そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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46.夏祭りといえば、遠い夢の中

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「じゃぁ、気を付けて行ってきてね」

 祭りの会場近くまでは伯母さんが車で送ってくれた。ちなみに姉さんは留守番だ。動きたくないらしい。

「お前ら、人様に迷惑だけはかけるなよ。面倒くさいから」

 とだけ言っていた。俺たちの心配じゃなくて自分が何もしたくないから釘を刺しただけのようだ。俺も居残りそっち側が良かったな。しかし囲まれてあっという間に車に押し込まれてしまった。こういう時って女子の力強いよな。女子力怖い。まぁ来てしまったものは仕方ない。伯母さんは一旦帰ってしまったし迎えを呼ばない限り帰れないのだ。

「いやぁ、この時間になると少し気温下がって過ごしやすいね~」
「それはいいんですけど、せっかくお祭りなら浴衣着てセンパイに見せたかったなぁ」
「それは仕方ないね。あ、じゃあ帰ったらみんなでまたお祭りか花火大会でも行かない?」
「賛成。ソラ君と花火見たい」
「いいねぇ!どうせソラっち暇でしょ?」

 何故か周りで俺の予定が勝手に組まれている。勘弁してほしい。浴衣が着れないのを残念がってはいるが、その分全員化粧もして髪型もおしゃれして普段より美人度が増している。それが4人。しかも男は俺1人という状況でめちゃくちゃ目立っている。道行く人が思わず2度見してしまうほどに。
 そりゃ見るよなぁ。なんせ現在俺の両隣には如月と竹田がひっついていて、後ろにあかりと三井が歩いている。系統こそ違えど、その全員が美少女なのだ。
 勘弁してほしいと思いつつも、こうなっている原因は分かっている。俺が明確な拒絶を示さないからだ。それを分かっていてこいつらも構ってくるんだろう。姉さんから言われたことを思い出す。

『——みんなからの好意には気付いているけど、自分が幸太郎さんの血を引いてるから、誰かと付き合ったりしてもいつか自分が同じことをして傷つけちゃうんじゃないかってビビってんだろ?』

 まさにその通りだ。これだけグイグイ来られて好意に気づかないほうがどうかしてる。三井は場をセッティングするだけで特に何もしてこないから違うんだろうけど。だからこそ、拒絶して傷つけてしまうことを恐れている。
 イジメられていたあかり。
 友達に裏切られハメられた如月。
 クラスでは表面上の友達しかいない竹田。
 みんな、心の内で孤独を抱えている。俺自身も痛みを知っているから拒絶しきれず、なんだかんだ流されて深みにハマっていく。自分のことながら、愚かとしか言いようがない。


「そら君大丈夫?体調悪い?」
「......何食おうか考えてただけだ。たこ焼きとかいいんじゃないか?」

 さすがは如月。人のことよく見てるよな。

「いいですね!それなら食べさせっこ出来そうですし!」
「いやしねえよ」

 この状況であーんなんてしようものなら視線だけで殺されそうな気がする。ふと目に入ったたこ焼きを選んでしまったのがいけなかったようだ。まぁ焼きそばとかよりは食べ歩きしやすいしいっか。
 と、買ったはいいがその際に屋台のおっちゃんにめちゃくちゃ睨まれてしまった。なんかすいません....
 たこ焼きは美味かった。ただし中がめちゃくちゃ熱かったが。ひと口でいかなくて本当に良かった......。

「センパイ!あー」

 左隣では当然のように竹田が口を開けてねだってくる。

「やめとけ。中熱すぎて確実に火傷するぞ」

 口の中の火傷と口内炎は地獄だからな。この後何も食べられなくなってしまう。パックごと渡して1つずつ食べていくと、6個入りだったから最後に1個余ったのが返ってきた。隣から熱い視線を感じたので仕方なくその口に突っ込む。さすがにもう冷めてるだろ。

「ん~!センパイから食べさせてくれるなんて最高!」

 とはしゃいだ竹田が左腕に抱き着いて来る。やっぱこうなるのね......。

「暑いからくっつくなよ」
「はーい!」

 元気よく返事をするが腕は離さない。分かってねえじゃねえか。さらに竹田に対抗するかのように右隣の如月がそっと腕をつかんでくる。抱き着いてくるよりはマシだがやめてほしい。ほら、周りの視線がすごいことになってきてるぞ。
 それからチョコバナナにわたあめにりんご飴にと各自が食べたい物の屋台へ引っ張られていった。俺が買うと睨まれてしまうので、ちょっと離れた場所で待機して食いたい奴に自分で買いに行かせたけど。

「センパイ!あれ!射的やりましょうよ!」
「やりたいなら待ってるから行って来いよ」
「えー、センパイのやってるところが見たいなぁ......」

 そう言われても、俺にそんな特技は備わっていない。青い狸飼ってる少年じゃあるまいし。しかし竹田は強引に腕を引っ張っていきお金を払って銃を俺に押し付けてくる。
 どうやら景品を直接打ち落とすのではなく、番号の書かれた札を打ち落とすと対応した景品がもらえるというシステムのようだ。

「センパイ!私、あのゲーム欲しいです!」

 竹田が指したのは1等と書かれている人気ゲーム機。アホか。あんなの数百円で取れるわけねえだろ。札も明らかに厚さが違うしかなり重そうだ。こんな貧弱な玩具で落とせるとは到底思えない。
 ということで無難にお菓子の番号札を狙う。玩具とはいえ銃を持ったことすら初めてなので外さないように的のど真ん中を狙う。すると狙いは若干逸れたがそれがうまい具合に端にあたって見事札を弾き落とした。

「ほれ、これで我慢しろ」
「え、いいんですか!やったぁ!」

 うれしそうにはしゃぐ竹田。結局なんでも良かったのかよ。
 金魚すくいもやってみたが2回トライして成果は0だった。こんなの無理ゲーじゃね?と思ったら三井が5匹ほど連続ですくっていた。何こいつ、プロかよ。

「うわぁ!亜美ちゃんすごい!」
「ふっふっふ。これにはコツがあるのだよ」

 如月の賞賛のこれに応える三井。眼鏡がキラリと光っているが、いったいどこからの光が反射してるんだ。


 まるで俺の思考をかき消すかのように、みんなが満足するまで引っ張りまわされるのであった——

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