そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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47.親と子

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 錦野家にお邪魔してから1週間。ようやく帰る時が来た。——ただし、俺とあかりを除いて。
 クソ親父殿と連絡がついて昨日帰国したと連絡があったらしい。そして今日が土曜日なのでここへ来るそうなのだ。
 俺のとこにも昨日のうちにメッセージが来ていた。なにやらカンボジアの一部地域で電波障害が発生してスマホが使用不能だったらしい。仕事のトラブルというのもその障害が原因だったようだ。心配かけてすまんとも来ていたが、俺が心配していたのは俺たちの生活費であってお前じゃねえよ。返信するのも面倒だったので既読無視してやった。どうせここへ来るんだし。
 錦野夫妻は知らせが来てからやたらニコニコしていたが、姉さんはその表情から何かを感じ取ったのか、みんなを連れてさっさと帰ってしまった。まぁわざわざみんなに聞かせるような内容でもないしな。





「こんの......バカタレがぁ!!」

 伯母さんの怒鳴り声が響いた。その矛先は正座している我がクソ親父殿。普段はめちゃくちゃ温厚なのだが怒ると怖い人なのだ。さすが姉さんの母親だけある。

「勝手に海外行ってトラブルがあったから帰れませんで済むか!お前たちのせいで、ソラとあかりは生活出来なくなるとこだったんだよ!」
「......本当に申し訳ない」
「そうだな。遠方へ行くなら事前の連絡はもちろん、トラブルも想定して当面の生活費などは渡しておくべきだ。そもそも君たち親の都合でソラたちは自分たちだけで生活をしているんだ。ならば普段から余分に渡しておくべきだと思うがね」

 伯父さんの援護射撃も容赦ない。1人暮らしは俺の希望だということは黙っていよう。原因はこいつにあるんだし。

「おっしゃる通りです」
「まったく。彩加経由で私たちに連絡来たから良かったものの、やっぱりお前には任せられないよ。ソラとあかりさえ良ければウチの子にするのに」

 ここに滞在中にも言われた言葉だ。だけど俺の答えは決まっている。

「伯母さん、ありがたいけど俺は今の生活が気に入っているんだ。だから大丈夫だよ。それに、こういうのは野放しにするとまた何するか分からないしね」

 俺だけでなく、こうして錦野家にも迷惑がかかっているのだ。またさらに女を作りましたなんて言われても困る。

「宙、すまない」
「いいか。俺はアンタもあの女も一生許さない。それだけは覚えておけ」
「待って!幸太郎さんは私のために——」
「何他人事のように言ってるんだ?アンタだって同じだろう?傷ついて遠く離れた場所で暮らし始めた娘になんで連絡もしてやらないんだ?心配じゃないのか?」

 庇おうと口を開いたあかりの母親にも飛び火する。線の細い、いかにも守ってあげたくなるような女性。それがあかりの母親だ。
 こいつらにどんな事情があって浮気して再婚までしたのか知らないが、あかりは下手したら2度と立ち直れない可能性だってあった。それほどまでに追い詰められた娘をよくも放置出来るものだ。この女も自分の幸せのほうが大事なのだろうか。さらに口を開こうとしたところで、隣に座っていたあかりに手を握られた。

「ソラ君、私は大丈夫だから。......お母さん、少し2人で話がしたい」
「......分かったわ」

 2人は連れだって部屋を出ていく。

「さぁ、こっちはこっちで話を続けようか」






 結局、毎月送金するのではなく、1年分を先に送金することに決まった。さらに俺たちの小遣い+将来のためのお金として増額となった。俺が口を挟む間もなく錦野夫妻が決定事項を通告するような形だ。
 俺は普段から無駄遣いはしないし、あかりも欲を口にすることがめったにないからそこまで必要かと思ったが、将来を考えれば免許取ったり車を買うとなれば必要にはなるか。俺は大学へ行く気はないけど、就職するとなれば車はあったほうが有利だろうし。
 それだけじゃなく、この男にあまり余裕を持たせないようにという狙いもあるらしい。自分のしたことに非があると感じるなら俺とあかりの為に生きてみせろとまで言ってくれた。これでは本当にどっちが親なのか分からない。情けないものだ。
 俺からは特に話すことも無いので部屋を出て自室へと向かう。その途中で話し声が聞こえてきた。あかりたちか。

「——ずっと怖くて聞けなかったんだけど、どうしてあかりって名前を私につけたの?」

 素通りしようと思ったのだが、聞こえてきた言葉につい足を止めてしまう。

「......私ね、夜空を見るのが好きだったの。周りに明かりがなくても星はずっと光ってて綺麗だから。みんなに愛されるような輝きを持ってほしいって思って。それに星ってたくさんあるけど、ひとつとして同じものはないじゃない?だから人と比べることなく自分の幸せを求めてほしいって願いを込めたの。......でも、そのせいですごくツラい思いをさせてしまったわね。本当にごめんなさい」

 答える母親の声は泣いているように震えていた。聞かないほうがいいと思っているのに足が動かない。

「そっか。そんな意味があったんだ。......たしかに色々あってツラい思いもしたけど、今はこの名前で良かったと思ってるよ。おかげでソラ君と出会えたし、友達も出来たんだ。そらあかりってピッタリでしょ?」
「そう......何もしてあげられなくてごめんなさい。私は母親失格ね」
「ソラ君の言ったことは気にしないで。きっと、私のために言ってくれただけだから。お母さん、私ね——」

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