そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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48.決意と抱擁

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 用が済んだ親父たちを追っ払って、伯父さんが俺とあかりを家まで送ってくれた。
 荷物を放り出しソファに背中を預ける。疲れた。1週間が濃密すぎる......。金の問題は解決したのに、の問題が俺を悩ませる。こっちもいつまでも放置しておくってわけにもいかないだろう。このまま気づかないふりを続けても、どんどん泥沼にハマって抜け出せなくなるだけだ。


「ソラ君、大丈夫?」
「んあ?」
「向こうにいる時からなんか、ずっとボーッとしてるというか......何か考えてる気がして......」

 こいつもなかなか鋭いな。まぁ相談できるような事でもないんだが。

「気にするな。ずっと騒がしくて疲れただけだ」
「......ソラ君、立って」
「......なんだ?」

 とりあえず言われた通りに立ち上がる。すると——いきなりあかりが俺を抱きしめた。......え?

「......大丈夫。......私だけは味方だから。ずっと一緒にいるから」
「............」

 こいつ......そこまで気づいてるのか。向こうにいる時も普段よりさらにおとなしいとは思っていたがそんなこと考えてたのかよ。姉さんといい、勝手に人の考えてることを見透かすのはやめていただきたい。俺ってそんなに分かりやすいのかね?

「私はソラ君の義妹いもうとだから。約束どおり、ちゃんと支えるから」
「......おまえ」


 何故そんなことを言うのか......。それはまるで事実上の撤退宣言。違うだろ。だってお前は、あの時母親に——

 ”お母さん、私ね、初めて好きな人が出来たんだ。強くて優しくて、私に希望と勇気と誇りをくれた人。ソラ君のおかげで変われて、今は毎日が楽しいの。だからもう私のことは心配しなくて大丈夫。素敵な名前をつけてくれてありがとう、お母さん”

 あかりのセリフが思い出される。だが、義妹としてと支えるというのはその気持ちを押さえつけるってことか?

「ソラ君は気づいてるかもしれないけど......でも、私はこれでいいの。ソラ君にとって”唯一の義妹いもうと”だから。ソラ君にいっぱい大事なものを貰ったし、お母さんともちゃんと話せることも出来た。ソラ君に出会えたことが、私の人生で1番の幸せなんだよ」

 今まで見せたことが無いような微笑みに、俺はかける言葉が見つからなかった。あかりは恩を感じているだけとか家族としての愛情に飢えているからとかそういう可能性も考えたけど、俺のことが好きだと知ってようやく自分に向けられる好意にも向き合わなきゃと思い始めた矢先にこれだ。とても頭がついていかない。
 あかりは強い。俺なんかよりもずっと。
 人間は欲深い生き物だ。欲しいものが手に入るとその先も欲しくなる。なのにあかりはもう十分だとばかりにあくまで義妹であろうとする。いくら俺でも分かる。あかりは如月や竹田では決して出来ないやり方で俺に寄り添おうとしているんだ。自分は母親と和解出来たけど俺は違うから。父とも母とも相いれずに独りだから。そんな俺を心配して、自分だけは家族義妹であろうとしてくれている。
 俺が情けない姿を見せても見捨てずに寄り添ってくれるあかりに対して、その決断を受け入れてしまっていいものなのだろうか。あかりの意思は尊重したいが、それがあかりの本心なのかが分からない。
 混乱する頭のままで俺は......あかりを抱きしめ返した。

「バカ言ってんじゃねえ。俺も、お前も、これからも人生のほうが長いんだぞ。そんな簡単に1番だなんて決めてんじゃねえ。お前はっ今までずっと我慢してきたんだろうが。もっと欲張れよ。もっと我が儘になれよ。俺のためじゃなくて自分のために生きろよっ」

 抱きしめる力につい力が入ってしまう。が、あかりは嫌がるどころか同じくらいの強さで抱きしめ返してくる。まるで、私はちゃんとここにいるよ、と言わんばかりに......。
 もう自分でも何を言っているのかよく分からなくなっているが認めたくなかったのだろう。
 本当にバカだ。大バカ者だ。自分を義妹なんて役割に押し込めて、本当の望みを押し殺して、これでいいんだと自分を納得させるなんて......。


 そして、それをさせてしまっているのは俺なのだ。

 本当に大バカ者だよ、俺は。




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