15 / 51
許すのは今回だけだ
しおりを挟む
しんだ?
うまくしんだ?
「………うぎゅ……」
「大丈夫かっ?!葵!怪我は無いか?」
「苦しい!!」
「何処が?!怪我か?どこか折った?!」
「肺!息っ!!離して!」
何も見えないと思ったら目を閉じてた。
ヤクザに悪用されたりしないよう、丁寧に…丹念に、隅々まで轢き潰してくれと願った体は………
残念ながらどこも痛くない。
気が付けば健二の顔が息のかかる距離にあった。
大きく見開いたまん丸の目玉に俺の顔が写ってる。
「あれ?」
どうなったのか、どうやったのか………健二に抱き着いたまま、道路の上に転がっている。
すぐに立ち上がって逃げなければ…と思うのに、頬を挟まれて目を逸らす事も困難だった。
健二って意外と睫毛が長いんだな、とか、ミントの匂いがするな、なんて思いながら瞬きしない目を見ていると、驚きで泣きそうにさえ見えた顔がクシャッと緩んだ。
「健二さん?」
「よかった……本当に良かった、怪我は無いな?どこも痛く無いな?」
「痛く無いけど……」
出来ればすぐに離して欲しいけど今は言えない。
そしてグリグリと押し付けられる額が寧ろ痛いけど……それも言えない。
続いてブチューっと頭に感じた生暖かい感触は……
これは言う。
「離せ馬鹿、チューすんな!俺は子供じゃ無いぞ!」
何でもよくないけど何でもいいから離れて欲しい。健二の顎を押し上げてジタバタ暴れた。
「痛たた、引っ掻くなよ」
「健二さん、こんな事をしている場合じゃ無いでしょう、人が集まって来てます、早く逃げた方が良くないですか?」
「え?……どうして逃げるんだ?」
「だって、警察が来ちゃうかもしれないじゃ無いですか」
「生身と車なんだから自動的にこっちが被害者だろ?それに結局何も無かったんだから逃げなくてもいいんじゃ無いか?」
「ええっっ?!逃げないの?!」
警察が来たら問答無用で逃げる。
それが生活のセオリーでは無いのか?
そう教わって生きてきた。
それが当たり前だと思ってた。
「そんなに驚くか?」
「だって、ややこしい事言われたら困るでしょう、警察ですよ?、もしかしたら車が壊れてるかもしれないし、誰かが怒ってるかもしれない」
「怒ってたら謝ればいい、それよりも葵が落ち着くまで離せないよ」
「……俺は……落ち着いてます」
ちょっと気色悪かったけど、健二は何だか包容力がある。変に意識しないで普通にしていればモテるのになって思う。
因みに、これは道路の真ん中で抱き合い、寝転がったまま続いていた会話だ。
そうこうしている間に、わらわらと集まって来た善良な人達の手で助け起こされ、警察と救急車が来てしまった。
「女の子みたい」とほざいた健二を突き飛ばしたつもりだったのに、勢い余って車道に飛び出して、危ない所で健二が俺を抱きかかえて飛んでくれたらしい。
もし、反対車線に車が来ていたら本当にお陀仏だった筈だ。
健二の背中とか肩とか腕には盛大に擦りむいた傷があったけど、ストレッチャーを出してきた救急隊員に「大丈夫だ」と言って病院への搬送を断った。
健二の代わりに救急車に乗ったのは車を運転していたお爺さんだ。驚きのあまり腰が抜けて立てなくなっていた。せっかく出動して貰ったんだから無駄にならなくて良かったけどね。
カルチャーショックというのはこういう事を指して言うんだと思う。
数人の警察はみんな真面目で優しかった。
怒ると思っていたお爺さんはストレッチャーに乗って尚、無事で良かったと泣いていた。
助けてくれた人もみんな優しい。
誰も怒ってない。
見ていた人によると、驚異の運動能力を披露した健二が物凄くカッコ良かったらしい。
そして俺は定番の子供扱い。
さすがに、「頭を撫でるな」とか「子」って言うなって抗議は控えたよ。
そして今は憧れのパンケーキが目の前にある。
たっぷりの生クリーム、ツヤツヤした苺。
パラパラと散ったチョコチップが小さな歯ごたえを生んで楽しい。
健二は生姜焼き定食を食べていた。
お醤油の香ばしい香りが今は邪魔だ。
