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29.決意の証
しおりを挟む翌朝。俺はあまり寝付けずボーッとする頭で悩んでいた。
無様な姿を晒して助けられ膝枕までされて、今日からどういう顔でどう接すればいいのか分からないのだ。
いくら考えても答えは出ずに無情にも時間だけが過ぎていく。
そして制限時間終了を知らせる扉の音。あかりが起きてきたのだ。
「お、おはよう......」
俯く俺にかけられる、いつにもまして小さい声。そのまま無言で朝食を終え学校へ行く支度をする。
やがて着替え終わり、部屋から出てきたあかりを見て俺は言葉を失ってしまう。
正面から見つめ合う2人。今までは長い前髪が邪魔して目と目が合うことなんてほとんどなかった。しかし、今はその前髪が無くなっている。無くなっていると言っても切ったわけでもはなくピンで留めているだけなのだが、目が見えているかどうかだけで印象はガラリと変わる。さらにあかりは健康状態が改善された美少女だから余計にだ。
「......な、なん、で」
「やっと、決心がついたの。......ソラ君が言ったんだよ。自分から壁作ってんじゃねえって。私ももう逃げない、前に進むって決めたの。ソラ君のおかげだよ。ありがとう」
そう言って微笑む彼女に、俺は言葉を返せなかった。
学校へ行くと、予想通り教室内はけっこうな騒ぎになった。席に着くなり前の席には人が群がってくる。鬱陶しいことこの上ない。中心近くには女子が集まって質問攻めにしているがその外側には男子たちも群がっており、あかりの顔をよく見ようと、または情報にありつこうと必死だ。
変わるとはいったものの注目されることに慣れていないあかりはつい俯きがちになってしまう。そうすると長い髪が自然と顔を隠そうとしてしまう。あかりはなんとか質問に答えようとしているが、質問は次々と投げかけられてくる。
俺は、その光景をどこか遠くの出来事のように眺めていた。
正直、俺はあかりのことに構っている場合ではなかった1日たった今でも昨日のことが勝手に脳裏に浮かんでしまう。本当に情けない。何をやっているんだろうな。始めて会ったあかりに冷たい態度を取って散々偉そうなことばかり言って、結局俺自身がこれじゃあな。
昨日動物園になんか行かなければ。あかりのお願いなど聞かなければ。あの日、あかりの同居を断っていれば。
いや、やめよう。たらればを言いだしたらキリがない。
それに、あかりは俺を助けてくれたんだ。これは俺が逃げ続けてきた結果だ。今も過去に囚われているのは俺もまた同じなのだ。
その日の授業は一切頭に入ってこなかった。隣の席から声がかけられても、昼休みに後輩がやかましくても、今の俺にそれらは届かない。
いっそ、忘れてなかったことにしてしまいたい。だが、そうやって逃げてきた結果が昨日のアレなのだ。また逃げても、いつかは同じような状況になるのだ。
なにより、俺自身がきちんと過去を克服して前を向かなければ、散々偉そうに言ってきたあかりに対して示しが付かない。もう誰かに無様な姿を晒すのはこりごりだ。どうやってかは分からないけど、なんとかして克服しなければ......。
気がつけば授業は全て終わり放課後になっていた。学校へ何をしに来ているのかわかったものでは無い。さっさと帰り支度をして教室を後にする。とりあえず帰って寝よう。
いつもより重い足を引きずって帰路に着く。ああ、家が遠い。空飛ぶ玄関マットが学校まで迎えに来てくれないかな......。そもそもマット敷いてないけど。
などとぼんやり考えていると――
「どーーーーーーーーーーーん!!!!!」
という掛け声とともに俺の腰は砕けた。いや、まじで砕けてるんじゃねえの?ってくらいの勢いで何かが来た。
「セーーーーンパイ!!」
まあ心当たりは1人しかいないんだけどな。
「今日元気ないみたいですけどどうしたんですかぁ?」
「......」
「ねぇセンパーイ!無視しないでくださいよ~」
もはや答える気力すらもない。まあ、無視してればそのうち帰るだろ......。そう思いつつ終わらない考え事をしながら帰宅した。
いつもどおり自室へと向かってカバンを置き着替える。すると、スマホにメッセージが来ていることに気が付く。
あかりからで、今日は友達の家に寄るという内容だった。俺としては、晩ご飯をどうするかだけ分かればそれでいい。
そして先に家事を終わらそうと自室を出るとそこには——
「えへっ」
困ったようにはにかむ後輩の姿があった。
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