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最終章 3
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沿線を辿ると長く光る車両が暗い景色を照らしながら何回も追い抜いていく
今更電車に乗る気になれなくて身を寄せ合いブラブラ歩くうちにマンションが見えて来た
どのくらい時間がかかったのかはわからないが極上の時間はあっという間で清宮となら新潟までだって歩いて行けそうだった
「意外と近いな、自転車でも買う?終電気にしなくていいだろ」
「それもいいですけど……寒い……」
ぴゅうと足元から身体を押す冷たい風に春になってからな………と笑いながら二人で身を縮めた
心は暖かいけど体は冷え切り早く帰りたいが………あの超人類はどうしたのか………マンションを見上げると部屋の窓は暗い
「あ、よかった………誰もいない」
「仁もそこまで暇じゃないだろ、挨拶が終わった後事務所に行って弁護士さんに会うって言ってたし今頃まだ飲んでんじゃないか」
「だといいんですけどね、帰って来るつもりかな」
「帰ってきても包丁振り回したりすんなよ」
「それ俺より仁に言ってください」
エレベーターで部屋のフロアまで上がりドアを開けると………信じられないものが目に入った
でかいブーツがキチンと頭を揃えて玄関マン真ん中に居座っている
「…………これ……」
「あれ?仁いるじゃん………粘るな」
粘るとか頑張るとか耐久性の話じゃない、明かりがついてないから無人だと思っていたら仁は遠慮も礼儀もなぎ倒して他人ひとのベッドで堂々と眠っていた
………しかも裸………どんな神経してるのか一度分解して見てみたい
「信じられない………何なんだこの人、どんだけ図太いんだよ……人ん家で勝手にベッドに寝るか?」
人生で人に疎まれた事なんかないんだろう、自由過ぎる仁の耳元でわざと大き目の音を立ててもピクリともしない
「…もう12時過ぎてる、お前明日も仕事だろ?………どこで寝る?」
「それは勿論仁を叩き起こして出て行ってもらいましょう」
「仁は起きないよ……睡眠時間は短いけど一度寝ると自分で起きるまで目を覚まさない」
「ベッドから引きずり下ろせば起きるでしょう」
「起きないよ、何をしても起きない、俺が仁の隣に寝るから悪いけどお前はソファに寝れば?」
「絶対ダメ!それくらいなら俺が仁の隣に寝ます」
「わかったよ、じゃあそうしよう……」
「は?」
いや!ちょっと待てそれはない!絶対にない!!
常識で考えてくれ、どこの世界に付き合う事を反対している恋人の父兄と仲良く一緒に寝る奴がいる、嫌いだとか男同士だとか全部横に置いといても変だろう
毛布を取りに行こうとする清宮は全く本気、どうなんだこの兄弟
「春人さん!ないから!そんな事するくらいなら俺は寝ません!………わっ!何!」
寝室に入って行こうとする背中から手をグッと掴むと清宮の腕がクルンと回り腕を獲られそうになった、それは定石通りの肘を固められた時の返し技だった
「危っぶな」
「ふっ………さすがに簡単じゃないな………」
使ってみたくて仕方がなかったのか………清宮は全くの素人のくせになんだか様になってる
「樹は何教えたんだよ!」
「手の内明かす馬鹿がどこにいる」
「何で一回齧ったくらいで覚えるんですか!」
「覚えたかどうかを今確かめてるんだろう、ほらも一回かかってこいよ、動けなくしてやる」
「素人のくせに生意気言うな!すぐに泣かしてやる」
互いに牽制してジリジリ間を取りながら組手かスパーリングのようになって来た
「うるせえな!!ドタバタと!暴れるんなら外でやれ!」
ちょいちょい手を出すうち、恒例の取っ組み合いになり寝技を繰り出そうと足をかけている途中でドスの効いた怒鳴り声に邪魔されて足を組んだままピタリと固まった
複雑に手足を絡めて寝転んでいる所にドアの中から見下されキス直前に踏み込まれた記憶が蘇って気不味い
ドカドカと部屋から出てきた仁は限界まで眉間に皺を刻み不機嫌をぶつけるように後手でドアを思いっきり閉めた
「あれ?起きたの……珍しいな」
「出かけるんだよ……………」
「今から?もう夜中だよ」
「うるさいとかよく言いますね、図々しいんです、静かなご自分の部屋でゆっくり寝たらいいでしょう」
「ああ?」
また濁点入りの返事………顔だけでも怖いのに仁の体から発するオーラは明らかに物理的な力を持っている
ひれ伏してしまいそうになる眼力を込めてギロッと目玉を動かした仁の顔が突然一点を見つめ、みるみる驚愕の表情に変えた
「ハル…………お前………」
「何?仁!痛いって」
「なんだこれは………」
清宮の襟首を引っ掴み、釣り上げた清宮の頭をぐっと押しのけて早速見つけてくれたのはわざと付けたキスマーク
「神崎………貴様………」
ギリッと歯を鳴らしてオーラの色を変えた仁の手がグッと固まった
殴るなり蹴るなりすればいい、あざ笑うかのように仁の鼻先で清宮を抱いたのだ、ある程度の覚悟はしていた
流血しようが骨が折れようがどんなに痛くてもどんな状況でも絶対に笑ってみせる
清宮をソファに投げ出して掴みかかって来るかと思ったら………
「うわ!何ですか!やめ!!うわあ!!」
高い上背から伸びてきた長い手に腕ごと巻き取とられ思いっきりブチュウッと首に吸い付かれた
「は……はな、離せっっ!!」
ぎゃあっと喚いて死にものぐるいで振り払いそれでも怖くてへたり込んだままドタドタと壁際まで後ずさった
「何をするんですか!何ですかその反応!違うだろ!変だろ!間違ってるだろ!」
「お前も同じ目に合わせてやったんだよ」
「普通に殴れよ!この変人!」
男に抱きつかれるのがこんなにも気色悪いとは思ってなかった、大体誰がこんな事をする
仁は男の中でも特別綺麗で女はもちろん、男をはべらせても抜群に似合うがそれでも鳥肌が立つほど気色悪かった
「お前の普通なんて知るか、目には目を歯には歯、キスにはキス」
「あんたやっぱり馬鹿だろ」
「大学は行ってないが俺とハルの出身高は偏差値65くらいだったと思うけど」
「誰が学歴の話してんだ!」
「神崎!!」
「ハルうるさい!何?!」
「さっきからピンポン鳴ってる」
「えっ?!」
ハッと気付くとインターフォンが頭の上で連続押しされてる
時間は………もう1時近い………
「誰だ!今頃!」
「わあ!仁!待って!」
ピンポンを鳴らしてる奴はおそらく上か下か両隣の住人、ドアからバトルテンションの仁が出てきたらどう出るか怖すぎる
「待てったら!俺が出る」
止めてもこんなでかい奴止められない、どんな豪勢な家に住んでるのか知らないが動くたびドカドカとうるさい足音を立てて勢いのままドアを開けた
「うるせえな!なんだ!」
「……………えっっ?!!……」
案の定ドアの外に立っていたのは前に文句を言いに来た階下の住人………、派手に文句を言ってやろうと身構えていた筈なのに目に写ったものが信じられないのだろう
憤りを隠していなかった顔は表情を無くして固まり文句を言いかけた口が閉じられなくなってる
そりゃ誰でもそうなる………こんな地味な場所でドアから出てきたのは仁………190の高い所に乗った小さな顔はポスターやテレビで見るより迫力がある
しかも鬼の形相で怒鳴りつけられたら言葉を失って当然……
「誰だお前」
「え?あの………すいませんが……夜も遅いので……もう少し静かに………」
「………ああそりゃ悪かったな」
仁はそれだけを言って鼻先でバタンとドアを閉めてしまった、ほぼ何も知らない他人の家の客に「お前誰だ」って、お前こそ誰だって話だ
「ちょっと!何してくれるんですか!管理会社に文句言われて追い出されたらどうするんです」
「ガタガタ言われたら出て行きゃいいだろ」
「そんな簡単に言うなよ、時間もないしあんたみたいに稼いでないからな」
がっと伸びてきた仁の手が喉をつかんだ
「俺の眼の前でハルにあんなもんつけやがって………いい度胸だな」
「褒めて頂いて恐縮ですが嬉しくない」
「いつ誰が褒めた!」
「2秒前に褒めただろが!」
喉にかかった手は躊躇するようにそこにあるだけで締まっては来ないが胸糞悪い、振り払って後ろに下がるとまたダンッと床が鳴った
外殻は違いすぎるけど仁の中身は清宮のバージョンアップと考えていい、今の所必死に抑えてはいるが本来こいつは絶対に手が早い
次に何かして来たらもう遠慮なくのしてやる
「春人さんから落ち着いて話を聞いていれば俺に手を出そうなんて思わなかっただろうにな、勝てると思うなよ」
「ハルと育ってんだから俺は結構強いぞ、お前こそ俺の必殺技聞いとくべきだったんじゃないか?」
「何が必殺技だ小学生か、遠慮なく殴れよ、あんたなんか怖くない、抱きつかれるより余程ましだ」
「………へえ?」
「あ…………」
しまった…………余計な事を言った
口から血を流すとかして不敵に笑ってやるつもりだったのに先にニヤリとされた
腕を捻って背中に回してやればいいだけなのにジリジリと間合を詰めてくる仁に足が勝手に逃げる
とうとう背中が壁について行き場がなくなった
「どうした、ヤリたいんだろ?」
「その言い方やめろ、気色悪い」
つんっと突付こうとする指を払い落とし、また寄ってくる指に噛み付いて食い千切っでやろうかと思った
「二人とも!いい加減にしろよアホらしい、いい大人が何やってんだよ」
「お前に言われたくない」
「春人さんに言われたくない」
揃ってしまった台詞にバッと目が合い、フンッと顔を背けたタイミングまで揃ってしまった
「今うるさいって文句言われたばっかりだろう、暴れるのはやめて腕相撲とかにしたら?」
「は?」
仁の手を握れと?この状況で?
