日みたいな場合は怒るより一回冷静になってだな」
「……冷静になって?」
「可愛く傷付いた顔でもして、お詫びの特別サービスでもゲットする方が得じゃないか?」
「却下」
「何でだよ」
「何でも」
この無駄な提案も体温ももう限界だ。
立ち上がってサウナの扉を開けようとすると取っ手が熱くてわっと手を引いた。
そしたら頭上から出て来た手が扉を開けたからもう一つムカつく。
健二の手はもう覚えちゃったから、後ろを見ずに「余計な事をするな」と吐き捨てて外に出た。
「だから一々怒るなって」
「俺は怒ってない」
「そんな真っ赤な頬をしてな、余計に可愛いぞ」
「………これは……暑いからだ、それを言うなら健二さんだって顔が赤いよ」
「これは欲情してるからだ」
「は?何に?」
キョロキョロと周りを見回すと、目の前に腹が三段になったオヤジがいた。
まさかそんな趣味が健二に?
驚いて思わず健二の顔を見上げると、「真面目に取るな」と言って照れたように笑った。
うん。
妙齢のオヤジが好きなら俺が可愛く見えるのも当然だ、まだ22だもんね。
実は丁度いい三段腹のオヤジを知っている、今度厳かな場所を設けて紹介してやろう。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「楽しいんですよ」
「そりゃよかったな」って頭をポンポン叩くのはやめて欲しいけど、これ以上機嫌を悪くして場の空気を濁すなんて子供っぽい事はしない。
楽しく体を洗って、楽しく露天風呂に入って、楽しくマッサージチェアで遊んでから健二の飲むノンアルコールビールを分けて貰った。
はっきり言って疲れる1日だった。
たっぷり働いてたっぷり遊んで事務所に帰り着いたのは午前3時を回っていた。
ベッドに飛び込むとさすがの健二も疲れているのだろう、同じように雪崩れ込んできた。
もう一緒に寝るのが当たり前になってる。
俺は嫌だよ?嫌だけどここは元々健二が一人で使っていたベッドだ、仕方ないよね。
半分くらい眠りに入った中「おやすみ」って優しい声が聞こえ、何か柔らかいものが頬に触れたけど闇の中に消えて無くなった。
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