そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
22 / 52

22.そこにあいはあるんか?

しおりを挟む


 それからあかりの勉強漬けの毎日が続いた。家に帰れば公式の詰め込みだ。忘れるというなら嫌というほどすり込んでやる。とにかく書かせて覚えさせる。
 テスト本番でも開始と同時に問題用紙の端に公式を書き出してしまえば、あとはどれに当てはめるか選べばいいだけだ。
 この時期だからまだ良かったが、これが2年の後半ともなると難易度も量も全然違う。パラっと教科書を流し見たが意味不明の単語や記号がたくさん並んでいた。虚数ってなんだよ。そこにiはあるんか?微分積分いい気分ってか?
 あかり本人もご褒美があるからか、やる気が違う。そりゃそうか。勉強は覚えれなくてもゲームのことは覚えられるというのはよく聞く話だ。興味ないことを覚えたいなんてそうそう思わないしな。何かを忘れているような気がするけど、きっと気のせいだろう。



 そうして過ごし、迎えた金曜日の昼休み。
 あかりも公式は覚えてきたし、あとは土日でどれだけやれるかだな......。そんなことを考えながら弁当を食べていると

「ぜんばぁ~い゛」

 とボロボロな怨霊......もとい後輩が現れた。
 うおっ、びっくりした......。そういえば最近こいつ見かけなかったけど生きてたのか。なんかもういろいろとすごいことになってるぞ。顔とか雰囲気とか。

「な、なんの用だ」
「うえーん!テストなんて大っ嫌いですうううううう!」
「好きな奴なんてそうそういないと思うけどな」
「助けてくださいようセンパァイ!」
「そんなこと言ったってもうどうしようもないだろ。潔く諦めろ」
「ふええ、そんなあ......」

 こっちは既に問題児を1人抱えているんだ。これ以上増やすんじゃねえ。

「せめて!せめて元気を分けてくださいよ~!」
「いや、ちょっと何言ってるか分かんねえわ」

 元気を分けるってなんだ。どこの戦闘民族だよ。なに、戦闘力53万の敵とでも戦うの?地球が滅ぶから勘弁してくれ。つーか俺から元気吸い取ったら俺がグッタリしちゃうやつだろ。

「お願いしますう!ちょっとでいいんで頭撫でてください!ちょっとだけだからあ......!」

 なにその先っちょだけだから!みたいな感じの言い方。絶対信用しちゃダメなやつだろ。
 待て待て頭突きをしてくるな!俺は手で必死に押しとどめる。おいなんで嬉しそうなんだよ!?これは撫でるのうちに入らねえからな!?
 ったく、落ち込んでるかと思ったら十分元気じゃねえか。そのエネルギーを勉強に使えよ。
 久しぶりに騒がしい昼食を終えて教室に戻ると、隣の席からすっごい視線を感じた。よし、スルーだ。
 あかりは......よし、ちゃんと勉強してるな。鬼の居ぬ間にって可能性もあるからな。って誰が鬼だコラ。



 翌日の土曜日。午前中は公式のおさらい。そして休憩を兼ねた昼食をとった後、俺は数枚の紙を取り出した。

「よし、これを何も見ずに解いてみろ」
「......え?」
「模擬テストだ。簡単な問題だけだが俺が教科書とかからテキトーに抜き出した。これが解ければテストも大丈夫だろう」
「............」

 あかりは問題用紙を凝視している。それじゃいつまで経っても終わらんぞ。

「制限時間は1枚30分だ。全部解いたら晩飯は好きなもん作ってやるよ」
「......ほ、ホントに?」
「ウソついてどうすんだよ。ほら、始め」

 慌てて解き始めたあかりを見て俺も自分の勉強をする。これで俺が成績落としたらバカみたいだしな。
 時折あかりの様子をみつつ、自分の問題を解いていく。今回のテストは特に難しいところもないし俺は心配ないな。
 途中で休憩を挟みつつも模擬テストを続ける。

「......はい、そこまで。採点するからちょっと待ってろ」

 あかりを待たせて採点を始める。ふむ、解いてる最中も特に躓いてはなかったしこんなもんか。まあ基礎の簡単な問題だけどな。

「終わったぞ。だいたい8割ってとこか。まあこれなら赤点は免れるだろうな」

 気づけば時刻は午後6時を回っていた。さて、そろそろ晩飯の支度をするか。

「......ちゃーはん」
「あん?なんか言ったか?」
「晩御飯、チャーハン、食べたい......」
「何言ってんだ。全問正解じゃなかったろうが」
「......ソラ君、全部解いたらって言った。全部、合ってたらとは言って、ない」

 こいつ、屁理屈を......。頬がピクピクしてるのが自分でも分かる。言い返してやりたいのは山々だが、それでやる気をなくされても困る。まあ何作るか決めてなかったし、チャーハンくらいならパパッと作ってやろう。








 そして、ようやく長かったテスト期間が終了した。
 は~~~~~、こんなに疲れたテストは初めてだ。あかりも頑張ってたしこの分なら赤点は無さそうか?ま、明日にでも自己採点してみてだな。さすがに疲れた。今日はやりたくない。


 しかし、普段やらない努力をいきなりやると当然脳にも体にも負担がかかる。そうなればどうなるか......。



 テストが終わった翌日の土曜日の朝、みごとに風邪を引いていたのだった。







 俺が。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

教師の子

黒羽ひなた
青春
親が教師だからこその悩みを抱えた女子高生の苦悩と再起の物語。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

俺と代われ!!Re青春

相間 暖人
青春
2025年、日本では国家主導で秘密裏に実験が行われる事になった。 昨今の少子化は国として存亡の危機にあると判断した政府は特別なバディ制度を実施する事により高校生の恋愛を活発にしようと計ったのだ。 今回はその一組の話をしよう。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...