そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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28.ヒーロー

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 俺たちの前に現れたのは、4人の男女。そいつらを視界に入れた途端、俺の足はピタリと止まってしまった。
 当然あかりの足も止まりこちらを伺ってくるが、俺はそれに気づくことができない。
 彼らもこちらに気がつき俺に視線が集まる。なんで立ち止まってしまったのだろう。気づかないふりをして立ち去れば何事もなかったかもしれないのに。
 彼らは一瞬で俺の正体に気づいてコソコソと話し始める。やがて、彼らの中でもリーダーっぽい1人が話しかけてくる。

「おー、誰かと思えば、。俺らと違う高校トコ行ったって聞いてたけど元気だった?てか一緒にいるの誰?まさか彼女じゃねえよな?」

 ニヤニヤしながら1人がそう言い出すと、残りのやつらもそれに追随するように話し出す。

「えー、まっさかー!こいつに彼女なんてありえないって!」
「そうそう!もしかしてその子、騙されてるんじゃないの?教えてあげたら?」

 まさに言いたい放題だ。言い返してやろうと口を開こうとするが何故か言葉が出てこない。もうあの時とは違うって思っても、喉は渇く一方で体も固まったように動かない。まるで自分の体じゃないようだ。
 その後も彼らは昔の話を続け、俺を貶した。もういいじゃないか。いつまで続くんだ。俺がお前らに何をしたんだよ。そう思うも俺は何もすることができず、彼らの会話をただ聞いていることしかできない。
 彼らが単なる元同級生だったのなら、俺は立ち止まることもなく去っていただろう。それが出来なかったのは、彼らが俺をと呼び始めた張本人でありイジメの主犯でもあったからだ。


「......やめて、ください!」

 突然彼らの会話を遮って言葉を発したのは、驚いたことに隣にいるあかりだった。

「知って、います。ソラ君が昔、どんな目に遭っていたのか。あなたたちが、何をしたのかも。でも、そんなの関係ありません。ソラ君は、何があってもソラ君だし、わ、私は、ソラ君の名前が好きです。私は、私の意思で一緒にいるんです。ソラ君は、あなたたちみたいな、人の気持ちを考えられない人たちと違って、素敵な人なんです!」

 俺は突然の事態に頭がついていかず、あかりが言った内容すらも聞き流してしまった。彼らはつまらなそうに舌打ちをしたり、「お熱いねー」と冷やかしたりしながら去っていった。


 そこからどうやって家まで帰ったのかはよく覚えていない。覚えているのは、あかりに手を引かれていたこと。そしてその手が震えていたことだけだ。
 帰宅してソファに倒れこむと、俺は温かいものに包まれた。10秒ほどフリーズしてようやく、俺はあかりに膝枕されていることに気がついた。添えられた手はまだ震えている。
 彼女の体温を感じていると徐々に落ち着いてくると同時に、思考も戻ってくる。俺は、あかりに助けられたのか......?なにをやっているんだ。散々偉そうなこといっておいてこのザマかよ。

「いったい、なんだってんだよ......」

 乾いた喉から声が漏れ出る。数秒した後、あかりはポツポツと語りだした。

「私ね、イジメられてから自分には価値がないって、生きていても仕方ないってずっと思ってた。でも、ここへ来てソラ君に出会って救われて、生きていたいって思うようになったの。ソラ君は、私にとってヒーローだったんだよ」

 あかりは微笑みながらそう言った。急になんなんだよ。ヒーローだったって過去形だろ?なにが言いたいんだ。

「でも、それも私の勝手な理想の押し付けだね。......簡単で当たり前なこと忘れてた。私も、ソラ君も、ひとりの人間なんだってこと。いつでも強くいられるわけじゃないってこと」

 そうだ。その通りだ。俺は強くなんかない。あかりも如月も俺を強いと言うがそれは間違いだ。過去だって克服したわけじゃない。戦うことすら放棄して、誰もいないここへ逃げてきただけだ。強がって見て見ぬふりして、ひたすら逃げ続けた結果が今日のこのザマだ。ホント情けねえ。
 こんな俺にはあかりに何も言う資格なんて無い。こいつもそう思っているだろう。こんな姿見て失望しただろうな。やっぱり誰とも関わるべきじゃなかったんだ。これからも俺はひとりで――。

「だから、私がソラ君を支える」
「――――は?」

 今、なんて?

「ソラ君が私にしたみたいに守るっていうのは私には出来そうにないけど、さ、支えるくらいなら、私にもできるかもしれないから......」

 あかりは泣きそうになりながらもそう言った。

「......なんでお前が泣きそうになってんだよ」

「ほ、本当はね、ソラ君にも、私と同じように、弱い部分があって......ホッとしているの。ごめんなさい......」

 そう吐き出して、あかりは嗚咽を漏らし始めた。

「謝ることじゃないだろ。......ありがとな」

 乾いた喉から声を絞り出す。


 夕日が差し込む部屋であかりの嗚咽を聞きながら、俺もまた泣きたい気持ちでいっぱいだった。

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