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10.授業を始めようか
しおりを挟む翌日、あかりと俺は学校を休んだ。あかりに付き添うためと言ったら錦野先生は快諾してくれた。
さて、今日もやりますか。早朝の誰も生徒のいない時間に1度学校へ行き、回収してきたモノを取り出す。
『ボールペン型ボイスレコーダー』
一見するとペンにしか見えず、そのうえちゃんとペンとしての機能もある。学校にあっても全く不自然さを感じさせない物。
俺は昨日の昼休み、教室を出る前に自分の机にしかけて、早退する時にもう1つと入れ替えた。そして帰宅してからその内容を繰り返し聞いていた。
そして今朝回収してきた分を今聞いている。今回のはとりあえず授業中は除外して、休み時間と放課後を優先して聞いていく。
やがて音声は放課後になって生徒がぞろぞろ帰っていき、そろそろ終わりかなという頃だった。
―――なんだこれは。
巻き戻して、もう1度よく聞く。......間違いない。
時計を見ると9時になるかというところだった。今日の時間割はたしか......。クソッ、時間がないしこれだけではまだ足りない。急がなければ。
1時間目の授業が終わる時間に合わせて学校に電話して、錦野先生に取り次いでもらう。
とりあえず説明するも、やはり「は?」という言葉が返ってくる。しかし、時間がないことと先生にやってもらいたいことを伝えて切る。
そろそろか......。俺は自室にいるあかりに出かけることを伝え、学校へ向かう。
学校へ着くと、錦野先生と如月が待っていた。2人とも表情が硬い。......当たり前か。
「それで?どういうことだ」
挨拶も早々に先生は聞いてくる。
「電話で軽くは説明しましたけど......、実際に見て聞いてもらったほうが早いです」
そう言って教室に向かい、2人にはドアの外で隠れて待機してもらう。
この時間は本来ならば錦野先生の授業の時間。しかし、無理を言って自習にしてもらった。まあどっちにしろ授業どころじゃないけどな。
俺は扉を開いて教室の中へ入っていき、教卓に勢いよく手をつく。
「さあ、道徳の授業を始めようか」
「え、なに......?」
「あれって、神谷君?今日休みじゃ......」
「なにしにきたの?」
想像通りのざわめき。俺はそれにかまわず語り始める。
「あるところに、4人の女の子がいました。高校入学してすぐ、その子たちは近くの席だったので友達になりました。仮に、A子、B子、C子、D子としよう。彼女たちはいつも4人仲良く遊んでいました。
......その年のバレンタイン、C子はそれまでずっと好きだった男子に告白をしました。しかし、結果はNO。フラれた理由は、その男子がA子のことを好きだったからでした。
しばらくは我慢していましたが、やがて嫉妬と憎悪に狂ったC子はA子のことをハブるようになりました。それでも苛立ちが収まらず、周囲の人間にも当たり散らすことが増えました。
5月になり転入生がやってきました。容姿も性格もパッとしない転入生。新しい玩具を見つけた彼女は通話でクラスの数名に「シカトしろ」と命令しました。
そして火曜日、彼女はお友達から面白い情報を手に入れました。それは転入生の子が前の学校でイジメられていたというものでした。
彼女は転入生に直接聞きました。「前の学校でイジメられてたの?」と。彼女は何も答えずに逃げ去っていきました。
そしてその日から彼女たちは転入生とA子をイジメて楽しく過ごすのでした。......以上、くだらないお話でした」
本当にくだらない。虫唾が走る。
「さて、何か感想はあるか?......一ノ瀬」
俺は最前列にいる金髪ギャル......の隣の席に座るダークブラウンの髪の少女に尋ねた。
「......っ、な、なによ、たかが作り話じゃない!」
「そうかよ」
俺は冷めた目と口調で返してからスマホを取り出して操作する。繋いだ小型のスピーカーを通して音声が流れ始める。
『......ねえ、明日のアレ、本当にやるの?』
『なに、ビビってんの?』
『だ、だって、バレたら......』
『大丈夫よ、これはただの遊びなんだから。証拠なんか無いしね。見つかっても逆に拾ったっていえばいいだけよ』
『そ、そうだよね。大丈夫だよね』
『当り前じゃない。体操服がなくなったり、盗まれたお財布が鞄に入ってたりしたらどんな顔するのかしらね』
『それいつやるの?』
『マオ、1時間目の移動教室の時にあなたがアイの体操服を隠して、体育の最中にカスミが財布を盗みなさい』
『えー、どうやってやるのー?』
『トイレでもなんでも言い訳すればいいでしょ』
『それでミコトは?なにするの?』
『私は見張りと足止めをするわ』
『転入生のほうは?』
『あの子、昔は名前のせいでイジメられてたらしいわ。死んだ人はお星さまになるからって。紬にいいこと聞いたわ』
『紬って......?』
『藤江紬。あかりちゃんの前の学校の子よ。私と同じ中学だったんだけど、転入生来たって言ったらもしかしてって言われてあの子のこと喜んで話してくれたわ』
『なるほどー。じゃあお星さまって呼んであげたほうがいいのかな。それともゾンビちゃん?』
『いいわね、ついでにあの邪魔な髪も切ってあげようかしら。きっと喜ぶんじゃない?どうせ教室の隅にいるあいつらが来なくなっても誰も気にしないし、むしろせいせいするし?』
『そうだね』
スピーカーを通して再生されたのは、3人の会話。
さきほど起こった如月の体操服の紛失と、同時に如月にかけられたクラスの女子の財布窃盗冤罪の犯行計画を話しているところだった。
「......なにか言いたいことはあるか?安藤花澄、一ノ瀬美賢、北大路真緒」
名前を呼ばれた3人とも顔が青ざめて震えていた。
それでも一ノ瀬は往生際が悪かった。
「な、なによそれ、どうせ合成でしょ!?私たちを嵌めようとしてるんでしょ!ふざけないでよ!」
ハッ。とことん性根の腐ったクズだな。......いいぜ、その挑発受けてやるよ。
俺はスマホを続けて操作する。すると、教室の至る所から同時に振動音がする。
「おや?珍しいこともあるもんだな。さあ、全員スマホを見てみろよ」
ぞろぞろとスマホを取り出すクラスメイトたち。3人も内容が気になるようで、ビクビクしながらも取り出す。
「おい......なんだこれ」
「マジかよ」
ざわめきが一際大きくなる。
それはメッセージアプリのグループトーク。そこに送信されていたのは、数枚のスクリーンショットだった。
あかりがイジメられていたことを一ノ瀬に伝えたお友達、藤江紬のSNS。
内容はあかりが転校していったこと。あかりに対する後悔。一ノ瀬にあかりのことを教えたこと。あかりを助けてあげてほしいこと。それらが綴られていた。
「これでもまだ認めねえか?お前は......彼女の後悔と願いすらも踏みにじった、最低なクズだ」
「......わ、わたしは......っ」
そこで扉が開く。
「もういい。後は職員室で話を聞く」
そう言って入ってきた錦野先生に3人は連れられて行った。
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