そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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24.星に明かりが灯るまで

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 ——私は、生まれてこない方が良かったのではないか。
 ずっと、そう思いながら生きてきた。

 小学校に入ってすぐのことだったと思う。誰がきっかけかは覚えていないけれど、誰かが言い始めたのをきっかけに私は「死んだやつ」と呼ばれるようになった。当然嫌だったけど、元々引っ込み思案だった私の声は彼らには届かなかった。
 担任の先生は気づいていても見ないふりをしていた。毎晩遅くまで働いてるお母さんにも心配をかけたくなくて言い出せず、私は家に帰るといつも1人で泣いていた。

 中学に入っても変わらず、ひどい扱いだった。私だって人間だし感情も痛みだってある。でも、それを言葉にしようとしても喉につっかえて出てこない。どうして私だけがこんな目に遭うの?私が何か悪いことしたの?どうして......。

 それは中学3年生の時だった。新しい担任の先生が事態に気づいてお母さんに連絡したらしい。家に帰ると、お母さんは泣きながら「ごめんね......」と何度も私に謝った。
 私は内心複雑だった。お母さんのことは嫌いではない。物心着いた時には既にお父さんのいなかった私を、女手一つで育ててくれてむしろ感謝している。
 ......だけど一方で、お母さんが私にこんな名前をつけなければ......という思いも持ってしまう。
 その日から私はお母さんとどう接すればいいのか分からなくなり、知らず知らずのうちに避けるようになってしまった。
 担任の先生も表立って止めようとはしなかった。私が何も言わないのをいいことに放置したのだ。
 悔しくて、辛くて、私は学校を休むようになった。誰も、私を助けようとはしないんだ。私が弱いから......。
 学校を休むようになっても先生はうるさく言わず、出席日数の確保とテストなど大事な日は登校して、あとはどんどん休みがちになっていった。
 我が家は経済的に豊かとは言えないので、高校も選択肢など無く1番近くの高校を受験してあっさりと合格してしまった。しかし、そこで待つのは中学とほとんど変わらない顔ぶれ。更には容姿のことでも悪口を言われた。
 中学の頃から伸ばし放題にしていた前髪は、相手の顔を見なくて済む便利な壁だった。しかし、あの人たちにとってはそれすらもイジメる為の材料でしかなかったのだ。
 私が再び学校へ行かなくなるのに時間はかからなかった。

 そんな時、あの人が家に来るようになった。お母さんの知り合いだと言うが、だからなんだというのだ。今まで誰も何もしてくれず何も変わらなかったのだ。どうせこの人も同じだ、すぐに諦める。
 元々学力の高い学校ではなかったのと、娯楽の無い我が家で最低限の勉強をしていたおかげか、進級もできてしまった。
 ああ..........いっそのこと、留年してしまえば良かった。そうすれば多少なりとも環境は変わるかも知れないのに......。学校を辞めてしまいたい。けれどお母さんにはこれ以上負担はかけたくないし、これといってすることもない。

 葛藤する私に再び声をかけたのは、あの人だった。お母さんと結婚すること、息子が1人暮らしをしているので転校して一緒に住んでみないかということ。
 私は何を言われているのか、理解することすら拒んでしまった。しかし、この環境から逃げられること、そしてお母さんの辛そうな顔をこれ以上見ていたくないという気持ちから、深く考えずに首を縦に振ってしまった。




「かみやそらくん」

 義兄となる人物との初対面はとても緊張した。相手の顔を見ることすら出来なかったが、冷たい声は怖かったしため息ひとつに震えてしまった。
「嫌いだ」と言われた時には涙が溢れそうになった。名前と過去について言われた時には、堪えきれずに泣いてしまった。
 この人も、今までの人たちと同じように私をイジメるのだろうか。それとも見捨てられてしまうのだろうか。私の心は不安と恐怖でいっぱいだった。

 しかし、彼は違った。私の意思を聞いてきたのだ。「お前の意思を言葉でちゃんと示せ」と。
 イジメられたくなんてない。そんなの当たり前だ。......だけど、その当たり前のことを今まで口にすることは出来なかった。
 その日、私は初めて自らの意思を誰かの前で口にした。そしてそれを否定されないということが私の心を満たし、またしても涙を溢れさせてしまった。
 今までご飯は1人で食べるものだったし、冷食やお惣菜で済ませてきた私は、その日の夜に作ってもらったチャーハンの味をこれからも忘れないだろう。
 彼のベッドで寝たときはいつもと違う匂いと温かさでドキドキした。でも1人じゃない気がして「お兄ちゃんってこんな感じなのかな......」と思いながら眠りについた。
 言い方はぶっきらぼうだし目つきも怖いけれど、私に罵声でもなく建前でもなく本音をぶつけてくれる人は初めてだった。私もこんなふうに強くいられたらイジメられることもないのかな......と思った。

 だからこそ衝撃だったのだ。
 彼もまた、という過去は。
 同じ過去を持っているのに、どうして彼はこんなにも強くいられるのだろう。そして、どうしようもなく強く、彼に憧れてしまった。私も変わりたい。こんなふうに強くいられたらどんなに生きやすいだろう。
 教室ではいつも1人でいて誰も寄せ付けない雰囲気を漂わせているけれど、必要な時には人の為に動けるとても優しい人。恐怖に震える私のために、みんなの前で3人を糾弾したと聞かされた時は教室の中だというのに泣いてしまった。

 私もいつまでも弱いままじゃダメだ。今の私は、誇り高く強いあの人の義妹いもうとなのだ。変わりたい。変わらなくちゃ。
 もう誰かのせいとか自分の弱さのせいにして逃げるのはやめにしよう。もちろん怖くないわけじゃないけれど、きっと大丈夫。少しずつでも胸を張って、前を向いて生きてみよう。


 だって、私にはこんなにも心強いお義兄ちゃんヒーローがいるのだから。


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