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考えてくれ
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思い出した。
目の下の黒子、信用出来ないニヤつく口元、軟派な態度。男色を隠そうともしない図々しい素振り。いつだったか水嶋「が」蕎麦屋でナンパした男だ。
水嶋はちょっと困ったように眉を下げているが「はい」と答えて佐倉に頭を下げてる。
相変わらずの馬鹿っぷり。
多分だけど……いや、絶対に「仕事」だと思ってる。
例え100億の取り引きをぶら下げていたとしても行かせないけどね。
様子を見に来て大正解だった。
それは良かったけど、気になったのは黒子の男が口にした「昨日」だ。
つまり昨日のうちに水嶋は誘われていたか、最悪会っていた。そして困ったのだろう、おそらく忙しいふりをして逃げたのだ。
佐倉と同じパターンだ。
今度はしっかりと身の危険を感じているらしいから、成長したとは言え根本は変わってない。
いい加減に学べと言いたい。
しかし、佐倉の場合は中学生みたいにちゃんと告白してからあの行動を起こしてる。
だから目上で大会社のお偉いさんでも、「あなたとはお付き合いは出来ない」と断る事が出来たのだ。
黒子の男は特殊な性癖を隠すつもりなど無く、「逃すまい」とでも言いたいのか、水嶋の腰に手を回してガッチリと抱き留めてる。
このまま2人で行かせたりしたら「いいだろ?」「はい」の下りは間違いない。
「水嶋は行けませんよ、こっちは緊急事態なんです、今から本社直轄の別件があるから迎えに来たんです」
「え?何があった?」って、黙ってろ水嶋。
明らかにホッとしているくせに口を挟むな。
そして佐倉、「俺も「機密」な「仕事」の話があるからバーに誘ってる」なんて嘘をついて参加するな、空気を読んで欲しい、今は水嶋の危機なのだから黙って協力しろ。
「ふうん」と見下すような目つきで顎を上げた黒子の男は多分、蕎麦屋の事を、つまり俺を覚えている。
「なんですか」
「君は…水嶋さんの後輩かな、若いね、その仕事は1人では出来ないのかな?」
「研究所の案件なんです、味噌の菌を生殺しにするアルコールが出来たから見て欲しいと呼ばれてます」
「地味だな」と佐倉。「何で俺が」って水嶋。
本当に二人とも黙ってろ。
ほら見ろ、鼻で笑われた。
「ワイズフードに比べたら小さいけどウチにしたら巨大なプロジェクトなんです、なんと!納豆菌とか乳酸菌が腸まで届くんです、業界が変わるんです、水嶋がいないと困るんです」
「何がどうか知らないけど、どうせ月曜までは動けないだろ?報告書を受け取るくらいなんじゃ無いの?それ2人もいる?君は無能なの?」
「水嶋は人体実験の被験者です、水嶋本人がいないと用意したレンタルのMRが無駄になります、菌が死にます、15年かけた研究がパーになります」
黒子の男と佐倉、そして馬鹿みたいに真面目な顔をした水嶋にまで「何でMR?」って聞かれたけどそんなの知るか、どうせ全部嘘なのだ。もう面倒臭いから「時間が無い」と水嶋の腰に回った汚い手を引っぺがし、引き摺る勢いで手を引き鳳凰の間を出た。
「おい!待てよ江越!せめて挨拶をさせろ!」
「あんた馬鹿だろ」
「馬鹿って何だ!これは仕事だろ!」
「だから!何回も言っただろう、体を張るって意味が違ってる!童貞でも何でもあいつの欲しい物が何だかくらい見えるだろ!学べよな!」
「えっ?!」って大声を上げた水嶋が足を止めた。
どこに引っ掛かったんだか知らないけど、突然急ブレーキを踏むから伸びたゴムが縮んだように引き戻されて体が傾いた。そして水嶋もつんのめって来たのだが、そこはエスカレーターの真ん中だった。
「っっっ!」
ゴツンと頭が合わさった。足は浮いてる。
しかも両手は降ってきた水嶋を支えたから塞がっていた。
動く階段を走り降りていたのだ、そうなったら落ちるしか無いなよ?大っ嫌いな浮遊感の中、頭に浮かんだのはパソコンの履歴だ。男を好きになってしまった反動から探すエロ動画は「貧乳」「板胸」に尽きてる。もし誰かに見られたら死ぬ。しかしこのままでは見られる前に死ぬ。
