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雪斗の過去
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渡辺の携帯にかかってきた電話はTOWAに近い所轄の警察署からだった
村井と名乗った警察官は、人を刺したと警察署に飛び込んで来た女性の事で聞きたい事があると簡単にあらましを説明した
刺した相手は恋人だと、結婚するつもりだったと話しているが、刺した相手の連絡先はおろか苗字すらあやふや、唯一残された具体的な手懸かりが、置き去りにされた携帯に残された一回きりの通話履歴と弁護士のワタナベという名前だけだった
顔を会わせないよう取り計らってもらう条件で話を聞きに南署に向かった
「ご存じの方ですか?」
片方が鏡、もう片方は普通の硝子に見える2つ並んだお馴染みの部屋は特殊な加工のせいか薄暗い
項垂れて椅子に座る女性はひと目見て胡蝶のホステスだとわかった
据え付けられたマイクからスピーカーに届く物音は優しく話しかける女性警察官の声だけで泣き腫らした目は放心して反応してない
「いえ……私は…覚えていません」
「そうですか」
いつもそうだが警察官独特の目付きは落ち着き奪う
後で変節する余地を残した「覚えてない」という答えに村井はピクリと反応した
法を侵すような真似はさせていないつもりだが勝手に何でも一人でやってしまう雪斗の行動は把握しきれてない、後ろ暗い所は無いが余計な詮索をされたくなかった
「ただの狂言じゃないですか?フラれた相手に会ってもらえず非常手段に出ただけですよ」
「我々もね……怪我をした該当者がいないので最初はそうも思ったんですが……」
…………むき出しの包丁を手にして署に飛び込んできた美菜子は入口の廊下で人を刺したと泣き喚いた
興奮して話にもならず、包丁を握る手を緩めるまで2時間もかかった
「凶器に血痕が残っていまして……それに狂言にしてはちょっとね……」
「凶器って何ですか?妙なカマかけはやめてください」
「あなたがクラブに同行した、被害者と思われる方は勿論ご存知なんでしょう?、彼女の携帯から"ゆきちゃん"があなたに電話した事は間違いない」
「知っていますがそこまで親しくはありません、今日の昼に偶然会いましたけどね、新幹線に遅れると言って走っていきました」
「偶然…ね」
村井は持っていたボールペンをカチカチと鳴らし皮肉な笑いを浮かべた
「色々含みますね、もし彼女の言うことが事実でもこちらは被害者でしょう、被害届を出す気がないんですから何も問題はない、落ち着いたら帰って貰えばいいでしょう」
「…………二ヶ月も一緒に暮らして何も正体を明かしてないなんて出来るもんでしょうかね……」
「さぁ、それはわかりません、それこそ彼女に聞いたらどうですか?」
ふぅっと息をついた村田は硝子の向こうで項垂れる美菜子を見て顔をしかめた
髪はバラバラに乱れ、泣き疲れてボロボロになってはいるがそれでも尚美しい
「あんな美人にここまで想われても冷酷に捨て去る事が出来る「ゆきちゃん」ってどんな男なんですか?あなたの顧客なんでしょう?弁護士さん」
「普通の若い男ですよ、顧客かどうかなんてここで言う気は無い」
「連絡は取れますか?」
「彼は携帯を持たないので無理ですね」
「それも彼女が言ってました……今時本当なんですね」
これ以上痛くもない腹を探られてる暇は無い、きっと雪斗も目を覚ましている
何より佐鳥と二人きりなんて冗談じゃない
わざとらしく時計を見て携帯を取り出した
「私は仕事の約束がありますのでそろそろいいですか?」
「いいでしょう、何かあれば連絡します、お手数をおかけしました」
「もう……連絡は結構です、近寄って欲しくない」
別に隠す必要はない、むしろ傷害の罪を贖って欲しいくらいだが雪斗を騒動に巻き込みたくない
まだ何か言いたそうな村井に頭を下げて電話をしながら部屋を出た
「どうしてまだ目を覚ましていないんだ!!」
渡辺は病室に入って来るなり飛び出して、ナースステーションに詰めていた長野医師の所に怒鳴り込んだ
「落ち着いて下さい、先程も言いましたが投与した薬剤はそんなに長く持ちません、出血量も多かったようですし疲れて眠っているだけなのか……まだ判断は……」
「雪斗は寝ないんだよ!決して人前では寝ない、薬のせいじゃなければ起きないなんておかしいんだ」
「そんな極端な……」
長野は昨晩からの当直が終わり帰りかけていた所に飛び込んできたややこしい急患を運悪く(?)担当してしまった、血だらけの体で客商売だろうと喚いて暴れる患者に、訴えると脅す付き添い……どんな言葉に置き換えても運が悪かったとしか言いようが無い