耳を疑うあり得ない提案に、毒気を抜かれて呆けていると清宮はニヤニヤしながらドンっとテーブルの天板を叩いた
「俺は強いからな………」
「はあ?!」
仁はすっかりやる気でテーブルの前にやれやれと座ってニョキリと腕を出した
どういう神経構造をしているんだ、状況が特殊過ぎて何が正しいのかわからなくなってるがとにかく仁と仲良く腕相撲なんて出来る訳ない
「嫌です」
「負けるのが怖いか?逃げるんならそれでもいいけどな………」
「………………怖いわけ無いだろ、そんなふざけた事したくないだけだ」
「じゃあ俺の勝ちでいいな」
「……………………俺も…………強いぞ」
「じゃあ俺審判ね、仁、言っとくけど神崎は本当に強いからな」
清宮はニコニコしながら渋々出した腕を仁の手と合わせてグっと固めた
冷たいと思い込んでいた仁の手は暖かくて意外とゴツい
「俺は売ってるイメージがあるから派手な筋肉はつけられないが細いと思って舐めんなよ、上腕は太い方が色気出るからな」
羽織っただけのシャツからわざとらしく袖を捲り、顕になった仁の腕は筋が浮いて………確かに色気満々……
「あんたこそ舐めんな、俺は握力には自信があるんです」
ビジュアルで勝てる相手じゃないが勝負に負ける気はない、対抗して袖を捲った
「腕相撲は握力じゃないだろ」
「ほざいてろ、負けて泣け」
「口喧嘩はもういいだろ、いいか?離すぞ、レディ………」
清宮の手が離れるとガッと二人の腕の筋が盛り上がった
「仁………出かけるって言ってたけど時間いいの?」
「ああ?…………あっっ!!」
3戦した所で、腕に溜まった乳酸を散らしながら睨み合っていると清宮に携帯を見せられて仁が飛び上がった
腕相撲の勝負は力が拮抗して真ん中で止まり、3回ともお互い力尽きる頃に清宮の待ったがかかった
「命拾いしたな」
「お前が俺に勝てる日なんて永遠に来ないさ」
「仁、こんな時間からどこ行くの?オフだって言ってなかった?」
「3時出発で日の出をバックに海で撮影!電報堂の樋口に押し込まれたんだよ」
「海で?春物か夏物の撮影だったら楽しそうだな」
「うるせえ、新年用だ」
バタバタと風呂場に飛び込んでシャワーを浴びただけで鞄ごと持っていけばいいのに財布から出した札をナマのままポケットに押し込み手ブラで部屋を飛び出ていった
寝起きの姿から出て行く用意は5分……どうせスタッフが全部やってくれるから最悪パンツ一丁で行っても困らないのだろうが、さすが清宮の兄貴………殆ど拭いてない濡れた髪から滴った水滴が玄関まで点々と続いていた
「お前さ、仁と仲良しだな」
「どんな見え方してるんです、そんなわけ無いでしょう」
「仁ってさ普段はもっと静かなんだよ、なんかはしゃいでる、気が合うんじゃないか?」
それは違うと思う………清宮には言わないけど…………違う
「神崎………寝よ、もう遅い、仕事に行けなくなるぞ」
「………そうです………ね……」
テーブルを挟んで対峙した時に一瞬仁が見せた苦虫を噛み潰したような表情……
腕相撲は………多分………手加減されていた
キスマークを付ける逆襲なんてやってる事は変だが必死で自分を抑え誤魔化していた仁はやっぱり大人………
「そこまでするなら負けとけばいいのに……」
「何?」
「なんでもないです、疲れたでしょう、おやすみなさい」
絶対に仁は帰ってこない、安心して眠れるベッドに潜り込み、もう朦朧としている清宮の背中に顔を埋めて大好きな匂いに包まれると長過ぎた一日はすぐに暗い闇の中に消えていった
その日から仁とは顔を合わさずにすんでる
しかし本格的に居座る気なのか荷物はしっかり残ったままで……なんか増えてる
靴は2足、つまり履いて出ている分と合わせると3足、いつの間にかクローゼットに知らないコートやシャツも増え……風呂場がピカピカになってたり冷蔵庫もやたら豪華で夕食が出来てたりする
昼間ここで仕事をしている清宮と二人でいるなんて前なら耐えられなかったが仁の清宮に対する感情は度が過ぎて常軌を逸しているものの身内への愛情だと理解してしまった
どこに行っていつ帰ると言い残して行くのも夜眠れるようにと考えてるからだと思う
清宮はせっせとバレンタイン関係の仕事を熟し発注前なのに思いつく各種媒体を殆ど仕上げてしまっていた
「春人さん…助かるけどせっかく休みなのに勿体無いですよ」
「やる事ないからいいよ」
「今日はデザイン部の仕事納めでもうあんまりないですよ」
「別にいいよ、仁がうどん作ってくれてるから食べるだろ?」
「え………いや……」
既にもう何回か仁の作ったご飯を食べてはいるが素直に「はい」とは言いたくない、出汁を暖めてうどんを作ってくれた清宮からしぶしぶと丼を受け取った
「何で朝からうどんなんですかね」
「起きてすぐにご飯もパンも食べんの嫌だって俺が言ったからかな」
「じゃあ何でこんなに短いんですか」
箸で摘むとどいつもこいつも短くてひょいと持ち上がる
「ちっちゃい頃喉に詰めたんだよ、こう半分飲み込んだけど切れなくて……でも吐き出すことも出来なくなって暴れたんだ、それからずっとうちのうどんは短い」
………つまり清宮の朝食は仁が作っていたと………
二人の関係性は聞けば聞くほど深くてちょっとだけ開いた隙間から無理矢理手を突っ込んで必死にぶら下がっているのがいまの現状………
清宮にはそれがまるでわかってない
負け犬と罵られているような短いうどんを無理矢理胃に詰め込んで、コーヒーを飲んでいると清宮がケースに入った服をクローゼットから出して来た
「何?それ………どこかに行くんですか?」
「うん、多分この仕事が最後だと思うけどスラッシュの会社で株主のパーティに顔出さなきゃならない」
「またあの格好?」
「多分な……仁の事務所に寄って美容院行くってさ」
「俺は今日会社の打ち上げなんです、春人さんも来てくれたらと思ってたんですけど…無理そうですか?」
美咲と山内が帰省する為休暇に入るので飲みに行く事になっていた、デザイン部全員に課長まで顔を出すと言われれば断れないので清宮も巻き込んでしまおうと思っていた
「連絡くれよ、行けたら行くから」
「ちゃんと携帯見て下さいよ」
「多分な」
ニヤッと笑って携帯をヒラヒラさせた携帯の画面は電池の残量がもう残り少ないと言っている
「充電してしといて下さいね」
了解と背中で聞いて出社した
「神崎さん、みんな先に行ってますよ」
暇な時期恒例のクリアファイルの回収と簡単な掃除を終え、先に出て行った美咲達の所から山内が戻ってきて早く早くと手を振った
何もする事がなく丸一日暇だったくせに帰る直前で売り場に呼ばれて顔を出さなくてはならず一人遅れていた
「俺は2階に呼ばれてるんだ先に行っといてくれないか?」
「そうなんですか?何だろ今頃やだな、手がいるんなら俺も残りましょうか?」
「いや、大丈夫、春人さんにも転送するから店の場所携帯に送っといてくれ、待たなくていいから先に始めといて」
「わかりました急いで下さいね」
「無理な事言われたら無視するからすぐ行く」
了解と山内が部屋からいなくなると急に部屋が静まり広く感じた
いつも乱雑に積み上がった書類も綺麗に片付き、照明が半分消えたガランとしたデザイン部には年末感が漂っていた
いつも面倒だったクリスマスは気付かないまま過ぎ去り、先に先にと季節が早取りされて激しく時節がズレているが年末だけは実感する
ピロンと携帯が震えた
「山内からだな………」
送られてきた店は行った事のない中華の店で地図のスクリーンショットが添付されていた
すぐに清宮に転送したがまだ手が離せないのか既読が付かない
気付いていない可能性もあるが見てない可能性はもっとある
「10個くらいスタンプ入れとけば気付くかな……」
ラインに迷惑攻撃を仕掛けてもう一度デザイン部を見回すと………尋常じゃなかった怒涛の一年が蘇り胸がギュっと締め付けられた
年の初めに清宮を見つけてから無理矢理転職して今ここにいる
色々変な注釈はついていたが一緒に居ようと言ってくれた
手に入れたと言っていいんだろうか………
あの人を…………
「春人さん……俺と一緒にいてくれますよね」
ずっと……ずっと先まで……
ここにはもういないが部屋に帰ればいつでもあの綺麗で乱暴でちょっと抜けてるくせに生意気な笑顔に会える
呼び出しの内線が鳴り出したが内容はわかってる
電話は取らずに部屋を出た
「神崎さん!ここです!」
打ち上げの為に山内が選んだ店はオープンテラスの中に無数に立っている柱で支えられた巨大なテントで覆われ入り口は店の前全部、主だった照明はあちこちに吊り下がったランタンだけでエキゾチックな異国の屋台のようなイメージだった
店の前についた途端美咲に呼ばれてざわついた店内に入ると上手く空調されて寒くない
店の雰囲気は抜群なのにテラス前の歩道ではこんな時期なのに煩わしい工事が行われていた、強烈なハロゲンライトが作った無粋な濃い影は店の中まで足を伸ばしせっかくの夜に水をさしていた
「おい山内、ここってドアがないんだな……食い逃げ出来そう」
「おしゃれでしょう?この秋にオープンしたばっかりで中華って言っても多国籍に近いメニューみたいです、早く座ってください、乾杯しますよ」
「うん………」
雰囲気はいいが店の中は仕切りがなく忘年会客でほぼ満員だった
あのスラッシュのビルボードはまだ駅前にそびえ立ちこの店の客全員が毎日目にしていると言っていい、もし清宮がここに来たら目立ってしまうかもしれない
「神崎さん!何してるんですか、乾杯しますよ、早く飲み物持って!ビールですか?紹興酒ですか?」
「え?ああビールでいいけど」
「よっしゃ!中山!ビール1丁!」
「はい!」
仕事中でも外でも美咲と中山はデザイン部のムードメーカーで清宮に注意喚起の連絡をしようか迷っているとビールジョッキを手に押し付けられてもう既にほろ酔いのペースに巻き込まれた
「あーそれでは全員が揃いました所で僭越ですが……あー……今年は信じられないくらいショックな事が………」
「僭越だよ!!」
美咲が立って挨拶しようとすると南と宮川からおしぼりが投げつけられた
「かんぱ~い!!」
「お疲れ様でした~」
それぞれの席でグラスが合わさり口々に頑張った一年を振り返って笑顔が弾けて飛んだ
「神崎さん」
山内が最初に座っていた席を離れガタガタと椅子を運んできた
「お疲れ様でした」
まだ一年も経ってないのに色々あり過ぎてもう何年も一緒に戦ってきた戦友のように感じる、チョンッとジョッキを合わせ笑いあった
多分清宮の不在で山内が一番成長したかもしれない
「山内は一番頑張ったな」
「神崎さんがいてくれたから乗り切れたんですよ」
「迷惑も一杯かけたけどな…」
「うん、大変でした」
自覚はあるがはっきりと言われると笑うしかない、ぐっとジョッキを煽って料理を手に取ると………いつの間にこんなにメジャーになったんだ、焼いた鶏の上にパクチーが散っている
「なんでこう何にでもこいつが登場する…………」
「何がですか?」
「なんでもない」
山内は平気で食べてる、みんなで食べている場で好き嫌いを主張するのは失礼だし食べ物が不味くなる
こっそり除去していると店の中がザワっとどよめき入り口の方が騒がしくなった
「あっ!!!」
「え?……あ……あれは………清宮………さん?」
ザワザワと沸き立ち覗き込んだ客で狭くなった通路を割って清宮が店に入って来た
顔には例のアンドロイドメイクが施され、また見たことが無い新しい細身のコートを着ている
しかも最悪………仁を背負ってる
このツーショットでは目立つなという方が無理だ
ギャラリーも背負ってる
「もう!春人さん!何で仁まで連れてきてるんですか」
「ついて来るって言うからさ……別にいいだろ」
「いいわけ無いでしょう、ほらみんな固まってる」
「大丈夫だよ、仁は何でも上手いから」
「でも………」
範囲は限定的だが知ってる仁は、一言も喋らず飲み続ける姿と意地の悪い変人っぷりだけ
デザイン部ではMacの画面で散々見ているが会ったことがない本物の仁に気圧されて話す事も食べる事も忘れて呆けていた
「こんばんは、お邪魔してもいいですか?」
「ひゃあ!どどどうぞ……どうぞお座り下さい」
漫画みたいに慌てた山内が席を進めると仁はドカリと座の中心に座り込んでしまった
上手くやるかどうかなんて知らないが、そりゃ仁が仮面を被って愛想よく微笑めば思いのままにならない事なんてこの世にないだろう
「大丈夫なんですか?そんな格好で仁とツーショットなんて危ないでしょう」
「大丈夫だよ誰にも何も言われないし」
声もかけられなかったと清宮は笑っているが仁と清宮が広告のイメージそのまま、二人揃って一緒にいるとどこかにカメラでも潜んでいそうで誰も話しかけられなかっただけだろう
店の外には道の途中で掻き集めた大量のギャラリーが溜まって人が人を呼んでいる
「店の中までは入って来ないみたいだけど危ないから外から見えない席に座りましょう」
「大丈夫だとは思うけどな」
全然大丈夫じゃない、選りにも選ってドアも入口もない店で仁がピカピカ光って撒き餌をしてる
「ハル!お前はこっち!」
「わっ」
奥の席に座ろうとした清宮は仁に引っ張られてドッと座ったのは膝の上………
きゃあっとギャラリーから妙な悲鳴があがり元々見られていたが店中の客余すことなくほぼ全員から遠慮のない注目を浴びた
「何か怖い………みんな見てる」
「おお………ここまであからさまに注目を集めるのは初めてだ……気持ちいいぞ」
「宮川さんを見てるんじゃないですけどね」
美咲と宮川がニーッと笑い合ってボトルで注文した紹興酒をビールの残ったジョッキにドボドボ注いで押し付けあってる……まだ飲み会が始まって30分も経って無いのにもうベロベロ
清宮もさっさと椅子に座ればいいのに仁の膝に乗ったままお箸を持って海老の殻を剥き始めた
「ハル、ついでだからサービスしておこう………」
「サービスって何、オレは今指がベトベトで……」
仁がチラっとわざとらしい視線を投げて寄越し嫌な予感はしたが……綺麗なウィンクをギャラリーに惜しげもなく投げ付けてチュッと清宮の首に唇を押し付けた
「あっ馬鹿………」
きゃあ~っと会話を遮る大きな悲鳴がギャラリーから上がり膨れた混乱に乗って写真を撮ろうと前のめりになった何人かがどどっと店内に押し出された
バリケードになっていた数人の店員が慌てて押し返し、応援に駆けつけたのはおそらく厨房からフロアからもう店の関係者全員
「うわ凄え……清宮さんはもう有名人なんですね」
「俺じゃない、仁が悪い」
店員が慌てて何処かから調達して来た衝立を、運ぶ手伝いをしようとする清宮には何の自覚もない
「仁!他の人から見えなくなったしビール飲んでいいよな?」
「見えてても飲みたかったら飲めばいい、余程じゃないと何も言われないから好きにしろ」
「仁さんは何をお飲みになりますか?」
「仁でいいよ………」
中山と南は普段から清宮が好きだとかマッチョじゃないと男じゃないとか言ってるくせに仁がちょっと笑っただけでぽわ~んと頬を染めて砕けかかってる
ハッと気付くと男も全員蕩けてる
「何仮面被ってるんですか、ここにあんたのクライアントはいませんよ、本性見せたらどうです」
「こっちが本当でお前が見間違ってるんだよ」
「嘘つけあんたの本性全部バラすぞ」
「こっちも言っていいんなら色々言うぞ」
「黙れ変人」
「ヘタレ、ビールがないぞ」
「ああ!はい!すいません!どうぞ!これ!」
本性を出せと神崎が言ったが仁が普通に(?)話し始めると確かにエグゼクティブで上品で人形のようなイメージでは無くタフなお兄ちゃんに見えてきた
