13 / 52
13.シンプルだけどインパクトのある名前
しおりを挟む「——今度は逃がしませんよ、センパイ」
そう言って立ちはだかったのは、小柄な体。
「あん?誰か探してるのか?」
「神谷ソラセンパイ、ですよね?」
「人違いだな。俺の名前は山田太郎だ」
「センパイは大柄な野球少年というよりは田中太郎って感じだと思いますケド」
「誰が宇宙人だ」
野球もやってねえけど肌が青くも無いし角も生えてねえぞ。というかどっちも女子高生が知ってるネタではないだろ。
「あ、神谷君、その子だよお昼に来てたの。やっぱり知り合いだったんだね!」
後ろから如月が駈け寄ってくる。しまった、挟み撃ちにされてしまった。
「おい、言葉に気をつけろ。こいつは俺のことを知ってるかもしれんが、俺はこんなやつ知らん。よって知り合いではない」
知り合いというのは字の如く、お互いが相手のことを知っていて成り立つ関係だ。
「やっぱりセンパイで合ってるんじゃないですかー!私のこと覚えてません!?」
「あ?」
彼女に目を向ける 背はあかりより若干小さいだろうか。サイドアップと呼ばれる片側で縛った明るめの茶髪に化粧をした整った顔。そしてこのハイテンション。
「俺はお前みたいなストーカーは知らん」
「ストーカー!?......でも、センパイのストーカーなら……えへへ」
「え、なにこいつ、キモッ......」
「キ、キモッ!?」
やべ、つい口に出てしまった。でも事実なのだから仕方ない。なんでストーカー扱いされて喜んでんだよ。
「あ、俺玉ねぎ買いに行くから帰るわ」
こんなのに付き合っていたら日が暮れてしまう。俺は逃げるようにその場を後にする。
早くいかなければパワフルな主婦たちによって荒らされて貧相な玉ねぎしか残らない。待ってろよ、俺の玉ねぎ......!
背後では、「はうっ!玉ねぎに負けた!?」と叫び声が聞こえた。
買い物を終えて帰宅すると、あかりもすでに帰宅していたようだった。俺の帰宅に気付いたあかりが自室から出てくる。
「あ、あの......昨日のこと、聞いたんですけど」
あー、今朝一緒にいたあいつらから聞いたのか。まあ黙ってるわけないよな。
「本当、ですか......?」
「ハァ......。ああ、本当だ。だからあいつらが何かしてくることはねえよ」
あの3人だけじゃない。あかりの後ろにいる俺がどこにボイスレコーダーをしかけてるか分からない今、変なことをする奴はいないだろう。
「............なん、で......」
「あ?」
「なんで、こんなこと......してくれるん、ですか......?」
「別にお前のためじゃねえよ。俺がしたかったからしただけだ」
嘘じゃない。俺はあかりや如月のためだなんて考えてなかった。
ただ、過去の何もできなかった臆病な自分にできなかったことを今やっただけだ。まぁこいつにいつまでも引きこもられても俺が困るしな。
「ああ、そうだ。いい機会だから言っておくけどな、その敬語やめろよ」
「......え?」
「お前は変わるんだろ?いつまでも自分からそんな壁作ってんじゃねえよ」
「............っ。わかりま......わかっ、た。やっぱり、ソ、ソラ君は、優しくて強い、ね」
「お前は義理でも俺の妹なんだろ?だったらもっと胸を張れ。下ばかり向いてちゃ前へは進めねえぞ?」
「うん......うんっ......」
平穏な土日を挟んで迎えた月曜日。ここ最近は色々ありすぎてようやく小説を読んでリラックスすることが出来た週末だった。
「あ、センパイ!おはようご」
スタスタ。
「デジャビュ!?......あ、ねえセンパイ待って!待ってったら!」
腕をつかまれて強制的に停止させられる。え、こいつ力強くね?俺が貧弱なだけか?
「......どちらさまで?」
「ひ、ひどい!?先週も会ったじゃないですかあ!」
「いや、俺、お前の名前も知らんし」
「あ、そういえばそうだっけ」
彼女は背を伸ばして、ビシッと敬礼をして名乗った。
「あらためまして、竹田千豊です!」
「お前など変態ストーカーで十分だ」
「はうっ!?」
両手で頭を抱える変態。いちいちリアクションだデカいな。
「あれ、なんでだろう......。貶されてるのに嫌じゃない......?」
あ、こいつ手遅れだ。もしもしポリスメン?今すぐこいつ引き取ってもらえません?
腕から手が離れたのをいいことに、さっさと先へ行く。後ろから何か言いつつ追いかけてくるので競歩みたいになっている。
ハァ......。せっかく週末でリフレッシュできたのに、なんで週の頭のそれも朝からこんな疲れなきゃならんのだ......。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】偽りの告白とオレとキミの十日間リフレイン
カムナ リオ
青春
八神斗哉は、友人との悪ふざけで罰ゲームを実行することになる。内容を決めるカードを二枚引くと、そこには『クラスの女子に告白する』、『キスをする』と書かれており、地味で冴えないクラスメイト・如月心乃香に嘘告白を仕掛けることが決まる。
自分より格下だから彼女には何をしても許されると八神は思っていたが、徐々に距離が縮まり……重なる事のなかった二人の運命と不思議が交差する。不器用で残酷な青春タイムリープラブ。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる