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35.過去との決着
しおりを挟むいよいよ梅雨も本格的になり、朝から雨雲さんが張り切っている。部活がーとか嘆いている生徒もいるが、帰宅部の俺も雨は好きじゃない。洗濯物は乾かないし買い物するにも傘を差さなきゃならないから面倒だ。
体育祭を中止にしてくれなかった雨雲さんに用はない。さっさと消え去るがいい。いや、消えると「夏だ!」と言わんばかりに太陽が調子乗るからほどほどに漂ってて下さいお願いします。
ようやく心がスッキリしたと思ったのにうまくかみ合わないもんだな。
釜田の襲撃事件でまたジロジロ見られるかと思ったが、全然そんなことはなかった。まぁ冷静に考えてみればそうか。
あの場にいなかった人間は俺と釜田の関係など知らない。ただ乱闘を眺めていた奴がいるくらいにしか思わないだろう。最後にちょびっと釜田と話しただけだしな。
そして注目されるのは、実際に乱闘に参加した静動コンビと錦野先生だ。翌日は朝から囲まれて大変そうだった。もてはやされる2人は俺の名前は出さず、剛田の一派が自分たちを狙ってきたと説明していた。
錦野先生の担当授業が始まった時に、勇気ある1人の男子生徒が乱闘について質問したが無視された。聞こえなかったのかともう1度繰り返すとめちゃくちゃいい笑顔で「お前次のテスト、マイナス10点な」と言われて崩れ落ちた。ドンマイ。その勇気は素晴らしいが相手が悪かったな。
ちなみにあの時、如月やあかりが来たのは静浦が声をかけたかららしい。だからあんなにベタベタしてきたのか。ありもしない日常や約束を捏造して、よくやるよな。どうやったのかは知らんけどまさか絶対遵守の力とか持ってないよな?まぁおかげで助かったのも事実だしいいけど。
竹田については知らないと言っていたので偶然来ただけだと思うが、1番最初に来てアドリブであの演技が出来るとは......女優の才能でもあるのか?
乱闘についてもこちら側に非は無いと判断されて処分は無かった。乗り込んできたのは向こうだし、たいして怪我もさせたわけでもないしな。錦野先生が手を回した可能性もないとは言えないが。
「神谷」
うおっ。まさか考えていることを見抜かれたのかというほど見事なタイミングで錦野先生に呼び止められた。
「......なんすか」
「ちょっと指導室まで来い」
まじかよ。お説教?俺何も悪いことしてないぞ?しかし愚痴っても拒否ってもこの人に勝てないことはよーく知っている。早く帰りたいのを堪えておとなしくついていく。
「わざわざすまんな。だがあまり他の生徒に聞かれたくないだろうと思ってな」
「はぁ」
「釜田の件だ。本人の話と向こうの教師からの情報だがな。釜田は高校進学後、成績が芳しくなくて剛田たちとつるむようになったそうだ。それで問題を起こして謹慎中にも関わらず今回の事件を引き起こしたということだ。だが何故わざわざお前を狙ってきたのかまでは吐かなかった」
そういうことかよ。あいつ思考だけじゃなくて学力の方も馬鹿だったのか。
「......こないだのテスト明け、あかりを動物園に連れて行ったんだ。その帰り道にあいつらと遭遇しちまったんだよ。その時謹慎中だったのかは知らんけど、格下のはずの俺が女連れだったのが気にいらなかったんだろうよ」
「なるほどな。ふっ......あいつがお前に嫉妬だなんて愉快な話じゃないか。ま、あいつはおそらく退学だろう。本人ももう行く気はないみたいなこと言ってたしな」
「そっか。......俺さ、あらためてあいつのこと見て、怖いと思わなかったんだ。なんで今までビビってたんだろうって。俺が怖かったのはあいつ自身じゃなくて、そういう空気だったのかもしれない」
「お前の場合は親の問題もあったからな。近くに味方がいないっていう事実が余計に苦しめたんだろう」
ああそうか。あの頃は親も教師もクラスメイトも、誰も助けてくれなかった。全員が敵だった。だから過剰に反応してしまったんだ。
でも今は違う。あかりに如月、竹田、兵動、静浦、そして錦野先生。みんな俺を見捨てずに味方として立ってくれた。戦ってくれた。その事実が俺を呪縛から解き放ったのだろう。だから釜田のこともありのままの姿が見えて怖いとは思わなかった。
「......いつのまにかいろんな人に支えられてたんだな」
「そうだ。だがそれもお前の行動の結果だろう?お前に救われて、憧れて、自分の意志で味方でいてくれるんだ。心強いだろ?」
この先ずっとひとりで生きていくんだと思っていた。それで構わないと。他人と関わるとろくなことが無いし、嫌な思いをするからと自分から避けてきた。でも、マイナスなことばかりじゃなかった。まさかトラウマから救われるなんて思ってもみなかった。
「......ああ。俺、この学校に来て良かったよ。ありがとう————ねえさん」
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