いくら何でも最初に投与した鎮静剤の効き目が続いているとは思えず、手術はわざわざ麻酔医を呼んで最低最小限で抑えのに目を覚まさない
患者の予後が気になって帰りそびれ、焦っているのは長野の方だった
「原因は何ですか、どんな薬を使ったか記録を全部見せてもらいますよ」
「勿論それは構いません、原因と言われても……」
言いかけた長野の院内通話用の携帯がプルプル震え個室の患者が目を覚ましたと連絡が入った
「渡辺さん…音羽さんが……」
長野が言い終わる前に渡辺はもう病室に向かって走っていた
「雪斗!!」
個室のある廊下の突き当りまで走り、開けっ放しになっていたドアに飛び込むと、佐鳥と業務を終えた緑川、輸液を調整している看護師が雪斗の周りを囲っていた
「具合は?こんな無茶をして!何があったか後でたっぷり話してもらいますかね」
「渡辺……」
殆ど口を動かさずに聞き取るのがやっとの声で雪斗が呟いた
「これ外せ……」
殊勝な言葉や弱音が聞けるとは思ってないが……
何を言っているのかと病室にいた長野医師を含む全員が耳を疑った
「外せって……何を…」
「腕に刺さってるヤツ……外してくれ」
雪斗は点滴の管を目で追い、腕の手前で嫌そうに視線を反らせると緑川が苦笑いを浮かべて透明のチューブを指で弾いた
「何を言ってるんですか、目を覚まして一言目が点滴外せなんて……」
「止めろよ揺らすな」
「何だよ怖いんですか?」
「怖いに決まってるだろ、腕に針が刺さったまんまなんだぞ」
………つまり雪斗は点滴が怖くて動けないでいるらしい
長野が目とリンパ節を触り、胸の音を聞く間もガッチリ腕を固めて動かそうとしなかった
「血を流しながら一回転するくせに意外と変な事を怖がるんですね」
「うるさい…………」
"ごめん"も"大丈夫"も言わない所はいかにも雪斗らしいがからかわれているようで肩の力が抜けた
「緑川……ここにいてくれるか?俺は会社に連絡して来るよ…野島部長と皆巳さんが会社で経過を待ってる筈だから……」
チラチラと険しい視線を寄越す渡辺は今日一日普通じゃなかった、いずれ話はするつもりだが今は余計な刺激を与えたくない
佐鳥は外は電話をするついでに外の空気を吸うために中庭まで出た
ワンコールで電話に出た皆巳は連絡を待ちわびていたようだった、無事を伝えると電話口からでもわかる、ほっと胸を撫で下ろした声なのに"わかりました"と一言しか言わなかった
「素直じゃないな……」
思わず独り言を呟いた声が白い
空を見上げるとまだ6時を過ぎたばかりなのにもう真っ暗になっていた
スーツだけでは肌寒く、もうそこまで冬が迫っている
音羽さんが?…………
聞き覚えのある声が建物の影から聞こえハッとした
声は長野医師?
冬が迫り、枯れかけた雑草が生い茂る裏口の扉の前に、誰かがいる事はわかるが顔は見えない、息を潜めて目を凝らすと小さな蛍火が2つ見えた
「煙草?……」
「しっ……」
肩にヒタっと手が乗り緑川の声が耳元で黙れと言った
「いつの話ですか?」
「私が研修を終えてこの病院に赴任してから………三年目だったと思う……19年……いや20年前かな」
「音羽さんは…いくつだったんですか?…」
「多分5才だったと思うよ」
やっぱり話題は雪斗の事………このまま話を効いてしまってもいいのか……迷って緑川と顔を見合わせた
長野と話す声は落ち着いた響きを持ち、おそらく中年を越えたくらいの歳に聞こえる
「彼のお姉さんがなくなってからあの子の引き取り先が決まるまで二ヶ月くらいかな……この病院で預かっていたんだ」
「そうなんですか……」
「当時も厄介な子供だったよ、すぐに逃げるし薬は捨てるし………頭が良くてな………私達は振り回されて大変だった」
「ご両親は?」
「搬送時にはもう駄目だった」
「……自殺だったんですか?」
「ああ……父親の一家心中だった」
「そんな事が………」
「あの子は自分がお姉さんを殺したと思い込んでいてね……事ある毎に過呼吸を起こしてもう少し治療の必要があったんだが病院にも事情がある、仕方なかった」
「殺したってどういう事ですか?」
「勿論あの子は関係ない、お姉さんは病院に運ばれた時にはまだ息があったが一酸化炭素中毒でね……二週間後に亡くなったんだ」
「音羽さんは?」
「あの子は……」
長野の話相手が雪斗の事を「あの子」と呼ぶのは幼少期を知っているからこそだ
「両親に渡された睡眠薬を捨てて飲まなかったらしい……車内が暑かったから眠ることが出来ずに勝手に車から降りて一人だけ助かった」
「今では厄介なやんちゃのお陰で命拾いしたんですね」
「そうだな……それでな……」
二人の話し声はだんだん遠ざかり、やがて館内の中に消えていった
暫くの間………盗み聞いてしまった話に声も出なかった
