そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
16 / 52

16.誇り高き民族

しおりを挟む



 世界というのは、どこまでも残酷で俺の日常を壊していく。
 これで今月だけで何度目だろうか。登校しただけの俺に向けられる、静まり返ったクラス中からの視線。
 え、俺ちゃんと制服着てるよな?......大丈夫、ズボンもちゃんと履いている。
 ってことはなんだ?まさか寝ぐせか?怒りで目覚める戦闘民族みたいになってるのか?だが、俺は誇り高き非戦闘民族ぼっちなのだ。髪が変色も伸縮もしない。あれってどういう原理なんだろうな。
 そんなことを考えながら自分の席に着く。隣の席では如月がウズウズというかソワソワしている。なんだよ、トイレなら今のうちに行って来いよ。

「神谷、ちょっといいか?」

 顔をあげればそこにいたのは......誰だっけ。いや、顔は分かる。クラスのお調子者代表のチャラチャラ茶髪野郎。名前......なんだっけ。

「お前さ......その、神楽坂さんと兄妹ってホントか?」

 なるほど、この視線はそういうことか。

「ああ、義理のな。そんなこと聞いてどうすんだ?」
「いやー、いつも他のヤツらには興味ありませんって顔してるのに、授業を乗っ取るような熱いヤツだったなんて意外でさ。ま、妹を守るためだったなら納得だわ」
「別にそんなんじゃねえよ」

 意外なのは分かるが勝手に納得してんじゃねえよ。自らの快楽のために平気で他者を犠牲にするようなあいつらが気に食わなかっただけだ。

「でも兄妹ってことは一緒に住んでんだろ?いいよなあ。俺は兄貴しかいないから妹ってあこがれるぜ」

 いや、お前の個人情報とかいらんから。

「そうかよ。俺は1人のほうが気楽でいいね。で、誰から聞いたんだ?」

 別に隠す必要はないが、あまり詮索されるのもいい気分ではない。まさか、一ノ瀬あいつが洩らすとは思えないが。

「いや、誰っていうか......神楽坂さんたちが話してるのが聞こえちゃってさ......」

 前の席をチラッと見ながら若干気まずそうに言う茶髪。

「あ?」

 目の前で小さな背中がビクッと震える。そうか、お前が犯人か。

「あ、違うの!あかりちゃんは悪くないの!私たちがあかりちゃんちに遊びに行っていいか聞いたら、自分だけじゃ判断できないっていうから......」

 慌てて説明したのは、あかりと喋っていた、ゆるい三つ編みの少女。それで俺と兄妹で一緒に住んでるって言ったわけか。

「別に責めてるわけじゃねえよ。そいつが自分の意思で喋ったなら別にいい」

 目の前の背中が勢いよく振り返った。そんなに驚くことかよ。

「い、いいの......?」
「いいもなにも言っちまったもんはもうどうしようもねえだろ。別に悪いことしてるわけじゃねえし」
「おー、さすがお兄ちゃん!早くも妹を手なずけてる!?」

 うるさいぞ三つ編み。お兄ちゃん言うな。

「まあでも、みんな口には出さないけど、神谷君には感謝してるよ」

 そう言いながら茶髪の後ろから出てきたのはメガネの男子生徒。おい、これ以上一気に登場人物を増やすな。名前を覚えられんだろうが。......そもそも名前知らんけど。

「感謝されるようなことはした覚えないぞ」
「いやいや。このクラスになってからなんというか空気が悪かったけど、それを払拭してくれたんだからね」

 空気が悪い......ね。原因は言わずもがなってところだけど。
 でも俺から言わせてもらえば、お前らだって止めようともせずにやりたい放題やらせてたんだからな?それで、今になってすり寄ってくるとか虫が良すぎんだろ。
 まあこいつらに言ったところで理解するとは思えないがな。何か言えば次は自分が標的にされるかもという恐怖があるかもしれんが、他人の顔色を窺ってばかりの生活なんて何が楽しいのかね。俺にはさっぱり理解できんな。

「ねえねえ!おうちでの神谷君ってどんな感じなの!?やっぱり隅っこで静かにしてるの!?」

 おい、だからうるさいぞ三つ編み。ここぞとばかりに俺に興味を持つな。今まで通り放っておいてくれ。
 それと、自分の家なのに隅っこにいるってどう考えてもおかしいだろ。ハムスターかよ。

「ソ、ソラ君は、すごく優しいよ?ご飯も美味しいし......」
「な、名前......」

 おい如月、お前聞いてたのかよ。しかも身を乗り出して興味津々じゃねえか。そんなに興味あるならちゃんとあかりに話しかけてやれよ。

「へ~。仲いいんだねー。っていうかご飯、神谷君が作ってるんだ。まさかお弁当も毎日神谷君が?」

 三つ編みの問いかけにあかりが小さく頷く。

「意外だねえ。でも家事ができる男の子ってポイント高いよねえ」

 知らねえよ。なんのポイントだよ。貯まったら洗剤でもくれんのか?
 そもそも俺は1人暮らしで、節約して好きなことに金を使うために自炊してるにすぎない。こいつのはそのついでだ。



 登校後最初のチャイムが鳴ってやっと解放されたが、俺は朝っぱらから疲れ果てていた。世の学生たちはこんなのを毎日やってんのか。尊敬するぜ。
 誰とも関わりたくないから今まで隅で静かにしてたのに、こうまで注目されてしまうとは......。やっぱり目立つことはするもんじゃないな。今更言っても後の祭りだけど。


 各自席に着きざわめきがおさまりりつつある中で、俺は机に突っ伏するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

【完結】偽りの告白とオレとキミの十日間リフレイン

カムナ リオ
青春
八神斗哉は、友人との悪ふざけで罰ゲームを実行することになる。内容を決めるカードを二枚引くと、そこには『クラスの女子に告白する』、『キスをする』と書かれており、地味で冴えないクラスメイト・如月心乃香に嘘告白を仕掛けることが決まる。 自分より格下だから彼女には何をしても許されると八神は思っていたが、徐々に距離が縮まり……重なる事のなかった二人の運命と不思議が交差する。不器用で残酷な青春タイムリープラブ。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

処理中です...