そして生姜の香るお箸をこっちに向けるのはやめろ。ペンと叩き落とすとバラけて一本が床に落ちた。
「あ~……何すんだよ」
「お行儀が悪いです」
「葵はさ、結構手が早いな」
お前が女の子みたいとか言うからだろ
………と、言いたかったが苺が酸っぱくて返事が出来ない。
「もうあんな事しちゃ駄目だぞ、今日は運が良かっただけだからな、こんな事を椎名に言ったら、あいつの事だ、心配して付いて来ちゃうぞ、ああ見えてあいつは「あれ危ない」「これ危ない」ってうるっさいぞ、邪魔だぞ」
労働力か金目の物《腎臓》の心配をしているだけだろ
………そう言いたかったが、生クリームが口から溢れそうで言えない。
「生クリームが口の周りについてるぞ、全く可愛い………ゴホウホ…いや、何でもない」
今、可愛いって言い掛けただろう、今度こそ殺すぞ
………そう言いたかったけど、おしぼりで…口を拭かれて言えなかった。
お腹一杯。
経費って何の事か理解してなかったが、食事代やその他の生活用品代、赤城さんの為に使った余計な出費は健二が纏めて管理しているらしい。タピオカ代は椎名に貰った一万円で払ったが、後で健二が返してくれた。
つまり、H.M.Kに来てから3日経ってもまだ1円も使ってない。
健二がちゃんと管理しているようには見えなから、どんな収支になっているのか一度聞いた方がいいのかもしれない。
「610万くらいに増えてたりして」
払う気は無いからいいけどね。
「葵は結構無口なのに独り言は多いな」
「………無口?俺が?」
「ああ、結構理詰めで畳み掛けてくる事はあるけど基本あんまり喋って無いよ」
「…………」
またカルチャーショックだ。
口に出したら追い付かないくらいの勢いで、頭の中で喋ってるから無口と認定されるなんて思ってもいなかった。
「もうちょっと自分の気持ちを言えればいいんだけどな、嫌な事は嫌と言えよ」
「嫌な事は言ってます」
「死ね!……じゃなくて嫌だからやめてください、と言えるようになろうな」
ポンポンと頭に乗ったその手………早速嫌だって言いたい。
今は言わないけどね。
うまくしんだ?
「………うぎゅ……」
「大丈夫かっ?!葵!怪我は無いか?」
「苦しい!!」
「何処が?!怪我か?どこか折った?!」
「肺!息っ!!離して!」
何も見えないと思ったら目を閉じてた。
ヤクザに悪用されたりしないよう、丁寧に…丹念に、隅々まで轢き潰してくれと願った体は………
残念ながらどこも痛くない。
気が付けば健二の顔が息のかかる距離にあった。
大きく見開いたまん丸の目玉に俺の顔が写ってる。
「あれ?」
どうなったのか、どうやったのか………健二に抱き着いたまま、道路の上に転がっている。
すぐに立ち上がって逃げなければ…と思うのに、頬を挟まれて目を逸らす事も困難だった。
健二って意外と睫毛が長いんだな、とか、ミントの匂いがするな、なんて思いながら瞬きしない目を見ていると、驚きで泣きそうにさえ見えた顔がクシャッと緩んだ。
「健二さん?」
「よかった……本当に良かった、怪我は無いな?どこも痛く無いな?」
「痛く無いけど……」
出来ればすぐに離して欲しいけど今は言えない。
そしてグリグリと押し付けられる額が寧ろ痛いけど……それも言えない。
続いてブチューっと頭に感じた生暖かい感触は……
これは言う。
「離せ馬鹿、チューすんな!俺は子供じゃ無いぞ!」
何でもよくないけど何でもいいから離れて欲しい。健二の顎を押し上げてジタバタ暴れた。
「痛たた、引っ掻くなよ」
「健二さん、こんな事をしている場合じゃ無いでしょう、人が集まって来てます、早く逃げた方が良くないですか?」
「え?……どうして逃げるんだ?」
「だって、警察が来ちゃうかもしれないじゃ無いですか」
「生身と車なんだから自動的にこっちが被害者だろ?それに結局何も無かったんだから逃げなくてもいいんじゃ無いか?」
「ええっっ?!逃げないの?!」
警察が来たら問答無用で逃げる。
それが生活のセオリーでは無いのか?
