37 / 52
37.押しかけと押し付け
しおりを挟む「センパ~~~イ!待ってくださいよーう」
校門を出たところで後ろから声を上げて走って来たのは後輩の竹田。
「何か用か?」
「もう!お昼に言ったじゃないですか~。今日センパイのお家にお邪魔しますねって」
「......記憶にございません」
「なにその政治家みたいな回答!?とにかく!これは決定事項です!勝者の権限ですからね!」
「チッ」
「はい、センパイのちぃですよ~!」
そうだった、こいつに舌打ちは逆効果だ。クソっ。
「分かった分かった仕方ねぇ......って腕を組もうとすんじゃねぇ」
「あっもう......せっかくチャンスなのに」
油断も隙もあったもんじゃない。まぁいいさ。こっちにも考えがある。
帰宅して竹田の相手をしていると、すぐにあかりが帰ってくる。
「ただい......ま?」
「おかえり。さっさと着替えてこいよ」
「あ、うん」
そして着替えてきたあかりを座らせて俺とバトンタッチ。ふっ、完璧な作戦だ。
「こいつの相手してやってくれ。竹田、あかりは初心者だから教えてやってくれ」
「おっまかせあれ~!ってセンパイは?」
「俺は飯の支度とか色々やることあんだよ」
「ちぇっ。ま、いっか。じゃ、あかりセンパイいきますよ~」
「え、あっうん......?」
さーて、まずは洗濯だな。最近は雨続きだったから今日みたいな晴れの日は逃せない。ホントは朝干せればいいんだがさすがに時間が無い。
そして自室で宿題をこなしてからご飯を炊く。今日は......チキン南蛮もどきだな。下ごしらえをして肉を焼いていく。油をあまり使いたくないので、電子レンジで熱を通したあとに揚げ焼きする。いい匂いがしてくると、飢えた獣が寄ってくる。
「お肉のいい匂いぃぃぃぃぃ」
「......なんだ、まだいたのか」
「なんだとはなんですか!センパイが構ってくれないからあかりセンパイとずーっと2人で遊んでたんですぅ!」
「そうか。そろそろ飯だから帰っていいぞ」
「嫌です!センパイの作ったご飯が食べたいです!」
「2人分しか無いから無理だな」
「うぅ......そんな......せめて1口だけでもぉ......」
うるせぇな。飯くらい帰って食えばいいだろうに。いちいち相手するのも面倒くさいので、焼きあがったチキンを一欠片皿にのせて甘酢とタルタルをかけて渡してやる。すかさず笑顔になった竹田は口に放り込んで咀嚼すると目を輝かせた。
「んまぁぁぁぁぁぁぁ!!え、なにこれめっちゃ美味い!もしかして甘酢とタルタルも手作りなんですか!?ヤバい!口の中が......!革命だ!」
大袈裟だな。甘酢もタルタルも使う機会なんてそう多くないし作った方が量も味も調整出来るってだけなのに。
「あかりセンパイは毎日こんなに美味しいものを食べて......そりゃ可愛くなるのも納得です......」
「アホか。食って可愛くなるなら俺は今すぐ学校辞めて商売始めるわ」
しかもまだ2カ月も経っていないのに即効性がありすぎる。
「むむぅ......よし!こうなったら、センパイ!私に料理を教えてくだ「断る」さい!って、断るの早いですようぅぅぅ」
「お前料理出来ないのか......。掃除は?洗濯は?まさか足以外ポンコツなのか......?」
「しっつれいな!でも足以外って、センパイは私の綺麗な足に興味あるってことですかぁ?やだぁ。センパイがどーしても見たいって言うなら、見せてあげてもいいですけどぉ?」
「ハァ。いいからもう帰れ。家で飯作ってくれてるんじゃないのか?」
「むぅ......相変わらずつれないですねぇ。仕方ない、今日の所は帰りますけど、私はあきらめませんからね!」
何をあきらめないのか知らんけどようやく帰ってくれた......。さて、これで飯に——
「わ、私も......お料理、教えてほしい」
「............」
こいつまで何を言い出すん......いや、待てよ?
「料理したことは?」
「......ない」
デスヨネー。なんか当たり前のように、自分の分作るついでだしと毎日俺が作ってるから気が付かなったけど、これは由々しき事態だ。掃除や洗濯は自分の分はやらせているからいいが、料理が出来ないとなるとこいつの1人暮らしは実現が難しくなる。
面倒くさいし断ろうと思ったがそういうわけにもいかないようだ。いちから教えるとなるとどれだけ骨が折れるか分からない。むしろ心が折れる可能性すらある。しかしひとり暮らし奪還のためにはなんとしてもやり遂げなければならない。
「いいだろう。料理の何たるかを叩き込んでやる。ただし、ちゃんと勉強もしろよ」
「......!うん、よろしくお願いします」
俺とて誰かに教わったわけじゃないし自己流だが、基礎を教えるくらいは出来るだろう。初心者が料理をするうえで1番大事なのは、変にアレンジしようとせずにレシピ通り作ることだからな。
あとゆで卵作るのに電子レンジを使おうとしてはいけない。絶対にだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】偽りの告白とオレとキミの十日間リフレイン
カムナ リオ
青春
八神斗哉は、友人との悪ふざけで罰ゲームを実行することになる。内容を決めるカードを二枚引くと、そこには『クラスの女子に告白する』、『キスをする』と書かれており、地味で冴えないクラスメイト・如月心乃香に嘘告白を仕掛けることが決まる。
自分より格下だから彼女には何をしても許されると八神は思っていたが、徐々に距離が縮まり……重なる事のなかった二人の運命と不思議が交差する。不器用で残酷な青春タイムリープラブ。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる