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26.嵐を呼ばなかった体育祭

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 こういう行事恒例の、校長の長ったらしいありがたーいお話。「校長」って言う字は「学校内で最も話が長い人」の略ではないかと思ってる。いやまじで。
 雲ひとつない快晴なんて見れば誰もがわかるわ。雨雲さんもうちょっと頑張ってくれても良かったのに......。
 まだ体育祭開始前だってのにこの時間が1番体力を消費しているんじゃないだろうか。見渡せば早くもふらついている者が数名いる。貧血かそれとも眠気からか。わかるぞ、こんないい天気だもんな。絶好のお昼寝日和ってやつだ。
 本日最大の試練を突破したら、競技が開始される。昔は騎馬戦とか組体操とか派手で見所がある競技も多かったらしいが、今は色々とうるさいらしく競技も派手なものは少ない。
 なんだっけ..........。マンチェスター......じゃなくて。そうだ、モンスターペアレントってやつだ。
 人間なんて怪我や痛い思いをして、そこから学んで成長するものだと思うのだが......。これで大人になったら「これだから今時の若いもんは......」とか言われるんだろうなー。理不尽極まりない。

 午前の部は台風の目、大縄跳び、綱引き。午後の部は玉入れ、クラス対抗リレー、ムカデ競争。
 運動会のように紅白ではなくクラス対抗なのだが、うちの学校は各学年5クラスあるので競技数は少なめだ。
 このうち俺が出場するのは、全員参加の綱引きとリレーのみ。
 競技はつつがなく進行していくのだが、ただ座っているだけというのは暇すぎて暇だ。むしろ暇だ。ちょっと何言ってるのか分からないな。それにこのいい天気だ。こうしてボーッとしていると睡魔が襲ってくる。......保健室行って寝てちゃダメかな。......ダメだな。確実に怒られるな。
 することもなくただひたすらにボーッとして午前の部が終了した。綱引き?記憶にございません。

 昼食をはさんで開始された午後の部。......はっきり言おう。午前の部なんてちょろすぎてチョロQも真っ青だ。
 お腹も程よく膨れ気温も上がって襲い来る眠気は午前の比ではない。開始された玉入れに向けられる歓声をBGMにパイプ椅子の背もたれに体を預ければ、いとも容易く意識を持って行かれて......。
 ..................、んあ?完全に寝てたわ。どれくらいたったんだ?......玉入れはちょうど先ほどの組が終わって入れ替えらしい。
 んー、寝てたのはだいたい10分ってとこか。こういう時って、5分10分寝るとやけにスッキリするよな。なんなんだろう。
 玉入れってイメージ的には小学生の運動会なんだけど、やけに盛り上がってるな。実際にやってみたら楽しいのかな。
 やがて玉入れも終了して、全員参加のクラス対抗リレーに移る。1年生のリレーでは、アンカーである変態後輩が爆走しごぼう抜きして見事1位をもぎ取っていた。ほー、すげーな。勉強が出来ない分、運動はできるのか。
 ゴール直後に笑顔でこちらに向かってVサインをしたおかげで、我がクラスの男子たちが大騒ぎだ。
 自分に向かってしたと勘違いする男子たちと、それに冷めた視線を向ける女子たち。なにこの空間。居心地悪すぎだろ。
 さて、俺ら2年生の番か。......だるいな。さすがにこの観衆の中でサボるわけにも手を抜くわけにもいかねえなあ。俺たちの走る順番はまとめて後半のほうだ。茶髪、あかり、俺、アンカーの如月。さすが優等生。運動も完璧ってか。......まじでどっかのエージェントなんじゃねえの?
 うちのクラスは現在僅差で4位。茶髪が2人抜かして2位であかりの順番へ。チャラ男って足はえーんだな。
 しかし、あかりはつい最近まで引きこもりだった。当然運動なんてもってのほかだ。2人に抜かされて結局4位。
 俺へとバトンを差し出すあかりは必死な表情。ハァ。こんなの......やるしかねえじゃん。別に俺は運動ができないわけじゃない。特に逃げ足なら早い......と思う。
 バトンを受け取り、全力で走る。普段使わないんだから、たまには頑張れ俺の筋肉。もっと......もっと早く!
 1人......2人抜いた。あと1人......。くそっ、速いな。校庭半周なんてあっという間で、もう次走者の如月がすぐそこだ。あとは......任せた!
 バトンを渡すと、如月は目だけで頷いて走り出す。息をついて見送ると誰かが肩を組んでくる。誰だよ、馴れ馴れしい上に暑いんだよ。

「けっこう足速いのな。さすがお兄ちゃん。頼りになる~!」

 あかりの前に走っていた茶髪だった。うぜえ。なんか最近やたらと絡んでくるけどなんなの?
 如月を見ると、いつの間にかトップと並んで走っている。
 アンカーは特別に校庭1周だ。残り半分。校庭は割れんばかりの大歓声だ。......え、俺こんな中で走ってたの?恥ずかしい。
 ハァ......。ガラじゃないのは百も承知だけど、どうせこの歓声の中だ。本人には届かないだろう。

「がんばれー」

 隣のやかましいヤツに合わせてこっそり応援してやるよ。




 次の3年生の準備のため、如月の周りからようやく人が離れたのを見計らって話しかける。

「大活躍だな」
「あ......ううん。そ、そら君が応援してくれたおかげだよ!」

 そう言って彼女は笑った。聞こえてたのかよ。

「ハァ。そんなことより、保健室行くぞ」
「......え?」
「足。捻ったろ」

 ゴールの瞬間、些細だけど違和感があった。すぐに観衆に囲まれて見えなくなったが、解放された如月はやはり右足をかばっているように見えた。

「だ、大丈夫だよ?これくらい」
「アホか。残念ながら俺は体育祭保健委員なんでね。見過ごすわけにはいかねえよ」

 気づいたら勝手に決められていただけだが。まあ、応援団とかよりはよっぽどマシだ。あんなもん恥ずかしくてできるか。なんであんなに人気なんだろうな。ちなみに体育祭保健委員は男女各1名なのだが、肝心のもう1名は絶賛負傷中の目の前のヤツだ。なので誰かに任せるわけにもいかず、仕方なく連れて行ってやろうというわけだ。あわよくば保健室で寝れるなんて思っていない。

「うう......」
「......なに笑ってんだよ」

 呻きながら笑うなよ。怖いぞ。

「いや......やっぱりよく見てるんだなーって思って。他の誰も気づいてないよ?」
「たいした演技力だな」
「ふふっ。さすがに抜けないかなーって思ってたんだけど、そら君の声が聞こえた瞬間、力がみなぎってきてね?嬉しくてゴールで体勢崩しそうになっちゃったの。誰にも気づかれてないと思ったんだけどなぁ......」

 恥ずかしいことを言うんじゃねえよ。誰かに聞かれて誤解されたらどうするんだよ。

「ま、お疲れさん。......1位、おめでとな」
「うん!ありがとう!」

 そう言って彼女ははにかんだ。

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