そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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31.最終形態

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 大丈夫、何もおかしなことはないはずだ。なのに何故だ。この言葉にならないモヤモヤはなんなんだ。

 ガラッ――

「ただい......ま?」

 何故に疑問形?と思ってそちらを向いた俺は硬直してしまう。そこに立っていたあかりは、今朝からまた更に変わっていた。どこがなんてひと目でわかる。今度こそ、髪を切っているのだ。これであかりの目を遮るものは何もない。
 何も言うことができずに固まっている俺よりも隣が先に動き出した。

「勝手にお邪魔しててすいません!私、1年の竹田千豊って言います~!神楽坂先輩ですよね!髪切ったんですか!?めっちゃかわいい~!!」

 座っていたはずなのに一瞬であかりとの距離を詰めると、マシンガンのように話しかける。なに、実はこいつも能力者なん?この状況も相まって、あかりはただ困惑するばかりだ。

「お、おい、とりあえず落ち着けって。あかりが困ってるだろ」
「センパイ羨ましいです......。こんな可愛い女の子を独り占めできるなんて」
「ひとっ......してねえよ」
「え、してないんですかぁ?こんなに可愛いのに何もないなんてセンパイ大丈夫ですか?」

 おい、かわいそうなものを見る目で俺を見るんじゃねえ。

「あかりはただの義妹いもうとだそれ以上でも以下でもない。それよりもう満足しただろ。暗くならないうちに帰れよ」
「ぶー。もっと構ってくれてもいいのに......。まあ今日は帰りますね!お邪魔しにきます!」

 わざわざ『また』のところを強調してきやがる。約束があるので2度と来るなとは言えない。
 あー、なんで勝負なんか受けたんだか。1時間前の俺を殴ってやりたい。ともかく嵐のような後輩は帰っていった。これでやっとくつろげる......。

「えっと......私、お邪魔でしたか......?」
「え、なにが?むしろ助かったくらいだ......」
「つ、付き合ってるんです、か?」
「は?誰が?......俺と、あいつが?それはないだろ。なんか知らんがただまとわりついてるだけだ」
「そ、そのわりには、仲が、良さそうでした......」

 ......ただゲームしてただけなのにな。

「ただの先輩と後輩。それ以外なんもねえよ」
「ほん、とうに......?」
「当たり前だ。嘘ついてどうすんだよ......。それより髪、切ったんだな」
「う、うん。......変、かな?」
「どこが?いいんじゃねえの?......頑張ったんだな」
「......うんっ」

 あかりにとって髪を切るというのは他の人とは違う意味を持つ。今朝のようにただピンで留めるだけなら、いつでも前髪フィールドを展開可能だ。しかし切ってしまえばそれを完全に失う事になる。相当勇気が必要だったんだろうことは俺にでも分かる。あかりはちゃんと、前に進んでるんだな。
 ふと時計を見ればとっくに18時を回っていた。ゲームをしている間に思っていた以上に時間が経っていたようだ。あかりも帰って来たことだしな。

「あー、すまん。家のことまだ何もしてないんだ。とりあえず飯か......。買い物もしてないしどうするかなー」

 言いつつ冷蔵庫を確認する。うん、作れるな。
 夕飯に作ったのはチャーハンだ。材料もちょうどいい感じだったし、あかりのお気に入りの料理らしいしな。ついこないだ作ったばかりの気もするが味を変えれば問題ないだろう。
 あかりがウチに来て初めて作ってやったのもチャーハンだった。あれからまだ1ヶ月と少ししか経っていないのに色々とあってあかりは劇的と言っていいほどに変わった。いい方向に。
 ついには自分から壁を取り除くことを決意するまでになるなんて正直思ってもみなかった。これで性格ももっと前向きになってくれればいいんだがな。
 俺自身も色々とあったし考えなければいけないこともある。こうして変化していく義妹あかりを見ていると、自分だけ立ち止まっているわけにはいかないと思えてくる。見事なまでの立場逆転だ。
 ちなみにチャーハンを食べるとき、あかりは今まであった長い前髪が無いのをしきりに気にしつつも美味しいと食べてくれた。



 そして夕食と風呂を済ませた後、電源だけ切ってそのままにしてあったゲームを片付けようとしたら、あかりに止められた。

「......私も、やりたい」
「なんだ、お前もゲームに興味あったのか」
「......ぅ、うん、私も......一緒に、やりたい」

 まあ寝るにはまだ時間もあるし暇つぶしにはいいか。後輩が忘れて放置していた携帯ゲーム機をあかりに持たせてルールを説明する。やりたいと言ったものの、ゲームの名前は聞いたことあるけどルールとかは全く知らないと言い出すのだから笑ってしまう。まあ今までの生活環境を考えれば無理もないか。
 あかりは最初こそ苦戦していたものの、飲み込みはいいようで1戦ごとに上達していく。あかりばかりに構っていられない。俺自身も対人戦に慣れて、またいつ勝負と言われてもいいように備えなければ。
 2人の対戦はそのまま日付が変わるまで続いたのだった。

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