聞きたくなかったし聞くべきじゃなかった
緑川は思わぬ所で雪斗の過去を知り、また一つ手駒を取られたような気になった
「おい……暁彦、何をしてる」
佐鳥の手元でぽっと明かりを灯した画面を手で覆った
「興味本位はやめろよ……」
「興味本位じゃない………いや、そうかもしれないが…………俺達はもう殆ど聞いただろう、中途半端に知っているよりちゃんとわかっていた方がいい……」
「………どうだろうな……」
雪斗の弱みを握りたくたくない、出来れば正々堂々と勝負したい
そして…………決して使えないがおそらくこの話は武器になる
だが、知りたくないかと言えば嘘になる、検索をやめようとしない佐鳥の持つ小さな画面に頭を寄せた
「これじゃないか?」
「音羽はそんなにポピュラーな苗字じゃない、多分これだろう」
古い情報ではあるが複数の記事が見つかった
日付は丁度20年前の冬、雪斗の両親は車で山に入り、車内に練炭を持ち込んで自殺を図った
両親と雪斗の姉は心肺停止、雪斗は車の外で丸まっているところを発見され、両親はそのまま死亡が確認されたが姉は意識不明のまま、ほんの少し頑張った
雪斗はたった一人でゆっくりゆっくり死んでいく姉をずっと側で見ていたのだ
雪斗にとって病院はとても忌まわしい場所なのかもしれない、あの尋常じゃない拒否は拭いきれない傷の深さを物語っていた
「俺なら……同情されたくない」
雪斗以外誰にもわかりようのない苦しみにどんな言葉を掛けようと安い慰めにすらならない
「そうだな……」
プライドの高い雪斗にちょっとでもそんな目を向けると絶対に二度と笑顔を見せなくなる
「戻るぞ……俺達に今出来ることをしよう」
「ああ………今頃きっとまたぼやいて渡辺さんを困らせてるかもしれないな…」
「その方が………社長らくしていいよ」
「もう………寒いな、おい、あそこから入ろう」
大回りするより長野達が入っていった職員用の入口が近い、ドアを開けると息継ぎをする非常口のライトがもの寂しく明るい廊下に出ても………お互いに顔を見る事は出来なかった
「点滴を外さない限り暴れたり逃げたりしないでしょう……暫くはそれでお願いできますか?」
「痛み止めは処方していないんです、もう逃げるなんて出来ませんよ」
「音羽の……意思の強さを決して舐めないで下さい、私は何度も煮え湯を飲んでいる」
「はあ……」
暫く姿を消していた長野医師は煙草のタバコの匂いを撒き散らし看護師に睨まれて小さくなっていた、病院の敷地内は全面禁煙だ、いつもならもっと匂いに気をつけるが何から何まで全部キリキリだった
「いずれにしても点滴は二、三日外れません」
「……お手数をお掛けしますがよろしくお願いします」
看護師が入院の説明をして行ってしまい、他に誰も話を聞いてない事を確認すると渡辺が言いにくそうに口を開いた
「……あの……信頼出来ないと言う訳ではないんですが出来ればお話にあった転院をお願いしたいんですが……」
渡辺の口調で今さっき聞いた話が頭に浮かんだが、もしその事に関係ないのなら迂闊に漏らしたりは出来ない、言葉を濁して聞き返した
「渡辺さんは………ご存知なんですか?」
渡辺はひゅっと眉を上げ顎を抱えた
「須藤外科部長からですか?」
「そうです……今さっき話を聞いて………すいません、勝手に……」
「いや、それなら話がしやすい、実は私も直接は知らないんですよ……音羽は自分事を何も話さない、私も勝手に調べたんです」
「確かに………事情はよくわかりますが転院するほど入院は長くなりません、病室を出なければ内部はどこも変わりませんしあまりお勧めは出来ませんが……どうしてもと仰るなら紹介状は書かせていただきます」
「考えます……所で煙草を吸える場所があるんですか?ちょっともう限界で……」
チョキにした指を口に持っていき困ったように笑った渡辺はさっきまでの剣幕は消えてしまい、「有能な弁護士」に早変わりしていた
「病院の敷地は全て禁煙なんですが……どうしてもね、ご案内します」
先に立って職員用の通路に足を向けると血相を変えた看護師が走って来た
「先生!!音羽さんが!!」
バッと二人で顔を見合わせ雪斗の病室に走った
「何が……」
雪斗のベッドは液の漏れた点滴の管が乱れたシーツに黄色いシミを作っているだけでもぬけの殻だった
「点滴を外したら音羽さんが急に帰るって」
「クソッ!……」
色んな意味で注意が必要な患者だと思っていたがそれは動けるようになってからの話だと思っていた
「音羽さん待ってください……待って!!誰か!!」
病室を飛び出すとエレベーターの方から看護師の声がしてすぐに消えた
「下だ!」
エレベーターを待つ暇はない、二人で階段を駆け下りると正面玄関の中央にある長いエスカレーターの下を横切る姿……
