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7.終わりの始まり
しおりを挟むあかりの荷物が届き、整理と作業に追われた土日を挟んで迎えた翌週。
土日はスマホで小説投稿サイトを読みあさろうと思ったのにな......。
教室へ入り自分の席へ直行する。
如月が俺に気付くが、急に辺りをキョロキョロしだして「か、神谷君、おはよう」と挨拶をしてくる。
なんだこいつ。挙動不審かよ。
怪しいヤツとは関わりたくないので無視する。
俺は今日も授業を受けつつ、休み時間になると本を開く。しかし本に向ける意識は半分だけだ。
毎日真面目に読んでいたら本が何冊あっても足りない。学校内ではスマホを使っているのがバレたら没収されてしまうので使えない。では残り半分の意識は何に向いているかというと、クラス内の観察だ。
ジロジロと見てしまうと、キモイとか変態とか罵倒されてしまう。しかしぼっちの俺には、本に視線を固定しつつ背景として彼らを捉えて観察できる特技が備わっている。
そして重要なのが耳だ。集中すれば誰と誰が何を話しているかなんて、決して広いとは言えない教室内では聞き取るのは難しくない。そうすることによって彼らの生態を調査して面倒なことは回避してきた。ぼっちにとっては必須といっても過言ではないスキルだ(効果は個人差があります)。
事件は3時間目の授業後に起きた。
週が明けて3日目。誰も近寄らなかったあかりの下へ数人の人物が歩み寄る。
それは、如月愛衣の取り巻き3人衆だった。名前を覚える必要もないので、俺は心の中で金魚のフン1号、2号、3号と呼んでいた。
「ねえ、あかりちゃんってもしかして、前の学校でイジメられてたりした?」
問いを発したのは、金髪の見るからにバカっぽいギャルの1号。大きくはない声だが、発した人物の影響もあってかクラス内がしんと静まり返る。
あかりは何も答えない。いや、答えられない。
しかし大抵の場合、沈黙は肯定と捉えられる。
「えー! イジメられてたなんてかわいそう!」
と隣にいたダークブラウンの髪をした2号がわざとらしく大きな声で発言した。
それは水面に投げ入れられた小石のように波紋を呼び、クラス内に事実として浸透していく。次第にざわめく教室内。それを感じてソイツは意地の悪い笑みを浮かべた。
「でも大丈夫。私たちがお友達になってあげるから! これから、よ・ろ・し・く・ね」
あかりは何も言えずに震えている。
逃げようにもここは窓側の席。隣に立って道を塞がれてはどうすることもできない。
「なんでイジメられてたの?」
「私たちが仲良くしてあげるからね」
4時間目の授業の教師が入ってくるまで彼女らの口は止まることはなかった。
俺は自分の甘さを痛感した。
まだあかりのことをよく知らないし、少しずつ変わっていけばいい。そう思っていた。
しかし現実は残酷だった。彼女たちがどこでその情報を手に入れたかは定かではないが、まさか転入1週間でこうなってしまうとは。思わず拳を握り締める。
授業内容など一切頭に入ってこなかった。
授業が終わり昼休みになった瞬間、あかりは教室を飛び出していってしまう。
それを見た3人衆が笑いだす。
「キャハハ! あーあ、逃げられちゃった」
「せっかく仲良くお弁当食べてあげよーと思ったのにね」
耳障りな声が本人不在の席へ歩いてくる。俺はあかりを追おうと思ったがこいつらに何か言わねば気がすまないと思い、立ち上がろうとした。
「ふざけないでよ!」
しかし俺より先に爆発した人物がいた。
「なんでそんなひどいことができるの!?わざわざイジメられてたかなんて聞く必要ないじゃない!」
隣の席の人物――如月が怒りを顕にして立ち上がった。
「ハッ!さすが優等生はいうことが違うねえ。なんで? そんなの興味あるからに決まってんじゃん」
「そんな興味本位で傷つけるなんて許せない」
「別にアンタに許される必要なくない?」
「最っ低!」
そう叫んで如月は教室を出て行った。如月が爆発したおかげで踏みとどまった俺は、冷めた目で彼女らを一瞥して静かに教室を出た。
後ろからは
「優等生だからって真面目ぶって調子に乗ってまじウザーイ!」
と聞こえてきたが、今はそんなのに構っている暇はない。
「おい、どうするつもりだ」
前を歩く背中に声をかける。
「先生にでもチクリに行くか?」
如月は振り返って答える。
「あ......、なに? 神谷君は黙ってろって言いたいの?」
俺を視認すると驚くが、怒りを隠さずに問うてくる。
「そうじゃねえよ。だけど言ったところで無駄だと思うけどな。あいつらは質問しただけでまだ何かしたというわけではないし、証拠もない。どうせ事情を聞かれ注意されるだけだ。......その結果、どうなると思う」
俺は歩き出しながら答えつつ逆に問う。如月は戸惑いつつも後をついてくる。
「え......? どうって......」
「今度はチクられないように、誰も見ていないところで陰湿なイジメが始まるんだよ」
「そんな......!でも、このままじゃ......」
「神谷」
階段を下りたところで俺を呼んだのは担任の錦野先生だった。俺の名前を呼ぶ声は固く、顔も強ばっている。
「ちょうど良かった。今神楽坂に会った。泣いてて普通の状態じゃなかったからとりあえず保健室に連れてったが、何があった?」
さすがに人通りのある昼休みの廊下で事情を説明するわけにもいかず、職員室にある応接スペースに移動することになった。
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