そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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20.流行りの谷岡

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 向かったのは家からバスで20分といったところにあるショッピングモールだ。もっと近場にも本屋はあるにはあるが、やはりここのほうが規模が大きく本の種類が豊富だ。ネットでも買えるが、届くまでに時間がかかるし手数料などもバカにならない。
 バスの車内は今どき乗る人も少ないのかガラガラで、それにもかかわらず如月が隣に座ろうとしてきたので荷物を置いてブロックした。 しばらく無言で俺を睨んだあと、トボトボと1つ後ろの席に座り唸っていた。トイレならショッピングモールにつくまで我慢しろよ。
 他に乗客がいなくて良かったが、誰か乗っていたら俺まで不審者扱いされるから切実にやめてほしい。
 そうしてバスに揺られること約20分、目的のショッピングモールに到着した。途中からはちらほらと乗客があったが、満席になることもなかった。
 しかしバスは混まなくともやはり休日のショッピングモールともなれば別だ。昼過ぎというのも相まって、駐車場は車と人で溢れていた。それは当然駐車場だけでなく、店内も同様だった。始めて来た時なんかは人ごみに酔いそうにもなったが今となっては慣れたもので、人ごみをスイスイと擦りぬけるスキルまで身についてしまった。
 今日はオマケもついてきてはいるが、どうせこいつはこういう場所には慣れているから大丈夫だろう。さっさと目的を果たして帰るとしよう。
 いつもどおり2階にある本屋までの最短ルートをたどるべく人の動きを予測して避けつつ歩いていると、急に衝撃を受けて危うく転びそうになってしまった。
 なんだ?と思い振り向くと、そこには慌てたように俺の服の裾をつかむ同行者もといストーカーの姿。急につかまれたらあぶねえだろうが。

「ね、ねえ待ってよ......。歩くの早いよ......」

 勝手についてきておいて何を言うか。というかこの程度の人ごみを歩けないとかエージェント失格だぞ。尾行対象を見失ったらどうするんだ。 まあ、ここで騒がれても面倒だし俺は気遣いのできるぼっちだからな。しかたなく合わせてやろう。
 歩幅を合わせて2人で本屋に向かっていると、途中で行列ができている店があった。なんだ?なにかイベントでもやってんのか?

「あ、ねえ!あそこ今流行りのタピオカのお店だよ!行ってみない!?」
「行かねえよ」
「えー!おいしいじゃんタピオカ」
「知らねえし、あの列に並ぼうとも思えん」

 流行りなどどうでもいいし、タピオカだろうが谷岡だろうが興味がない。あれに並んだら何時間かかるんだよ......。行きたいなら勝手に行ってくればいいと思うのだが、俺が歩いていくとブツブツ言いながらもついてくる。よくわからん奴だな。
 ようやく目的の本屋にたどり着き、俺はライトノベルのコーナーに向かう。如月は迷う素振りを見せたが、1人で別のコーナーへ向かっていった。
 ネットでも新刊情報は見ていたが、やはり新刊が色々出ている。中でも気になっていたのは、いつも見ている小説投稿サイトから書籍化された作品だ。ネットでも人気の作品だったので売り切れも覚悟していたのだが、無事確保できて一安心だ。ネットで読めればそれで満足という人もいるが書籍で読むと追加のエピソードや違った味があるし、作者さんを応援するためにも当然購入だ。これからも尊い作品を書いて欲しい。
 合計6冊の本を手に会計を済ませて店を出ようとすると、入り口付近で如月が立ち読みしていた。

「あ、神谷君、もう終わったの?」
「ああ。そっちも何か買うんじゃなかったのか?」
「え、あ......ううん!買おうと思ったけど、やっぱりいいかなって」

 なんだそれ。だったらお前何しに来たんだよ。

「じゃあ帰るか」
「あ、うん、そうだね......」

 出口に向かって歩き出す。先程よりも人が増えているのは気のせいではないのだろうな。時間的にちょうど昼飯を食べ終えて徘徊しだす頃か。右を見ても左を見ても視界に入るのはほとんどが家族かカップルか学生の集団。子供は自由に走り回っているし、カップルは人目を憚らずにイチャついている。学生なんて我が物顔で横に広がって歩いている。
 いつもは無視しているのであまり気にならないが、今日は同行者がいて歩くペースゆっくりなせいかそういうのが目についてしまう。もっと周りのことを考えられないのかね。

「ねえ、せっかくだし、どこかでお茶でもしていかない?」
「あ?勝手にしてればいいだろ。俺は帰る」
「そうじゃなくて!1人でなんて私が寂しいやつみたいじゃん!」
「1人が寂しいとかお前、俺に喧嘩売ってんのか?」

 全世界のぼっちに今すぐ謝りなさい。寂しいとか可哀想とかそういうのは他人が決めていいもんじゃないだろ。

「あ、そういうわけじゃないんだけど......」
「とにかく、俺は買った本読みたいし、これ以上この人ごみにいたくないから帰るぞ」
「あ、そうだね......。帰ろっか......」

 そんなにションボリしてもダメです。
 人ごみってのはうるさいし邪魔ってのもあるけど、タバコやら香水やらの臭いがもう無理だ。満員電車なんて地獄でしかない。毎日乗ってる人は本当にすごいと思う。
 などと考えていたからだろうか。帰りのバスは行きと違って、座れないほどではないがけっこう人が乗っていた。そんななか席を独り占めするわけにもいかず、俺はしかたなく如月を隣に座らせた。
 ふと周囲の微笑ましげな視線を感じて隣を見ると、幸せそうにニヤニヤしている如月がいた。うお、なんでこいつこんな顔してんの?ニヤニヤするなら、俺のいないところでお願いします。切実に。
 結局、バスを降りるまで、俺たちは周囲から温かい目で見られていたのだった。......帰りのバスが今日1番疲れるとは思ってもいなかった。


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