そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
35 / 52

35.過去との決着

しおりを挟む


 いよいよ梅雨も本格的になり、朝から雨雲さんが張り切っている。部活がーとか嘆いている生徒もいるが、帰宅部の俺も雨は好きじゃない。洗濯物は乾かないし買い物するにも傘を差さなきゃならないから面倒だ。
 体育祭を中止にしてくれなかった雨雲さんに用はない。さっさと消え去るがいい。いや、消えると「夏だ!」と言わんばかりに太陽が調子乗るからほどほどに漂ってて下さいお願いします。
 ようやく心がスッキリしたと思ったのにうまくかみ合わないもんだな。

 釜田の襲撃事件でまたジロジロ見られるかと思ったが、全然そんなことはなかった。まぁ冷静に考えてみればそうか。
 あの場にいなかった人間は俺と釜田の関係など知らない。ただ乱闘を眺めていた奴がいるくらいにしか思わないだろう。最後にちょびっと釜田と話しただけだしな。
 そして注目されるのは、実際に乱闘に参加した静動コンビと錦野先生だ。翌日は朝から囲まれて大変そうだった。もてはやされる2人は俺の名前は出さず、剛田の一派が自分たちを狙ってきたと説明していた。
 錦野先生の担当授業が始まった時に、勇気ある1人の男子生徒が乱闘について質問したが無視された。聞こえなかったのかともう1度繰り返すとめちゃくちゃいい笑顔で「お前次のテスト、マイナス10点な」と言われて崩れ落ちた。ドンマイ。その勇気は素晴らしいが相手が悪かったな。
 ちなみにあの時、如月やあかりが来たのは静浦が声をかけたかららしい。だからあんなにベタベタしてきたのか。ありもしない日常や約束を捏造して、よくやるよな。どうやったのかは知らんけどまさか絶対遵守の力とか持ってないよな?まぁおかげで助かったのも事実だしいいけど。
 竹田については知らないと言っていたので偶然来ただけだと思うが、1番最初に来てアドリブであの演技が出来るとは......女優の才能でもあるのか?
 乱闘についてもこちら側に非は無いと判断されて処分は無かった。乗り込んできたのは向こうだし、たいして怪我もさせたわけでもないしな。錦野先生が手を回した可能性もないとは言えないが。

「神谷」

 うおっ。まさか考えていることを見抜かれたのかというほど見事なタイミングで錦野先生に呼び止められた。

「......なんすか」
「ちょっと指導室まで来い」

 まじかよ。お説教?俺何も悪いことしてないぞ?しかし愚痴っても拒否ってもこの人に勝てないことはよーく知っている。早く帰りたいのを堪えておとなしくついていく。

「わざわざすまんな。だがあまり他の生徒に聞かれたくないだろうと思ってな」
「はぁ」
「釜田の件だ。本人の話と向こうの教師からの情報だがな。釜田は高校進学後、成績が芳しくなくて剛田たちとつるむようになったそうだ。それで問題を起こして謹慎中にも関わらず今回の事件を引き起こしたということだ。だが何故わざわざお前を狙ってきたのかまでは吐かなかった」

 そういうことかよ。あいつ思考だけじゃなくて学力の方も馬鹿だったのか。

「......こないだのテスト明け、あかりを動物園に連れて行ったんだ。その帰り道にあいつらと遭遇しちまったんだよ。その時謹慎中だったのかは知らんけど、格下のはずの俺が女連れだったのが気にいらなかったんだろうよ」
「なるほどな。ふっ......あいつがお前に嫉妬だなんて愉快な話じゃないか。ま、あいつはおそらく退学だろう。本人ももう行く気はないみたいなこと言ってたしな」
「そっか。......俺さ、あらためてあいつのこと見て、怖いと思わなかったんだ。なんで今までビビってたんだろうって。俺が怖かったのはあいつ自身じゃなくて、そういう・・・・空気だったのかもしれない」
「お前の場合は親の問題もあったからな。近くに味方がいないっていう事実が余計に苦しめたんだろう」

 ああそうか。あの頃は親も教師もクラスメイトも、誰も助けてくれなかった。全員が敵だった。だから過剰に反応してしまったんだ。
 でも今は違う。あかりに如月、竹田、兵動、静浦、そして錦野先生。みんな俺を見捨てずに味方として立ってくれた。戦ってくれた。その事実が俺を呪縛から解き放ったのだろう。だから釜田のこともありのままの姿が見えて怖いとは思わなかった。

「......いつのまにかいろんな人に支えられてたんだな」
「そうだ。だがそれもお前の行動の結果だろう?お前に救われて、憧れて、自分の意志で味方でいてくれるんだ。心強いだろ?」

 この先ずっとひとりで生きていくんだと思っていた。それで構わないと。他人と関わるとろくなことが無いし、嫌な思いをするからと自分から避けてきた。でも、マイナスなことばかりじゃなかった。まさかトラウマから救われるなんて思ってもみなかった。





「......ああ。俺、この学校に来て良かったよ。ありがとう————ねえさん」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...