そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
18 / 52

18.ひとりの夜

しおりを挟む



 5月も終わりに差し掛かり、もうすぐ学年が変わって最初のテストがやってくる。
 まあ、だからなんだって話なんだが。テストなんてちゃんと授業受けてれば困ることなんてないだろうに。

「セーンパイ!こんにちはっ!」

 週が明けた今日も後輩こいつは昼飯を邪魔しにやってくる。

「ねえねえセンパイ、センパイのおウチに行ってもいいですか!?」
「......あ?いいわけねえだろうが」
「えー!あ、じゃあ、私の家来ます!?」
「なんでそうなる」
「もうすぐテストじゃないですか!勉強教えてください!」
「断る」
「ガビーン!そんな......じゃあ私はどうやってテストを乗り越えれば......」
「勉強すりゃあいいだろ」
「それができたら苦労はしません!1人だとどうしてもやる気が続かなくて......」

 なんでちょっと偉そうなんだよ。

「テスト前だけやろうとするからそうなんだ。ちゃんと普段からやっとけよ」
「うええ......。そんな殺生な......!」
「つーか、まさかとは思っていたが、お前本当にバカだったのか」
「バカなんてひどい!っていうかそんなこと思ってたんですか!?」
「なんつーか、バカっぽいオーラが滲み出てる」
「オ、オーラ!?そんなぁ......。傷ついたので責任とってください!」
「責任なんてなにひとつねえよ。って寄るな触るな!」

 お前はどこぞの怨霊かよ。そういうのがバカっぽく見えるんだぞ。


 そして高校生なんて生き物が考えることなんてだいたい同じなのだ。

「あ、帰ってきた!ねえ神谷君、テスト前だし勉強会しようよ!」

 昼休みも終わりに差し掛かり教室に戻った俺にそう提案してきたのは、あかりの友達の三つ編み少女。

「俺は1人のほうが捗るから遠慮しとくわ」

 正直、一緒にやるメリットが思い当たらない。
 俺は周囲に付け入る隙を与えないように勉強してきたし成績もいいほうだ。教わるようなことは無いし、どうせお喋りとかが始まるのだから一人でやったほうが断然効率的だ。それに日常的に勉強会をするなら分かるがテスト前だけ詰め込んでどうするのか。
 だから隣のお前もこっちをチラチラ見てくんな。お前は成績いいから大丈夫だろうが。

「えー、せっかく神谷君ちでやろうと思ったのになー」
「なんで俺んちなんだよ」
「だって広いんでしょ?みんなでやるにはちょうどいいじゃん!」
「ダメだ。やるなら他所で勝手にやってくれ」
「しょうがないなー。じゃあさ、あかりん週末にウチでお泊まり会しようよ!」

 ほら、結局勉強会なんてただの口実だろ?てかいつの間に呼び方があかりんになったんだ。まぁよそでやってくれる分には全然構わない。むしろ久しぶりに1人になれるのだから大歓迎だ。






 そうして迎えた金曜日。

「じゃぁ、アミちゃんち行ってくる、ね」
「ああ、気を付けろよ」

 学校が終わって1度帰宅したあかりは、荷物を持って再度出て行った。
 アミちゃんって誰だ?と思ったがおそらく三つ編みだろう。亜美なのか編みなのか知らんけど。
 あかりには家に行くような仲のいい友達ができるし、俺もひとりの時間ができる。いいことばかりじゃないか。そのままずっとお世話してくれればさらによし。
 誰にも邪魔をされることなく、課題を終えてスマホで小説サイトを読みあさっていく。
 お気に入りの作品がいくつか更新されており、つい夢中で読んでしまった。気が付けば8時を回っていた。まあ今日は週末で1人だしたまにはいいだろう。
 今日の晩御飯は麻婆春雨にしよう。使うのは、材料いらずでフライパンで5分程度でできるあのそうざいの素だ。俺は麻婆系だと、豆腐やナスよりも春雨がダントツで好きだ。春雨とピリ辛のソースがうまくマッチするんだよな。
 さっとご飯を済ませゆっくりと風呂に入る。平日はシャワーで済ませてしまうことも多いが、週末は湯船につかって疲れを取るのが習慣になっている。
 風呂から上がると、スマホが通知を知らせるように点滅していた。
 こんな時間に誰だ?と思いつつ見ると、あかりからメッセージが届いていた。なにかあったのか?と思いメッセージを開くと俺はつい吹き出してしまった。

『お風呂上がりのあかりんはどうですか!?produced by MITSUI』

 という文とともに1枚の写真が送信されていた。それは、モコモコした羊の着ぐるみを着て恥ずかしそうに俯いているあかりの写真だった。
 なんで羊をチョイスしたとか5月も終わりかけなのに暑くないのかとか、よくそんなもん持ってんなとか思うことは色々あるがあかりもよくそれを着たな。断れよ。
 おそらく送ってきたのは三つ編みだろうが。MITSUIって三つ編みのことか?たしか下の名前はアミ。みつい、あみ。みつ......あみ。いやこれ以上考えると危険な気がするからやめておこう。
 そのまま固まっていると、続いてメッセージが送られてきた。

『どう、かな?』

 この送り方はあかり本人か?......しかしこれになんて返せばいいんだ?
 既読を付けてしまった以上、見て見ぬふりはできない。が、感想を求められても困る。こういうのがメッセージの面倒くさいところだ。何故みんなしてこういうのをやりたがるのか理解出来ん。
 ......混乱した頭をさらに悩ませつつ数分後、俺が出した答えは

『似合ってる』

 という無難(?)な一言だった。いや、羊が似合ってるっていうのもよくわからんが可愛いとか言うわけにもいかんしな。しかもちゃんと巻き角までついてる本格仕様だ。角は何でできてるんだ?危なくないのだろうか。

 せっかくのひとりの夜だというのに思考をかき乱され、貴重な時間をムダに過ごしていったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

【完結】偽りの告白とオレとキミの十日間リフレイン

カムナ リオ
青春
八神斗哉は、友人との悪ふざけで罰ゲームを実行することになる。内容を決めるカードを二枚引くと、そこには『クラスの女子に告白する』、『キスをする』と書かれており、地味で冴えないクラスメイト・如月心乃香に嘘告白を仕掛けることが決まる。 自分より格下だから彼女には何をしても許されると八神は思っていたが、徐々に距離が縮まり……重なる事のなかった二人の運命と不思議が交差する。不器用で残酷な青春タイムリープラブ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

処理中です...