そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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23.ほしとあかり

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 やはり慣れないことはするもんじゃないなと今になって思う。普段からテスト勉強なんてものすらしないのに、人に教えるなんてもってのほかだ。

 朝に1度目が覚めたが体のダルさに負けてベッドに体を預けると、次に気がついたのは昼すぎだった。重い体を起こして汗だらけのシャツを着替える。リビングへ出ると、あかりがちょこんとソファに座っていた。

「......おはよう?」
「ああ、おはよう。すまん、今飯作る」
「......風邪?」
「あん?」
「声、おかしいから。それに、起きてこないし......」
「別に大丈夫だ。これくら——」

 言いかけたところでめまいがする。うん、やっぱしんどいわ。

「わりい。今日は冷食で我慢してくれ」

 昼食を簡単に済ませて、薬を飲んで再び自室へ戻る。テストの自己採点と復習をしなければとも思うのだが、頭も体も動かない。今日は安静にして明日にしよう......。


 目が覚めると、額に少しの重みと濡れた感触がした。手をやると濡れタオルがあった。
 暗い室内の中、枕元の間接照明をつける。そして横に目を向ければ、そこにいるのはベッドの縁にもたれかかって眠っている義妹あかり。看病しててくれたのか。誰かに看病されるというの始めてだが、なんだか不思議な気分だ。......それも相手があかりとはな。
 こいつがウチに来てからまだそんなに経ってないが、最近は感情や自分の意思を示すようになったと思う。あのオドオドしてたヤツがよくここまで変わったもんだ。学校ではまだまだだがな。だが友達も出来たようだし確実に前には進んでいる。
 あとはこの前髪だな、とあかりの顔を隠している髪を手に取る。照明に照らされる長い黒髪。そこから覗くのは、血色も良くほどよく肉もついてきた小さな顔。生活環境が改善されたからか、出会った当初の不健康さはどこへやら。今のあかりは、外見だけで言えば間違いなくかなりの美少女だろう。
 あかりの目がうっすらと開く。トロンとした瞳で俺の顔を確認して安堵の表情を見せ、それからあかりの髪を触っている俺の手に移った。
 あー、義理の兄妹とはいえ気安く女性の髪を触るべきじゃなかったな。

「わるい」

 一言謝って手を引っ込めようとすると勢いよく両手で掴まれた。うおっ、びっくりした......。蛇の捕食シーンかよ。

「ソラ君に触られるのは、嫌じゃ、ないから......、もっと、触ってほしい......」

 そう言ってあかりは、俺の手を自らの頭へと導く。そしてそのまま頭を手に擦りつけるように動かす。
 俺の脳内は一瞬でハテナマークで埋め尽くされてしまった。いったい、何が起こっているというのだ......。寝ぼけてんのか?
 俺は突然の事態に思考が追いつかず、言われるがままにぎこちなくも手を動かす。すると、あかりは気持ちよさそうに目を細めて「ん......っ!」と声を出す。
 ま、テストはちゃんと頑張ったし今日は看病もしてくれたみたいだし、これくらいはいっか。とあかりが満足するまで撫で続けるのであった。






 やがて、あかりの意識が完全に覚醒し状況を理解すると一瞬で顔が真っ赤に染まる。

「......っ!......ぅ......ぁ......」
「これで満足したか?」

 あかりは無言で激しく首を縦に振る。俺も顔が熱い。これが風邪のせいだけじゃないのは明らかだ。
 まだダルさの残る体を起こし部屋を出る。水分を摂ってから風に当たろうと窓を開けてベランダに出る。ずっと寝ていたようで気が付けば夜になっていた。
 今日は雲ひとつない晴天だ。俺の体調とは真逆で、星空が気持ちよく見渡せる。
 あの星座はなんという名前だったか......。なんか星の名前を歌詞にしてる歌あったよな。なんだっけ。
 たしか......アルゴンあれが テシネンデネブ カルシウムアルタイル ラドンベガ だったか。なんか違うな。それじゃ星じゃなくて元素だ。
 カタン、という物音に気がついて振り向くと、あかりもベランダへと出てくる。俺はそのまま手すりに背中を預ける。

「すごい......星が綺麗......」
「だな。......看病してくれてありがとな」

 あかりは首を今度は横に勢いよく振る。

「ソラ君は、私の勉強もみてくれたから......無理させちゃってごめんなさい。それと、ありがとう」

 その時、風のいたずらであかりの前髪がフワッと攫われた。そこにあるのはまだ赤みが抜けておらず、申し訳なさそうにしながらも微笑んでいる顔。
 俺は先ほどの光景が脳裏に蘇り再び顔が熱くなるが、あかりは星に夢中で気づいた様子はない。


 それからしばらくの間、俺たちは星に見とれていた。


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