ドドドッと、エレガントな外資系ホテルの正面エスカレーターを2人で滑り落ちてフカフカの絨毯を転がった。
2人共何とか声を上げず、スタイリッシュに転がり落ちる事には成功したが、ただでも混雑する土曜の午後、鳳凰の間は第一部が終わった所で1000人単位が一斉に散ったのだ、ホテルの一階ロビーはラッシュアワーの駅みたいだ。
慌てて飛んできたホテルマン達は怪我の心配より「事故」という事実を恐れたのだろう、4人くらいに取り囲まれ「大丈夫です」と伝える暇も無いくらい強制的に、控え室みたいな、医務室みたいな、予備部屋みたいな、客室未満バックヤード以上と言った地味ではあるが綺麗に整ったベッドのある部屋に運ばれてしまった。
俺としては救急車を用意して欲しかったが、こんな時の水嶋は人として、大人として、社会人として頼りになる先輩に早変わりする。
「お飲み物をお持ちいたします」と言われたからケーキを頼もうとすると、顔を掴まれ「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」と45度の綺麗なお辞儀をした。
しかし、プライベートになると一転して中身が水だけの風船になる。大事を取って暫く休んで欲しいと言い残し、ホテルの人が部屋を出ると途端に詰め寄ってきた。
「俺は童貞なのか?!」
「そこかい」
水嶋の謎を新発見。
何よりも優先するのは仕事だと思ってた。
「何故ここにいる」とか佐倉呼び捨てとか、最悪黒子の男を庇うと思いきやよもやの「童貞」が生命保険の有無を超えて来るとは思わなかった。
「童貞でしょ」
「いや、おかしいだろ、色々やられてるだろ、やってるだろ、主にお前だけどな」
「セックスの経験があるか無しか……が童貞、非童貞の定義じゃ無いと思います、知らないけど」
「知らんのに言うなアホ」とゲンコツが飛んで来たから「じゃあ調べよう」って事になってWikiさんに聞いてみた。
1. 性交未経験の男性 (cherry boy)
2. 男性が性交未経験の状態 (virgin)
のいずれかを指す。
ここでいう「性交」とは通常は膣性交であり、肛門性交(アナル)や口腔性交(フェラチオ)は含まれない。
………とある。
「童貞……………」
「水嶋さん、何でショックを受けているんですか、ってか、本当に俺としかやった事ないんですね、女性経験ゼロ?ホントに?もう30なのに?」
「………悪いか」と睨んで来る顔はちょっと僻み何入ってて、ちょっと拗ねてて超唆られるが…残念ながら「ではお尻をお貸します」とは言えない。
「悪くないです、寧ろ嬉しいです、ついでだから言いますけど、他で変な経験積まないでくださいね?さっきの男は何て言ってきたんですか?まさか部屋を教えたんじゃないでしょうね」
「………」
「教えたんですね?」
「うん」とも「すん」とも返事はしないが、プチュっと下唇を突き出し、横を向くって……。
何でも前橋と呼ばれた黒子の男は紅丸東京本社の社長の息子だとか、一般社員と同じく平からスタートしたらしいけど今はもう大きい事業も任されている立場の人だとか、言い訳がましい説明が小さく萎んだ。
「大きい会社の偉い人だから?奥田製薬とは無縁なのに?あいつは何て?」
「どこに住んでるのかって聞かれたから普通に答えただけだ、世間話だよ」
「世間話で済んでないから困ってたんでしょう、何かに困っていたのならちゃんと言ってください、金曜日の夜にあんたがツツジに埋まっていたのは困ってたからだ、そうだろう?」
恐らく、巨大商社のピンバッジに押されて、例の馬鹿さ加減を発揮した水嶋は聞かれるままにマンションの部屋を教えたのだろう。そして恐らく「遊びに行く」とか何とか一方的な約束を持ちかけられたのだ。だから金曜の夜は家に帰れなくなって茂みで寝ていたのだ。
「さっさと言え、誘われただけ?」
「……今から行ってもいいか…って…」
「やっぱり……それが、どう言う意味か、あいつを部屋に入れたらどうなるかはわかってるんですよね」