仁がビールと一言言っただけで殆ど全員がジョッキを差し出し仁の前にズラリと並んだが飲むのかと思えば空になった神崎のジョッキに口喧嘩しながらもドボドボお酌している
「山内、俺にもビールくれよ」
「はい……あの……清宮さん………神崎さんと仁さんって………」
「うん、仲良しだろ」
「仲良しかどうかはわかりませんが……」
神崎と仁の間が、おそらく簡単に想像がつく理由で険悪になっている事は知っているが飛び散ってる火花は触っても熱く無さそう
ただその火花が見えてない清宮に問題がある事だけは分かった
「止めた方がいいかな………」
「いいよ、放っておけば、いつもああやって戯れてるんだ、それよりちょっとビール持ってて」
「え?はい」
「みんな、飲んでる所で悪いけど聞いてくれ」
みんなが酔ってしまう前にと思ったのだろう、清宮が立ち上がって年末一杯で退職届けを出した事をみんなに告げた
「今までお世話になりました、突然で本当にごめん」
「お……お……お疲れ様でした!!」
きっちり頭を下げた清宮に向かって美咲がビックリするような大声でグラスを上げ、全員が次々と立ち上がった
口々にお礼の言葉が飛び交い、美咲はまた涙を流して隠そうともしなかった
「清宮さん、私……本気だったんですけど……」
セリフの割にさらっと天気の話でもするように中山が切り出した、神崎は相変わらず宮川と談笑する仁の側で憎まれ口を叩きながらもなんだかんだで一緒に飲んでる
俯瞰で眺めると、仁、宮川、神崎のスリーショットは全員イケメンで南もくっついて離れない(確かにいたはずの課長と山田はいつの間にか消えてる)
………結果的に山内、美咲、中山が余って清宮の周りに集まって飲んでいた
「本気って何が?」
「何がって……私は何回も告白してるんですけど…好きですって……」
「またふざけて、そんなに酔ってるのか?」
「清宮さん!最後までそれですか…ああ虚しい…………もう盗られちゃったからいいですけど」
「撮られた?何を?写真?」
「惚けなくていいですよ、神崎さんとラブラブなんでしょう?」
「ラブラブって何?………」
「ここ!ここですよ!!何お揃いでつけてるんですか」
中山が本気で清宮を好きだった事は全員が知っていた、さっぱり過ぎる中山も悪いが清宮に全然通じていない事もわかってる
おそらく最後になる告白を邪魔しては可哀そうだと黙って聞いていたが美咲が堪らずに割り込んだ
「へ?」
「神崎さんも首にでっかいのついてるし清宮さんも…………」
「ああ、キスマーク?」
「そんな事も無げに………」
自分で言い出した事なのにあっけらかんと笑われて恥ずかしくなって来た
「神崎のは仁が付けたんだよ」
「ええ?!」
「どどどんな状況ですか!」
「ふざけただけだよ」
「ふざけてキスマーク付けるって……芸能界怖い…」
「羨ましいな………」
中山が泣きそうな声で言ってるのに清宮は頼めばやってくれるよって暢気に笑った
本当に中山が気の毒…………
「おい、神崎ハルを見んなよ」
「見てません、もし見てたとしても俺の自由でしょう、あんたにそんな事強要される覚えはない」
「まあまあ神崎、そんな喧嘩腰で何いきり立ってんの、楽しく飲もうぜ」
「宮川さんは仁と飲んでればいいでしょう、俺はこの人苦手なんであっちに混ざります」
「駄目」
「は?」
席を立ちかけると仁がボソッと低い声で呟いて服の裾を引っ張った
「お前はここにいろ」
「なんであんたにそんな事言われなきゃならないんだよ、部外者だろ」
「部外者に見えてお前に見えないんならお前はやっぱり餓鬼だ」
仁に餓鬼だと言われるのはパクチーよりも嫌いだ
だけど言葉に拘束力を持つ仁に言われると腹が立つけど何となく逆らえない
「何でですか、俺と飲んでも楽しくないでしょう」
「お前は帰ったら会えるだろう、今の所だがな……」
「……………ずっとです」
ピッチャーからビールを調子よく飲み続けている清宮が気になったが仁に言われてハッとした
もしかすると美咲達は清宮と会えるのは今日が最後になるかもしれない、少なくとも会えて年に一度か二度、その後それぞれの道が決まればきっと足が遠いてしまう
「飲み過ぎなんじゃないかと気になっただけです、別に………独占したいとかじゃない」
「ありがとうだろ糞ガキ、自分の無神経に気付いてなかったくせに」
悔しい………無神経って言われるとその通りで何も言い返せずに座り直した
美咲は特別だとしてもみんながどんなに清宮を慕っているかはよく分かっているつもりだった
「それにしてもお前も清宮清宮って……こっちが照れるわ、お前清宮を追っかけてうちに来たんだろ?」
「え?それはどういうことですか?」
「あれ?仁さんは知らなかったんですか?、こいつ天下の電報堂にいたくせにあちこちに頼みまくってわざわざグレードも給料も低いうちに転職してきたんですよ」
「……ふうん………」
「宮川さん………やめて……」
「でもな……何か良かったよ、清宮はよく笑うようになった、あいつはずっと余裕がなくてあんまり表情がなかったんだ、神崎が助けになっんだと思う、びっくりするぐらいここ半年で変わった」
「………そうですね………」
ずっと黙って聞いていた南が懐かしむようにクスッと口の中で笑った
真面目に言われても恥ずかしい、清宮が変わったかどうかは分からないが自分は変わったとは思う
一緒にいてもいいのだと言ってもらえたような気がして腹の中がくすぐったくなった
「仁さんの言いたい事は物凄くわかりますけど暫く放っておいてやってもいいんじゃないですか?そのうちなるようになりますよ」
「……………すいません、俺はそろそろ失礼します」
「帰るんですか?」
「仕事があるんです」
吸っていたタバコを灰皿に押し付けて仁が腰を上げた
仁も都合が悪くなると逃げ出す癖がある
「うお………でけえな………」
立ち上がった仁を見て宮川が感嘆の声を上げたと同時に衝立より背の高い仁の頭が飛び出し店の中からもまた歓声が上がった
「ハル!俺は先に帰るから飲みすぎるなよ」
「え?俺に言ってる?何?どこ行くの?」
「榊さんと約束してるんだよ」
「榊さん?じゃあ朝まで帰って来ないね」
「かもな……ハルお前はちゃんと帰れよ」
酔っ払ってヘラヘラ笑ってる清宮の頭にこれみよがしにブチュっとキスをした仁を睨んでいると椅子がガタンと揺れた
「蹴んなよ」
「お前も飲みすぎんなよ」
「俺はあんたの弟でも餓鬼でもない」
蹴り返してやろうと足を出すと予想していたようにヒョイと避けてギャラリーを割って店を出て行った
「あ……しまった…………」
仁の座っていた席の皿の下から挟んであった札束を見つけた山内が困った顔をした
「いやだ………かっこいい…………」
「うん………俺もああなりたい……」
「お前らな!俺もよく払ってるだろう!あんな別格目指してないでまず俺を目差せ!」
「スペックが違い過ぎていくら宮川さんでも相手になってません」
「ちくしょう!あれには勝てねえよ」
「グレードとステージが違いすぎます」
仁がいなくなっていつもの調子を秒で取り戻した南の冷静な言葉にどっと笑いが起きた
「清宮さん、後でお兄さんに返してもらっていいですか?いくらなんでも多いし」
「いいよ、山内…、仁はお金はどうでもいい奴だから余ったらプールしとけ」
「でも……」
「モラっとけったらモラっとけ!みんな!次の宴会もただで飲めるぞ」
「清宮さん!誘いますから来てくださいね、山内!もらっとこう」
「もう!清宮さんも美咲も無責任なんだから」
話にならない酔っ払い相手に困り果てた山内がまだ追いつけるんじゃないないかと店の外を見に行った
やることなす事全部ムカつく
仁は殆ど飲み食いはせずサービスでいたようなものだと思う、別に量の話じゃないが反対にお金を払ってもいいくらいのゲストだった事は間違いない………何やらしても確かにかっこいい
「駄目でした、多分タクシーに乗ったみたい、清宮さんお願いできませんか?」
「いいって、言っとくけど俺は預からないからな、俺に渡すと俺のもんになっちゃうぞ、仁が受け取るわけないからな」
差し出された山内の手を押し返し清宮は薄っぺらいコートを手に取って立ち上がった
「あれ?清宮さん………帰るんですか?」
「うん、みんなごゆっくり」
「春人さん?!帰るんなら俺も帰ります」
「お前は残らなきゃダメだよ、チームの打ち上げなんだから」
「いいですよ、俺達はいつでも飲みに行けるし」
「ダメ、じゃあな、みんな良いお年を」
「春人さん!一人は駄目だって!酔ってるでしょう」
ガツンっと衝立を蹴って横に避けさっさと出て行こうとする清宮の肩に手をかけるとクルンと振り返って………
この見下すような誘う目つき………自覚が無くても逆らえないのにそのつもりでこんな風に見つめられると金縛りにかかったみたいに動けなくなる……………
斜めに傾けて迫ってきた清宮がくれたものはポカンと隙間を作った唇から覗く、艶かしい赤い先っちょが先に忍び込んでくるディープキス
「待ってるから………」
「…ハル…………ん…」
………後頭部に回った清宮の手が髪を混ぜて引き寄せられ、差し出された舌が口の中を混ぜ返して唇が離れても名残を惜しむように絡んだ舌が引かれて宙に浮いた
「俺は先に帰って………待っているから……飲み会も仕事だ、ちゃんとしろ」
「春人さん………」
同じ事を言われたのは二回目……
「あ………そうだ………これあげる」
「え?何ですか?これ」
コートのポケットに手を突っ込んでそこにある事に気付いた清宮が手渡してきたのは角の丸くなった青いガラスの破片だった
「パンツのポケットに入ってたってクリーニング屋が取っといてくれたんだって」
「あの時の?…………」
「うん、月のカケラ」
「本当だ……青い…」
「じゃあな」
酔って目が潤んでるにも拘らずやけにしっかりした声で最後のボスをやり切った清宮はニッコリ綺麗に笑い、タンっと身軽にステップしてから出口に溜まったギャラリーに走って突っ込んだ
わっと割れた人垣の下を身を低くしてすり抜け………
工事現場から照らすハロゲンライトが清宮の姿を吸い込んで行った
まるで光の中に消えて行ってしまったかのようで……………いやに後ろ髪を引かれた
キスのせいか散々仁と喧嘩したせいか、愛しさが苦しいくらいに込み上がりやはり帰ろうと振り返ると……………
そうだ…………しまった………
同僚を含む公衆の面前で劇場型のキス………物凄い視線と息を飲む声が痛い………呆気に取られたみんなの口がぽっかり開いていた
「え………と……あの俺……帰……」
「神崎…………今日は帰れると思うなよ」
「そうですよ!覚悟してください」
宮川にゲンコツでグリグリ頭を挟まれ美咲にぶらさがられて強制的に席に連行され、そのまま転々と店を変え朝方まで付き合う羽目になってしまった
まだ真っ暗だったがライトを灯した職業車がもう走り回っている
始発電車の中は年末だと言うのに仕事に向かうのか帰るのか………結構人が多い
大晦日までは実家が近い山田と二人だけになる仕事は休むわけにはいかずそれなりにセーブしたつもりだったが長時間飲み続けた結果、まだ暗い景色がグルグル回って多分真っ直ぐ歩いてない
「1回寝たらおしまいだな………」
会社の近くで仮眠して仕事に行ってもよかったが服は溢れたお酒でドロドロ、髪はグシャグシャ、いつの間にか靴下も履いてない
一度部屋に帰ってシャワーを浴びたり歯を磨いたり……とにかく動いてないと止まったら立てなくなる
会社に行きさえすれば後は寝ても用があれば誰かが叩き起こしてくれる
?…………
始発が動いていると言ってもまだ真っ暗な早朝なのに部屋の前に誰かいる、しかも二人………
どこかの訪問客にしては変で足を止めると向こうが気付き近づいてきたのは……
制服を着た警察官だった
「こちらの部屋にお住まいの方ですか?」
「え?……………はい……そうですけど……」
「お名前は?」
「神崎です……神崎司………」
「ふうん………今頃お帰りで?」
「はあ……飲んでまして」
何も身に覚えは無いのに警察官にこんな風に話しかけられると落ち着かなくなる、身分証の提示を求められると全くの無関係では無い事がわかり嫌な予感にザワッと不安が込み上がってきた
「実は新聞配達の方から通報がありまして……お宅の部屋の前で……」
「!!!」
どうして清宮を一人で帰らせた
酔っているのはわかっていた、酔えばどうなるかも何回も見てわかっていた
わかっていたのに!
走る足が空回りをして前に進まない、まだ胃の中に残るアルコールは血管に容赦なく酔いを運び続け月面で足掻いているようだ
「っ!!…う……ぐっ……」
せり上がってきた吐き気はちょっとの間も待ってくれず道端の植え込みで胃を空にしてしまった
水でも飲んで頭をはっきりさせたいがそんな事は全部後だ
道路を通りかかった出勤途中のタクシーに立ち塞がって有無を言わせずドアを開けて飛び込んだ
「大学病院まで急いでください」
「お客さん!まだ………」
「早くっっ!!」
酔っているのは誰の目から見ても明らかで迷惑そうな顔をした運転手は吐かないで下さいよ、とブチブチ言いながらもメーターを立ててくれた
病院までは10分足らず、敷地に滑り込んだタクシーから一万円札を投げ出してまだ停車する前に飛び降りたが正面玄関は鍵がかかって締め切られている
「お客さん!こんな時間外の出入り口は建物の横ですよ!」
「どこ?!」
「あっち!!」
尋常じゃない様子に気持ちを汲んでくれたタクシーの運転手は窓を開けて腕で出入り口を教えてくれた
「すいませんでした!」
アルコールで膨れた胃が空になったせいで幾分マシになり「救急.時間外窓口」と書かれた二重のドアから明るい通路に飛び込むと入ってすぐの長椅子に仁が座ったまま身を伏せていた
「仁!!」
「神崎…………」
「ごめん!俺のせいだ!ごめん!!春人さんは?肺炎?!意識が無いんだろ?」
「………………」
いつも動作が大きく乱雑なくせにやけに力なくのっそり体を起こした仁の顔は色を無くして真っ白になっていた
「仁!!ハルはどこ?!具合いはどうなんだ!!」
意識朦朧になっていても病院を拒否した清宮がここに大人しくいるなんて余程の事、ぐっと口を閉じた仁の説明を聞くより会いに行ったほうが早い
どこだ、診察室?病室?背にしていた扉には処置室と書いてある
「ここ?!春人さん?!」
「待てっ!!待て待て!神崎!駄目だ」
両開きの扉に手が届く前に飛び付いてきた仁がグッと身体を締めて引き戻されそうになった
「離せよ仁!」
「今は駄目だ!会わないほうがいい」
「離っ………せっっ!!」
どうせ一回殴ってやろうと思ってた
膝を緩めて仁の体を背負い床に叩きつけた
「話は後だ、そこで寝てろ!」
「神崎!!やめろ!!」
仁の声を背中で聞いて両方に開閉する二枚扉の処置室に飛び込むと………
そこに清宮はいた
「春人………さん?」
処置台の上に膝を抱えて座り込み丸くなってる
………部屋の中でもよく見るポーズ
眠っているのか目を閉じて赤い唇が薄く微笑んでいる
点滴一つ見当たらず治療している様子はない
「春人さん?眠ってるんですか?……」
頬に触れるとカチリと冷たくて……硬い………
「ハル?……」
「神崎…………ここにいちゃ駄目だ………出よう……」
「仁………春人さんを風呂に入れなきゃ……冷たい………なんで誰も何もしてないんだよ………ここは病院だろう?早くしなくちゃ………みんな何してんだよ、俺医者を探してくる……」
「いいから来い……」
「仁!…………だから……」
「…………まだ暫くは硬直が解けない………」
腕を掴む仁の指がグッと肌に食い込み
………震えてる
何の事だ?
