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世の中の裏側
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何でも葵の父親が残した借金は他の闇金に借りた金額を足すと1000万を超えるらしい。
それは、お金を借りた当人が死んでしまったからと言っても諦めたり見過ごすには額が多かった。
闇金を「健全に」運営するには面子もある上、負債を背負っている他のろくでなしに逃げ道を与える悪い前例にもなりかねない。逃げても、死んでも駄目なのだと知らしめる必要があった。
闇金は管轄外である椎名にとっては関係ない上、口出し出来る話では無かったのだが、同じ組に席を置くあんまり質の良くない「ちょー嫌な奴」の勢力が、いい手が見つかったと騒いでいたから気になったのだと言う。
それは興味本位で目にして気持ちいい物では無かった。レイプ動画なんて巷に溢れているがまだ年端も行かぬ少年を凌辱する動画なんて吐き気を催す物だ。
しかも、そこに写っていた幼い顔には見覚えがあった。
紐で繋いだ首輪を引かれ、息も絶え絶えなのにその子は自分の手を噛んで耐えていたと言う。
「俺はさ、そん時に、──ああ、この子は全てを諦めて大人しくなったりしないと思ったんだ。」
「そうだな、葵なら……そうだろうな」
怒鳴りつけても、暴力を使って脅しても、閉じ込めても……そして首輪を付けて鎖で繋いでも、葵は多分諦めない。
大人しそうな顔をして、もう諦めた顔を装い、延々とドアの隙間を狙うだろう。
そしてその「諦めたフリ」がバレバレで可愛いのだ。想像したら笑えてくる。
「葵には無理だろうな」
「だろ?でもな、俺の目から見ても商品としての葵は中々の上物だと思う。そしたら逃げ出さないように……逃げる事が出来ないようにどうなるかわかるよな?、あいつは一見天涯孤独なんだ。突然消えても捜索願いが出る事もないし、廃人になろうが死のうが誰も気にしない」
「………生き延びたとしても商品価値がなくなる頃にはどっぷりとディープな薬漬けになってて…まともな人生はもう無いって事か……」
今の世の中は物質文化が巷に溢れ、「金が無い」とは「欲しい物が買えない」と同義語になっている。
虚しく無意な幸福だとは思うが、かく云う自分自身も家出をした当初は後ろ盾も無く、お金も無かったけど大した苦労もせずに悠々と過ごして来た。
しかし大多数が不自由無く暮らすこの豊かな国でも少し横道に逸れただけで見えなかった現実が見えて来る。銀二がいい例だ。
「今の日本でもそんな事があるんだな」
「あるさ、見えない所にはもっと酷い事もある、そんな中で葵の強さは諸刃の剣ってとこかな」
「でもその強さは役に立ってるよ」
「そうだな、可愛いし面白いし……葵くんを拾って良かったと思っている。」
「飲むか?」と心底疲れた顔をした椎名がウイスキーの瓶を差し出した。酒を飲んでる場合じゃ無いけど飲まなきゃやってられない。
グラスを取って来ると嘘みたいになみなみと茶色い液体を注いだ。
溢れないように上澄を啜ると全く旨く無い。
「葵を……見つけてあげないとな、あいつきっと待ってると思う」
「ああ」
もう10時を過ぎていた。
何もわかってなかった幸せで馬鹿な朝から一転、泡を食い、慌てて走り回った1日は長かった。
そしてこのまま終わってもいいのかを迷う。
超面倒見のいいお人好し椎名は「お腹を空かせて無いかな」とか「困ってないかな」とか「泣いてないかな」なんて不安を煽る独り言を散々呟き、帰るも何も言わずにフラフラと出て行った。
多分椎名は見た目よりずっと、ずっと深く打ちひしがれていたのだと思う。
いつもなら何を聞いてもおふざけしか帰ってこないのに、「葵を守る」と言った本当の意味を教えてくれた。
良くも悪くも闇金には法なんて関係無いが葵の父親が遺した借金は闇金だけで無く合法のローン会社の物もあった。
葵は父親が死んだ後、お得意の「逃げる」で何もかもを捨てて来たつもりだが相続放棄には一部期限があるのだそうだ。
だから委任状を「偽造」して裁判所での手続きを弁護士に任せたらしい。
うん。色々やってんだな。
葵は「脅迫の末の強制労働だ」なんてボヤいていたが、無給で働くのは当然だ。
いずれにしてもほぼ稼ぎの無い「法律では裁けない問題を解決します」はそろそろどうにかしないといけないと思ってる。
「なあ葵……もういいから帰って来いよ……俺1人に押し付ける気か?」
