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デスノートとは

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カップシチューと真ん中にマーガリンの入ったパンを食べ終えて、片付けを済ませたら健二がペラペラのファイルを出してきた。

そのファイルは赤城さんのストーカー案件の時にも出てきたから仕事の話をする気なんだなってわかった。

コーヒーを入れると「ブラックで大丈夫なのか」って聞かれたから蹴っておいた。

結構騒いでるのに椎名はピクリともしない。
長い体が邪魔だけど跨いで放っておく。

仕事だ。
借金の為だ。
返す気は無いけどポーズは必要だ。

座り直して姿勢を正した。


「もう一件の依頼って何なんですか?暴走族がどうって聞きましたけど」
「うん、家の前を通るバイクがうるさいって話なんだけどな……」

「やめさせろって事でいいのかな」
「いや、依頼主の要望はピアノ線を張るから手伝って欲しいって事だ」

「それは……」

「もしくは猟友会に電話してくれってさ」


「……………」

「…………断るべきじゃ無いですか?」

「デスノートを探してくれればそれでもいいらしい」

「デスノート……」

……とは。

知らないのか?って驚かれたけど知らないのだから仕方がない。これは仕事の話なのだ、「殺す手伝い」が出来ない以上、クライアントから提案されたされた代案を取るべきだろうと聞いてみた。

デスノートとは。
健二の説明によると、名前を書き込まれると死ぬ、死神の持つノートなのだとか。
名前を知らない相手でも寿命の半分で「死神の目」が手に入るとか何とか。

ふんふんと相槌を打ちながら真面目に聞いた俺が馬鹿だった。

健二の話だけでは埒があかないので、薄いファイルを奪って書いてある事を読んでみた。
まあ健二の事だからと、期待はしてなかったけど中身はメモ以下だ。

それでも、一応だが、かなり大雑把だが概要はわかった。


依頼者の名前は大久保さん。
何でも祖父の代から住んでいる家の横に高速道路が通ったらしい。
100年も連れ添ったお隣さんは立ち退きで引っ越し、家の前の道路は拡張されて広くなった。

健二が書いた簡単な地図は交差点の角に大久保さんの家があると見て取れる。

そして……その先は大久保さんが冷静では無かったのだろう。「死ね」と「殺す」が何回も混じる罵倒が並んでる。

あいつらは馬鹿みたいに信号を守る。
高速の側道は構造が複雑なので信号が長い。
長い信号を待つ間、無意味に吹かす。
リズムを刻む。
クラクションを鳴らす。
ブンブン煩いのにスピードは出さない。
一台の時もあれば数台の事もあるが毎回同じバイクかどうかわからない。
側道は高い壁に囲まれているから音が反響して煩い。遠ざかっても煩い。そして数分するとUターンして戻ってくる。

大久保さんから送ってもらったと言う動画を健二に見せて貰ったけど、確かに爆音を立てるバイクの信号待ちは煩いし長い。


因みに書いたのは健二だけど漢字に変換したのは俺だ。

それにしても、一体何十年も前から同じ様な暴走の問題が持ち上がってるんだ……と思う。
何故未だに解決出来ないのかは不思議だ。



「なるほど、で?健二さんはどうするつもりなんですか?まさか殺す手伝いをするんじゃないでしょうね」

「それがさ、どうやら暴走族って訳でもなくてバイクを異常改造している訳でも無さそうなんだ」
「でも改造しなくちゃこんな音は出ないでしょう?警察に言えば整備不良で検挙してくれると思いますよ、捕まえるのは難しいでしょうが大久保さんの家の前で警察が張っていると知れば他所に行くでしょう」

「それがな……」

これを見てくれ、と呼ばれたから健二の手元に顔を寄せた。そして寄せ過ぎた。
健二も視線を落としたせいで頬がくっつきそうになったから頭突きで押しやった。

「冷たいな」って言われても知らないよ。

「遊んでないで早く言ってください」
「うん、この動画に映ってるバイクをアップにしてよく見るとな、マフラーのメーカーが分かるんだ、だから調べてみたんだけど、認定済みなんだ、つまり一応合法のサイレンサーって事」
「サイレンサー……では無いですけどね、ナンバープレートは捲れてるけど一応付いてるし、信号は止まるし、スピード違反も蛇行もしない………確かにデスノートがあったら早いかもしれないですね」

「殺すってのはさすがに無いな」
「真面目に答えないでください、そもそもデスノートがないでしょう、どうするんですか」
「そうだなあ………あのさ、俺は思うんだよ、こいつらはちょっと想像力が足りないだけの普通の人なんじゃないかなってさ」

「…………それで?」

「同じ目に合わせてやればいいんじゃないかと」

「………具体的には?」

「何人かの家を特定してから、寝静まったタイミングで爆音を鳴らす」

「…………」


「嘘ぴょん……」

…………そう言って笑ってくれないかと待ってみた。だが無駄だったらしい、健二は「いかにも妙案を出しました」って得意顔をしている。

「どう?」

「本気で言っているとは思えません」

え~?って驚く方が驚くわ。
計画とは言えない稚拙さでビックリして泡を吹くレベルだ。

「とても優秀な愚策だと思います」

「いい案だと思うけど」
「馬鹿じゃないですか?いや馬鹿です」
「何でだよ」
「爆音は?どうやって作るんです?どうやってこいつらの家を突き止めるんです!後を付ける手段があったとしても夜中でしょう?あんまり交通量のない中で家まで付いてったら即バレますよ!」
「そこは上手くやれば……」
「出来るか馬鹿馬鹿バーカ」

「葵……お前昨日はあんなに可愛かったのに、酷いな」
「可愛いって言うな!」
「もう……可愛いんだから可愛いでいいだろう」
「言うな馬鹿!」

一回本気で殺そうとしたけど失敗した。

だから今度こそ抹殺する。
腕を振り上げてめり込んだグウは……
……思いっきり殴ってやったのに「ん?」って不思議そうな顔をされてもう切れた。
健二に飛びかかった時に何か柔らかい物を踏んだけど………

その背中がプルプル震えていたのは気のせいだと思う。





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