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ぶー

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men'sアナハイムは完全な会員制を取っている。
入店するには誰かに紹介を受けるか同伴するしか無く、その上で身分保障を要求される。
勿論だがそれらは記録される事は無い。

「それは……ここの客はみんな男のくせに男が好きって事を隠してるからですよね」
「そりゃ免許証をコピーさせて貰います、なんて言ったら誰も来なくなるかもしれないけどな、でも思い違いをすんなよ、ここの客に真の同性愛者なんて殆どいないと思うぞ」

「え?……でもここには男しかいませんよ?どうせお金を使うなら綺麗な女の人がいる普通のクラブに行くでしょう」

「うん、全員とは言えないけどどっちかって性倒錯者が多いような気がする、女に出来ないことをしたいんじゃ無い?」

「それは…」

わかる。知ってる。
男を買いに来る客は地位も、お金も、恐らく家庭だってあるくせにSっ気のある変態ばかりだと思う。人を痛め付けて興奮する輩だ。

「ここで働いている人は全員こんな仕事を納得してやってるんですか?」
「いや?ホストはホスト、俺らは俺ら、仕事は別だし客だって半分くらいは「そんな」メニューがあるなんて知らないんじゃ無いのかな」

「へえ……そうなんだ」

ようはホストの仕事はしなくてもいいって事だ。そこは良かったけど、そりゃそうかと思う。
適当に客の相手をしろと言われても多分何も出来ない。見た目は勿論だが話術の質も求められる結構な専門職なのだ。

「席に呼ばれて笑ったり飲んだりしなきゃならないんだと思ってました」
「客に呼ばれて一緒に飲めって言われる事はあるけどな、大概は俺達は声が掛かるまでここ遊んでりゃいいだけだ、食い物は駄目だけど酒は飲み放題、楽だろ?」

「楽……って言われても」
「まあな、どんな経緯があってこんなとこに来たのか知らないけどさ、嫌ならやめとけよ、お前にはまだ無理なんじゃ無いか?」

まだ無理って……、努力すれば出来るようになるって職種じゃ無い、この世で最低の所謂下の世話だと思うのだが違うのか?価値観の相違が激しい。

「そう言うあんたは?こんな仕事しなくても他にもっとマシな所あるんじゃないですか?借金?」
「いやいや、2、3時間で数万稼げるんだぜ?時給1000円とかで働く気なんて無いね」

「俺もだ」と会話に入って来た男はスラっとしたイケメンだ。贅肉も余分な筋肉も無い、走ったら速そうな陸上部体型とでも言うのだろうか、別にぴっちりした服を着ている訳でも無いのに、綺麗な体をしていると分かるのは姿勢がいいからだと思う。綺麗な顔と相まって清潔そうな風態はいかにも女の子にモテそうだなと思う。

「よろしく」と挨拶されたから頭を下げておいた。

誰も名前は言わないし聞かない。
通称もない。

みんな仮の世界を生きる幽霊達なのだ。
一歩店の外に出れば違う顔をして素知らぬフリで日常を生きている。

男2人は300万の時計が欲しいだの買ったばかりのポルシェをぶつけただの歳に合わない豪勢な話をしている。気張ってきた分、あまりにあっけらかんとしていて気が抜ける。

そのうちに自慢話が尽きたのか、飽きたのか、「お前は訳ありなんだろ」って話題の中心になってしまった。

何で訳あり前提なんだ。
余程しょぼくれて見えたのだと思うけど、ここでどう見られようが何でもいい。
何でもいいけどムカつくから撮る。
健二に後を付けられて正体を暴かれろ。

「俺も暇だからバイトに来ただけです」

「……うん、まあそこは聞かないけどさ、お前今日が初めてだろ?男とやった事あんの?さっきからライター弄ってるけど落ち着かないんだろ?ちゃんとNGは伝えてる?何でもありはやべえぞ、持ち込みでマジの鞭出してくる奴もいるからな」

知ってます。
悪いけど何でも有りは経験してます。
選ぶ権利もありませんでした。
いい服を着た細面の髭面でした。
もし店に来たら1番に写真を撮ります。

「そうなんですか、怖いな、皆さんは?元々同性愛者なんですか?」
「バッカ違うわ、まあ経験はあったけどね、あくまでバイト、この店は単価が高いし完璧に守られてるからな、歩合は結構取られるけど秘密厳守は相当だから安心だろ」

「なあ」って同意した男達は3人に増えてる。
今度は少し年長の短髪眼鏡。
胸筋がパリッと張ってるタイプだ。

「あの、こんな感じでいいんですか?」

とても静かな店内で悪目立ちしているような気がするのだ。店内を囲ったソファに座って待つと言うのは、客が商品を物色出来る様に陳列する様な物だと思っていた。それなのにその商品が固まって好きに雑談をしているし、胸筋眼鏡などは客席に背を向けている。
そろそろフロアの客も増えて来ているのだ。

「あんまり喋ってると怒られそうですけど」
「いいよ、そんな事気にすんな、どうせお呼びが掛かるのはもうちょい遅い時間が多いんだ、それにもしお呼びが掛からなくても日当が出るから安心しろよ、嫌なら断れよ」

「………はい、そうします」

好きに酒を飲んで座ってるだけで1万円。
それだけでも十分高額なバイトだと思うけど、お呼びが掛からない奴、呼ばれても断り続ける奴、客と外で会ってバレた奴はすぐに消えるそうだ。断るのは意外と簡単そうで良かった。

あんまり混ざれないから何も言えないけど、彼らの雑談を聞いていると、体を売るって究極の汚れ仕事なのにバイト感覚って本当のようだった。

「服が」
「靴が」
「旅行が」
「マンションを買う」

3人いる誰にも悲惨な背景なんか見えないし、働かないお荷物親父もいない。

こっちはこっちで何を聞かれても答えられる質問なんか一つもなく、適当に相槌を打っていると「酒は飲めるか?」と聞かれたから「勿論飲める」と答えておいた。

え?見栄を張ったんじゃないよ?

今は仕事中な訳で飲みたくても飲めないのだから飲むふりをしていたらいいのだ。

「じゃあ何か頼んでやる」と胸筋眼鏡。
別にいいのに……

何となくだがここでも子供扱いされているような気がする。頼んで無いのに、寧ろ放って置いて欲しいのにCカップはありそうな胸筋を持ち上げて手を上げた。
すると何も注文してないのにサッとグラスの乗ったお盆が目の前に出て来た。

異様に注目を浴びてるから仕方なく口を付けると……………
どう考えてもバヤリースのオレンジジュースだ。
もう一回飲んでもバヤリース。
落ち着けと、深呼吸してから飲んでもバヤリース。他のオレンジジュースならもしかしてお酒が入っているのかと疑うけどバヤリースなら間違えない。ただのバヤリースだ。

これはどういう事なのか、まさか店にまで子供扱いされているのかとお盆を持ってきた店員をよく見て………

ブーッとジュースを吐いた。

目の前で膝を付いているのは、バヤリースを持ってきたのはまさかの銀二だった。
この所見かけなかった銀二が年齢不詳の綺麗な顔を利用してホストに化けてる。

三ヶ所から差し出されたお絞りで口を拭いてもう一度よく見たけどやっぱり銀二。

素知らぬ顔をしたままサッと小さなカードを渡して行ってしまった。

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