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30.勝者の権限
しおりを挟む「えへっ」
「............」
俺は無言でスマホを取り出す。えーと、1、1、0、と。
「わー!ストップストーーップ!センパイ、通報しようとしてますよね!?」
「......いや、家に不審者いたら通報するだろ」
「不審者じゃなくて可愛い後輩ですよー!」
「いつの間に入ってきたんだよ。ただのホラーだろ......」
「いやー......ちゃんと、今からお邪魔してもいいですか?って聞いたんですけど、センパイ反応してくれなくて......。ほら、無言は肯定と同義って言うじゃないですかぁ!なのでお邪魔しちゃいました!」
なんで偉そうに胸張ってんだよ......。頭が痛い。思わず頭を抱えてしまう。
「それにしてもすごくキレイにしてますね~!ここでセンパイが暮らしてるんだぁ......」
勝手に人に家をジロジロ見るのは失礼だぞ。あと早く帰って欲しい。1人にさせてくれよ......。
「んで、なんか用か?」
「いえ、用というか......センパイが元気なかったので何かできればと思いまして......」
「そうか。今は1人にしておいてくれればいい」
「それはダメです!落ち込んでいる時に一人でいると余計に考え込んじゃいます!何かして気分転換しましょう!」
そういやあかりもそうだったとか言ってたな。それで1人は寂しいって。それが万人に共通するとは限らないけどな。
「何かないんですか?一緒に遊べるような何......か」
キョロキョロしていた後輩の目がある一点で止まった。
そこにあったのは、テレビに接続されたゲーム機。わりと新しめの物だが持っているディスクはそう多くはない。
「センパイ、Vii持ってるん出すね!私も欲しいけど親がなかなか買ってくれないんですよぉ」
「そうか。じゃあ帰れ」
「よし、センパイ勝負しましょう!負けたほうが勝った方の言うことを聞くってことで」
「よし、却下だ帰れ」
「なんでですかー!やりましょうよ!負けたらなんでも言うこと聞きますよ?」
「そもそもコントローラーがひとつしかないし勝負なんてできないだろ」
「ふふふ、甘いですねセンパイ。これをこうしてこうすれば......出来ました!」
後輩が手に持っていたのは自分の物であろう携帯型ゲーム機。それをViiに繋げることでコントローラーとしても使えるということらしい。便利すぎだろ。というか学校にゲーム持っていってんじゃねえよ。だから勉強出来ないんじゃないのか?
今はゲームなんてやる気分ではない。が、なんでもか。
「本当になんでもなんだな?」
「センパイ、顔が怖いですよぉ。センパイのお願いならちぃ、頑張っちゃいますよ!」
――――どうしてこうなった。結果は2連敗。見事なまでの完敗だった。
「えへへ、センパイに勝っちゃった!」
「......」
こいつ何者だよ。実力もさる事ながら、嫌なタイミングで一番嫌な場所にお邪魔虫を落としてくるという運まで味方につけていやがる。
「センパイ、もしかして、対人戦の経験あまりないんですか......?」
「ぐっ......」
その通りだった。俺はひたすらCPUを相手にどれだけ連鎖をできるかということを追求していた。そのため、今回みたいに意思を持って邪魔をされることに極端に弱いのだ。仕方ないじゃないか!たとえネット越しでパズルだろうと、人間相手なんてぼっちにはハードルが高いんだよ。
だが言い訳をしても仕方あるまい。負けは負けだ。
「......で、何が望みなんだよ」
「そうですね......。センパイとデートもいいんですけど、ここは......これからもセンパイの家に遊びに来たいです!」
「却下だ」
「えええええええええ!ダメです!これは決定事項です!勝者の権限です!」
あー、頭痛の種がまた増えるのか。人生の嫌なこともパズルみたいにすぱっと消えてくれればいいのにな。
ただ、ゲームとは違って何十色という種類を組み合わせなければならないんだろうけど。めんどくせえ。
「あ、ちなみにセンパイが勝ったら何をさせるつもりだったんですか?」
「んあ?決まってんだろ。俺の存在をお前の記憶から消すことだ」
「えええええええええ!そんなのできるわけないじゃないですかあああああああ!勝ってよかったぁ......」
やかましい。まあ勝負も終わったしこれで......。
「さ、もう1戦しましょう」
「え、なんで?」
終わったんだから帰れよ。
「賭けとかなしで単純な勝負です!センパイはこのまま負けたままでもいいんですかぁ?」
言葉とともにニヤリとする生意気な後輩。いいだろう、その挑発乗ってやるよ。
その後数戦して、俺はなんとかギリギリ後輩から初勝利をもぎ取ったのだった。
「えへへ、負けちゃいましたぁ......」
「なんで負けて嬉しそうなんだよ」
「楽しかったから勝ち負けなんていいんです!センパイは楽しくなかったですか......?」
「どうだろうな。ま、誰かと遊ぶなんてことなかったし新鮮ではあったな」
「それなら良かったです!」
何を考えていたかなんて忘れて、つい熱中してしまった。こいつなりに気を使ってくれたんだよな。それはまあありがたいと思わなくもない。調子に乗るから言葉にはしてやらねえけど。
ガチャ――。
突如響いたその音に俺はビクッとしてしまった。ただあかりが帰って来た、それだけだ。なのに、脳内では、何故かアラートがけたたましく鳴り響いていた。
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