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5.悪夢の前兆
しおりを挟む扉が開き、パタパタと走り去る音がする。
落ち着け俺。ペッタン、ペッタン。それは餅つけだ。脳内で餅をつき始めるウサギどもを追い出す。鍋にして食っちまうぞ。
「おにいちゃん、ね......」
自分で言うのもなんだが、昨日はかなり冷たく接したはずだ。懐かれても困るし、あいつに泣きついて連れ帰ってもらえれば良かったんだが。
なのに、寝ぼけていたとはいえあの態度。......考えても分からない。
まあいいか。他人が何を考えてるかなんて分からないしどうでもいい。ぼっちは他人のために割く時間など持ち合わせていないのだ。
どうせ向こうも忘れたいだろうし、なかったことにするのが1番だな。それよりも朝飯を食べて学校へ行かねば。
数分後、顔を洗って戻ってきたあかりと朝食を摂る。昨日と同じく、うつむいているせいで顔が隠れてしまう。......顔が赤いのはバレバレだけど。
いただきますとごちそうさま以外、お互い無言で食べ終えて学校へ行く支度をする。
そういえば、あかりはどうやって通学するのだろうか。ここから最寄りの中学は徒歩で30分くらいはかかるはずだけど......。道は分かるのか?
なんて考えていると、あかりの部屋の扉が開く。そして出てきたあかりを見て思考が全て吹っ飛んでしまう。
............え?
そういえば、俺が勝手にそうと思い込んでいただけでちゃんと聞いていなかった。
「か、神楽坂......」
「......なんですか?」
俺はやっとの思いで言葉を絞り出す。
「お前、今いくつ?」
「......16歳、高校2年生です」
彼女は俺が通う高校の女子用制服を身にまとっていた。俺は小柄な彼女を中学生と思い込んでいて、高校生、しかも同学年であるなんて想像もしていなかった。
そのへんもちゃんと説明しとけよと思うが、自分のマヌケさにも呆れてしまう。こんな可能性を見落としていたなんて......。
「神楽坂」
再び彼女を呼ぶ。
「緊急時以外、学校では俺に関わるな」
「......えっ」
あかりは驚いているようだが、俺は説明をせずに玄関へ向かう。どうせ今説明しても理解しないだろうし実際に生活してるうちに誰かから聞くだろう。
さっさと誰かと仲良くなってくれれば世話を押し付けられるんだけどなぁ。それは無理な話か。
彼女も慌てて後ろについてきて靴を履こうとするが、バイブ音がそれを中断させる。
こんな時間に電話......?しかし俺のポケットからは振動を感じない。ということは?
振り返ると、あかりがビックリしつつもカバンからスマホを取り出して電話に出る。
「......もしもし。......はい。......はい。............はい」
こいつは「はい」しか言えないのかよ。典型的なNOと言えない日本人じゃねえか。そんなんじゃこれからの時代は生きていけないぞ。
ついこないだも、大学生がマルチ商法に引っかかって多額の借金を背負ったなんてニュースやってたしな。安易に他人を信用したり言いなりになるからそうなるのだ。そもそもそれで本当に儲かるなら見ず知らずの他人になど教えずに独占するはずだろ。
あかりはいくつか返事をすると電話を終え、なにか言いたげに俺を見てくる。
「なんだ」
「......お義父さんからで、学校へ付いたら、2人で錦野先生のところに行くようにって」
「は?」
「昨日言い忘れてたらしくて、か、神谷君にかけても出てくれないから私にって」
たった今こいつに俺に関わるなって言ったばかりなのに、ものすごく嫌な予感しかしない。しかもよりによって錦野先生かよ......。もういっそのこと学校を休んでしまいたいが、こいつの転入初日だ。行かないわけにもいかないだろう。
何か忘れているような気もするが思い出せない。朝っぱらから脳に衝撃を与えたせいだな。
俺はスマホを取り出すと、あの男に『豆腐の角に頭ぶつけてくたばれ』と送信した。
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