そう教わって生きてきた。
それが当たり前だと思ってた。
「そんなに驚くか?」
「だって、ややこしい事言われたら困るでしょう、警察ですよ?、もしかしたら車が壊れてるかもしれないし、誰かが怒ってるかもしれない」
「怒ってたら謝ればいい、それよりも葵が落ち着くまで離せないよ」
「……俺は……落ち着いてます」
ちょっと気色悪かったけど、健二は何だか包容力がある。変に意識しないで普通にしていればモテるのになって思う。
因みに、これは道路の真ん中で抱き合い、寝転がったまま続いていた会話だ。
そうこうしている間に、わらわらと集まって来た善良な人達の手で助け起こされ、警察と救急車が来てしまった。
「女の子みたい」とほざいた健二を突き飛ばしたつもりだったのに、勢い余って車道に飛び出して、危ない所で健二が俺を抱きかかえて飛んでくれたらしい。
もし、反対車線に車が来ていたら本当にお陀仏だった筈だ。
健二の背中とか肩とか腕には盛大に擦りむいた傷があったけど、ストレッチャーを出してきた救急隊員に「大丈夫だ」と言って病院への搬送を断った。
健二の代わりに救急車に乗ったのは車を運転していたお爺さんだ。驚きのあまり腰が抜けて立てなくなっていた。せっかく出動して貰ったんだから無駄にならなくて良かったけどね。
カルチャーショックというのはこういう事を指して言うんだと思う。
数人の警察はみんな真面目で優しかった。
怒ると思っていたお爺さんはストレッチャーに乗って尚、無事で良かったと泣いていた。
助けてくれた人もみんな優しい。
誰も怒ってない。
見ていた人によると、驚異の運動能力を披露した健二が物凄くカッコ良かったらしい。
そして俺は定番の子供扱い。
さすがに、「頭を撫でるな」とか「子」って言うなって抗議は控えたよ。
そして今は憧れのパンケーキが目の前にある。
たっぷりの生クリーム、ツヤツヤした苺。
パラパラと散ったチョコチップが小さな歯ごたえを生んで楽しい。
健二は生姜焼き定食を食べていた。
お醤油の香ばしい香りが今は邪魔だ。
そして生姜の香るお箸をこっちに向けるのはやめろ。ペンと叩き落とすとバラけて一本が床に落ちた。
「あ~……何すんだよ」
「お行儀が悪いです」
「葵はさ、結構手が早いな」
お前が女の子みたいとか言うからだろ
………と、言いたかったが苺が酸っぱくて返事が出来ない。
「もうあんな事しちゃ駄目だぞ、今日は運が良かっただけだからな、こんな事を椎名に言ったら、あいつの事だ、心配して付いて来ちゃうぞ、ああ見えてあいつは「あれ危ない」「これ危ない」ってうるっさいぞ、邪魔だぞ」
労働力か金目の物《腎臓》の心配をしているだけだろ
………そう言いたかったが、生クリームが口から溢れそうで言えない。
「生クリームが口の周りについてるぞ、全く可愛い………ゴホウホ…いや、何でもない」
今、可愛いって言い掛けただろう、今度こそ殺すぞ
………そう言いたかったけど、おしぼりで…口を拭かれて言えなかった。
お腹一杯。
経費って何の事か理解してなかったが、食事代やその他の生活用品代、赤城さんの為に使った余計な出費は健二が纏めて管理しているらしい。タピオカ代は椎名に貰った一万円で払ったが、後で健二が返してくれた。
つまり、H.M.Kに来てから3日経ってもまだ1円も使ってない。
健二がちゃんと管理しているようには見えなから、どんな収支になっているのか一度聞いた方がいいのかもしれない。
「610万くらいに増えてたりして」
払う気は無いからいいけどね。
「葵は結構無口なのに独り言は多いな」
「………無口?俺が?」
「ああ、結構理詰めで畳み掛けてくる事はあるけど基本あんまり喋って無いよ」
「…………」
またカルチャーショックだ。
口に出したら追い付かないくらいの勢いで、頭の中で喋ってるから無口と認定されるなんて思ってもいなかった。
「もうちょっと自分の気持ちを言えればいいんだけどな、嫌な事は嫌と言えよ」
「嫌な事は言ってます」
「死ね!……じゃなくて嫌だからやめてください、と言えるようになろうな」
ポンポンと頭に乗ったその手………早速嫌だって言いたい。
今は言わないけどね。
1
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
参加型ゲームの配信でキャリーをされた話
ほしふり
BL
新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。
五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。
ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。
そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。
3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。
そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。
華麗に素敵な俺様最高!
モカ
BL
俺は天才だ。
これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない!
そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。
……けれど、
「好きだよ、史彦」
何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!
恋のキューピットは歪な愛に招かれる
春於
BL
〈あらすじ〉
ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。
それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。
そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。
〈キャラクター設定〉
美坂(松雪) 秀斗
・ベータ
・30歳
・会社員(総合商社勤務)
・物静かで穏やか
・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる
・自分に自信がなく、消極的
・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子
・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている
養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった
・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能
二見 蒼
・アルファ
・30歳
・御曹司(二見不動産)
・明るくて面倒見が良い
・一途
・独占欲が強い
・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく
・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる
・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った
二見(筒井) 日向
・オメガ
・28歳
・フリーランスのSE(今は育児休業中)
・人懐っこくて甘え上手
・猪突猛進なところがある
・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい
・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた
・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている
・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた
※他サイトにも掲載しています
ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です
仮面の兵士と出来損ない王子
天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。
王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。
王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。
美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。
キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる