そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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8.拒絶

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 場所を移した俺たちは今日起こったことを説明した。

「そうか。だが、教師で前の学校のことを知ってるのは校長と私とハルカくらいなはずだ......」

 ハルカというのは保健室の先生である飯塚春香教諭だ。保健室登校の可能性もあるから知らされたのだろう。
 2人は歳が近く、名前で呼び合うくらいに仲がいいらしい。......ただし、飯塚先生は結婚しているが。

 教師陣でも3人しか知らないのか。ならば、問題が起きたとき真っ先に漏洩の疑いがかかるため教師から漏れる可能性はほぼないだろう。しかし、それは後回しでもいい。
 俺は他に気になることがあった。

「なあ、如月。説明することはないか?」

 そう尋ねると、彼女は体をビクッと震わせた。

「ああ、別にお前を責めようとかじゃない。ただ、今は起こっていることを全て知りたいだけだ」
「......う、うん」

 如月は返事をするも、錦野先生のほうをチラッと伺うばかりでなかなか話さない。すると、先生は何かを察したのか立ち上がり

「どうせ神楽坂は授業を受けられる状態じゃないだろうし、早退手続きと教室から荷物をとってくるわ」
「先生、このことはまだあいつらには」
「わかってる。まだ神楽坂にも事情を聞かなきゃだしな。こっちは任せた」
 
と言って出て行った。


「で?」

 短く話の続きを促す。

「......こないだの、日曜日なんだけど。急にグループ通話がかかってきて......神楽坂さんの感じが悪いとか悪口大会みたいになってて、次第に無視しようとかいう話になって......。クラスの何人かにもそう言ったみたい」
「なるほどな。あいつらがなんで神楽坂のイジメを知っていたかは?」
「それは、分からない......。私もさっき初めて知ったくらいだし」
「そうか」
「でも、どうして何かあるってわかったの......?」
「......俺は『ぼっち』だからな。他のやつらとは違って教室内のことがよく分かる。しかもあいつは俺の目の前の席だ。月曜から誰ひとり近寄ってこなかったのなんて明らかだったろ」

 そう、先週は移動教室など「一緒に行こう」と誘ってきた女子たちも近寄ってこず、気まずそうに見ているだけだった。

「やっぱり神谷君はすごいな。1人でいても平気で、強くて羨ましい」
「......何言ってんだ。お前だってさっきはあんなに怒鳴っててすごかっただろうが」
「あれは自分でもビックリした。最近カスミたちといても、話を合わせなかったり遊ぶのを断っただけでハブられたり、ちょっと疲れてたからスッキリしたかも」

 カスミって誰だ?あの3人のうちの誰かか?ジムリーダー......ではないよな。

「でも、本当は通話の時点で止めなきゃいけなかったのに......っ。今度は自分が何かされるかもって思ったら、怖くて......何も言えなかった......っ。そのせいで、神楽坂さんを傷つけた......」

 如月は泣き出しそうな声でそう語った。


「なあ、去年はあいつら、お前にまとわりついてたよな?でも最近はむしろ逆な感じがするけど、何かあったのか?」

 1年生の頃は、あの3人が如月の取り巻きみたいに引っ付いていた。

 それが最近はいつの間にか3人だけで話していて如月は自分の席に1人でいることが多くなった。
 さっきの話を聞くと、主導権も向こうが握っているようだ。

「理由はわからないいけど、2年生になったあたりからだと思う......。そんなとこまで見てるんだね」

 見てるというよりは聞いてるが正しいけどな。



 そこへ錦野先生が戻ってくる。

「もうすぐ昼休みも終わるぞ。2人共ご飯も食ってないだろ?そろそろ教室に戻れ」

 そういえばそれどころじゃなくて飯も食ってなかったな。

「如月、時間取らせて悪かったな。先教室戻ってくれ。俺はちょっと先生と話がある」
「え、あ、うん。分かった......」

 失礼します、と軽く頭を下げて退室する如月。


「神楽坂の様子は?」
「......ダメだな、何も話してくれない」
「そっすか」

 無理もないな。クラス全員にイジメの過去を知られてしまったのだから。もう教師ですらも敵か味方か分からず疑心暗鬼だろう。

「......先生、俺も早退します」
「そうか、そのほうが助かる。今のあの子を1人にしておけないしな」

 先生の許可を得て、早退手続きをしてもらう間に教室に荷物を取りに行く。
 如月は席にいない。トイレだろうか。まあいたら何か言われるだろうし、ちょうどいい。

 保健室へ行き、ベッドで膝を抱えているあかりに声をかけるも返事をしない。
「帰るぞ」と言っても動こうとしないので先生が腕を掴もうと触れると、ビクッと大きく体を震わせてその手を振り払った。
 俺はできるだけ優しく声をかける。

「なにもしないから大丈夫だ。だから、ウチへ帰ろう」

 あかりはやっと少し顔を上げて俺を認めると、また泣き出してしまった。顔を隠す前髪は頬に張り付き、顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
 もう1度帰るよ、と口にしてからそっと腕に触れると、震えてはいるが今度は振り払われなかった。上履きを履かせてそのまま腕を引くと、あかりはされるがままについてきた。




 家まで車で送ってくれた先生にお礼を言って玄関に入った途端、あかりから力が完全に抜けて崩れ落ちてしまった。

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