そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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12.カカカの彼女

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 家に帰ると、あかりが自室ではなくリビングにいた。

「あ......、お、おかえりなさい」
「どうしたんだ?」
「あの、お昼......どうするのかなって」
「ああ、そういやあ忘れてたな。簡単に作るから待ってろ」

 先ほどの『道徳の授業』は4時間目。そしてそのまま昼休みになるまで職員室にいたので、時間の感覚がどうにもあやふやだ。......わざわざ待ってなくてもいいのに。



 洗い物を済ませてリビングのソファに腰を下ろすと、あかりが隣に座ってきた。

「が、学校へ行ってきたんですか?」
「あん?」
「その、制服だったから......」
「ああ、まあそんなとこだ」

 俺は、事の顛末をこいつに話すか迷っていた。あいつらがいなくなったところで、クラスメイト全員に過去を知られた事実は変わらない。
 こいつ自身が変わらない限り、見られているという意識は消えないだろう。


「......ひ、ひゃい!?」

 名前を呼ばれただけでキョドりすぎだろ。

「もう学校へは行きたくないか?」
「っ......、わ、わからないけど......怖い、です」
「そうか。なら、今も自分の名前は嫌いか?」
「好きなワケ、ないです。か、神谷君は、自分の名前、嫌いじゃないんですか......?」
「まあ、前は思うところがなかったわけじゃない。けど、そうやって悩むのもアホらしくなった」
「ア、アホらしく......ですか?」
「ああ。無限に広がる宇宙と違って、人の一生ってのは有限だ。つまらないヤツらの相手して時間を無駄にするなんてアホらしいだろ」
「......そう、ですね」

「なあ。この宇宙に、星がいくつ存在すると思う?」
「......え?そんなの、数えきれないくらいに決まって......」
「そうだ。星がいくつあるかなんて誰も知らない。俺たちが見ているのなんて、そのほんの一部に過ぎない。......人間と似てんだろ?」
「人間、と?」
「他人が見てる自分なんてほんの一部だ。だから、お前のことをよく知らないヤツらの言葉になんて、惑わされてんじゃねえよ」
「......」

「あかり」

 呼んだだけでビクン!と隣の体が跳ねる。なんだこれ、面白いな。

「いいじゃねえか、あかりって名前。太陽じゃなくて星ってあたりがお前にぴったりだと思うぞ」
「......そう、ですか?」
「太陽なんて眩しすぎて見えないしな。俺はキレイな星のほうが好きだ」
「......!」

 あかりの顔がみるみる赤くなる。......おい、お前のことじゃないからな?

「お前は変わるんだろ?なら、過去にばかり囚われてないで前を向けよ。とりあえずは応援してやるから」
「ほ、ほんとう、に?」
「とりあえずはな」
「あ、ありが、とう!......ソ、ソラ、くん」

 そう言って彼女は微笑んだ。









 翌日、あかりは学校へ行った。変わるとはいっても急には無理な話で、今日も彼女の前髪フィールドは健在だ。
 俺も様子くらいは見てやろうと、いつもより少し早めに自宅を出た。


「あ!センパイ!おはようござ」

 スタスタ。

「あれ?神谷センパイ?」

 スタスタ。

「あの~、神谷ソラセンパイですよね?」
「知らん。人違いだ」

 俺は速足のまま校門をくぐった。



 教室に入った途端、ざわついていた教室内が一瞬で静まり返る。
 なんだよ、そんなに見つめられても芸なんかしねえぞ?席に着くなり、隣から声がかかる。

「おはよう、神谷君」

 こいつは変わらんな。いや、昨日までと違って堂々としている気がする。
 前の席では前に移動教室で一緒にいた女子があかりに話しかけている。話しかけられた側はソワソワしてるが、お前はとりあえず落ち着け。
 あの問題児3人は登校していなかった。ホームルーム後に錦野先生に聞いた話では、しばらく自宅謹慎ということらしい。いないならそれでせいせいするし、もう関わることもないだろう。
 とりあえず、この視線をどうにかできないものか。見物料取るぞ?




 昼休み。いつもの場所で1人、弁当を開く。
 ふう、やっと一息つける。ぼっちが少し目立つことをしただけでこれだからめんどくさい。
 ゆっくりと弁当を食べ終え、重い足取りで教室へ戻ると如月が話しかけてくる。

「あ、ねえ神谷君。1年生の子が来てたよ?も、もしかして、かかかの、彼女、とか!?」

 かかかの彼女ってなんだ。レレレのお○さんの仲間か?箒の代わりにデッキブラシでも持ってんのか?それは魔女っ子か。それに、とかってなんだ。俺は彼女も彼氏も欲しくないぞ。

「俺に1年の知り合いなんていねえよ」
「えー、でもたしかに神谷君を探してたんだけどなあ」

 そう言われても覚えがないのだから仕方ないだろ。今日は帰りに買い物行かないとな、と考えながら授業を受けていく。
 放課後、いつも通り一番に教室を出ようとする。しかし、俺が明けるよりも早く扉が勝手に開く。
 いつからここは自動扉を導入したんだ?便利だからいいけど。と勝手に納得して出ようとしたところ、進路を小柄な体に塞がれた。


「今度は逃がしませんよ、センパイ」
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