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18.ひとりの夜
しおりを挟む5月も終わりに差し掛かり、もうすぐ学年が変わって最初のテストがやってくる。
まあ、だからなんだって話なんだが。テストなんてちゃんと授業受けてれば困ることなんてないだろうに。
「セーンパイ!こんにちはっ!」
週が明けた今日も後輩は昼飯を邪魔しにやってくる。
「ねえねえセンパイ、センパイのおウチに行ってもいいですか!?」
「......あ?いいわけねえだろうが」
「えー!あ、じゃあ、私の家来ます!?」
「なんでそうなる」
「もうすぐテストじゃないですか!勉強教えてください!」
「断る」
「ガビーン!そんな......じゃあ私はどうやってテストを乗り越えれば......」
「勉強すりゃあいいだろ」
「それができたら苦労はしません!1人だとどうしてもやる気が続かなくて......」
なんでちょっと偉そうなんだよ。
「テスト前だけやろうとするからそうなんだ。ちゃんと普段からやっとけよ」
「うええ......。そんな殺生な......!」
「つーか、まさかとは思っていたが、お前本当にバカだったのか」
「バカなんてひどい!っていうかそんなこと思ってたんですか!?」
「なんつーか、バカっぽいオーラが滲み出てる」
「オ、オーラ!?そんなぁ......。傷ついたので責任とってください!」
「責任なんてなにひとつねえよ。って寄るな触るな!」
お前はどこぞの怨霊かよ。そういうのがバカっぽく見えるんだぞ。
そして高校生なんて生き物が考えることなんてだいたい同じなのだ。
「あ、帰ってきた!ねえ神谷君、テスト前だし勉強会しようよ!」
昼休みも終わりに差し掛かり教室に戻った俺にそう提案してきたのは、あかりの友達の三つ編み少女。
「俺は1人のほうが捗るから遠慮しとくわ」
正直、一緒にやるメリットが思い当たらない。
俺は周囲に付け入る隙を与えないように勉強してきたし成績もいいほうだ。教わるようなことは無いし、どうせお喋りとかが始まるのだから一人でやったほうが断然効率的だ。それに日常的に勉強会をするなら分かるがテスト前だけ詰め込んでどうするのか。
だから隣のお前もこっちをチラチラ見てくんな。お前は成績いいから大丈夫だろうが。
「えー、せっかく神谷君ちでやろうと思ったのになー」
「なんで俺んちなんだよ」
「だって広いんでしょ?みんなでやるにはちょうどいいじゃん!」
「ダメだ。やるなら他所で勝手にやってくれ」
「しょうがないなー。じゃあさ、あかりん週末にウチでお泊まり会しようよ!」
ほら、結局勉強会なんてただの口実だろ?てかいつの間に呼び方があかりんになったんだ。まぁよそでやってくれる分には全然構わない。むしろ久しぶりに1人になれるのだから大歓迎だ。
そうして迎えた金曜日。
「じゃぁ、アミちゃんち行ってくる、ね」
「ああ、気を付けろよ」
学校が終わって1度帰宅したあかりは、荷物を持って再度出て行った。
アミちゃんって誰だ?と思ったがおそらく三つ編みだろう。亜美なのか編みなのか知らんけど。
あかりには家に行くような仲のいい友達ができるし、俺もひとりの時間ができる。いいことばかりじゃないか。そのままずっとお世話してくれればさらによし。
誰にも邪魔をされることなく、課題を終えてスマホで小説サイトを読みあさっていく。
お気に入りの作品がいくつか更新されており、つい夢中で読んでしまった。気が付けば8時を回っていた。まあ今日は週末で1人だしたまにはいいだろう。
今日の晩御飯は麻婆春雨にしよう。使うのは、材料いらずでフライパンで5分程度でできるあのそうざいの素だ。俺は麻婆系だと、豆腐やナスよりも春雨がダントツで好きだ。春雨とピリ辛のソースがうまくマッチするんだよな。
さっとご飯を済ませゆっくりと風呂に入る。平日はシャワーで済ませてしまうことも多いが、週末は湯船につかって疲れを取るのが習慣になっている。
風呂から上がると、スマホが通知を知らせるように点滅していた。
こんな時間に誰だ?と思いつつ見ると、あかりからメッセージが届いていた。なにかあったのか?と思いメッセージを開くと俺はつい吹き出してしまった。
『お風呂上がりのあかりんはどうですか!?produced by MITSUI』
という文とともに1枚の写真が送信されていた。それは、モコモコした羊の着ぐるみを着て恥ずかしそうに俯いているあかりの写真だった。
なんで羊をチョイスしたとか5月も終わりかけなのに暑くないのかとか、よくそんなもん持ってんなとか思うことは色々あるがあかりもよくそれを着たな。断れよ。
おそらく送ってきたのは三つ編みだろうが。MITSUIって三つ編みのことか?たしか下の名前はアミ。みつい、あみ。みつ......あみ。いやこれ以上考えると危険な気がするからやめておこう。
そのまま固まっていると、続いてメッセージが送られてきた。
『どう、かな?』
この送り方はあかり本人か?......しかしこれになんて返せばいいんだ?
既読を付けてしまった以上、見て見ぬふりはできない。が、感想を求められても困る。こういうのがメッセージの面倒くさいところだ。何故みんなしてこういうのをやりたがるのか理解出来ん。
......混乱した頭をさらに悩ませつつ数分後、俺が出した答えは
『似合ってる』
という無難(?)な一言だった。いや、羊が似合ってるっていうのもよくわからんが可愛いとか言うわけにもいかんしな。しかもちゃんと巻き角までついてる本格仕様だ。角は何でできてるんだ?危なくないのだろうか。
せっかくのひとりの夜だというのに思考をかき乱され、貴重な時間をムダに過ごしていったのだった。
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