病院の処置服を着たままの雪斗を見つけた
「あっ!!あそこに!!」
雪斗は裸足のまま水色の服をヒラヒラさせて慌てる看護師の静止を無視して大股で歩いて行く
エスカレーターを飛ぶ勢いで駆け下りたがスルリとドアをすり抜け姿が見えなくなってしまった
「音羽さんは?!」
「すいません……今……」
毎日が激務で体力だけはあるつもりだったが全速で走るなんて考えてみれば高校以来……渡辺と二人で息も絶え絶えに外まで走り出たが最後まで追い縋った看護師がタクシー乗り場の前で半泣きになっていた
「どういう事ですか!!!」
佐鳥と緑川が病室に戻ると既に雪斗が脱走した後だった、どこの誰が手術後数時間で走って逃げるかもしれないなんて変な心配をする
看護師を責めるのは気の毒だが渡辺が怒鳴り付けると看護師二人が小さくなった
「あなた方は私が点滴を外すなとお願いするのを聞いてましたよね?!!何をしたんです」
「すいません……利き手が……」
「何ですか!?……」
「左利きなので不自由だから点滴を右に変えてほしいと……」
「音羽は右利きです!」
「でも、とても困った顔をしてらして……まさかこんな事を企む様子じゃなかったので……かわいそうになってしまって」
出た……
眼光ビーム……
看護師は見たところTOWAの塚下と変わらない年齢に見える
ICUから出ていけと険しい顔をして言ったのも彼女だった、キビキビ動くベテラン看護師なのにまんまと雪斗のビームに引っ掛かっている
老若男女すべてに適応させて結局思いのまま操ってるじゃないか
自覚が無いなんて甘かった
「渡辺さん、ここで病院を責めても仕方ないでしょう、探す方が先だ」
緑川が手に持っていた上着を着て携帯を取り出した
「会社に皆巳さんと野島部長がまだ待機している筈です、俺が連絡するから渡辺さんと佐鳥は心当たりを当たってください」
「いや……闇雲に探しても無駄だろう……マンションには皆巳さんに行ってもらいました」
「雪斗が……手近なベンチに寝転がってしまったらお手上げだ、俺は会社まで走ってその辺を見て回ります」
「それで見つからなければ……本当に野垂れ死にするかもしれないな……」
渡辺が小さくなる看護師と長野医師を睨んだ
「渡辺さん、病院側は悪くない、暁彦も一回落ち着け、この先社長が見つかったらどうするかを決めておいた方がいい、傷はどうなんです?また傷が開いて出血したりしますか?」
みんなが慌てる中、緑川一人が冷静だった、今すぐにでも病院を出て雪斗を探したいがジャケットの裾をガッチリ掴まれて行くに行けない
「傷は問題ないでしょう、鋭利な刃物で刺された傷はしっかり縫合しました、怖いのは感染症なんです」
「刺されたんじゃない、引っかけて切っただけです」
「それは………今はどっちでもいいです」
病院には通報義務がある、傷口を見れば明らかに刃物による創痍だったが怪我をした経緯の申告はなかった……迷ったが付添に弁護士が付いていた為保留にしていた
「もし捕まえたってその後社長が大人しく病院に戻ってくれるかの方が問題なんじゃないですか?」
「自宅療養は可能ですが……あんな怖い患者に見ていない所で薬を処方するなんて出来ません」
「怖いって?」
「はい、あんまりこういう事を言いたく無いですが音羽さんは最恐の患者です」
「最強?」
「暁彦…ちょっと黙ってろ…」
佐鳥が素っ頓狂な声を上げたが誰も笑うどころじゃなかった
「……最恐です」
医者という職業は経験を積めば積む程恐ろしいものだった
自分の判断一つで人の運命が変わる、そんな命のやり取りに比べれば医療ミスで訴えられるなんて些末な事だった
外科医はある意味判り易いが今日のように予測出来ない事態が起こると冷や汗が止まらない
抗生物質の投与すら怖くて看護師に目を離すなと指示していた事が裏目に出た
「私は音羽さんの体があまりに薬に無縁で少量の鎮静剤で腰を抜かした……と言うか……効きすぎたと思っています」
「薬が効きすぎた?そんな事があるんですか?」
「はい、あの時虫の知らせと言うか……咄嗟にハロペリドール……セレネースを成人男性の適量5ミリを3ミリに変えました、例えば渡辺さん、あなたくらいの体格の方にその量を使用しても多分ビールニ、三本飲んでふわっとする程度ですよ」
「それは本当なんでしょうね」
「お疑いならカルテをお見せします、使用薬剤のラベルが貼ってあるし看護師にも証言してもらいます、提訴でも何でもすればいい」
「あの……」
佐鳥が口を挟むと言い合っていた渡辺と長野がピタリと止まった
「何ですか」
「俺はやっぱり探しに行ってきます」
「佐鳥くんには行ってもらいたくない、もう結構です、家に帰ってください」
「……俺は……見つかるまで探します」
