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37.押しかけと押し付け
しおりを挟む「センパ~~~イ!待ってくださいよーう」
校門を出たところで後ろから声を上げて走って来たのは後輩の竹田。
「何か用か?」
「もう!お昼に言ったじゃないですか~。今日センパイのお家にお邪魔しますねって」
「......記憶にございません」
「なにその政治家みたいな回答!?とにかく!これは決定事項です!勝者の権限ですからね!」
「チッ」
「はい、センパイのちぃですよ~!」
そうだった、こいつに舌打ちは逆効果だ。クソっ。
「分かった分かった仕方ねぇ......って腕を組もうとすんじゃねぇ」
「あっもう......せっかくチャンスなのに」
油断も隙もあったもんじゃない。まぁいいさ。こっちにも考えがある。
帰宅して竹田の相手をしていると、すぐにあかりが帰ってくる。
「ただい......ま?」
「おかえり。さっさと着替えてこいよ」
「あ、うん」
そして着替えてきたあかりを座らせて俺とバトンタッチ。ふっ、完璧な作戦だ。
「こいつの相手してやってくれ。竹田、あかりは初心者だから教えてやってくれ」
「おっまかせあれ~!ってセンパイは?」
「俺は飯の支度とか色々やることあんだよ」
「ちぇっ。ま、いっか。じゃ、あかりセンパイいきますよ~」
「え、あっうん......?」
さーて、まずは洗濯だな。最近は雨続きだったから今日みたいな晴れの日は逃せない。ホントは朝干せればいいんだがさすがに時間が無い。
そして自室で宿題をこなしてからご飯を炊く。今日は......チキン南蛮もどきだな。下ごしらえをして肉を焼いていく。油をあまり使いたくないので、電子レンジで熱を通したあとに揚げ焼きする。いい匂いがしてくると、飢えた獣が寄ってくる。
「お肉のいい匂いぃぃぃぃぃ」
「......なんだ、まだいたのか」
「なんだとはなんですか!センパイが構ってくれないからあかりセンパイとずーっと2人で遊んでたんですぅ!」
「そうか。そろそろ飯だから帰っていいぞ」
「嫌です!センパイの作ったご飯が食べたいです!」
「2人分しか無いから無理だな」
「うぅ......そんな......せめて1口だけでもぉ......」
うるせぇな。飯くらい帰って食えばいいだろうに。いちいち相手するのも面倒くさいので、焼きあがったチキンを一欠片皿にのせて甘酢とタルタルをかけて渡してやる。すかさず笑顔になった竹田は口に放り込んで咀嚼すると目を輝かせた。
「んまぁぁぁぁぁぁぁ!!え、なにこれめっちゃ美味い!もしかして甘酢とタルタルも手作りなんですか!?ヤバい!口の中が......!革命だ!」
大袈裟だな。甘酢もタルタルも使う機会なんてそう多くないし作った方が量も味も調整出来るってだけなのに。
「あかりセンパイは毎日こんなに美味しいものを食べて......そりゃ可愛くなるのも納得です......」
「アホか。食って可愛くなるなら俺は今すぐ学校辞めて商売始めるわ」
しかもまだ2カ月も経っていないのに即効性がありすぎる。
「むむぅ......よし!こうなったら、センパイ!私に料理を教えてくだ「断る」さい!って、断るの早いですようぅぅぅ」
「お前料理出来ないのか......。掃除は?洗濯は?まさか足以外ポンコツなのか......?」
「しっつれいな!でも足以外って、センパイは私の綺麗な足に興味あるってことですかぁ?やだぁ。センパイがどーしても見たいって言うなら、見せてあげてもいいですけどぉ?」
「ハァ。いいからもう帰れ。家で飯作ってくれてるんじゃないのか?」
「むぅ......相変わらずつれないですねぇ。仕方ない、今日の所は帰りますけど、私はあきらめませんからね!」
何をあきらめないのか知らんけどようやく帰ってくれた......。さて、これで飯に——
「わ、私も......お料理、教えてほしい」
「............」
こいつまで何を言い出すん......いや、待てよ?
「料理したことは?」
「......ない」
デスヨネー。なんか当たり前のように、自分の分作るついでだしと毎日俺が作ってるから気が付かなったけど、これは由々しき事態だ。掃除や洗濯は自分の分はやらせているからいいが、料理が出来ないとなるとこいつの1人暮らしは実現が難しくなる。
面倒くさいし断ろうと思ったがそういうわけにもいかないようだ。いちから教えるとなるとどれだけ骨が折れるか分からない。むしろ心が折れる可能性すらある。しかしひとり暮らし奪還のためにはなんとしてもやり遂げなければならない。
「いいだろう。料理の何たるかを叩き込んでやる。ただし、ちゃんと勉強もしろよ」
「......!うん、よろしくお願いします」
俺とて誰かに教わったわけじゃないし自己流だが、基礎を教えるくらいは出来るだろう。初心者が料理をするうえで1番大事なのは、変にアレンジしようとせずにレシピ通り作ることだからな。
あとゆで卵作るのに電子レンジを使おうとしてはいけない。絶対にだ。
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