清宮の唇は綺麗な赤い色をしている、顔色も普段と変わりない………
変なのは冷たい頬だけだ
苦しそうに顔を歪めた仁と目が合わない
どうしてこんな所に一人で放っておくのかもわからない
「俺………やっぱり医者を……」
「神崎………」
「変だろ病院もあんたも……みんな……」
「神崎!」
「っ!!」
グイっと顎を取られ仁の唇が押し付けられた、噛み付くように深く重なった口の中で歯を割って喉の奥まで舌を突っ込まれむせ返った
「な……何をするですか!こんな所で!ふざけるな」
「これから数日……長くなる……………お前昨日寝てないんだろう………今は薬を飲んで暫く寝てろ」
「薬?」
「今飲んだろう」
「なんでそんなもん………」
喉に張り付いていた何かはむせ出た咳と一緒に飲み込んでしまった
「寝てなんかいられない、俺のせいだ、春人さんが起きるのを待って………ちゃんとしなきゃ……」
「お前のせいじゃない………」
「俺の………せいだ………」
「……お前のせいじゃない…………」
そっと仁に誘われて座った長椅子は合皮が冷たい
救急の廊下には清宮の両親もいた
仁によく似た綺麗な母親と背の高い……多分父親だろう……肩を抱き合い二人ともうつむいている
「いい子だ…………」
仁の腕が頭を抱いて耳元で囁かれる優しい声……
どういう事か全くわからなかった
ひっきりなしに音を立てる携帯は無視するないがつもりも出るつもりもない、充電ケーブルに繋げだまま着信がある度光る画面をただ見ていた
いつからそこに座っていたのかもう随分長い間動いてない
病院の簡易ベッドで目を覚ました所までは覚えているがその後どうしたのか二、三日分の記憶がない
触らなくても目に入ってくる携帯のお節介なダイジェストウインドウは気持ち悪い報告を刻々と刻む
そんな筈はない……
どこかにいるに決まっている
そのうちにひょっこり帰ってきてあのいたずらっぽい顔で笑うだろう
「なんでそんな顔してるんだよ」
……こっちの気も知らず呑気にそう言って……
早朝にマンションを訪れた新聞配達員はロビーのポストではなく直接部屋まで運ばなければならない面倒な客の為にエレベーターで上がってきていた
気の毒な新聞配達はドアの前に座り込む清宮をメイクのせいで本当に人形だと思った……と警察に話した
酔っ払ったまま部屋に帰り着いたが鍵がなかった
ドアの前に座り込んでそのまま待つつもりだったのかちょっと休もうとしたのか眠ってしまった……
氷点下の凍った空気は……全ての体温を貪欲に奪い去り……
凍死だった
鍵は
部屋の前に投げ捨てて来た鞄の中に一つ
……仁に一つ…………
携帯の画面が何回も何回も同じ文言が繰り返し入って知ってしまった時間と場所………
会場に近づいては駄目だ
絶対駄目だ………
時間は深夜の3時だった
実家に近いセレモニーホールの正面玄関は施錠されていたが側面のドアだけカチリと爪が外れた
数件の祭壇が花を飾りそれぞれの思い出が額に入って笑いかけている、疲れた顔をした老婦人が一人ロビーに座ってうつうつしていた
[清宮家]
筆文字で書かれた看板には何の演出もない簡素な矢印がその場所を教えてくれる
ポツポツ灯る灯篭や蝋燭がチラチラ揺れるだけで暗く他に人気ひとけはない
ドクドクと速度を増していく心臓の音以外何も聞こえず、ふらりと足を出すと鋭利な靴音がコツンと響いた
「………神崎?……………来たのか…………」
誰もいないと思っていた祭壇の隅にあった黒い塊がムックリ起き上がりギクリと足を止めた
なんで仁がいる………
会っては駄目だ、話しては駄目だ
全部が現実になってしまう
出口はすぐそこ……早くここから出た方がいい
「神崎!待て………待てよ……」
ガツッと肩を掴んだ仁に抗う力が出ない
仁が怖い
全身黒に包まれたその美しい姿はまるで悪魔か死神に見える、指先は凍りそうな程冷たいのに冷や汗が吹き出して体が熱い
「逃げるな………ハルに……会ってやってくれ……」
「駄目です……俺は………違う……こんなの違う」
「ハルは……ずっと待ってたんだぞ」
「でも……」
叱れない悪戯をやんわり諭すように優しく微笑んだ仁に肩を抱かれカクカクと足だけが動いて行きたくないのに傀儡のように前に進んだ
ゆらゆらと揺れる極彩色の走馬灯が人のいない寂しい遊園地のようにそこだけはしゃいで辺りを照らしている
芳しい香りを漂わせて白い百合の花が咲き誇る祭壇からちょっと幼い清宮が笑いかけていた
「親父が撮った写真を使いたくてな……まだ大学に行ってた頃なんだ……」
仁は笑ったつもりなのかもしれないがプロのくせにくしゃりと歪んだだけで全く笑えていなかった
「ハルはそこに眠ってる………」
「ま……だ?………」
祭壇の前に置かれた棺は半分位口を開け花に埋もれて清宮が横たわっていた、あの日清宮が顔に乗せていたきついメイクは綺麗に落とされ唇や頬にほんのりピンクが入っているが蝋人形のように真っ白でまるで本物とは思えない
心臓が早鐘のように鳴り響き腹の底から不穏な重い塊が全身に溢れてきてそれ以上は進めなかった
「ちゃんと………お別れしてやってくれ……触れても……もう固くないから………」
「違う………」
こんなの違う………
ジリジリと足が下がり壁のように立ち塞がった仁の胸に背中が当たり肩に乗った手が震えている
全部がおかしい
早くここから逃げなければ大変な事になる
認めたら本当になる
早く……早く…
「神崎!」
追ってくる死神のような仁の腕を振り切って歩いて歩いて……
気付けば眠りについてシンと静まりかえった住宅街の路地まで走っていた
見覚えのある駐車場の柵……清宮が背中を付けてそろそろと歩いていた古い塀はまだそのままだった
幼い日に犬のクマと戦ったこの道………
嘘だ
嘘だ…………
「嘘だから……違うから……」
見えない手が心臓を握りつぶして苦しい
苦しくて苦しくて道路に転がって、藻掻いて、足掻いてのたうち回っても剥がれない
「あ……あ……ああああああ!!」
あと数時間………一時間でも早く帰っていればこんな事にはならなかったかもしれない
きっと馬鹿だと笑っていた
「誰か…………助けて………ハル……助けて……」
戻してくれ…あの日に……あの夜に……
一緒に帰れば………誘わなければ………
「助けて……」
苦しくて
苦しくて…………胸を掻いた爪からはじんわり血が滲んでいた
何度連絡しても兄は電話に出ない
その知らせを聞いた時はただ信じられなかった
家族葬だから遠慮しろと母に言われたが余りにも唐突で現実感が無く自分の目で確かめないと気が済まない
父に借りた喪服はウエストが大きくてベルトをしても尚ずり落ちてくる
告別式のある歩いて20分程の小さなセレモニーホールの近くまで来ると入り切らない多くの参列者がそこここに溢れ大勢いるにも関わらず皆一様に息を潜めて音がしない
「家族葬って言ってたのに……」
外から見るだけのつもりだったが大きく空いた間口には何の制限もない、ホールの中に入ってみると………本当だった………
花とお線香の匂いが立ち込める祭壇の中で花に埋まった清宮が笑っている
祭壇の隅では泣き腫らす両親に代わり初めて見る本物の仁がマイクに向かって挨拶をしていた……台に上がっている訳でも無いのに後ろの方からでもよく見える
「お忙しい中お集まり頂きありがとうございます、家族だけで見送るつもりでしたが皆様から寄せられた多数のご厚意で………」
淡々と続く仁の挨拶は冷静で身を持ち崩した素振りは一切見せず卒無く立派だった
遺影を見上げてもどうしても信じられない
ほんの数日前一緒にカラオケでふざけ……司をギャフンと言わしてやろうと歳が明けたら道場で会う約束までして笑いあった
「───…………春人は二歳の時にうちに来ました、血は繋がっていませんが私の大事な弟で大事な家族でした、たった……たった25年の………………25年の………」
淀み無かった挨拶が突然途切れて止まった
表情は変わらないのに言葉が続かない
仁は………我慢して……崩れそうになるのを必死で耐えてあそこにいる
あちこちから漏れ出した嗚咽が堪らない
急に現実が押し寄せ喉の奥からせり上がった熱い塊に喉がヒリヒリする、心の栓が抜けてどっと溢れ出した涙が止まらなくなった
その場いるのも辛い挨拶はぐっと背を伸ばし持ち直した後はしっかり続き焼香が始まった
殆ど無関係なくせにそこには行けない
そのまま帰ろうとするとグッと肩を引かれた
「………仁…………さん……」
「君は…………神崎の?……」
「…はい……弟の樹です」
「よく似てるな、お兄さんの方かと思ったよ、うちの弟を知っててくれたんだ」
「俺……スノーボードを一緒に………こんな……」
喉が詰まって声の代わりに涙が溢れ落ちてくる
きっと一人になりたい筈
もっとゆっくり落ち着いて見送りたい筈
取り乱す事を我慢している仁の前で無神経に泣きたくないのに出て来るのはお悔やみどころか嗚咽だけだった
「樹くん………来てくれてありがとう、うちの春人がお世話になりました」
子供をあやすように頭に乗った手がくしゃりと髪を掴んで笑った仁はやっぱりこの世のものとは思えないくらい綺麗だった
何故見送りに来ない
帰りたいのに足が動かず、とうとう最後まで残っていたが兄は会場に来なかった
身内でさえしっかり立って義務をこなしているというのに何をしている
腹が立って兄のマンションのエレベーターから降りると部屋のドアを思いっきり蹴り付けた
「司!!いるんだろ!!何やってんだよ!司!!」
インターフォンを鳴らしても怒鳴っても返事はない、留守なのかとドアノブを回すとカギがかかっていない
「司?」
嫌な予感が頭を過ぎり足を踏み出すととっ散らかった玄関先にあった黒い瓶を蹴飛ばして大きな音を立てて転がった
「ハルっ?!………」
ベランダから部屋に飛び込んできた兄は顔を合わすなり明らかに落胆してヘタヘタとその場に座り込んでしまった
「司…………」
病気でも怪我でもないのに石に蹴躓いて転ぶよりずっと小さな不注意でこんな事になるなんて誰も謂わない、何の覚悟もないのだから当然かもしれないが……帰って来ない事がわかってるのに………待ってる
……現実を受け止める事が出来ないでいる兄を見てまた涙腺がジワリと熱くなった
「見送って来たよ………行ってしまった……」
「……………帰れよ」
「司…」
「帰れ」
のそっと立ち上がりまたベランダに出ていった背中は憔悴してそれ以上何も言えなくなった
年が明けて3日からデザイン部の仕事は始まった
お琴の旋律が流れる店舗は笑顔が弾ける楽しそうな客で溢れフルメンバーで対応する社員は歩く振りをしながら走り回ってる
嫌になる程何も変わらない風景が目の前に繰り広げられ、嫌が追うにも日常に引き戻された
「山内、整理券コピーしたけどこのまま売り場に持っていったらいいか?」
「いや、ここでバラしてから持っていって、カッターで切った後50枚づつ纏めて二百枚数えて揃えるから」
「わかった、山田さんも手伝ってもらえますか?」
「いいよ」
社内で処理出来る雑用係と変わりない発注がちょこちょこ持ち込まれ仕事に没頭出来るのはありがたかった
「神崎さん………来てくれて良かったな」
「うん…お葬式にも来なかったしな……どうなるかと心配したよ…」
「そう………だな」
一切連絡先が取れなかった神崎が朝に出勤してきた時には物凄くホッとしたが神崎と美咲が揃った所で別の心配が発生した
せっかく普段通り振る舞う神崎の前で泣き笑いを繰り返す美咲のスイッチがオンになれば全部が台無し………多分この心配は暫く続く
「結構普通で良かった」
「ロボットみたいだけどな……」
「山田さん………今は仕方ないですよ」
バタバタした年末年始、山田はシフトを無視して一人でデザイン部を支えてくれていた
昼食に出てそこにはいない神崎の席を見て三人とも安堵と憂鬱の混ざった重い溜め息をついた
「そう言えば神崎さん遅くないですか?」
「いいんじゃないか?……まだ暇だし……仕事は俺達だけでも充分間に合う」
「うん……そうだけど」
神崎が昼休憩に出てからもう2時間は経っていた
淡々と小さな仕事をこなしてはいたが胸の内は推しても余りある
「俺ちょっと店内を見て来るよ……きっと誰かが見てるから……」
「美咲……放って置けよ…………ゆっくり……待とう」
山田の言った「待つ」は休憩を終えるのを待つという意味じゃない
今はだれも使っていない空席になっているMac……暴れて凹んだ缶のペン立てに残ったボールペンはずっと清宮と一緒にいた、このデザイン部にいるだけでも全員が辛い思いをしている
「そう………ですね」
ファイルが開けっぱなしになった神崎のMacには作りかけのオブジェクトが放置されたままだった
嫌でも続きがある筈で帰って来るのを待てばいいと自分に言い聞かせて、サイズを知らせるトンボに合わせカッターを滑らせた
今更電車に乗る気になれなくて身を寄せ合いブラブラ歩くうちにマンションが見えて来た
どのくらい時間がかかったのかはわからないが極上の時間はあっという間で清宮となら新潟までだって歩いて行けそうだった
「意外と近いな、自転車でも買う?終電気にしなくていいだろ」
「それもいいですけど……寒い……」
ぴゅうと足元から身体を押す冷たい風に春になってからな………と笑いながら二人で身を縮めた
心は暖かいけど体は冷え切り早く帰りたいが………あの超人類はどうしたのか………マンションを見上げると部屋の窓は暗い
「あ、よかった………誰もいない」
「仁もそこまで暇じゃないだろ、挨拶が終わった後事務所に行って弁護士さんに会うって言ってたし今頃まだ飲んでんじゃないか」
「だといいんですけどね、帰って来るつもりかな」
「帰ってきても包丁振り回したりすんなよ」
「それ俺より仁に言ってください」
エレベーターで部屋のフロアまで上がりドアを開けると………信じられないものが目に入った
でかいブーツがキチンと頭を揃えて玄関マン真ん中に居座っている
「…………これ……」
「あれ?仁いるじゃん………粘るな」
粘るとか頑張るとか耐久性の話じゃない、明かりがついてないから無人だと思っていたら仁は遠慮も礼儀もなぎ倒して他人ひとのベッドで堂々と眠っていた
………しかも裸………どんな神経してるのか一度分解して見てみたい
「信じられない………何なんだこの人、どんだけ図太いんだよ……人ん家で勝手にベッドに寝るか?」
人生で人に疎まれた事なんかないんだろう、自由過ぎる仁の耳元でわざと大き目の音を立ててもピクリともしない
「…もう12時過ぎてる、お前明日も仕事だろ?………どこで寝る?」
「それは勿論仁を叩き起こして出て行ってもらいましょう」
「仁は起きないよ……睡眠時間は短いけど一度寝ると自分で起きるまで目を覚まさない」
「ベッドから引きずり下ろせば起きるでしょう」
「起きないよ、何をしても起きない、俺が仁の隣に寝るから悪いけどお前はソファに寝れば?」
「絶対ダメ!それくらいなら俺が仁の隣に寝ます」
「わかったよ、じゃあそうしよう……」
「は?」
いや!ちょっと待てそれはない!絶対にない!!