「俺が一緒なら文句ないでしょう?」
睨み合う二人の間に緑川が入ると渡辺はジロっと睨みわざとらしく背を向けた
村井と名乗った警察官は、人を刺したと警察署に飛び込んで来た女性の事で聞きたい事があると簡単にあらましを説明した
刺した相手は恋人だと、結婚するつもりだったと話しているが、刺した相手の連絡先はおろか苗字すらあやふや、唯一残された具体的な手懸かりが、置き去りにされた携帯に残された一回きりの通話履歴と弁護士のワタナベという名前だけだった
顔を会わせないよう取り計らってもらう条件で話を聞きに南署に向かった
「ご存じの方ですか?」
片方が鏡、もう片方は普通の硝子に見える2つ並んだお馴染みの部屋は特殊な加工のせいか薄暗い
項垂れて椅子に座る女性はひと目見て胡蝶のホステスだとわかった
据え付けられたマイクからスピーカーに届く物音は優しく話しかける女性警察官の声だけで泣き腫らした目は放心して反応してない
「いえ……私は…覚えていません」
「そうですか」
いつもそうだが警察官独特の目付きは落ち着き奪う
後で変節する余地を残した「覚えてない」という答えに村井はピクリと反応した
法を侵すような真似はさせていないつもりだが勝手に何でも一人でやってしまう雪斗の行動は把握しきれてない、後ろ暗い所は無いが余計な詮索をされたくなかった
「ただの狂言じゃないですか?フラれた相手に会ってもらえず非常手段に出ただけですよ」
「我々もね……怪我をした該当者がいないので最初はそうも思ったんですが……」
…………むき出しの包丁を手にして署に飛び込んできた美菜子は入口の廊下で人を刺したと泣き喚いた
興奮して話にもならず、包丁を握る手を緩めるまで2時間もかかった
「凶器に血痕が残っていまして……それに狂言にしてはちょっとね……」
「凶器って何ですか?妙なカマかけはやめてください」
「あなたがクラブに同行した、被害者と思われる方は勿論ご存知なんでしょう?、彼女の携帯から"ゆきちゃん"があなたに電話した事は間違いない」
「知っていますがそこまで親しくはありません、今日の昼に偶然会いましたけどね、新幹線に遅れると言って走っていきました」
「偶然…ね」
村井は持っていたボールペンをカチカチと鳴らし皮肉な笑いを浮かべた
「色々含みますね、もし彼女の言うことが事実でもこちらは被害者でしょう、被害届を出す気がないんですから何も問題はない、落ち着いたら帰って貰えばいいでしょう」
「…………二ヶ月も一緒に暮らして何も正体を明かしてないなんて出来るもんでしょうかね……」
「さぁ、それはわかりません、それこそ彼女に聞いたらどうですか?」
ふぅっと息をついた村田は硝子の向こうで項垂れる美菜子を見て顔をしかめた
髪はバラバラに乱れ、泣き疲れてボロボロになってはいるがそれでも尚美しい
「あんな美人にここまで想われても冷酷に捨て去る事が出来る「ゆきちゃん」ってどんな男なんですか?あなたの顧客なんでしょう?弁護士さん」
「普通の若い男ですよ、顧客かどうかなんてここで言う気は無い」
「連絡は取れますか?」
「彼は携帯を持たないので無理ですね」
「それも彼女が言ってました……今時本当なんですね」
これ以上痛くもない腹を探られてる暇は無い、きっと雪斗も目を覚ましている
何より佐鳥と二人きりなんて冗談じゃない
わざとらしく時計を見て携帯を取り出した
「私は仕事の約束がありますのでそろそろいいですか?」
「いいでしょう、何かあれば連絡します、お手数をおかけしました」
「もう……連絡は結構です、近寄って欲しくない」
別に隠す必要はない、むしろ傷害の罪を贖って欲しいくらいだが雪斗を騒動に巻き込みたくない
まだ何か言いたそうな村井に頭を下げて電話をしながら部屋を出た
「どうしてまだ目を覚ましていないんだ!!」
渡辺は病室に入って来るなり飛び出して、ナースステーションに詰めていた長野医師の所に怒鳴り込んだ
「落ち着いて下さい、先程も言いましたが投与した薬剤はそんなに長く持ちません、出血量も多かったようですし疲れて眠っているだけなのか……まだ判断は……」
「雪斗は寝ないんだよ!決して人前では寝ない、薬のせいじゃなければ起きないなんておかしいんだ」
「そんな極端な……」
長野は昨晩からの当直が終わり帰りかけていた所に飛び込んできたややこしい急患を運悪く(?)担当してしまった、血だらけの体で客商売だろうと喚いて暴れる患者に、訴えると脅す付き添い……どんな言葉に置き換えても運が悪かったとしか言いようが無い
いくら何でも最初に投与した鎮静剤の効き目が続いているとは思えず、手術はわざわざ麻酔医を呼んで最低最小限で抑えのに目を覚まさない
患者の予後が気になって帰りそびれ、焦っているのは長野の方だった
