そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
49 / 52

49.基本は大事

しおりを挟む

「お邪魔ーっぷ!」
「お、お邪魔します」
「センパイやっほ~!」

 8月に入ってすぐ、我が家にいつもの3人がやって来た。暑いのによく外出ようなんて思うよな。
 今日はかねてからの約束だった料理を教えるのだ。色々あったから忘れてくれるかと期待していたがそうはいかなかった。まぁ実際にあかりの勉強見てくれたし、平均以上の点数も取れた。約束は守らないとな。......何故竹田までいるのかは謎だが。
 食材は事前に買ってきてあるので早速調理だ。食材選びも大事だが、こいつらを連れて行くと騒いで買い物が終わる気がしない。今日作るのはシンプルなカレーだ。
 ちなみに、事前に何が作りたいか聞いてみたところ「男の胃袋を掴む肉じゃが!」「動画で見たパッカーンするオムライス!」「口の中で肉汁が爆発するハンバーグ!」「......パラパラのチャーハン」と返ってきた。うん、どれも素人がいきなり作るような料理じゃない。しかもなんでいちいち余計な表現が付いてるんだ。

「さて、料理を始める前に質問だ。料理をするにあたって1番大事なことは?」
「はい!愛情です!」
「よし、竹田。じゃあ愛情がこもってれば真っ黒なヘドロでも食うんだな?」
「え......それはちょっと......」

 実際に想像してしまったのか、当然とばかりに自信満々だった表情が苦いものへと変わった。

「はい!経験です!」
「それも違う。それなら初心者は美味い料理作れないだろ。正解は、レシピ通りに作ることだ」

 次いで答えた三井も否定する。たしかに経験も大事だが、今必要なのはそれではない。

「......レシピ通りに?そんな普通のことなの?」
「正確に言えば、『余計なことをしない』だな。これも入れた方が美味しいからとかアレンジしようとするから失敗する。初心者が1番失敗しやすいところだ。今回でいえば、はちみつやらヨーグルトやらを入れようだなんて考えるなよ?」
「うっ......」

 図星を突かれたような声をあげる如月。やっぱり考えてたのかよ......。お前優等生じゃなかったっけ?まぁまずはそれぞれがどの程度のレベルかの確認からだな。
 三井とあかりは問題なさそうだ。基本に忠実な三井と、最近では俺の料理姿を観察したり少しずつ手伝い始めたあかり。学習能力もあるし教えるのもそう苦労はしない。
 1番危険なのは竹田だ。うん、まずは包丁を逆手で持つのをやめような。変なポーズ取ろうとするし、剣豪か何かなの?こいつに料理させて大丈夫なのか?
 そして意外なのが如月。母親の料理を手伝っていると言っていたから大丈夫かと思いきや、それが逆効果なのか無駄にアレンジしようとする。

「だーかーら、普通の切り方でいいって言ってんだろ。勝手に変えんな」
「でも、こっちのほうが食べやすそうだし......」
「勉強と同じだ。基礎が出来てないのに応用が出来るわけないだろ」
「でも......」
「言うこと聞けないなら帰れよ。教えてほしいって言うからやってるだけで、俺はお前が料理出来なくても困らんからな」
「......はーい」

 強めに言うと渋々諦めてくれた。勉強面では優等生なんだけどなぁ。それが無駄に自信になってしまっているのか......。食材を炒める時も無駄にフライパンを振ろうとするし、チャーハンなんて作らせたら8割くらいはこぼしそうだ。
 入れ替わりで全員にひと通りの作業をさせてようやくカレーが完成した。疲れた......。やはり人に教えるなんて俺には向いてないんだろう。俺の目を盗んで焼き肉のたれを入れようとした奴は後で処してしまおうと思う。

「ん~!美味しい!」
「自分で作ると達成感もあって美味しく感じるね~!」
「ソラ君が作ればなんでも美味しい」
「私も美味しいもの作れるようになってセンパイに食べさせてあげますからね!待っててください!」

 待つもなにも教えてるの俺なんだが?そういうのはこっそり努力して成果を見せるものなんじゃないのか。......まずは包丁を正しく持つところからだしな。
 勉強会が終わっても我が家に集まってくる奴ら。この料理教室もいつまで続くのやら......。

 モヤモヤを抱えつつも、こいつらがいる日常が当たり前になりつつあることを感じてしまうのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...