常識で考えてくれ、どこの世界に付き合う事を反対している恋人の父兄と仲良く一緒に寝る奴がいる、嫌いだとか男同士だとか全部横に置いといても変だろう
毛布を取りに行こうとする清宮は全く本気、どうなんだこの兄弟
「春人さん!ないから!そんな事するくらいなら俺は寝ません!………わっ!何!」
寝室に入って行こうとする背中から手をグッと掴むと清宮の腕がクルンと回り腕を獲られそうになった、それは定石通りの肘を固められた時の返し技だった
「危っぶな」
「ふっ………さすがに簡単じゃないな………」
使ってみたくて仕方がなかったのか………清宮は全くの素人のくせになんだか様になってる
「樹は何教えたんだよ!」
「手の内明かす馬鹿がどこにいる」
「何で一回齧ったくらいで覚えるんですか!」
「覚えたかどうかを今確かめてるんだろう、ほらも一回かかってこいよ、動けなくしてやる」
「素人のくせに生意気言うな!すぐに泣かしてやる」
互いに牽制してジリジリ間を取りながら組手かスパーリングのようになって来た
「うるせえな!!ドタバタと!暴れるんなら外でやれ!」
ちょいちょい手を出すうち、恒例の取っ組み合いになり寝技を繰り出そうと足をかけている途中でドスの効いた怒鳴り声に邪魔されて足を組んだままピタリと固まった
複雑に手足を絡めて寝転んでいる所にドアの中から見下されキス直前に踏み込まれた記憶が蘇って気不味い
ドカドカと部屋から出てきた仁は限界まで眉間に皺を刻み不機嫌をぶつけるように後手でドアを思いっきり閉めた
「あれ?起きたの……珍しいな」
「出かけるんだよ……………」
「今から?もう夜中だよ」
「うるさいとかよく言いますね、図々しいんです、静かなご自分の部屋でゆっくり寝たらいいでしょう」
「ああ?」
また濁点入りの返事………顔だけでも怖いのに仁の体から発するオーラは明らかに物理的な力を持っている
ひれ伏してしまいそうになる眼力を込めてギロッと目玉を動かした仁の顔が突然一点を見つめ、みるみる驚愕の表情に変えた
「ハル…………お前………」
「何?仁!痛いって」
「なんだこれは………」
清宮の襟首を引っ掴み、釣り上げた清宮の頭をぐっと押しのけて早速見つけてくれたのはわざと付けたキスマーク
「神崎………貴様………」
ギリッと歯を鳴らしてオーラの色を変えた仁の手がグッと固まった
殴るなり蹴るなりすればいい、あざ笑うかのように仁の鼻先で清宮を抱いたのだ、ある程度の覚悟はしていた
流血しようが骨が折れようがどんなに痛くてもどんな状況でも絶対に笑ってみせる
清宮をソファに投げ出して掴みかかって来るかと思ったら………
「うわ!何ですか!やめ!!うわあ!!」
高い上背から伸びてきた長い手に腕ごと巻き取とられ思いっきりブチュウッと首に吸い付かれた
「は……はな、離せっっ!!」
ぎゃあっと喚いて死にものぐるいで振り払いそれでも怖くてへたり込んだままドタドタと壁際まで後ずさった
「何をするんですか!何ですかその反応!違うだろ!変だろ!間違ってるだろ!」
「お前も同じ目に合わせてやったんだよ」
「普通に殴れよ!この変人!」
男に抱きつかれるのがこんなにも気色悪いとは思ってなかった、大体誰がこんな事をする
仁は男の中でも特別綺麗で女はもちろん、男をはべらせても抜群に似合うがそれでも鳥肌が立つほど気色悪かった
「お前の普通なんて知るか、目には目を歯には歯、キスにはキス」
「あんたやっぱり馬鹿だろ」
「大学は行ってないが俺とハルの出身高は偏差値65くらいだったと思うけど」
「誰が学歴の話してんだ!」
「神崎!!」
「ハルうるさい!何?!」
「さっきからピンポン鳴ってる」
「えっ?!」
ハッと気付くとインターフォンが頭の上で連続押しされてる
時間は………もう1時近い………
「誰だ!今頃!」
「わあ!仁!待って!」
ピンポンを鳴らしてる奴はおそらく上か下か両隣の住人、ドアからバトルテンションの仁が出てきたらどう出るか怖すぎる
「待てったら!俺が出る」
止めてもこんなでかい奴止められない、どんな豪勢な家に住んでるのか知らないが動くたびドカドカとうるさい足音を立てて勢いのままドアを開けた
「うるせえな!なんだ!」
「……………えっっ?!!……」
案の定ドアの外に立っていたのは前に文句を言いに来た階下の住人………、派手に文句を言ってやろうと身構えていた筈なのに目に写ったものが信じられないのだろう
憤りを隠していなかった顔は表情を無くして固まり文句を言いかけた口が閉じられなくなってる
そりゃ誰でもそうなる………こんな地味な場所でドアから出てきたのは仁………190の高い所に乗った小さな顔はポスターやテレビで見るより迫力がある
しかも鬼の形相で怒鳴りつけられたら言葉を失って当然……
「誰だお前」
「え?あの………すいませんが……夜も遅いので……もう少し静かに………」
「………ああそりゃ悪かったな」
仁はそれだけを言って鼻先でバタンとドアを閉めてしまった、ほぼ何も知らない他人の家の客に「お前誰だ」って、お前こそ誰だって話だ
「ちょっと!何してくれるんですか!管理会社に文句言われて追い出されたらどうするんです」
「ガタガタ言われたら出て行きゃいいだろ」
「そんな簡単に言うなよ、時間もないしあんたみたいに稼いでないからな」
がっと伸びてきた仁の手が喉をつかんだ
「俺の眼の前でハルにあんなもんつけやがって………いい度胸だな」
「褒めて頂いて恐縮ですが嬉しくない」
「いつ誰が褒めた!」
「2秒前に褒めただろが!」
喉にかかった手は躊躇するようにそこにあるだけで締まっては来ないが胸糞悪い、振り払って後ろに下がるとまたダンッと床が鳴った
外殻は違いすぎるけど仁の中身は清宮のバージョンアップと考えていい、今の所必死に抑えてはいるが本来こいつは絶対に手が早い
次に何かして来たらもう遠慮なくのしてやる
「春人さんから落ち着いて話を聞いていれば俺に手を出そうなんて思わなかっただろうにな、勝てると思うなよ」
「ハルと育ってんだから俺は結構強いぞ、お前こそ俺の必殺技聞いとくべきだったんじゃないか?」
「何が必殺技だ小学生か、遠慮なく殴れよ、あんたなんか怖くない、抱きつかれるより余程ましだ」
「………へえ?」
「あ…………」
しまった…………余計な事を言った
口から血を流すとかして不敵に笑ってやるつもりだったのに先にニヤリとされた
腕を捻って背中に回してやればいいだけなのにジリジリと間合を詰めてくる仁に足が勝手に逃げる
とうとう背中が壁について行き場がなくなった
「どうした、ヤリたいんだろ?」
「その言い方やめろ、気色悪い」
つんっと突付こうとする指を払い落とし、また寄ってくる指に噛み付いて食い千切っでやろうかと思った
「二人とも!いい加減にしろよアホらしい、いい大人が何やってんだよ」
「お前に言われたくない」
「春人さんに言われたくない」
揃ってしまった台詞にバッと目が合い、フンッと顔を背けたタイミングまで揃ってしまった
「今うるさいって文句言われたばっかりだろう、暴れるのはやめて腕相撲とかにしたら?」
「は?」
仁の手を握れと?この状況で?
