そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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41.なつやすみっ

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 ついに待ちに待った夏休み。——のはずなのだが、現在俺は車に揺られている。


「ハァ......」
「ため息をつくな。気が散って事故るぞ」
「それは勘弁してくれ」

 隣でハンドルを握るのは我がクラスの担任である錦野先生。事故るのはもちろん勘弁だが、ため息をつきたくなるのも仕方ないだろう。

「どのみち挨拶には行かなきゃならないんだし、恨むなら自分の父親を恨むんだな」
「そんなのとっくに恨んでる。ため息の原因はそっちじゃねえよ」

 後部座席から聞こえてくるやかましい声にまたもため息が出そうになるが堪える。

「ソラっち!チョコ食べる?」
「いらん。おとなしくしてろ」
「ちぇっ。じゃ、あかりんにあげちゃお~」

 現在この車に乗っているのは6人。運転手の錦野先生、助手席に俺。2列ある後部座席にはあかりと三井、如月と竹田がそれぞれ座っている。なんで独身の先生がファミリーカーに乗っているかは怖いから聞かないでおこう。
 さて、この状況になっている原因はあの男にある。いつもなら毎月25日にお金が振り込まれてくる。そこから家賃の引き落とし、光熱費の支払い、生活費などを引き出して使っているのだ。
 しかし、6月分が振り込まれておらず、さらに7月26日になっても振り込まれていない。
 何度連絡しても電話もつながらずメッセージも既読すらつかない。あかりの母親のほうも同様に連絡がつかないらしい。普段からあまりお金を使わず節約していたのでなんとかなっているが、さすがに限界が来る。ということで仕方なしに錦野先生に連絡したというわけだ。

「はいはい!しつもーん!ソラっちと錦野せんせーってどういう関係?ただの教師と生徒じゃないよね?」

 まぁそれは気になるよなぁ。どうせこの後バレるしいいけどさ。

「あー、私とソラはなんだよ。私の母親とソラの父親が姉弟でな」
「え、まじ?そんなことある?でも、言われてみればソラっちとせんせーちょっと似てるような......気もする」
「そっか。だからあの時・・・も急に学校来て助けてくれてもあっさり任せたんだ......」
「......初耳」
「えー!でもでも、それって大丈夫なんですかー?先生と生徒ってなんかヤバい気もしません?センパイの担任の先生ですよね?」
「だから今まで誰にも言わなかったんだ。あかりの時と違ってバレたら面倒だからな。本当ならこのまま誰にも知られずに済むはずだったのに......」

 生徒同士がいとこだろうが兄妹だろうが問題ないが、教師と生徒だと大きく変わってくる。バレれば確実に問題になって担任は変更になり、黙っていたことについて処分を受けるだろう。

「で、結局これってどこ向かってんの?とりあえず必要な荷物しか知らされてないんだけど。その話と関係あるっぽい?」

 え、こいつら行き先も知らずにのこのこついてきたの?頭大丈夫?

「向かってるのは私の実家だ。ソラの父親と連絡取れないからってのと、あかりの顔見せもまだだからな」
「それはいいけど、なんでオマケまで呼んだんだよ。俺とあかりだけでいいだろ」
「いいじゃないか。せっかく普段からお前と仲良くしてくれる子たちだろ?優等生の如月にあかりと仲のいい三井。それに毎日昼飯一緒に食ってる後輩の竹田。羨ましいねえ」
「ニヤニヤすんなよ。ってかなんで竹田のことまで知ってんだ......」
「教師ナメんなよ~?せっかくひとりの場所が欲しいっていうお前のために国語準備室貸してやってんのにまさか後輩を連れ込んでるとはな~」
「連れ込んでねえ。勝手におしかけられて迷惑してんだ」
「......なるほど。あそこなら誰も寄り付かないし静かに過ごせるのね」

 教師が連れ込むなんて言葉を安易に使わないでほしい。あとなんか後ろからぼそぼそ聞こえる気がするが気にしないでおこう。

「ま、せっかくの夏休みだ。思い出くらい作っておくもんだぞ」
「さっすがせんせー!良いこと言う~!」

 それは自身の苦い経験からくるアドバイスだろうか。大きなお世話だが。俺はそういう青春とかよりひとりで小説でも読んでいるほうが好きなんだ。せっかく夏休みは長いし、普段読まないジャンルでも開拓してみようかなと思っていたのに。

 これが片付いたら残りの夏休みは絶対に引きこもってやるからな......と心に決めた。


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