そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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21.交換条件

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 バスを降りたところで如月と別れ、スーパーで買い物を済ませてから帰宅するとすでにあかりが帰宅していた。
 それはいいのだが、何故か分かりやすく不機嫌だ。怒っているというわけではなさそうだが珍しいな。腹でも減ってんのか?

「どこ、行ってたの......?」
「んあ?本屋とスーパーだけど?」

 手に持った2つの荷物を持ち上げて見せる。

「......誰、と?」

 あん?なんでわざわざそんなことを聞くんだ......?

「いや、出かけようとしたとこになんか如月が来てついてきただけだが」
「如月さんが......?」
「ああ。結局何の用だったのかさっぱり分からんがな」
「......つ、付き合ってる、の?」
「あ?んなわけねえだろ」
「そ、そっか......」

 なんでそんな勘違いをしたのか知らんが、ぼっちを好む俺が誰かと付き合うなんて考えたくもない。

「......メッセージ」
「あん?」
「メッセージ、送ったのに......」
「......あ」

 すっかり忘れてた。というかそのメッセージのせいで居留守がバレて一緒に行く羽目になったんだからな?

 スマホを取り出してメッセージを開くとそこには

『今から帰るから、一緒に買い物行きたい』

 という内容があった。いや、タイミング悪すぎるだろ。

「楽しみにしてたのに......」

 ......なるほどな。俺がこのメッセージ無視して如月と出かけたから怒っている、というより拗ねてるってわけか。めんどくせーな。
 俺だって好きで一緒に行ったわけじゃないし、そもそも約束したわけでもないんだから俺がどうしようが自由だろうが。

「買い物なんて友達とでも行ってくればよかったじゃねえか」
「むう。そうじゃなくて......。た、ただのクラスメートと出かけるなら、妹と出かけてもおかしくないよ、ね?」

 こいつ、なんで今日はこんなにしつこいんだよ。油汚れかよ。重曹で落とすぞ。

「ハァ......。まあいいけど、また今度な。それより、テストは大丈夫なのか?」
「............」

 おい、目を逸らすな目を。勉強会したんじゃなかったのかよ。結局騒いでただけってか?テストなんか日頃から勉強していれば......いや、待てよ。

「......おい、まさか今の授業にもついていけてないのか?」

 あかりは顔を背けたまま答えない。まあ、無理もないか。
 こいつは、中学の後半から不登校気味になったと言っていた。保健室登校や自主学習をどの程度していたのかは知らんが、それだけで理解できれば学校なんていらないだろう。
 そもそもよく進学できたなって話だが。学力的にもメンタル的にも。そんで基礎となるべき高校1年生の大半を休んでいたのに、いきなり授業について来いという方が無茶ってもんだろう。
 あかりが勉強できないのはぶっちゃけどうでもいい。が、あの担任のことだ。もしあかりが赤点を取ろうものなら、喜んで俺に世話を押し付けるだろう。それだけは避けたいところだ。
 テストまであと1週間。最初から全部をやるには時間が圧倒的に足りない。となれば……。

「おい。文系と理系、苦手なのはどっちだ」
「......え?え、えっと......理系?」
「よし、飯食ったら勉強だ。最低限のことは叩き込んでやる。暗記系は空いた時間に自分でなんとかしろ」
「お、教えてくれる......の?」
「最低限のことだけだ。ただし、赤点だけは何が何でも回避しろ。いいな?」
「ひっ、ひゃい!」

 幸いなことに、今回は学年最初のテストで範囲もそれほどない。理屈は後回しにして、とりあえず公式を詰め込んでおけばなんとかなるだろう。......なると信じたい。頼むからなってくれ。
 どうやら、頭の出来は悪くはないみたいで、教えた公式をわりとすんなりと覚えていった。今までロクにやってこなかったから苦手意識があるだけで、やれば普通にできるのか......?まあこの分ならテストは案外乗り切れそうかな。



 ......そう思っていた時期が俺にもありました。昨夜の自分をぶん殴ってやりたい。
 朝、登校前に昨日の復習をしようと問題を出したら、公式をキレイさっぱりと忘れていやがった。なに、お前の脳は寝たらリセットされる仕組みなのか?これは由々しき事態だ。

「おい」
「ひっ」
「理系は家でトコトンやるぞ。学校での空き時間は文系の単語をとにかく覚えろ」
「......た、単語だけでいいの?」
「今更文法なんて覚えらんないだろ。そっちは気合いとフィーリングでなんとかしろ」
「......」

 文系は選択問題も多いからな。そこはそれっぽいのを選べばいい。




 朝から俺は頭を抱えていた。公式を覚えられないことには始まらない。どうすれば覚えられるのか......。


「お、おはよ......」

 隣の席からかけられた声にも気付かないほどに考え事に没頭していた。

「あかりん!おはよ!なにしてるの!?」
「あ、おはよ。テスト勉強、だよ?」
「あー、単語帳かあ。頑張るね~」
「うん、今までの分もやらなきゃだし、ソラ君が教えてくれるから......」
「お?へー、ほー、ふーん。それで?その先生はなんでそんなに難しい顔をしていらっしゃるのかな?」

 三つ編み少女がわざわざ俺の顔を覗き込んでくる。揺れる三つ編みが嫌でも視界に入ってくる。

「とりあえずそのニヤケ面をやめろ。何がおもしれえんだよ。このポンコツはどうしたら物を覚えるのかと思ってな。叩けば直るのか?」
「いやいや、そんな一昔前の家電じゃないんだから!あかりんがかわいそうだよ!......それにしても神谷君がそんなに世話焼きだとは知らなかったなあ」

 うるせえ。そもそも俺のなにを知ってるって言うんだ。最近まで喋ったことすらなかったのに。こいつの名前なんだっけ。えーとたしか......ミッツ・アミーゴ。なんか違うような気もするけど楽しそうな名前だしそれでいいや。

「とりあえず、お前もテスト終わるまではあかりにちょっかい出すなよ。赤点なんぞ取るようならメシ抜きだからな」
「ひっ」
「そんなにあかりんをイジメないでー!あ、そうだ。じゃあ逆に赤点無かったらご褒美は!?」
「は?あるわけねえだろ」

 赤点なんてないのが普通だろうに。

「えー、あかりん何かしてほしいこととかないの!?」
「......おかいもの。一緒に行きたい」
「お!いいねえ!お買い物デート!」

 おい変な事を言うな。隣の優等生から尋常じゃないオーラが漂ってきてるぞ。まじで何もんだよお前。

「はあ。いいけど、赤点が無かったらの話だからな」

 昨日は先延ばしにしておけばうやむやになるだろうと思っていたが仕方ない。これでやる気を出して赤点を回避してくれるなら我慢しよう。
 その代わり、テストが終わるまでは覚悟しておけよ......?

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