耳を疑うあり得ない提案に、毒気を抜かれて呆けていると清宮はニヤニヤしながらドンっとテーブルの天板を叩いた
「俺は強いからな………」
「はあ?!」
仁はすっかりやる気でテーブルの前にやれやれと座ってニョキリと腕を出した
どういう神経構造をしているんだ、状況が特殊過ぎて何が正しいのかわからなくなってるがとにかく仁と仲良く腕相撲なんて出来る訳ない
「嫌です」
「負けるのが怖いか?逃げるんならそれでもいいけどな………」
「………………怖いわけ無いだろ、そんなふざけた事したくないだけだ」
「じゃあ俺の勝ちでいいな」
「……………………俺も…………強いぞ」
「じゃあ俺審判ね、仁、言っとくけど神崎は本当に強いからな」
清宮はニコニコしながら渋々出した腕を仁の手と合わせてグっと固めた
冷たいと思い込んでいた仁の手は暖かくて意外とゴツい
「俺は売ってるイメージがあるから派手な筋肉はつけられないが細いと思って舐めんなよ、上腕は太い方が色気出るからな」
羽織っただけのシャツからわざとらしく袖を捲り、顕になった仁の腕は筋が浮いて………確かに色気満々……
「あんたこそ舐めんな、俺は握力には自信があるんです」
ビジュアルで勝てる相手じゃないが勝負に負ける気はない、対抗して袖を捲った
「腕相撲は握力じゃないだろ」
「ほざいてろ、負けて泣け」
「口喧嘩はもういいだろ、いいか?離すぞ、レディ………」
清宮の手が離れるとガッと二人の腕の筋が盛り上がった
「仁………出かけるって言ってたけど時間いいの?」
「ああ?…………あっっ!!」
3戦した所で、腕に溜まった乳酸を散らしながら睨み合っていると清宮に携帯を見せられて仁が飛び上がった
腕相撲の勝負は力が拮抗して真ん中で止まり、3回ともお互い力尽きる頃に清宮の待ったがかかった
「命拾いしたな」
「お前が俺に勝てる日なんて永遠に来ないさ」
「仁、こんな時間からどこ行くの?オフだって言ってなかった?」
「3時出発で日の出をバックに海で撮影!電報堂の樋口に押し込まれたんだよ」
「海で?春物か夏物の撮影だったら楽しそうだな」
「うるせえ、新年用だ」
バタバタと風呂場に飛び込んでシャワーを浴びただけで鞄ごと持っていけばいいのに財布から出した札をナマのままポケットに押し込み手ブラで部屋を飛び出ていった
寝起きの姿から出て行く用意は5分……どうせスタッフが全部やってくれるから最悪パンツ一丁で行っても困らないのだろうが、さすが清宮の兄貴………殆ど拭いてない濡れた髪から滴った水滴が玄関まで点々と続いていた
「お前さ、仁と仲良しだな」
「どんな見え方してるんです、そんなわけ無いでしょう」
「仁ってさ普段はもっと静かなんだよ、なんかはしゃいでる、気が合うんじゃないか?」
それは違うと思う………清宮には言わないけど…………違う
「神崎………寝よ、もう遅い、仕事に行けなくなるぞ」
「………そうです………ね……」
テーブルを挟んで対峙した時に一瞬仁が見せた苦虫を噛み潰したような表情……
腕相撲は………多分………手加減されていた
キスマークを付ける逆襲なんてやってる事は変だが必死で自分を抑え誤魔化していた仁はやっぱり大人………
「そこまでするなら負けとけばいいのに……」
「何?」
「なんでもないです、疲れたでしょう、おやすみなさい」
絶対に仁は帰ってこない、安心して眠れるベッドに潜り込み、もう朦朧としている清宮の背中に顔を埋めて大好きな匂いに包まれると長過ぎた一日はすぐに暗い闇の中に消えていった
その日から仁とは顔を合わさずにすんでる
しかし本格的に居座る気なのか荷物はしっかり残ったままで……なんか増えてる
靴は2足、つまり履いて出ている分と合わせると3足、いつの間にかクローゼットに知らないコートやシャツも増え……風呂場がピカピカになってたり冷蔵庫もやたら豪華で夕食が出来てたりする
昼間ここで仕事をしている清宮と二人でいるなんて前なら耐えられなかったが仁の清宮に対する感情は度が過ぎて常軌を逸しているものの身内への愛情だと理解してしまった
どこに行っていつ帰ると言い残して行くのも夜眠れるようにと考えてるからだと思う
清宮はせっせとバレンタイン関係の仕事を熟し発注前なのに思いつく各種媒体を殆ど仕上げてしまっていた
「春人さん…助かるけどせっかく休みなのに勿体無いですよ」
「やる事ないからいいよ」
「今日はデザイン部の仕事納めでもうあんまりないですよ」
「別にいいよ、仁がうどん作ってくれてるから食べるだろ?」
「え………いや……」
既にもう何回か仁の作ったご飯を食べてはいるが素直に「はい」とは言いたくない、出汁を暖めてうどんを作ってくれた清宮からしぶしぶと丼を受け取った
「何で朝からうどんなんですかね」
「起きてすぐにご飯もパンも食べんの嫌だって俺が言ったからかな」
「じゃあ何でこんなに短いんですか」
箸で摘むとどいつもこいつも短くてひょいと持ち上がる
「ちっちゃい頃喉に詰めたんだよ、こう半分飲み込んだけど切れなくて……でも吐き出すことも出来なくなって暴れたんだ、それからずっとうちのうどんは短い」
………つまり清宮の朝食は仁が作っていたと………
二人の関係性は聞けば聞くほど深くてちょっとだけ開いた隙間から無理矢理手を突っ込んで必死にぶら下がっているのがいまの現状………
清宮にはそれがまるでわかってない
負け犬と罵られているような短いうどんを無理矢理胃に詰め込んで、コーヒーを飲んでいると清宮がケースに入った服をクローゼットから出して来た
「何?それ………どこかに行くんですか?」
「うん、多分この仕事が最後だと思うけどスラッシュの会社で株主のパーティに顔出さなきゃならない」
「またあの格好?」
「多分な……仁の事務所に寄って美容院行くってさ」
「俺は今日会社の打ち上げなんです、春人さんも来てくれたらと思ってたんですけど…無理そうですか?」
美咲と山内が帰省する為休暇に入るので飲みに行く事になっていた、デザイン部全員に課長まで顔を出すと言われれば断れないので清宮も巻き込んでしまおうと思っていた
「連絡くれよ、行けたら行くから」
「ちゃんと携帯見て下さいよ」
「多分な」
ニヤッと笑って携帯をヒラヒラさせた携帯の画面は電池の残量がもう残り少ないと言っている
「充電してしといて下さいね」
了解と背中で聞いて出社した
「神崎さん、みんな先に行ってますよ」
暇な時期恒例のクリアファイルの回収と簡単な掃除を終え、先に出て行った美咲達の所から山内が戻ってきて早く早くと手を振った
何もする事がなく丸一日暇だったくせに帰る直前で売り場に呼ばれて顔を出さなくてはならず一人遅れていた
「俺は2階に呼ばれてるんだ先に行っといてくれないか?」
「そうなんですか?何だろ今頃やだな、手がいるんなら俺も残りましょうか?」
「いや、大丈夫、春人さんにも転送するから店の場所携帯に送っといてくれ、待たなくていいから先に始めといて」
「わかりました急いで下さいね」
「無理な事言われたら無視するからすぐ行く」
了解と山内が部屋からいなくなると急に部屋が静まり広く感じた
いつも乱雑に積み上がった書類も綺麗に片付き、照明が半分消えたガランとしたデザイン部には年末感が漂っていた
いつも面倒だったクリスマスは気付かないまま過ぎ去り、先に先にと季節が早取りされて激しく時節がズレているが年末だけは実感する
ピロンと携帯が震えた
「山内からだな………」
送られてきた店は行った事のない中華の店で地図のスクリーンショットが添付されていた
すぐに清宮に転送したがまだ手が離せないのか既読が付かない
気付いていない可能性もあるが見てない可能性はもっとある
「10個くらいスタンプ入れとけば気付くかな……」
ラインに迷惑攻撃を仕掛けてもう一度デザイン部を見回すと………尋常じゃなかった怒涛の一年が蘇り胸がギュっと締め付けられた
年の初めに清宮を見つけてから無理矢理転職して今ここにいる
色々変な注釈はついていたが一緒に居ようと言ってくれた
手に入れたと言っていいんだろうか………
あの人を…………
「春人さん……俺と一緒にいてくれますよね」
ずっと……ずっと先まで……
ここにはもういないが部屋に帰ればいつでもあの綺麗で乱暴でちょっと抜けてるくせに生意気な笑顔に会える
呼び出しの内線が鳴り出したが内容はわかってる
電話は取らずに部屋を出た
「神崎さん!ここです!」
打ち上げの為に山内が選んだ店はオープンテラスの中に無数に立っている柱で支えられた巨大なテントで覆われ入り口は店の前全部、主だった照明はあちこちに吊り下がったランタンだけでエキゾチックな異国の屋台のようなイメージだった
店の前についた途端美咲に呼ばれてざわついた店内に入ると上手く空調されて寒くない
店の雰囲気は抜群なのにテラス前の歩道ではこんな時期なのに煩わしい工事が行われていた、強烈なハロゲンライトが作った無粋な濃い影は店の中まで足を伸ばしせっかくの夜に水をさしていた
「おい山内、ここってドアがないんだな……食い逃げ出来そう」
「おしゃれでしょう?この秋にオープンしたばっかりで中華って言っても多国籍に近いメニューみたいです、早く座ってください、乾杯しますよ」
「うん………」
雰囲気はいいが店の中は仕切りがなく忘年会客でほぼ満員だった
あのスラッシュのビルボードはまだ駅前にそびえ立ちこの店の客全員が毎日目にしていると言っていい、もし清宮がここに来たら目立ってしまうかもしれない
「神崎さん!何してるんですか、乾杯しますよ、早く飲み物持って!ビールですか?紹興酒ですか?」
「え?ああビールでいいけど」
「よっしゃ!中山!ビール1丁!」
「はい!」
仕事中でも外でも美咲と中山はデザイン部のムードメーカーで清宮に注意喚起の連絡をしようか迷っているとビールジョッキを手に押し付けられてもう既にほろ酔いのペースに巻き込まれた
「あーそれでは全員が揃いました所で僭越ですが……あー……今年は信じられないくらいショックな事が………」
「僭越だよ!!」
美咲が立って挨拶しようとすると南と宮川からおしぼりが投げつけられた
「かんぱ~い!!」
「お疲れ様でした~」
それぞれの席でグラスが合わさり口々に頑張った一年を振り返って笑顔が弾けて飛んだ
「神崎さん」
山内が最初に座っていた席を離れガタガタと椅子を運んできた
「お疲れ様でした」
まだ一年も経ってないのに色々あり過ぎてもう何年も一緒に戦ってきた戦友のように感じる、チョンッとジョッキを合わせ笑いあった
多分清宮の不在で山内が一番成長したかもしれない
「山内は一番頑張ったな」
「神崎さんがいてくれたから乗り切れたんですよ」
「迷惑も一杯かけたけどな…」
「うん、大変でした」
自覚はあるがはっきりと言われると笑うしかない、ぐっとジョッキを煽って料理を手に取ると………いつの間にこんなにメジャーになったんだ、焼いた鶏の上にパクチーが散っている
「なんでこう何にでもこいつが登場する…………」
「何がですか?」
「なんでもない」
山内は平気で食べてる、みんなで食べている場で好き嫌いを主張するのは失礼だし食べ物が不味くなる
こっそり除去していると店の中がザワっとどよめき入り口の方が騒がしくなった
「あっ!!!」
「え?……あ……あれは………清宮………さん?」
ザワザワと沸き立ち覗き込んだ客で狭くなった通路を割って清宮が店に入って来た
顔には例のアンドロイドメイクが施され、また見たことが無い新しい細身のコートを着ている
しかも最悪………仁を背負ってる
このツーショットでは目立つなという方が無理だ
ギャラリーも背負ってる
「もう!春人さん!何で仁まで連れてきてるんですか」
「ついて来るって言うからさ……別にいいだろ」
「いいわけ無いでしょう、ほらみんな固まってる」
「大丈夫だよ、仁は何でも上手いから」
「でも………」
範囲は限定的だが知ってる仁は、一言も喋らず飲み続ける姿と意地の悪い変人っぷりだけ
デザイン部ではMacの画面で散々見ているが会ったことがない本物の仁に気圧されて話す事も食べる事も忘れて呆けていた
「こんばんは、お邪魔してもいいですか?」
「ひゃあ!どどどうぞ……どうぞお座り下さい」
漫画みたいに慌てた山内が席を進めると仁はドカリと座の中心に座り込んでしまった
上手くやるかどうかなんて知らないが、そりゃ仁が仮面を被って愛想よく微笑めば思いのままにならない事なんてこの世にないだろう
「大丈夫なんですか?そんな格好で仁とツーショットなんて危ないでしょう」
「大丈夫だよ誰にも何も言われないし」
声もかけられなかったと清宮は笑っているが仁と清宮が広告のイメージそのまま、二人揃って一緒にいるとどこかにカメラでも潜んでいそうで誰も話しかけられなかっただけだろう
店の外には道の途中で掻き集めた大量のギャラリーが溜まって人が人を呼んでいる
「店の中までは入って来ないみたいだけど危ないから外から見えない席に座りましょう」
「大丈夫だとは思うけどな」
全然大丈夫じゃない、選りにも選ってドアも入口もない店で仁がピカピカ光って撒き餌をしてる
「ハル!お前はこっち!」
「わっ」
奥の席に座ろうとした清宮は仁に引っ張られてドッと座ったのは膝の上………
きゃあっとギャラリーから妙な悲鳴があがり元々見られていたが店中の客余すことなくほぼ全員から遠慮のない注目を浴びた
「何か怖い………みんな見てる」
「おお………ここまであからさまに注目を集めるのは初めてだ……気持ちいいぞ」
「宮川さんを見てるんじゃないですけどね」
美咲と宮川がニーッと笑い合ってボトルで注文した紹興酒をビールの残ったジョッキにドボドボ注いで押し付けあってる……まだ飲み会が始まって30分も経って無いのにもうベロベロ
清宮もさっさと椅子に座ればいいのに仁の膝に乗ったままお箸を持って海老の殻を剥き始めた
「ハル、ついでだからサービスしておこう………」
「サービスって何、オレは今指がベトベトで……」
仁がチラっとわざとらしい視線を投げて寄越し嫌な予感はしたが……綺麗なウィンクをギャラリーに惜しげもなく投げ付けてチュッと清宮の首に唇を押し付けた
「あっ馬鹿………」
きゃあ~っと会話を遮る大きな悲鳴がギャラリーから上がり膨れた混乱に乗って写真を撮ろうと前のめりになった何人かがどどっと店内に押し出された
バリケードになっていた数人の店員が慌てて押し返し、応援に駆けつけたのはおそらく厨房からフロアからもう店の関係者全員
「うわ凄え……清宮さんはもう有名人なんですね」
「俺じゃない、仁が悪い」
店員が慌てて何処かから調達して来た衝立を、運ぶ手伝いをしようとする清宮には何の自覚もない
「仁!他の人から見えなくなったしビール飲んでいいよな?」
「見えてても飲みたかったら飲めばいい、余程じゃないと何も言われないから好きにしろ」
「仁さんは何をお飲みになりますか?」
「仁でいいよ………」
中山と南は普段から清宮が好きだとかマッチョじゃないと男じゃないとか言ってるくせに仁がちょっと笑っただけでぽわ~んと頬を染めて砕けかかってる
ハッと気付くと男も全員蕩けてる
「何仮面被ってるんですか、ここにあんたのクライアントはいませんよ、本性見せたらどうです」
「こっちが本当でお前が見間違ってるんだよ」
「嘘つけあんたの本性全部バラすぞ」
「こっちも言っていいんなら色々言うぞ」
「黙れ変人」
「ヘタレ、ビールがないぞ」
「ああ!はい!すいません!どうぞ!これ!」
本性を出せと神崎が言ったが仁が普通に(?)話し始めると確かにエグゼクティブで上品で人形のようなイメージでは無くタフなお兄ちゃんに見えてきた
