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13.シンプルだけどインパクトのある名前

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「——今度は逃がしませんよ、センパイ」

 そう言って立ちはだかったのは、小柄な体。

「あん?誰か探してるのか?」
「神谷ソラセンパイ、ですよね?」
「人違いだな。俺の名前は山田太郎だ」
「センパイは大柄な野球少年というよりは田中太郎って感じだと思いますケド」
「誰が宇宙人だ」

 野球もやってねえけど肌が青くも無いし角も生えてねえぞ。というかどっちも女子高生が知ってるネタではないだろ。

「あ、神谷君、その子だよお昼に来てたの。やっぱり知り合いだったんだね!」

 後ろから如月が駈け寄ってくる。しまった、挟み撃ちにされてしまった。

「おい、言葉に気をつけろ。こいつは俺のことを知ってるかもしれんが、俺はこんなやつ知らん。よって知り合いではない」

 知り合いというのは字の如く、お互いが相手のことを知っていて成り立つ関係だ。

「やっぱりセンパイで合ってるんじゃないですかー!私のこと覚えてません!?」
「あ?」

 彼女に目を向ける 背はあかりより若干小さいだろうか。サイドアップと呼ばれる片側で縛った明るめの茶髪に化粧をした整った顔。そしてこのハイテンション。

「俺はお前みたいなストーカーは知らん」
「ストーカー!?......でも、センパイのストーカーなら……えへへ」
「え、なにこいつ、キモッ......」
「キ、キモッ!?」

 やべ、つい口に出てしまった。でも事実なのだから仕方ない。なんでストーカー扱いされて喜んでんだよ。

「あ、俺玉ねぎ買いに行くから帰るわ」

 こんなのに付き合っていたら日が暮れてしまう。俺は逃げるようにその場を後にする。
 早くいかなければパワフルな主婦たちによって荒らされて貧相な玉ねぎしか残らない。待ってろよ、俺の玉ねぎ......!

 背後では、「はうっ!玉ねぎに負けた!?」と叫び声が聞こえた。




 買い物を終えて帰宅すると、あかりもすでに帰宅していたようだった。俺の帰宅に気付いたあかりが自室から出てくる。

「あ、あの......昨日のこと、聞いたんですけど」

 あー、今朝一緒にいたあいつらから聞いたのか。まあ黙ってるわけないよな。

「本当、ですか......?」
「ハァ......。ああ、本当だ。だからあいつらが何かしてくることはねえよ」

 あの3人だけじゃない。あかりの後ろにいる俺がどこにボイスレコーダーをしかけてるか分からない今、変なことをする奴はいないだろう。

「............なん、で......」
「あ?」
「なんで、こんなこと......してくれるん、ですか......?」
「別にお前のためじゃねえよ。俺がしたかったからしただけだ」

 嘘じゃない。俺はあかりや如月のためだなんて考えてなかった。
 ただ、過去の何もできなかった臆病な自分にできなかったことを今やっただけだ。まぁこいつにいつまでも引きこもられても俺が困るしな。

「ああ、そうだ。いい機会だから言っておくけどな、その敬語やめろよ」
「......え?」
「お前は変わるんだろ?いつまでも自分からそんな作ってんじゃねえよ」
「............っ。わかりま......わかっ、た。やっぱり、ソ、ソラ君は、優しくて強い、ね」
「お前は義理でも俺の妹なんだろ?だったらもっと胸を張れ。下ばかり向いてちゃ前へは進めねえぞ?」
「うん......うんっ......」









 平穏な土日を挟んで迎えた月曜日。ここ最近は色々ありすぎてようやく小説を読んでリラックスすることが出来た週末だった。

「あ、センパイ!おはようご」

 スタスタ。

「デジャビュ!?......あ、ねえセンパイ待って!待ってったら!」

 腕をつかまれて強制的に停止させられる。え、こいつ力強くね?俺が貧弱なだけか?

「......どちらさまで?」
「ひ、ひどい!?先週も会ったじゃないですかあ!」
「いや、俺、お前の名前も知らんし」
「あ、そういえばそうだっけ」

 彼女は背を伸ばして、ビシッと敬礼をして名乗った。

「あらためまして、竹田たけだ千豊ちほです!」
「お前など変態ストーカーで十分だ」
「はうっ!?」

 両手で頭を抱える変態。いちいちリアクションだデカいな。

「あれ、なんでだろう......。けなされてるのに嫌じゃない......?」

 あ、こいつ手遅れだ。もしもしポリスメン?今すぐこいつ引き取ってもらえません?
 腕から手が離れたのをいいことに、さっさと先へ行く。後ろから何か言いつつ追いかけてくるので競歩みたいになっている。

 ハァ......。せっかく週末でリフレッシュできたのに、なんで週の頭のそれも朝からこんな疲れなきゃならんのだ......。

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