「……何で…俺なんだ?」
「もう一回聞きます、どうなるかはわかってるんですよね」
前橋という男は自分の地位を利用して、水嶋が強く出る事はない、強く出る事が出来ないと知った上で足元を見ているのだ。
そして好きとか付き合いたいって思う前に寝たいが前面に出ている。
1人の「男」相手に数人の「男」がハエみたいにブンブンと寄ってたかっている様は異様だが、その世界観にすっかりと慣れてしまっている自分も、そのハエの1匹なのだと自覚はしている。
だって、まず「触ってみたい」と思う気持ちは、チンコが痛くなる程わかってしまうのだ。
「体が目当てだって見えているんでしょう?」
「だから……何で俺なんだ?!体が目当てって何だよ佐倉支局長もお前も!そして俺は何で責められてんだ?前橋さんより何よりもお前のほうが最悪だろ!」
「何で俺なのか……は、俺の方が聞きたいです、よく考えて、ちゃんと考えてください」
「え?」
「何それ?」と、今している話の行方がわからなくなったらしいが、そこが水嶋が自身に問うて欲しい所だ。
決して相入れない相手ではあるが………佐倉はいい奴だと思う。スペック込みで条件を並べて冷静に考えると勝てる要素は一つも無い。
そんな二択(多分二択)がある中で「何故江越なのか」を考えて欲しい。
ああ……水嶋は選んで無い、と言われてしまいそうだが、「佐倉」は断ったのに「江越」は断られてない。
嫌だと口にはするけど、誘えばアパートに来るし、風呂に入ってビール飲んで人の作った飯を食ってから、油断たっぷりまったりと水風船になるのだ。
たまーに、極々たまーにだけど、「するんだろ?」って雰囲気を出してくる事もある。
江越を選んでいると思って何が悪い。
しかし、水嶋はプライベートはどうでもいいと思っている人である。
もっと言えば人生の展望なんて持ってない。
諦めているとまでは言えないが、恐らく中学生の時に持ってしまった自暴自棄な所がまだまだ残ってるのだと思う。「何故江越なのか」を考えて、自分で選んだから「江越」なのだと自覚を持って欲しかったり……するのだが。
目の下の黒子、信用出来ないニヤつく口元、軟派な態度。男色を隠そうともしない図々しい素振り。いつだったか水嶋「が」蕎麦屋でナンパした男だ。
水嶋はちょっと困ったように眉を下げているが「はい」と答えて佐倉に頭を下げてる。
相変わらずの馬鹿っぷり。
多分だけど……いや、絶対に「仕事」だと思ってる。
例え100億の取り引きをぶら下げていたとしても行かせないけどね。
様子を見に来て大正解だった。
それは良かったけど、気になったのは黒子の男が口にした「昨日」だ。
つまり昨日のうちに水嶋は誘われていたか、最悪会っていた。そして困ったのだろう、おそらく忙しいふりをして逃げたのだ。
佐倉と同じパターンだ。
今度はしっかりと身の危険を感じているらしいから、成長したとは言え根本は変わってない。
いい加減に学べと言いたい。
しかし、佐倉の場合は中学生みたいにちゃんと告白してからあの行動を起こしてる。
だから目上で大会社のお偉いさんでも、「あなたとはお付き合いは出来ない」と断る事が出来たのだ。
黒子の男は特殊な性癖を隠すつもりなど無く、「逃すまい」とでも言いたいのか、水嶋の腰に手を回してガッチリと抱き留めてる。
このまま2人で行かせたりしたら「いいだろ?」「はい」の下りは間違いない。
「水嶋は行けませんよ、こっちは緊急事態なんです、今から本社直轄の別件があるから迎えに来たんです」
「え?何があった?」って、黙ってろ水嶋。
明らかにホッとしているくせに口を挟むな。
そして佐倉、「俺も「機密」な「仕事」の話があるからバーに誘ってる」なんて嘘をついて参加するな、空気を読んで欲しい、今は水嶋の危機なのだから黙って協力しろ。
「ふうん」と見下すような目つきで顎を上げた黒子の男は多分、蕎麦屋の事を、つまり俺を覚えている。
「なんですか」
「君は…水嶋さんの後輩かな、若いね、その仕事は1人では出来ないのかな?」