仁がビールと一言言っただけで殆ど全員がジョッキを差し出し仁の前にズラリと並んだが飲むのかと思えば空になった神崎のジョッキに口喧嘩しながらもドボドボお酌している
「山内、俺にもビールくれよ」
「はい……あの……清宮さん………神崎さんと仁さんって………」
「うん、仲良しだろ」
「仲良しかどうかはわかりませんが……」
神崎と仁の間が、おそらく簡単に想像がつく理由で険悪になっている事は知っているが飛び散ってる火花は触っても熱く無さそう
ただその火花が見えてない清宮に問題がある事だけは分かった
「止めた方がいいかな………」
「いいよ、放っておけば、いつもああやって戯れてるんだ、それよりちょっとビール持ってて」
「え?はい」
「みんな、飲んでる所で悪いけど聞いてくれ」
みんなが酔ってしまう前にと思ったのだろう、清宮が立ち上がって年末一杯で退職届けを出した事をみんなに告げた
「今までお世話になりました、突然で本当にごめん」
「お……お……お疲れ様でした!!」
きっちり頭を下げた清宮に向かって美咲がビックリするような大声でグラスを上げ、全員が次々と立ち上がった
口々にお礼の言葉が飛び交い、美咲はまた涙を流して隠そうともしなかった
「清宮さん、私……本気だったんですけど……」
セリフの割にさらっと天気の話でもするように中山が切り出した、神崎は相変わらず宮川と談笑する仁の側で憎まれ口を叩きながらもなんだかんだで一緒に飲んでる
俯瞰で眺めると、仁、宮川、神崎のスリーショットは全員イケメンで南もくっついて離れない(確かにいたはずの課長と山田はいつの間にか消えてる)
………結果的に山内、美咲、中山が余って清宮の周りに集まって飲んでいた
「本気って何が?」
「何がって……私は何回も告白してるんですけど…好きですって……」
「またふざけて、そんなに酔ってるのか?」
「清宮さん!最後までそれですか…ああ虚しい…………もう盗られちゃったからいいですけど」
「撮られた?何を?写真?」
「惚けなくていいですよ、神崎さんとラブラブなんでしょう?」
「ラブラブって何?………」
「ここ!ここですよ!!何お揃いでつけてるんですか」
中山が本気で清宮を好きだった事は全員が知っていた、さっぱり過ぎる中山も悪いが清宮に全然通じていない事もわかってる
おそらく最後になる告白を邪魔しては可哀そうだと黙って聞いていたが美咲が堪らずに割り込んだ
「へ?」
「神崎さんも首にでっかいのついてるし清宮さんも…………」
「ああ、キスマーク?」
「そんな事も無げに………」
自分で言い出した事なのにあっけらかんと笑われて恥ずかしくなって来た
「神崎のは仁が付けたんだよ」
「ええ?!」
「どどどんな状況ですか!」
「ふざけただけだよ」
「ふざけてキスマーク付けるって……芸能界怖い…」
「羨ましいな………」
中山が泣きそうな声で言ってるのに清宮は頼めばやってくれるよって暢気に笑った
本当に中山が気の毒…………
「おい、神崎ハルを見んなよ」
「見てません、もし見てたとしても俺の自由でしょう、あんたにそんな事強要される覚えはない」
「まあまあ神崎、そんな喧嘩腰で何いきり立ってんの、楽しく飲もうぜ」
「宮川さんは仁と飲んでればいいでしょう、俺はこの人苦手なんであっちに混ざります」
「駄目」
「は?」
席を立ちかけると仁がボソッと低い声で呟いて服の裾を引っ張った
「お前はここにいろ」
「なんであんたにそんな事言われなきゃならないんだよ、部外者だろ」
「部外者に見えてお前に見えないんならお前はやっぱり餓鬼だ」
仁に餓鬼だと言われるのはパクチーよりも嫌いだ
だけど言葉に拘束力を持つ仁に言われると腹が立つけど何となく逆らえない
「何でですか、俺と飲んでも楽しくないでしょう」
「お前は帰ったら会えるだろう、今の所だがな……」
「……………ずっとです」
ピッチャーからビールを調子よく飲み続けている清宮が気になったが仁に言われてハッとした
もしかすると美咲達は清宮と会えるのは今日が最後になるかもしれない、少なくとも会えて年に一度か二度、その後それぞれの道が決まればきっと足が遠いてしまう
「飲み過ぎなんじゃないかと気になっただけです、別に………独占したいとかじゃない」
「ありがとうだろ糞ガキ、自分の無神経に気付いてなかったくせに」
悔しい………無神経って言われるとその通りで何も言い返せずに座り直した
美咲は特別だとしてもみんながどんなに清宮を慕っているかはよく分かっているつもりだった
「それにしてもお前も清宮清宮って……こっちが照れるわ、お前清宮を追っかけてうちに来たんだろ?」
「え?それはどういうことですか?」
「あれ?仁さんは知らなかったんですか?、こいつ天下の電報堂にいたくせにあちこちに頼みまくってわざわざグレードも給料も低いうちに転職してきたんですよ」
「……ふうん………」
「宮川さん………やめて……」
「でもな……何か良かったよ、清宮はよく笑うようになった、あいつはずっと余裕がなくてあんまり表情がなかったんだ、神崎が助けになっんだと思う、びっくりするぐらいここ半年で変わった」
「………そうですね………」
ずっと黙って聞いていた南が懐かしむようにクスッと口の中で笑った
真面目に言われても恥ずかしい、清宮が変わったかどうかは分からないが自分は変わったとは思う
一緒にいてもいいのだと言ってもらえたような気がして腹の中がくすぐったくなった
「仁さんの言いたい事は物凄くわかりますけど暫く放っておいてやってもいいんじゃないですか?そのうちなるようになりますよ」
「……………すいません、俺はそろそろ失礼します」
「帰るんですか?」
「仕事があるんです」
吸っていたタバコを灰皿に押し付けて仁が腰を上げた
仁も都合が悪くなると逃げ出す癖がある
「うお………でけえな………」
立ち上がった仁を見て宮川が感嘆の声を上げたと同時に衝立より背の高い仁の頭が飛び出し店の中からもまた歓声が上がった
「ハル!俺は先に帰るから飲みすぎるなよ」
「え?俺に言ってる?何?どこ行くの?」
「榊さんと約束してるんだよ」
「榊さん?じゃあ朝まで帰って来ないね」
「かもな……ハルお前はちゃんと帰れよ」
酔っ払ってヘラヘラ笑ってる清宮の頭にこれみよがしにブチュっとキスをした仁を睨んでいると椅子がガタンと揺れた
「蹴んなよ」
「お前も飲みすぎんなよ」
「俺はあんたの弟でも餓鬼でもない」
蹴り返してやろうと足を出すと予想していたようにヒョイと避けてギャラリーを割って店を出て行った
「あ……しまった…………」
仁の座っていた席の皿の下から挟んであった札束を見つけた山内が困った顔をした
「いやだ………かっこいい…………」
「うん………俺もああなりたい……」
「お前らな!俺もよく払ってるだろう!あんな別格目指してないでまず俺を目差せ!」
「スペックが違い過ぎていくら宮川さんでも相手になってません」
「ちくしょう!あれには勝てねえよ」
「グレードとステージが違いすぎます」
仁がいなくなっていつもの調子を秒で取り戻した南の冷静な言葉にどっと笑いが起きた
「清宮さん、後でお兄さんに返してもらっていいですか?いくらなんでも多いし」
「いいよ、山内…、仁はお金はどうでもいい奴だから余ったらプールしとけ」
「でも……」
「モラっとけったらモラっとけ!みんな!次の宴会もただで飲めるぞ」
「清宮さん!誘いますから来てくださいね、山内!もらっとこう」
「もう!清宮さんも美咲も無責任なんだから」
話にならない酔っ払い相手に困り果てた山内がまだ追いつけるんじゃないないかと店の外を見に行った
やることなす事全部ムカつく
仁は殆ど飲み食いはせずサービスでいたようなものだと思う、別に量の話じゃないが反対にお金を払ってもいいくらいのゲストだった事は間違いない………何やらしても確かにかっこいい
「駄目でした、多分タクシーに乗ったみたい、清宮さんお願いできませんか?」
「いいって、言っとくけど俺は預からないからな、俺に渡すと俺のもんになっちゃうぞ、仁が受け取るわけないからな」
差し出された山内の手を押し返し清宮は薄っぺらいコートを手に取って立ち上がった
「あれ?清宮さん………帰るんですか?」
「うん、みんなごゆっくり」
「春人さん?!帰るんなら俺も帰ります」
「お前は残らなきゃダメだよ、チームの打ち上げなんだから」
「いいですよ、俺達はいつでも飲みに行けるし」
「ダメ、じゃあな、みんな良いお年を」
「春人さん!一人は駄目だって!酔ってるでしょう」
ガツンっと衝立を蹴って横に避けさっさと出て行こうとする清宮の肩に手をかけるとクルンと振り返って………
この見下すような誘う目つき………自覚が無くても逆らえないのにそのつもりでこんな風に見つめられると金縛りにかかったみたいに動けなくなる……………
斜めに傾けて迫ってきた清宮がくれたものはポカンと隙間を作った唇から覗く、艶かしい赤い先っちょが先に忍び込んでくるディープキス
「待ってるから………」
「…ハル…………ん…」
………後頭部に回った清宮の手が髪を混ぜて引き寄せられ、差し出された舌が口の中を混ぜ返して唇が離れても名残を惜しむように絡んだ舌が引かれて宙に浮いた
「俺は先に帰って………待っているから……飲み会も仕事だ、ちゃんとしろ」
「春人さん………」
同じ事を言われたのは二回目……
「あ………そうだ………これあげる」
「え?何ですか?これ」
コートのポケットに手を突っ込んでそこにある事に気付いた清宮が手渡してきたのは角の丸くなった青いガラスの破片だった
「パンツのポケットに入ってたってクリーニング屋が取っといてくれたんだって」
「あの時の?…………」
「うん、月のカケラ」
「本当だ……青い…」
「じゃあな」
酔って目が潤んでるにも拘らずやけにしっかりした声で最後のボスをやり切った清宮はニッコリ綺麗に笑い、タンっと身軽にステップしてから出口に溜まったギャラリーに走って突っ込んだ
わっと割れた人垣の下を身を低くしてすり抜け………
工事現場から照らすハロゲンライトが清宮の姿を吸い込んで行った
まるで光の中に消えて行ってしまったかのようで……………いやに後ろ髪を引かれた
キスのせいか散々仁と喧嘩したせいか、愛しさが苦しいくらいに込み上がりやはり帰ろうと振り返ると……………
そうだ…………しまった………
同僚を含む公衆の面前で劇場型のキス………物凄い視線と息を飲む声が痛い………呆気に取られたみんなの口がぽっかり開いていた
「え………と……あの俺……帰……」
「神崎…………今日は帰れると思うなよ」
「そうですよ!覚悟してください」
宮川にゲンコツでグリグリ頭を挟まれ美咲にぶらさがられて強制的に席に連行され、そのまま転々と店を変え朝方まで付き合う羽目になってしまった
まだ真っ暗だったがライトを灯した職業車がもう走り回っている
始発電車の中は年末だと言うのに仕事に向かうのか帰るのか………結構人が多い
大晦日までは実家が近い山田と二人だけになる仕事は休むわけにはいかずそれなりにセーブしたつもりだったが長時間飲み続けた結果、まだ暗い景色がグルグル回って多分真っ直ぐ歩いてない
「1回寝たらおしまいだな………」
会社の近くで仮眠して仕事に行ってもよかったが服は溢れたお酒でドロドロ、髪はグシャグシャ、いつの間にか靴下も履いてない
一度部屋に帰ってシャワーを浴びたり歯を磨いたり……とにかく動いてないと止まったら立てなくなる
会社に行きさえすれば後は寝ても用があれば誰かが叩き起こしてくれる
?…………
始発が動いていると言ってもまだ真っ暗な早朝なのに部屋の前に誰かいる、しかも二人………
どこかの訪問客にしては変で足を止めると向こうが気付き近づいてきたのは……
制服を着た警察官だった
「こちらの部屋にお住まいの方ですか?」
「え?……………はい……そうですけど……」
「お名前は?」
「神崎です……神崎司………」
「ふうん………今頃お帰りで?」
「はあ……飲んでまして」
何も身に覚えは無いのに警察官にこんな風に話しかけられると落ち着かなくなる、身分証の提示を求められると全くの無関係では無い事がわかり嫌な予感にザワッと不安が込み上がってきた
「実は新聞配達の方から通報がありまして……お宅の部屋の前で……」
「!!!」
どうして清宮を一人で帰らせた
酔っているのはわかっていた、酔えばどうなるかも何回も見てわかっていた
わかっていたのに!
走る足が空回りをして前に進まない、まだ胃の中に残るアルコールは血管に容赦なく酔いを運び続け月面で足掻いているようだ
「っ!!…う……ぐっ……」
せり上がってきた吐き気はちょっとの間も待ってくれず道端の植え込みで胃を空にしてしまった
水でも飲んで頭をはっきりさせたいがそんな事は全部後だ
道路を通りかかった出勤途中のタクシーに立ち塞がって有無を言わせずドアを開けて飛び込んだ
「大学病院まで急いでください」
「お客さん!まだ………」
「早くっっ!!」
酔っているのは誰の目から見ても明らかで迷惑そうな顔をした運転手は吐かないで下さいよ、とブチブチ言いながらもメーターを立ててくれた
病院までは10分足らず、敷地に滑り込んだタクシーから一万円札を投げ出してまだ停車する前に飛び降りたが正面玄関は鍵がかかって締め切られている
「お客さん!こんな時間外の出入り口は建物の横ですよ!」
「どこ?!」
「あっち!!」
尋常じゃない様子に気持ちを汲んでくれたタクシーの運転手は窓を開けて腕で出入り口を教えてくれた
「すいませんでした!」
アルコールで膨れた胃が空になったせいで幾分マシになり「救急.時間外窓口」と書かれた二重のドアから明るい通路に飛び込むと入ってすぐの長椅子に仁が座ったまま身を伏せていた
「仁!!」
「神崎…………」
「ごめん!俺のせいだ!ごめん!!春人さんは?肺炎?!意識が無いんだろ?」
「………………」
いつも動作が大きく乱雑なくせにやけに力なくのっそり体を起こした仁の顔は色を無くして真っ白になっていた
「仁!!ハルはどこ?!具合いはどうなんだ!!」
意識朦朧になっていても病院を拒否した清宮がここに大人しくいるなんて余程の事、ぐっと口を閉じた仁の説明を聞くより会いに行ったほうが早い
どこだ、診察室?病室?背にしていた扉には処置室と書いてある
「ここ?!春人さん?!」
「待てっ!!待て待て!神崎!駄目だ」
両開きの扉に手が届く前に飛び付いてきた仁がグッと身体を締めて引き戻されそうになった
「離せよ仁!」
「今は駄目だ!会わないほうがいい」
「離っ………せっっ!!」
どうせ一回殴ってやろうと思ってた
膝を緩めて仁の体を背負い床に叩きつけた
「話は後だ、そこで寝てろ!」
「神崎!!やめろ!!」
仁の声を背中で聞いて両方に開閉する二枚扉の処置室に飛び込むと………
そこに清宮はいた
「春人………さん?」
処置台の上に膝を抱えて座り込み丸くなってる
………部屋の中でもよく見るポーズ
眠っているのか目を閉じて赤い唇が薄く微笑んでいる
点滴一つ見当たらず治療している様子はない
「春人さん?眠ってるんですか?……」
頬に触れるとカチリと冷たくて……硬い………
「ハル?……」
「神崎…………ここにいちゃ駄目だ………出よう……」
「仁………春人さんを風呂に入れなきゃ……冷たい………なんで誰も何もしてないんだよ………ここは病院だろう?早くしなくちゃ………みんな何してんだよ、俺医者を探してくる……」
「いいから来い……」
「仁!…………だから……」
「…………まだ暫くは硬直が解けない………」
腕を掴む仁の指がグッと肌に食い込み
………震えてる
何の事だ?
