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14.聖域の侵食
しおりを挟む昼休み。最近ではこの時間だけが俺の気を休ませてくれる。
なぜか知らんがGW以降、俺の周囲がどうにも騒がしい。放っておいてくれればそれでいいのに。
――ガチャ。
「あ、センパイ、みーつけた!」
......なのに、どうしてこうなるのだ。勘弁してほしい。
「なんの用だストーカー」
「......来ちゃった!」
「帰れ」
これほどうれしくない『来ちゃった』は無い。
「即答!?センパイったらひどい!教室行ってもいなかったから探したんですよ~!」
この場所は誰にも邪魔されない聖域だったんだが。こいつレーダーでも完備してるの?
まさか片っ端から教室を探し回っていたなんてことは......こいつならやりそうだから困る。せめて俺の名前は出すなよ。
「何の用だと聞いている」
「えっと、センパイとお話できたらな~って......」
「そうか。帰れ」
「会話が続かない!?」
「続ける必要性が感じられない」
「そんなん言わんといてぇ!」
「ハァ。なんでお前は俺につきまとうんだ」
「ふふっ!よくぞ聞いてくれました!」
「あ、やっぱめんどいからいいや」
「え、ちょ!?そこは聞いてよ!?」
勝手に話し出したこいつの話によると、俺の『道徳の授業』の噂はその日のうちに広まったという。
内容こそぼかされていたが、好奇心旺盛な高校生に口外するなと言っても無理な話だろう。
「それでね、やっぱりセンパイはセンパイなんだなあって思ったら、いてもたってもいられなくて」
「なにを言ってるのかいっちょんわからん」
「急に方言ですか?..........センパイはやっぱり覚えてないよね。......私ね、去年、帰り道で男の人に絡まれてたところをセンパイに助けられたことがあるの」
「人違いだろ。そんなことした記憶ないぞ」
中身はともかく、男受けしそうな見た目してるしナンパでもされたんだろう。
外見を取り繕うよりそのストーカー的な思考をどうにかした方がいいんじゃないのか。
「うん、きっとセンパイは私を助けようとしたんじゃなくて、単に通行の邪魔だったから声をかけただけなんだと思う。私のこと見ようともしなかったし。......でも、私はすごく怖かったから、すごく感謝してるの。だから、ありがとうセンパイ!」
覚えがないことで感謝されてもな......。まあそれでこいつが満足するならいいか。
「はいはい。話はそれだけか?ストーカー」
「私の名前は千豊です!」
「そうだったな、変態ストーカー」
「ちーちゃんって呼んでくださいね!リピートアフターミー、ちーちゃん!」
「チッ」
おっと、思わず舌打ちが。
「舌打ち!?ああでも『ちぃ』って呼ばれてるみたいでいいですね!」
なに?こいつのメンタルどうなってんの?怖いんだけど。拒否してもダメとか誰かこいつの対処法を教えてくれ。切実に。
「あ、センパイ、メッセージのID交換しよ!」
「あん?嫌に決まってんだろ」
ストーカーにIDとか家とか知られたら何されるか分かったもんじゃない。そもそも誰とも交換したくないし。
「えー、交換しましょうよー!連絡取れないと不便だし」
「つかお前と連絡することがないだろ」
「いいじゃないですかあ。減るもんじゃないし」
「減るね。時間と俺の心がすり減る」
頬を膨らませても無駄だぞ。針で刺して破裂させてやりたい。
まさか唯一落ち着ける昼休みまで侵食されるとは......。
明日から弁当食べる場所どうしよう......と途方に暮れながら教室に戻る。
「あ、神谷君、お願いがあるんだけど......」
「断る」
席に着くや否や、隣から声がかかったのでとりあえずお断りしておく。
「まだ何も言ってないよ!?」
「どうせくだらないことだろ?」
「く、くだらなくないもん!......あのね?メッセージのID交換したいなぁって思って」
「だが断る」
「な、なんで......?」
「個人情報だからだ。あとめんどくさい」
実をいうと、俺が存在していなかったはずのグループトークから飛べるのだが、わざわざ教えてやる義理はない。まあ来てもシカトするだけだが。
なんでこうもIDを交換したがるのだろうか。既読無視だの未読だの面倒くさいだけだというのに。
あと普通にサイトで小説読んでいる時に通知とか来るとイラっとする。
やがて担当の先生が入ってきて授業が始まる。隣からうなり声が聞こえてくるが腹痛か?トイレは昼休みにちゃんと行っておけよ。
俺は再び、明日からの昼休みをどう過ごすか頭を悩ませるのであった。
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