そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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49.基本は大事

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「お邪魔ーっぷ!」
「お、お邪魔します」
「センパイやっほ~!」

 8月に入ってすぐ、我が家にいつもの3人がやって来た。暑いのによく外出ようなんて思うよな。
 今日はかねてからの約束だった料理を教えるのだ。色々あったから忘れてくれるかと期待していたがそうはいかなかった。まぁ実際にあかりの勉強見てくれたし、平均以上の点数も取れた。約束は守らないとな。......何故竹田までいるのかは謎だが。
 食材は事前に買ってきてあるので早速調理だ。食材選びも大事だが、こいつらを連れて行くと騒いで買い物が終わる気がしない。今日作るのはシンプルなカレーだ。
 ちなみに、事前に何が作りたいか聞いてみたところ「男の胃袋を掴む肉じゃが!」「動画で見たパッカーンするオムライス!」「口の中で肉汁が爆発するハンバーグ!」「......パラパラのチャーハン」と返ってきた。うん、どれも素人がいきなり作るような料理じゃない。しかもなんでいちいち余計な表現が付いてるんだ。

「さて、料理を始める前に質問だ。料理をするにあたって1番大事なことは?」
「はい!愛情です!」
「よし、竹田。じゃあ愛情がこもってれば真っ黒なヘドロでも食うんだな?」
「え......それはちょっと......」

 実際に想像してしまったのか、当然とばかりに自信満々だった表情が苦いものへと変わった。

「はい!経験です!」
「それも違う。それなら初心者は美味い料理作れないだろ。正解は、レシピ通りに作ることだ」

 次いで答えた三井も否定する。たしかに経験も大事だが、今必要なのはそれではない。

「......レシピ通りに?そんな普通のことなの?」
「正確に言えば、『余計なことをしない』だな。これも入れた方が美味しいからとかアレンジしようとするから失敗する。初心者が1番失敗しやすいところだ。今回でいえば、はちみつやらヨーグルトやらを入れようだなんて考えるなよ?」
「うっ......」

 図星を突かれたような声をあげる如月。やっぱり考えてたのかよ......。お前優等生じゃなかったっけ?まぁまずはそれぞれがどの程度のレベルかの確認からだな。
 三井とあかりは問題なさそうだ。基本に忠実な三井と、最近では俺の料理姿を観察したり少しずつ手伝い始めたあかり。学習能力もあるし教えるのもそう苦労はしない。
 1番危険なのは竹田だ。うん、まずは包丁を逆手で持つのをやめような。変なポーズ取ろうとするし、剣豪か何かなの?こいつに料理させて大丈夫なのか?
 そして意外なのが如月。母親の料理を手伝っていると言っていたから大丈夫かと思いきや、それが逆効果なのか無駄にアレンジしようとする。

「だーかーら、普通の切り方でいいって言ってんだろ。勝手に変えんな」
「でも、こっちのほうが食べやすそうだし......」
「勉強と同じだ。基礎が出来てないのに応用が出来るわけないだろ」
「でも......」
「言うこと聞けないなら帰れよ。教えてほしいって言うからやってるだけで、俺はお前が料理出来なくても困らんからな」
「......はーい」

 強めに言うと渋々諦めてくれた。勉強面では優等生なんだけどなぁ。それが無駄に自信になってしまっているのか......。食材を炒める時も無駄にフライパンを振ろうとするし、チャーハンなんて作らせたら8割くらいはこぼしそうだ。
 入れ替わりで全員にひと通りの作業をさせてようやくカレーが完成した。疲れた......。やはり人に教えるなんて俺には向いてないんだろう。俺の目を盗んで焼き肉のたれを入れようとした奴は後で処してしまおうと思う。

「ん~!美味しい!」
「自分で作ると達成感もあって美味しく感じるね~!」
「ソラ君が作ればなんでも美味しい」
「私も美味しいもの作れるようになってセンパイに食べさせてあげますからね!待っててください!」

 待つもなにも教えてるの俺なんだが?そういうのはこっそり努力して成果を見せるものなんじゃないのか。......まずは包丁を正しく持つところからだしな。
 勉強会が終わっても我が家に集まってくる奴ら。この料理教室もいつまで続くのやら......。

 モヤモヤを抱えつつも、こいつらがいる日常が当たり前になりつつあることを感じてしまうのだった。

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