そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
41 / 52

41.なつやすみっ

しおりを挟む


 ついに待ちに待った夏休み。——のはずなのだが、現在俺は車に揺られている。


「ハァ......」
「ため息をつくな。気が散って事故るぞ」
「それは勘弁してくれ」

 隣でハンドルを握るのは我がクラスの担任である錦野先生。事故るのはもちろん勘弁だが、ため息をつきたくなるのも仕方ないだろう。

「どのみち挨拶には行かなきゃならないんだし、恨むなら自分の父親を恨むんだな」
「そんなのとっくに恨んでる。ため息の原因はそっちじゃねえよ」

 後部座席から聞こえてくるやかましい声にまたもため息が出そうになるが堪える。

「ソラっち!チョコ食べる?」
「いらん。おとなしくしてろ」
「ちぇっ。じゃ、あかりんにあげちゃお~」

 現在この車に乗っているのは6人。運転手の錦野先生、助手席に俺。2列ある後部座席にはあかりと三井、如月と竹田がそれぞれ座っている。なんで独身の先生がファミリーカーに乗っているかは怖いから聞かないでおこう。
 さて、この状況になっている原因はあの男にある。いつもなら毎月25日にお金が振り込まれてくる。そこから家賃の引き落とし、光熱費の支払い、生活費などを引き出して使っているのだ。
 しかし、6月分が振り込まれておらず、さらに7月26日になっても振り込まれていない。
 何度連絡しても電話もつながらずメッセージも既読すらつかない。あかりの母親のほうも同様に連絡がつかないらしい。普段からあまりお金を使わず節約していたのでなんとかなっているが、さすがに限界が来る。ということで仕方なしに錦野先生に連絡したというわけだ。

「はいはい!しつもーん!ソラっちと錦野せんせーってどういう関係?ただの教師と生徒じゃないよね?」

 まぁそれは気になるよなぁ。どうせこの後バレるしいいけどさ。

「あー、私とソラはなんだよ。私の母親とソラの父親が姉弟でな」
「え、まじ?そんなことある?でも、言われてみればソラっちとせんせーちょっと似てるような......気もする」
「そっか。だからあの時・・・も急に学校来て助けてくれてもあっさり任せたんだ......」
「......初耳」
「えー!でもでも、それって大丈夫なんですかー?先生と生徒ってなんかヤバい気もしません?センパイの担任の先生ですよね?」
「だから今まで誰にも言わなかったんだ。あかりの時と違ってバレたら面倒だからな。本当ならこのまま誰にも知られずに済むはずだったのに......」

 生徒同士がいとこだろうが兄妹だろうが問題ないが、教師と生徒だと大きく変わってくる。バレれば確実に問題になって担任は変更になり、黙っていたことについて処分を受けるだろう。

「で、結局これってどこ向かってんの?とりあえず必要な荷物しか知らされてないんだけど。その話と関係あるっぽい?」

 え、こいつら行き先も知らずにのこのこついてきたの?頭大丈夫?

「向かってるのは私の実家だ。ソラの父親と連絡取れないからってのと、あかりの顔見せもまだだからな」
「それはいいけど、なんでオマケまで呼んだんだよ。俺とあかりだけでいいだろ」
「いいじゃないか。せっかく普段からお前と仲良くしてくれる子たちだろ?優等生の如月にあかりと仲のいい三井。それに毎日昼飯一緒に食ってる後輩の竹田。羨ましいねえ」
「ニヤニヤすんなよ。ってかなんで竹田のことまで知ってんだ......」
「教師ナメんなよ~?せっかくひとりの場所が欲しいっていうお前のために国語準備室貸してやってんのにまさか後輩を連れ込んでるとはな~」
「連れ込んでねえ。勝手におしかけられて迷惑してんだ」
「......なるほど。あそこなら誰も寄り付かないし静かに過ごせるのね」

 教師が連れ込むなんて言葉を安易に使わないでほしい。あとなんか後ろからぼそぼそ聞こえる気がするが気にしないでおこう。

「ま、せっかくの夏休みだ。思い出くらい作っておくもんだぞ」
「さっすがせんせー!良いこと言う~!」

 それは自身の苦い経験からくるアドバイスだろうか。大きなお世話だが。俺はそういう青春とかよりひとりで小説でも読んでいるほうが好きなんだ。せっかく夏休みは長いし、普段読まないジャンルでも開拓してみようかなと思っていたのに。

 これが片付いたら残りの夏休みは絶対に引きこもってやるからな......と心に決めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...