「原因は何ですか、どんな薬を使ったか記録を全部見せてもらいますよ」
「勿論それは構いません、原因と言われても……」
言いかけた長野の院内通話用の携帯がプルプル震え個室の患者が目を覚ましたと連絡が入った
「渡辺さん…音羽さんが……」
長野が言い終わる前に渡辺はもう病室に向かって走っていた
「雪斗!!」
個室のある廊下の突き当りまで走り、開けっ放しになっていたドアに飛び込むと、佐鳥と業務を終えた緑川、輸液を調整している看護師が雪斗の周りを囲っていた
「具合は?こんな無茶をして!何があったか後でたっぷり話してもらいますかね」
「渡辺……」
殆ど口を動かさずに聞き取るのがやっとの声で雪斗が呟いた
「これ外せ……」
殊勝な言葉や弱音が聞けるとは思ってないが……
何を言っているのかと病室にいた長野医師を含む全員が耳を疑った
「外せって……何を…」
「腕に刺さってるヤツ……外してくれ」
雪斗は点滴の管を目で追い、腕の手前で嫌そうに視線を反らせると緑川が苦笑いを浮かべて透明のチューブを指で弾いた
「何を言ってるんですか、目を覚まして一言目が点滴外せなんて……」
「止めろよ揺らすな」
「何だよ怖いんですか?」
「怖いに決まってるだろ、腕に針が刺さったまんまなんだぞ」
………つまり雪斗は点滴が怖くて動けないでいるらしい
長野が目とリンパ節を触り、胸の音を聞く間もガッチリ腕を固めて動かそうとしなかった
「血を流しながら一回転するくせに意外と変な事を怖がるんですね」
「うるさい…………」
"ごめん"も"大丈夫"も言わない所はいかにも雪斗らしいがからかわれているようで肩の力が抜けた
「緑川……ここにいてくれるか?俺は会社に連絡して来るよ…野島部長と皆巳さんが会社で経過を待ってる筈だから……」
チラチラと険しい視線を寄越す渡辺は今日一日普通じゃなかった、いずれ話はするつもりだが今は余計な刺激を与えたくない
佐鳥は外は電話をするついでに外の空気を吸うために中庭まで出た
ワンコールで電話に出た皆巳は連絡を待ちわびていたようだった、無事を伝えると電話口からでもわかる、ほっと胸を撫で下ろした声なのに"わかりました"と一言しか言わなかった
「素直じゃないな……」
思わず独り言を呟いた声が白い
空を見上げるとまだ6時を過ぎたばかりなのにもう真っ暗になっていた
スーツだけでは肌寒く、もうそこまで冬が迫っている
音羽さんが?…………
聞き覚えのある声が建物の影から聞こえハッとした
声は長野医師?
冬が迫り、枯れかけた雑草が生い茂る裏口の扉の前に、誰かがいる事はわかるが顔は見えない、息を潜めて目を凝らすと小さな蛍火が2つ見えた
「煙草?……」
「しっ……」
肩にヒタっと手が乗り緑川の声が耳元で黙れと言った
「いつの話ですか?」
「私が研修を終えてこの病院に赴任してから………三年目だったと思う……19年……いや20年前かな」
「音羽さんは…いくつだったんですか?…」
「多分5才だったと思うよ」
やっぱり話題は雪斗の事………このまま話を効いてしまってもいいのか……迷って緑川と顔を見合わせた
長野と話す声は落ち着いた響きを持ち、おそらく中年を越えたくらいの歳に聞こえる
「彼のお姉さんがなくなってからあの子の引き取り先が決まるまで二ヶ月くらいかな……この病院で預かっていたんだ」
「そうなんですか……」
「当時も厄介な子供だったよ、すぐに逃げるし薬は捨てるし………頭が良くてな………私達は振り回されて大変だった」
「ご両親は?」
「搬送時にはもう駄目だった」
「……自殺だったんですか?」
「ああ……父親の一家心中だった」
「そんな事が………」
「あの子は自分がお姉さんを殺したと思い込んでいてね……事ある毎に過呼吸を起こしてもう少し治療の必要があったんだが病院にも事情がある、仕方なかった」
「殺したってどういう事ですか?」
「勿論あの子は関係ない、お姉さんは病院に運ばれた時にはまだ息があったが一酸化炭素中毒でね……二週間後に亡くなったんだ」
「音羽さんは?」
「あの子は……」
長野の話相手が雪斗の事を「あの子」と呼ぶのは幼少期を知っているからこそだ
「両親に渡された睡眠薬を捨てて飲まなかったらしい……車内が暑かったから眠ることが出来ずに勝手に車から降りて一人だけ助かった」
「今では厄介なやんちゃのお陰で命拾いしたんですね」
「そうだな……それでな……」
二人の話し声はだんだん遠ざかり、やがて館内の中に消えていった
暫くの間………盗み聞いてしまった話に声も出なかった
聞きたくなかったし聞くべきじゃなかった
緑川は思わぬ所で雪斗の過去を知り、また一つ手駒を取られたような気になった
「おい……暁彦、何をしてる」
佐鳥の手元でぽっと明かりを灯した画面を手で覆った