もしかして、事務所に帰ってきたけど入れないでいるのでは無いかと窓の外を見て、風呂に入ってもう一回見て、明かりを消してもう一回見たけど葵の姿はどこにも無かった。
それは、お金を借りた当人が死んでしまったからと言っても諦めたり見過ごすには額が多かった。
闇金を「健全に」運営するには面子もある上、負債を背負っている他のろくでなしに逃げ道を与える悪い前例にもなりかねない。逃げても、死んでも駄目なのだと知らしめる必要があった。
闇金は管轄外である椎名にとっては関係ない上、口出し出来る話では無かったのだが、同じ組に席を置くあんまり質の良くない「ちょー嫌な奴」の勢力が、いい手が見つかったと騒いでいたから気になったのだと言う。
それは興味本位で目にして気持ちいい物では無かった。レイプ動画なんて巷に溢れているがまだ年端も行かぬ少年を凌辱する動画なんて吐き気を催す物だ。
しかも、そこに写っていた幼い顔には見覚えがあった。
紐で繋いだ首輪を引かれ、息も絶え絶えなのにその子は自分の手を噛んで耐えていたと言う。
「俺はさ、そん時に、──ああ、この子は全てを諦めて大人しくなったりしないと思ったんだ。」
「そうだな、葵なら……そうだろうな」
怒鳴りつけても、暴力を使って脅しても、閉じ込めても……そして首輪を付けて鎖で繋いでも、葵は多分諦めない。
大人しそうな顔をして、もう諦めた顔を装い、延々とドアの隙間を狙うだろう。
そしてその「諦めたフリ」がバレバレで可愛いのだ。想像したら笑えてくる。
「葵には無理だろうな」
「だろ?でもな、俺の目から見ても商品としての葵は中々の上物だと思う。そしたら逃げ出さないように……逃げる事が出来ないようにどうなるかわかるよな?、あいつは一見天涯孤独なんだ。突然消えても捜索願いが出る事もないし、廃人になろうが死のうが誰も気にしない」
「………生き延びたとしても商品価値がなくなる頃にはどっぷりとディープな薬漬けになってて…まともな人生はもう無いって事か……」
今の世の中は物質文化が巷に溢れ、「金が無い」とは「欲しい物が買えない」と同義語になっている。
虚しく無意な幸福だとは思うが、かく云う自分自身も家出をした当初は後ろ盾も無く、お金も無かったけど大した苦労もせずに悠々と過ごして来た。
しかし大多数が不自由無く暮らすこの豊かな国でも少し横道に逸れただけで見えなかった現実が見えて来る。銀二がいい例だ。
「今の日本でもそんな事があるんだな」
「あるさ、見えない所にはもっと酷い事もある、そんな中で葵の強さは諸刃の剣ってとこかな」
「でもその強さは役に立ってるよ」
「そうだな、可愛いし面白いし……葵くんを拾って良かったと思っている。」
「飲むか?」と心底疲れた顔をした椎名がウイスキーの瓶を差し出した。酒を飲んでる場合じゃ無いけど飲まなきゃやってられない。
グラスを取って来ると嘘みたいになみなみと茶色い液体を注いだ。
溢れないように上澄を啜ると全く旨く無い。
「葵を……見つけてあげないとな、あいつきっと待ってると思う」
「ああ」
もう10時を過ぎていた。
何もわかってなかった幸せで馬鹿な朝から一転、泡を食い、慌てて走り回った1日は長かった。
そしてこのまま終わってもいいのかを迷う。
超面倒見のいいお人好し椎名は「お腹を空かせて無いかな」とか「困ってないかな」とか「泣いてないかな」なんて不安を煽る独り言を散々呟き、帰るも何も言わずにフラフラと出て行った。
多分椎名は見た目よりずっと、ずっと深く打ちひしがれていたのだと思う。
いつもなら何を聞いてもおふざけしか帰ってこないのに、「葵を守る」と言った本当の意味を教えてくれた。
良くも悪くも闇金には法なんて関係無いが葵の父親が遺した借金は闇金だけで無く合法のローン会社の物もあった。
葵は父親が死んだ後、お得意の「逃げる」で何もかもを捨てて来たつもりだが相続放棄には一部期限があるのだそうだ。
だから委任状を「偽造」して裁判所での手続きを弁護士に任せたらしい。
うん。色々やってんだな。
葵は「脅迫の末の強制労働だ」なんてボヤいていたが、無給で働くのは当然だ。
いずれにしてもほぼ稼ぎの無い「法律では裁けない問題を解決します」はそろそろどうにかしないといけないと思ってる。
「なあ葵……もういいから帰って来いよ……俺1人に押し付ける気か?」
もしかして、事務所に帰ってきたけど入れないでいるのでは無いかと窓の外を見て、風呂に入ってもう一回見て、明かりを消してもう一回見たけど葵の姿はどこにも無かった。
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