「研究所の案件なんです、味噌の菌を生殺しにするアルコールが出来たから見て欲しいと呼ばれてます」
「地味だな」と佐倉。「何で俺が」って水嶋。
本当に二人とも黙ってろ。
ほら見ろ、鼻で笑われた。
「ワイズフードに比べたら小さいけどウチにしたら巨大なプロジェクトなんです、なんと!納豆菌とか乳酸菌が腸まで届くんです、業界が変わるんです、水嶋がいないと困るんです」
「何がどうか知らないけど、どうせ月曜までは動けないだろ?報告書を受け取るくらいなんじゃ無いの?それ2人もいる?君は無能なの?」
「水嶋は人体実験の被験者です、水嶋本人がいないと用意したレンタルのMRが無駄になります、菌が死にます、15年かけた研究がパーになります」
黒子の男と佐倉、そして馬鹿みたいに真面目な顔をした水嶋にまで「何でMR?」って聞かれたけどそんなの知るか、どうせ全部嘘なのだ。もう面倒臭いから「時間が無い」と水嶋の腰に回った汚い手を引っぺがし、引き摺る勢いで手を引き鳳凰の間を出た。
「おい!待てよ江越!せめて挨拶をさせろ!」
「あんた馬鹿だろ」
「馬鹿って何だ!これは仕事だろ!」
「だから!何回も言っただろう、体を張るって意味が違ってる!童貞でも何でもあいつの欲しい物が何だかくらい見えるだろ!学べよな!」
「えっ?!」って大声を上げた水嶋が足を止めた。
どこに引っ掛かったんだか知らないけど、突然急ブレーキを踏むから伸びたゴムが縮んだように引き戻されて体が傾いた。そして水嶋もつんのめって来たのだが、そこはエスカレーターの真ん中だった。
「っっっ!」
ゴツンと頭が合わさった。足は浮いてる。
しかも両手は降ってきた水嶋を支えたから塞がっていた。
動く階段を走り降りていたのだ、そうなったら落ちるしか無いなよ?大っ嫌いな浮遊感の中、頭に浮かんだのはパソコンの履歴だ。男を好きになってしまった反動から探すエロ動画は「貧乳」「板胸」に尽きてる。もし誰かに見られたら死ぬ。しかしこのままでは見られる前に死ぬ。
ドドドッと、エレガントな外資系ホテルの正面エスカレーターを2人で滑り落ちてフカフカの絨毯を転がった。
2人共何とか声を上げず、スタイリッシュに転がり落ちる事には成功したが、ただでも混雑する土曜の午後、鳳凰の間は第一部が終わった所で1000人単位が一斉に散ったのだ、ホテルの一階ロビーはラッシュアワーの駅みたいだ。
慌てて飛んできたホテルマン達は怪我の心配より「事故」という事実を恐れたのだろう、4人くらいに取り囲まれ「大丈夫です」と伝える暇も無いくらい強制的に、控え室みたいな、医務室みたいな、予備部屋みたいな、客室未満バックヤード以上と言った地味ではあるが綺麗に整ったベッドのある部屋に運ばれてしまった。
俺としては救急車を用意して欲しかったが、こんな時の水嶋は人として、大人として、社会人として頼りになる先輩に早変わりする。
「お飲み物をお持ちいたします」と言われたからケーキを頼もうとすると、顔を掴まれ「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」と45度の綺麗なお辞儀をした。
しかし、プライベートになると一転して中身が水だけの風船になる。大事を取って暫く休んで欲しいと言い残し、ホテルの人が部屋を出ると途端に詰め寄ってきた。
「俺は童貞なのか?!」
「そこかい」
水嶋の謎を新発見。
何よりも優先するのは仕事だと思ってた。
「何故ここにいる」とか佐倉呼び捨てとか、最悪黒子の男を庇うと思いきやよもやの「童貞」が生命保険の有無を超えて来るとは思わなかった。
「童貞でしょ」
「いや、おかしいだろ、色々やられてるだろ、やってるだろ、主にお前だけどな」
「セックスの経験があるか無しか……が童貞、非童貞の定義じゃ無いと思います、知らないけど」
「知らんのに言うなアホ」とゲンコツが飛んで来たから「じゃあ調べよう」って事になってWikiさんに聞いてみた。
1. 性交未経験の男性 (cherry boy)
2. 男性が性交未経験の状態 (virgin)
のいずれかを指す。
