そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
29 / 52

29.決意の証

しおりを挟む


 翌朝。俺はあまり寝付けずボーッとする頭で悩んでいた。
 無様な姿を晒して助けられ膝枕までされて、今日からどういう顔でどう接すればいいのか分からないのだ。
 いくら考えても答えは出ずに無情にも時間だけが過ぎていく。
 そして制限時間終了を知らせる扉の音。あかりが起きてきたのだ。

「お、おはよう......」

 俯く俺にかけられる、いつにもまして小さい声。そのまま無言で朝食を終え学校へ行く支度をする。
 やがて着替え終わり、部屋から出てきたあかりを見て俺は言葉を失ってしまう。
 正面から2人。今までは長い前髪が邪魔して目と目が合うことなんてほとんどなかった。しかし、今はその前髪が無くなっている。無くなっていると言っても切ったわけでもはなくピンで留めているだけなのだが、目が見えているかどうかだけで印象はガラリと変わる。さらにあかりは健康状態が改善された美少女だから余計にだ。

「......な、なん、で」
「やっと、決心がついたの。......ソラ君が言ったんだよ。自分から壁作ってんじゃねえって。私ももう逃げない、前に進むって決めたの。ソラ君のおかげだよ。ありがとう」

 そう言って微笑む彼女に、俺は言葉を返せなかった。





 学校へ行くと、予想通り教室内はけっこうな騒ぎになった。席に着くなり前の席には人が群がってくる。鬱陶しいことこの上ない。中心近くには女子が集まって質問攻めにしているがその外側には男子たちも群がっており、あかりの顔をよく見ようと、または情報にありつこうと必死だ。
 変わるとはいったものの注目されることに慣れていないあかりはつい俯きがちになってしまう。そうすると長い髪が自然と顔を隠そうとしてしまう。あかりはなんとか質問に答えようとしているが、質問は次々と投げかけられてくる。
 俺は、その光景をどこか遠くの出来事のように眺めていた。
 正直、俺はあかりのことに構っている場合ではなかった1日たった今でも昨日のことが勝手に脳裏に浮かんでしまう。本当に情けない。何をやっているんだろうな。始めて会ったあかりに冷たい態度を取って散々偉そうなことばかり言って、結局俺自身がこれじゃあな。
 昨日動物園になんか行かなければ。あかりのお願いなど聞かなければ。あの日、あかりの同居を断っていれば。
 いや、やめよう。たらればを言いだしたらキリがない。
 それに、あかりは俺を助けてくれたんだ。これは俺が逃げ続けてきた結果だ。今も過去に囚われているのは俺もまた同じなのだ。
 その日の授業は一切頭に入ってこなかった。隣の席から声がかけられても、昼休みに後輩がやかましくても、今の俺にそれらは届かない。
 いっそ、忘れてなかったことにしてしまいたい。だが、そうやって逃げてきた結果が昨日のアレなのだ。また逃げても、いつかは同じような状況になるのだ。
 なにより、俺自身がきちんと過去を克服して前を向かなければ、散々偉そうに言ってきたあかりに対して示しが付かない。もう誰かに無様な姿を晒すのはこりごりだ。どうやってかは分からないけど、なんとかして克服しなければ......。



 気がつけば授業は全て終わり放課後になっていた。学校へ何をしに来ているのかわかったものでは無い。さっさと帰り支度をして教室を後にする。とりあえず帰って寝よう。
 いつもより重い足を引きずって帰路に着く。ああ、家が遠い。空飛ぶ玄関マットが学校まで迎えに来てくれないかな......。そもそもマット敷いてないけど。
 などとぼんやり考えていると――

「どーーーーーーーーーーーん!!!!!」

 という掛け声とともに俺の腰は砕けた。いや、まじで砕けてるんじゃねえの?ってくらいの勢いで何かが来た。

「セーーーーンパイ!!」

 まあ心当たりは1人しかいないんだけどな。

「今日元気ないみたいですけどどうしたんですかぁ?」
「......」
「ねぇセンパーイ!無視しないでくださいよ~」

 もはや答える気力すらもない。まあ、無視してればそのうち帰るだろ......。そう思いつつ終わらない考え事をしながら帰宅した。

 いつもどおり自室へと向かってカバンを置き着替える。すると、スマホにメッセージが来ていることに気が付く。
 あかりからで、今日は友達の家に寄るという内容だった。俺としては、晩ご飯をどうするかだけ分かればそれでいい。
 そして先に家事を終わらそうと自室を出るとそこには——




「えへっ」

 困ったようにはにかむ後輩の姿があった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

処理中です...