清宮の唇は綺麗な赤い色をしている、顔色も普段と変わりない………
変なのは冷たい頬だけだ
苦しそうに顔を歪めた仁と目が合わない
どうしてこんな所に一人で放っておくのかもわからない
「俺………やっぱり医者を……」
「神崎………」
「変だろ病院もあんたも……みんな……」
「神崎!」
「っ!!」
グイっと顎を取られ仁の唇が押し付けられた、噛み付くように深く重なった口の中で歯を割って喉の奥まで舌を突っ込まれむせ返った
「な……何をするですか!こんな所で!ふざけるな」
「これから数日……長くなる……………お前昨日寝てないんだろう………今は薬を飲んで暫く寝てろ」
「薬?」
「今飲んだろう」
「なんでそんなもん………」
喉に張り付いていた何かはむせ出た咳と一緒に飲み込んでしまった
「寝てなんかいられない、俺のせいだ、春人さんが起きるのを待って………ちゃんとしなきゃ……」
「お前のせいじゃない………」
「俺の………せいだ………」
「……お前のせいじゃない…………」
そっと仁に誘われて座った長椅子は合皮が冷たい
救急の廊下には清宮の両親もいた
仁によく似た綺麗な母親と背の高い……多分父親だろう……肩を抱き合い二人ともうつむいている
「いい子だ…………」
仁の腕が頭を抱いて耳元で囁かれる優しい声……
どういう事か全くわからなかった
ひっきりなしに音を立てる携帯は無視するないがつもりも出るつもりもない、充電ケーブルに繋げだまま着信がある度光る画面をただ見ていた
いつからそこに座っていたのかもう随分長い間動いてない
病院の簡易ベッドで目を覚ました所までは覚えているがその後どうしたのか二、三日分の記憶がない
触らなくても目に入ってくる携帯のお節介なダイジェストウインドウは気持ち悪い報告を刻々と刻む
そんな筈はない……
どこかにいるに決まっている
そのうちにひょっこり帰ってきてあのいたずらっぽい顔で笑うだろう
「なんでそんな顔してるんだよ」
……こっちの気も知らず呑気にそう言って……
早朝にマンションを訪れた新聞配達員はロビーのポストではなく直接部屋まで運ばなければならない面倒な客の為にエレベーターで上がってきていた
気の毒な新聞配達はドアの前に座り込む清宮をメイクのせいで本当に人形だと思った……と警察に話した
酔っ払ったまま部屋に帰り着いたが鍵がなかった
ドアの前に座り込んでそのまま待つつもりだったのかちょっと休もうとしたのか眠ってしまった……
氷点下の凍った空気は……全ての体温を貪欲に奪い去り……
凍死だった
鍵は
部屋の前に投げ捨てて来た鞄の中に一つ
……仁に一つ…………
携帯の画面が何回も何回も同じ文言が繰り返し入って知ってしまった時間と場所………
会場に近づいては駄目だ
絶対駄目だ………
時間は深夜の3時だった
実家に近いセレモニーホールの正面玄関は施錠されていたが側面のドアだけカチリと爪が外れた
数件の祭壇が花を飾りそれぞれの思い出が額に入って笑いかけている、疲れた顔をした老婦人が一人ロビーに座ってうつうつしていた
[清宮家]
筆文字で書かれた看板には何の演出もない簡素な矢印がその場所を教えてくれる
ポツポツ灯る灯篭や蝋燭がチラチラ揺れるだけで暗く他に人気ひとけはない
ドクドクと速度を増していく心臓の音以外何も聞こえず、ふらりと足を出すと鋭利な靴音がコツンと響いた
「………神崎?……………来たのか…………」
誰もいないと思っていた祭壇の隅にあった黒い塊がムックリ起き上がりギクリと足を止めた
なんで仁がいる………
会っては駄目だ、話しては駄目だ
全部が現実になってしまう
出口はすぐそこ……早くここから出た方がいい
「神崎!待て………待てよ……」
ガツッと肩を掴んだ仁に抗う力が出ない
仁が怖い
全身黒に包まれたその美しい姿はまるで悪魔か死神に見える、指先は凍りそうな程冷たいのに冷や汗が吹き出して体が熱い
「逃げるな………ハルに……会ってやってくれ……」
「駄目です……俺は………違う……こんなの違う」
「ハルは……ずっと待ってたんだぞ」
「でも……」
叱れない悪戯をやんわり諭すように優しく微笑んだ仁に肩を抱かれカクカクと足だけが動いて行きたくないのに傀儡のように前に進んだ
ゆらゆらと揺れる極彩色の走馬灯が人のいない寂しい遊園地のようにそこだけはしゃいで辺りを照らしている
芳しい香りを漂わせて白い百合の花が咲き誇る祭壇からちょっと幼い清宮が笑いかけていた
「親父が撮った写真を使いたくてな……まだ大学に行ってた頃なんだ……」
仁は笑ったつもりなのかもしれないがプロのくせにくしゃりと歪んだだけで全く笑えていなかった
「ハルはそこに眠ってる………」
「ま……だ?………」
祭壇の前に置かれた棺は半分位口を開け花に埋もれて清宮が横たわっていた、あの日清宮が顔に乗せていたきついメイクは綺麗に落とされ唇や頬にほんのりピンクが入っているが蝋人形のように真っ白でまるで本物とは思えない
心臓が早鐘のように鳴り響き腹の底から不穏な重い塊が全身に溢れてきてそれ以上は進めなかった
「ちゃんと………お別れしてやってくれ……触れても……もう固くないから………」
「違う………」
こんなの違う………
ジリジリと足が下がり壁のように立ち塞がった仁の胸に背中が当たり肩に乗った手が震えている
全部がおかしい
早くここから逃げなければ大変な事になる
認めたら本当になる
早く……早く…
「神崎!」
追ってくる死神のような仁の腕を振り切って歩いて歩いて……
気付けば眠りについてシンと静まりかえった住宅街の路地まで走っていた
見覚えのある駐車場の柵……清宮が背中を付けてそろそろと歩いていた古い塀はまだそのままだった
幼い日に犬のクマと戦ったこの道………
嘘だ
嘘だ…………
「嘘だから……違うから……」
見えない手が心臓を握りつぶして苦しい
苦しくて苦しくて道路に転がって、藻掻いて、足掻いてのたうち回っても剥がれない
「あ……あ……ああああああ!!」
あと数時間………一時間でも早く帰っていればこんな事にはならなかったかもしれない
きっと馬鹿だと笑っていた
「誰か…………助けて………ハル……助けて……」
戻してくれ…あの日に……あの夜に……
一緒に帰れば………誘わなければ………
「助けて……」
苦しくて
苦しくて…………胸を掻いた爪からはじんわり血が滲んでいた
何度連絡しても兄は電話に出ない
その知らせを聞いた時はただ信じられなかった
家族葬だから遠慮しろと母に言われたが余りにも唐突で現実感が無く自分の目で確かめないと気が済まない
父に借りた喪服はウエストが大きくてベルトをしても尚ずり落ちてくる
告別式のある歩いて20分程の小さなセレモニーホールの近くまで来ると入り切らない多くの参列者がそこここに溢れ大勢いるにも関わらず皆一様に息を潜めて音がしない
「家族葬って言ってたのに……」
外から見るだけのつもりだったが大きく空いた間口には何の制限もない、ホールの中に入ってみると………本当だった………
花とお線香の匂いが立ち込める祭壇の中で花に埋まった清宮が笑っている
祭壇の隅では泣き腫らす両親に代わり初めて見る本物の仁がマイクに向かって挨拶をしていた……台に上がっている訳でも無いのに後ろの方からでもよく見える
「お忙しい中お集まり頂きありがとうございます、家族だけで見送るつもりでしたが皆様から寄せられた多数のご厚意で………」
淡々と続く仁の挨拶は冷静で身を持ち崩した素振りは一切見せず卒無く立派だった
遺影を見上げてもどうしても信じられない
ほんの数日前一緒にカラオケでふざけ……司をギャフンと言わしてやろうと歳が明けたら道場で会う約束までして笑いあった
「───…………春人は二歳の時にうちに来ました、血は繋がっていませんが私の大事な弟で大事な家族でした、たった……たった25年の………………25年の………」
淀み無かった挨拶が突然途切れて止まった
表情は変わらないのに言葉が続かない
仁は………我慢して……崩れそうになるのを必死で耐えてあそこにいる
あちこちから漏れ出した嗚咽が堪らない
急に現実が押し寄せ喉の奥からせり上がった熱い塊に喉がヒリヒリする、心の栓が抜けてどっと溢れ出した涙が止まらなくなった
その場いるのも辛い挨拶はぐっと背を伸ばし持ち直した後はしっかり続き焼香が始まった
殆ど無関係なくせにそこには行けない
そのまま帰ろうとするとグッと肩を引かれた
「………仁…………さん……」
「君は…………神崎の?……」
「…はい……弟の樹です」
「よく似てるな、お兄さんの方かと思ったよ、うちの弟を知っててくれたんだ」
「俺……スノーボードを一緒に………こんな……」
喉が詰まって声の代わりに涙が溢れ落ちてくる
きっと一人になりたい筈
もっとゆっくり落ち着いて見送りたい筈
取り乱す事を我慢している仁の前で無神経に泣きたくないのに出て来るのはお悔やみどころか嗚咽だけだった
「樹くん………来てくれてありがとう、うちの春人がお世話になりました」
子供をあやすように頭に乗った手がくしゃりと髪を掴んで笑った仁はやっぱりこの世のものとは思えないくらい綺麗だった
何故見送りに来ない
帰りたいのに足が動かず、とうとう最後まで残っていたが兄は会場に来なかった
身内でさえしっかり立って義務をこなしているというのに何をしている
腹が立って兄のマンションのエレベーターから降りると部屋のドアを思いっきり蹴り付けた
「司!!いるんだろ!!何やってんだよ!司!!」
インターフォンを鳴らしても怒鳴っても返事はない、留守なのかとドアノブを回すとカギがかかっていない
「司?」
嫌な予感が頭を過ぎり足を踏み出すととっ散らかった玄関先にあった黒い瓶を蹴飛ばして大きな音を立てて転がった
「ハルっ?!………」
ベランダから部屋に飛び込んできた兄は顔を合わすなり明らかに落胆してヘタヘタとその場に座り込んでしまった
「司…………」
病気でも怪我でもないのに石に蹴躓いて転ぶよりずっと小さな不注意でこんな事になるなんて誰も謂わない、何の覚悟もないのだから当然かもしれないが……帰って来ない事がわかってるのに………待ってる
……現実を受け止める事が出来ないでいる兄を見てまた涙腺がジワリと熱くなった
「見送って来たよ………行ってしまった……」
「……………帰れよ」
「司…」
「帰れ」
のそっと立ち上がりまたベランダに出ていった背中は憔悴してそれ以上何も言えなくなった
年が明けて3日からデザイン部の仕事は始まった
お琴の旋律が流れる店舗は笑顔が弾ける楽しそうな客で溢れフルメンバーで対応する社員は歩く振りをしながら走り回ってる
嫌になる程何も変わらない風景が目の前に繰り広げられ、嫌が追うにも日常に引き戻された
「山内、整理券コピーしたけどこのまま売り場に持っていったらいいか?」
「いや、ここでバラしてから持っていって、カッターで切った後50枚づつ纏めて二百枚数えて揃えるから」
「わかった、山田さんも手伝ってもらえますか?」
「いいよ」
社内で処理出来る雑用係と変わりない発注がちょこちょこ持ち込まれ仕事に没頭出来るのはありがたかった
「神崎さん………来てくれて良かったな」
「うん…お葬式にも来なかったしな……どうなるかと心配したよ…」
「そう………だな」
一切連絡先が取れなかった神崎が朝に出勤してきた時には物凄くホッとしたが神崎と美咲が揃った所で別の心配が発生した
せっかく普段通り振る舞う神崎の前で泣き笑いを繰り返す美咲のスイッチがオンになれば全部が台無し………多分この心配は暫く続く
「結構普通で良かった」
「ロボットみたいだけどな……」
「山田さん………今は仕方ないですよ」
バタバタした年末年始、山田はシフトを無視して一人でデザイン部を支えてくれていた
昼食に出てそこにはいない神崎の席を見て三人とも安堵と憂鬱の混ざった重い溜め息をついた
「そう言えば神崎さん遅くないですか?」
「いいんじゃないか?……まだ暇だし……仕事は俺達だけでも充分間に合う」
「うん……そうだけど」
神崎が昼休憩に出てからもう2時間は経っていた
淡々と小さな仕事をこなしてはいたが胸の内は推しても余りある
「俺ちょっと店内を見て来るよ……きっと誰かが見てるから……」
「美咲……放って置けよ…………ゆっくり……待とう」
山田の言った「待つ」は休憩を終えるのを待つという意味じゃない
今はだれも使っていない空席になっているMac……暴れて凹んだ缶のペン立てに残ったボールペンはずっと清宮と一緒にいた、このデザイン部にいるだけでも全員が辛い思いをしている
「そう………ですね」
ファイルが開けっぱなしになった神崎のMacには作りかけのオブジェクトが放置されたままだった
嫌でも続きがある筈で帰って来るのを待てばいいと自分に言い聞かせて、サイズを知らせるトンボに合わせカッターを滑らせた
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