「興味本位はやめろよ……」
「興味本位じゃない………いや、そうかもしれないが…………俺達はもう殆ど聞いただろう、中途半端に知っているよりちゃんとわかっていた方がいい……」
「………どうだろうな……」
雪斗の弱みを握りたくたくない、出来れば正々堂々と勝負したい
そして…………決して使えないがおそらくこの話は武器になる
だが、知りたくないかと言えば嘘になる、検索をやめようとしない佐鳥の持つ小さな画面に頭を寄せた
「これじゃないか?」
「音羽はそんなにポピュラーな苗字じゃない、多分これだろう」
古い情報ではあるが複数の記事が見つかった
日付は丁度20年前の冬、雪斗の両親は車で山に入り、車内に練炭を持ち込んで自殺を図った
両親と雪斗の姉は心肺停止、雪斗は車の外で丸まっているところを発見され、両親はそのまま死亡が確認されたが姉は意識不明のまま、ほんの少し頑張った
雪斗はたった一人でゆっくりゆっくり死んでいく姉をずっと側で見ていたのだ
雪斗にとって病院はとても忌まわしい場所なのかもしれない、あの尋常じゃない拒否は拭いきれない傷の深さを物語っていた
「俺なら……同情されたくない」
雪斗以外誰にもわかりようのない苦しみにどんな言葉を掛けようと安い慰めにすらならない
「そうだな……」
プライドの高い雪斗にちょっとでもそんな目を向けると絶対に二度と笑顔を見せなくなる
「戻るぞ……俺達に今出来ることをしよう」
「ああ………今頃きっとまたぼやいて渡辺さんを困らせてるかもしれないな…」
「その方が………社長らくしていいよ」
「もう………寒いな、おい、あそこから入ろう」
大回りするより長野達が入っていった職員用の入口が近い、ドアを開けると息継ぎをする非常口のライトがもの寂しく明るい廊下に出ても………お互いに顔を見る事は出来なかった
「点滴を外さない限り暴れたり逃げたりしないでしょう……暫くはそれでお願いできますか?」
「痛み止めは処方していないんです、もう逃げるなんて出来ませんよ」
「音羽の……意思の強さを決して舐めないで下さい、私は何度も煮え湯を飲んでいる」
「はあ……」
暫く姿を消していた長野医師は煙草のタバコの匂いを撒き散らし看護師に睨まれて小さくなっていた、病院の敷地内は全面禁煙だ、いつもならもっと匂いに気をつけるが何から何まで全部キリキリだった
「いずれにしても点滴は二、三日外れません」
「……お手数をお掛けしますがよろしくお願いします」
看護師が入院の説明をして行ってしまい、他に誰も話を聞いてない事を確認すると渡辺が言いにくそうに口を開いた
「……あの……信頼出来ないと言う訳ではないんですが出来ればお話にあった転院をお願いしたいんですが……」
渡辺の口調で今さっき聞いた話が頭に浮かんだが、もしその事に関係ないのなら迂闊に漏らしたりは出来ない、言葉を濁して聞き返した
「渡辺さんは………ご存知なんですか?」
渡辺はひゅっと眉を上げ顎を抱えた
「須藤外科部長からですか?」
「そうです……今さっき話を聞いて………すいません、勝手に……」
「いや、それなら話がしやすい、実は私も直接は知らないんですよ……音羽は自分事を何も話さない、私も勝手に調べたんです」
「確かに………事情はよくわかりますが転院するほど入院は長くなりません、病室を出なければ内部はどこも変わりませんしあまりお勧めは出来ませんが……どうしてもと仰るなら紹介状は書かせていただきます」
「考えます……所で煙草を吸える場所があるんですか?ちょっともう限界で……」
チョキにした指を口に持っていき困ったように笑った渡辺はさっきまでの剣幕は消えてしまい、「有能な弁護士」に早変わりしていた
「病院の敷地は全て禁煙なんですが……どうしてもね、ご案内します」
先に立って職員用の通路に足を向けると血相を変えた看護師が走って来た
「先生!!音羽さんが!!」
バッと二人で顔を見合わせ雪斗の病室に走った
「何が……」
雪斗のベッドは液の漏れた点滴の管が乱れたシーツに黄色いシミを作っているだけでもぬけの殻だった
「点滴を外したら音羽さんが急に帰るって」
「クソッ!……」
色んな意味で注意が必要な患者だと思っていたがそれは動けるようになってからの話だと思っていた
「音羽さん待ってください……待って!!誰か!!」
病室を飛び出すとエレベーターの方から看護師の声がしてすぐに消えた
「下だ!」
エレベーターを待つ暇はない、二人で階段を駆け下りると正面玄関の中央にある長いエスカレーターの下を横切る姿……
病院の処置服を着たままの雪斗を見つけた
「あっ!!あそこに!!」
雪斗は裸足のまま水色の服をヒラヒラさせて慌てる看護師の静止を無視して大股で歩いて行く
