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焼肉の次に焼肉

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焼肉弁当は半分くらいまで食べた覚えはある。
でも最後はどうなったかわからない。

どうやらムキになって飲んだビールのせいで、笑う暇も無く寝たらしい。
目を覚ますと異様に幅の広いベッドで寝ていた。

そして腹は痛くないし傷も無い。椎名を信じることなんか出来ないけど、腎臓は無事だったらしい。

今の所……だけどね。


何だか頭が痛いけど窓の外はまだ明るい。
重い体をやっとの事で浮かすと、どこから現れたのかデッカい手が熱を測るようにおデコに乗った。

椎名だ。

「起きた?葵くんは見た目通りお酒に弱いね、ごめんね、健二が調子に乗って揶揄うから無理させたんだろ、葵くんも卑屈になって受けて立っちゃ駄目だよ」

見た目通りとは失礼な。
卑屈になんかなってない。
断じてなってない。

平気なフリして勢いよく立ち上がった。

「ここは?」
「ああ、さっきいた事務所の奥の部屋、葵くんはここに住んで貰うからね、わかっていると思うけど給料はほぼ全額借金の返済に充てて貰う、でもそれじゃあ可哀想だから月に1万のお小遣いをあげる。それでいい?」

「1万……」

「え?足りない?ここには風呂もあるし三食付ける、酒も飲めないし煙草も吸わないならおやつを買うぐらいしかお金は使わないんじゃないの?」

「いや、あの…」

給料が出るなんてビックリした。
借金の返済名目で意味不明の仕事に駆り出され、いざとなったら捨て駒につかわれるって……どうせそんなシナリオなんだろうと思っていた。

だって「法律では裁けない(以下略)」は法を犯す気満々だ。なにせヤクザが絡んでる。
そして肉弾戦になるって聞いた。

つまり強面の格好をして、脅したりスカしたり。無理矢理違法な事をさせられたりして解決するのだ。

……多分。

まさか、寝る所があって食べ物がただでお小遣いが……「お小遣い」って言い方は子供っぽいから気に入らないけど、一万円貰えるなら言う事は無い。

「1万円で十分です」
「うん、じゃあお風呂に入って来て、健二と約束したから焼肉を食いに行こう」

「はい、これ」っと膝に乗ったのは綺麗なタオルと新しいTシャツ、ウエストがゴムの黒い細身のスエット。ボクサーパンツもある。

そして焼肉?
もしかしてここは天国?

その給料とやらがもし3万なら、毎月利子だけを払い続けて元本は永遠に600万って事もあるけどね。

結局は腎臓を盗られるのかもしれないけどね!

取り敢えず今日明日の話じゃ無さそうだから言われた通りにする。


まだ昼間は暑いけど、夕方になると外は涼しかった。夕暮れ時の秋風が風呂上がりの髪をふわっと巻き上げて気持ちいい。

服からは新しい匂い、髪からはシャンプーのいい匂いがする、焼肉を食べに行くのに風呂に入ってから来るなんて失敗だったかもしれない。

帰りには肉の脂が匂いとなって体と服にこびり付いて取れないんだろうな……

なんて、どうでもいい覚悟をしながら、人生で3度目の焼肉屋に入ると、あちこちでジュージューやっているのにケムたくない。

よく見れば、テーブルの上からぶら下がってる筒のような物が、せっせと脂を含んだ白い煙を吸い上げている。

勧められた椅子に座ると、向かい側に椎名と健二が座った。

席に案内してくれた店員は飲み物の注文を聞いているが、話しかけているのは椎名だ。

それはそうだろう、男3人の中で椎名が一番お金を持っていそうだし、何よりもボス感有り有りだ。

「ビールが2つと……葵くんは烏龍茶でいい?それともジンジャーエールとか何か甘い物がいい?」

「俺もビー…」

「駄目。もうゲームは終わったからね、ジュースかお茶にしなさい」

「……烏龍茶で…いいです」

敗北感は半端無いけど、昨夜はもしかしたら命に関わるかもしれない場面で見事に寝たのだ。

文句は言えない。

それよりも新たな問題が発生している。

今、二人が揃って首に掛けているのは紙で出来たエプロン、前掛け、よだれ掛け………椎名も健二も何と無く様になっているがこれは嫌だ。

恥ずかしい。死にたい。絶対に笑われる。

こっそりと椅子の横に置くと、椎名に気付かれたみたい、悟ったように笑われたが何も言わなかった。

それが返って恥ずかしい、泳いだ目を誤魔化すために周りを見回すと……みんな胸にエプロンを掛けてる。

知っている焼肉屋とは様相が違った。

ハイって渡されたメニューも様相が違う。

「葵くんは何を食べたいとかある?無ければ勝手に注文するけどいい?」

「食べたい物……」


食べたい物と聞かれても、焼肉屋って「肉」以外に何か注文する物があるのか……メニューを見ても何だかよくわかない。曖昧に頷くと、健二が粗方のメニューを決めた。









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