ここでいう「性交」とは通常は膣性交であり、肛門性交(アナル)や口腔性交(フェラチオ)は含まれない。
………とある。
「童貞……………」
「水嶋さん、何でショックを受けているんですか、ってか、本当に俺としかやった事ないんですね、女性経験ゼロ?ホントに?もう30なのに?」
「………悪いか」と睨んで来る顔はちょっと僻み何入ってて、ちょっと拗ねてて超唆られるが…残念ながら「ではお尻をお貸します」とは言えない。
「悪くないです、寧ろ嬉しいです、ついでだから言いますけど、他で変な経験積まないでくださいね?さっきの男は何て言ってきたんですか?まさか部屋を教えたんじゃないでしょうね」
「………」
「教えたんですね?」
「うん」とも「すん」とも返事はしないが、プチュっと下唇を突き出し、横を向くって……。
何でも前橋と呼ばれた黒子の男は紅丸東京本社の社長の息子だとか、一般社員と同じく平からスタートしたらしいけど今はもう大きい事業も任されている立場の人だとか、言い訳がましい説明が小さく萎んだ。
「大きい会社の偉い人だから?奥田製薬とは無縁なのに?あいつは何て?」
「どこに住んでるのかって聞かれたから普通に答えただけだ、世間話だよ」
「世間話で済んでないから困ってたんでしょう、何かに困っていたのならちゃんと言ってください、金曜日の夜にあんたがツツジに埋まっていたのは困ってたからだ、そうだろう?」
恐らく、巨大商社のピンバッジに押されて、例の馬鹿さ加減を発揮した水嶋は聞かれるままにマンションの部屋を教えたのだろう。そして恐らく「遊びに行く」とか何とか一方的な約束を持ちかけられたのだ。だから金曜の夜は家に帰れなくなって茂みで寝ていたのだ。
「さっさと言え、誘われただけ?」
「……今から行ってもいいか…って…」
「やっぱり……それが、どう言う意味か、あいつを部屋に入れたらどうなるかはわかってるんですよね」
「……何で…俺なんだ?」
「もう一回聞きます、どうなるかはわかってるんですよね」
前橋という男は自分の地位を利用して、水嶋が強く出る事はない、強く出る事が出来ないと知った上で足元を見ているのだ。
そして好きとか付き合いたいって思う前に寝たいが前面に出ている。
1人の「男」相手に数人の「男」がハエみたいにブンブンと寄ってたかっている様は異様だが、その世界観にすっかりと慣れてしまっている自分も、そのハエの1匹なのだと自覚はしている。
だって、まず「触ってみたい」と思う気持ちは、チンコが痛くなる程わかってしまうのだ。
「体が目当てだって見えているんでしょう?」
「だから……何で俺なんだ?!体が目当てって何だよ佐倉支局長もお前も!そして俺は何で責められてんだ?前橋さんより何よりもお前のほうが最悪だろ!」
「何で俺なのか……は、俺の方が聞きたいです、よく考えて、ちゃんと考えてください」
「え?」
「何それ?」と、今している話の行方がわからなくなったらしいが、そこが水嶋が自身に問うて欲しい所だ。
決して相入れない相手ではあるが………佐倉はいい奴だと思う。スペック込みで条件を並べて冷静に考えると勝てる要素は一つも無い。
そんな二択(多分二択)がある中で「何故江越なのか」を考えて欲しい。
ああ……水嶋は選んで無い、と言われてしまいそうだが、「佐倉」は断ったのに「江越」は断られてない。
嫌だと口にはするけど、誘えばアパートに来るし、風呂に入ってビール飲んで人の作った飯を食ってから、油断たっぷりまったりと水風船になるのだ。
たまーに、極々たまーにだけど、「するんだろ?」って雰囲気を出してくる事もある。
江越を選んでいると思って何が悪い。
しかし、水嶋はプライベートはどうでもいいと思っている人である。
もっと言えば人生の展望なんて持ってない。
諦めているとまでは言えないが、恐らく中学生の時に持ってしまった自暴自棄な所がまだまだ残ってるのだと思う。「何故江越なのか」を考えて、自分で選んだから「江越」なのだと自覚を持って欲しかったり……するのだが。
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