そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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33.敵と味方

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「神谷、おはよう」

 登校した俺に真っ先に挨拶をしてきたのは隣の席の如月ーーではなく、いつだかのチャラ男だった。

「おう、なんか用か?」
「聞きたいことがあるんだけど、お前って 尾名中おなちゅう出身か?」
「......だったらなんだ?」

 聞きたくない単語が飛び出してきてつい冷たい返事をしてしまう。

「やっぱりそうか。俺の友達が尾名高おなこうにいるんだけど、どうも神谷について嗅ぎ回ってる奴がいるみたいなんだよ。たしか......釜田かまたって言ったかな」

 その名前に、思わず拳を握りしめてしまう。尾名高の釜田といえば間違いなく俺をイジメた元凶の奴だ。またあいつかよ......勘弁してくれ。
 だが妙な話だ。俺が復讐する為に奴のことを調べるとかなら分かるが、逆に俺を調べてどうするつもりだ?
 たしかに同級生で神谷は俺だけだったから出身と名字で情報集めれば特定は出来るが......。

「その顔はあまり好ましくない関係のようだな。俺も聞いたところによると評判は良くないみたいだし」
「......ああ、2度と関わりたくない奴だ」
「分かった。何が目的かちょい探ってみるわ。あ、もちろんお前の情報は流さねえから心配すんなよ」
「あ、おう」

 なんでこいつこんなに協力的なん?ぼっちを誑かしても何も出ないぞ?こういう妙に親切な奴ほどあっさり裏切るような気もするんだが気のせい?
 尾名は中高一貫だからあいつらはそのまま尾名高に進学しているだろう。だがこないだたまたま会ったからといって今更何を?情報を集めつつチャラ男に任せるしかないか......。







 そして翌日の放課後。

 俺は————裏切られた。


 何事もなく1日の授業が終わり、さあ帰ろうと1番乗りで下駄箱に到着しようかというその時だった。外から騒音が聴こえてきて、顔を上げた俺の目に入ったのは——門から学校の敷地内に入ってくる数台のバイクだった。
 今どき暴走族?絶滅危惧種じゃなかったのか。ノーヘルに2ケツにやりたいほうだいだ。今すぐ滅ぼしてやろうか。バ〇ス。いやもうバ〇サンで十分かもしれない。虫みたいに群がってるし。
 だが甘いな。暴走族ごときで俺の帰宅を止められるとでも——

「おい、この学校にいる神谷っての呼んで来い」

 先頭のバイクに乗っていたガタイのいい男が声を発する。カミーヤ?そんなメンタル不安定そうな名前のやつがこの学校にいるのか?

「いや、その必要はない。こいつが神谷だ」

 男の後ろから聞こえてきたその声に、思わず体が強張ってしまう。なんで——

「よう。こないだぶりだな」
「な、なん......で」

 声を聞くな関わるなと自分に言い聞かせようとするが体は動いてくれない。
 あの頃は色々あったし、毎日のように顔を合わせていたから状況に慣れていたこともあって無視できた。だがこいつらがいない日常が当たり前となっている今、かつての光景がフラッシュバックしてしまう。

「あ?むかつくんだよ。親からも捨てられたクズのくせに彼女連れて歩いてよ。だからお前の目の前で奪ってやろうと思ってな。ついでにこの学校の奴らにもお前のことよーく知ってもらおうぜ?」

 やめろやめろやめろやめろやめろ。体は動かないのに心臓の音だけが大きく響く。やっと解放されたと思ったのに。あかりだってようやく前に進めたのに。なんで全部壊そうとするんだ。

「おい、なんだこいつ。震えて言葉も出ないじゃねえか」
「俺たちが怖いんだろ。だから剛田はついてこなくてもいいって言ったのに」
「お前が面白いことするっていうから見に来たんだろ?」
「ま、さっさとこいつの女を......」

「——センパイ!」

 突如、背後から聞こえてきたのはすっかり聞きなれた声。

「もう、センパイったら先に帰っちゃうなんてひどーい!ところでこちらは知り合い?」
「......たけ、だ」
「いつもみたいに、ちぃって呼んでよ~!」

 そう言って俺の右腕に抱き着いて来る。

「こないだとは違う女じゃねえか。どうなってやがんだ」
「この女じゃねえのか?でも上玉じゃねえか。こいつは期待できそうだ」

 鎌田と剛田がなにやら話しているが俺は混乱して状況についていけなかった。
 そこへさらに火薬が追加される。

「そ、そら君!帰りにデ、デートしようって約束したのに......」
「......一緒に帰る」

 如月が空いていた左腕に抱き着き、後ろからあかりが制服の裾をつまむ。は?何が起こった?

「なんでこんなやつが3人も......しかも可愛い子ばかり......」
「おい、こいつぶちのめせば俺たちが好きにできるんだよな?」



「——久しぶりだな、剛田」

 そして、舞台は整ったとばかりに玄関から出てきたのは......笑みを浮かべたチャラ男だった。

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