エスカレーターを飛ぶ勢いで駆け下りたがスルリとドアをすり抜け姿が見えなくなってしまった
「音羽さんは?!」
「すいません……今……」
毎日が激務で体力だけはあるつもりだったが全速で走るなんて考えてみれば高校以来……渡辺と二人で息も絶え絶えに外まで走り出たが最後まで追い縋った看護師がタクシー乗り場の前で半泣きになっていた
「どういう事ですか!!!」
佐鳥と緑川が病室に戻ると既に雪斗が脱走した後だった、どこの誰が手術後数時間で走って逃げるかもしれないなんて変な心配をする
看護師を責めるのは気の毒だが渡辺が怒鳴り付けると看護師二人が小さくなった
「あなた方は私が点滴を外すなとお願いするのを聞いてましたよね?!!何をしたんです」
「すいません……利き手が……」
「何ですか!?……」
「左利きなので不自由だから点滴を右に変えてほしいと……」
「音羽は右利きです!」
「でも、とても困った顔をしてらして……まさかこんな事を企む様子じゃなかったので……かわいそうになってしまって」
出た……
眼光ビーム……
看護師は見たところTOWAの塚下と変わらない年齢に見える
ICUから出ていけと険しい顔をして言ったのも彼女だった、キビキビ動くベテラン看護師なのにまんまと雪斗のビームに引っ掛かっている
老若男女すべてに適応させて結局思いのまま操ってるじゃないか
自覚が無いなんて甘かった
「渡辺さん、ここで病院を責めても仕方ないでしょう、探す方が先だ」
緑川が手に持っていた上着を着て携帯を取り出した
「会社に皆巳さんと野島部長がまだ待機している筈です、俺が連絡するから渡辺さんと佐鳥は心当たりを当たってください」
「いや……闇雲に探しても無駄だろう……マンションには皆巳さんに行ってもらいました」
「雪斗が……手近なベンチに寝転がってしまったらお手上げだ、俺は会社まで走ってその辺を見て回ります」
「それで見つからなければ……本当に野垂れ死にするかもしれないな……」
渡辺が小さくなる看護師と長野医師を睨んだ
「渡辺さん、病院側は悪くない、暁彦も一回落ち着け、この先社長が見つかったらどうするかを決めておいた方がいい、傷はどうなんです?また傷が開いて出血したりしますか?」
みんなが慌てる中、緑川一人が冷静だった、今すぐにでも病院を出て雪斗を探したいがジャケットの裾をガッチリ掴まれて行くに行けない
「傷は問題ないでしょう、鋭利な刃物で刺された傷はしっかり縫合しました、怖いのは感染症なんです」
「刺されたんじゃない、引っかけて切っただけです」
「それは………今はどっちでもいいです」
病院には通報義務がある、傷口を見れば明らかに刃物による創痍だったが怪我をした経緯の申告はなかった……迷ったが付添に弁護士が付いていた為保留にしていた
「もし捕まえたってその後社長が大人しく病院に戻ってくれるかの方が問題なんじゃないですか?」
「自宅療養は可能ですが……あんな怖い患者に見ていない所で薬を処方するなんて出来ません」
「怖いって?」
「はい、あんまりこういう事を言いたく無いですが音羽さんは最恐の患者です」
「最強?」
「暁彦…ちょっと黙ってろ…」
佐鳥が素っ頓狂な声を上げたが誰も笑うどころじゃなかった
「……最恐です」
医者という職業は経験を積めば積む程恐ろしいものだった
自分の判断一つで人の運命が変わる、そんな命のやり取りに比べれば医療ミスで訴えられるなんて些末な事だった
外科医はある意味判り易いが今日のように予測出来ない事態が起こると冷や汗が止まらない
抗生物質の投与すら怖くて看護師に目を離すなと指示していた事が裏目に出た
「私は音羽さんの体があまりに薬に無縁で少量の鎮静剤で腰を抜かした……と言うか……効きすぎたと思っています」
「薬が効きすぎた?そんな事があるんですか?」
「はい、あの時虫の知らせと言うか……咄嗟にハロペリドール……セレネースを成人男性の適量5ミリを3ミリに変えました、例えば渡辺さん、あなたくらいの体格の方にその量を使用しても多分ビールニ、三本飲んでふわっとする程度ですよ」
「それは本当なんでしょうね」
「お疑いならカルテをお見せします、使用薬剤のラベルが貼ってあるし看護師にも証言してもらいます、提訴でも何でもすればいい」
「あの……」
佐鳥が口を挟むと言い合っていた渡辺と長野がピタリと止まった
「何ですか」
「俺はやっぱり探しに行ってきます」
「佐鳥くんには行ってもらいたくない、もう結構です、家に帰ってください」
「……俺は……見つかるまで探します」
「俺が一緒なら文句ないでしょう?」
睨み合う二人の間に緑川が入ると渡辺はジロっと睨みわざとらしく背を向けた
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