そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
3 / 52

3.名前と後悔

しおりを挟む



 ――ガチャ。

 玄関のドアを開けると、そこには先ほど見えたとおり黒髪の少女が俯いて立っていた。
 背は150センチちょいくらいだろうか。髪の毛が覆っているおかげで顔が全く見えない。

「何か用ですか」

 誰だか予想は付いているが、俺はなるべく冷たい声で問う。

「あ、あの......」

 消え入るようなか細い声。俺は彼女の言葉を待つ。

「わ、わたし、お義父とうさんにここへ行けって言われて......それで、今日からここに住むことになって......」

 ハァ......。

「まあいいや。とりあえず入って」

 時刻はまだ17時過ぎ。このまま玄関先で話して誰かに見られてあらぬ噂をたてられてもかなわん。
 背を向けてリビングへ向かうと、後ろから

「お、おじゃま、します......」

 という小さな声と共に少女が入ってくる。彼女はリビングまで来ると、立ったままモジモジしている。

「座れば?」

 と自分の隣を視線で指す。大きめのソファなので2人座っても少し余裕がある。
 俺としっかりと距離をとりつつおずおずと腰をおろすのを見届けると、テーブルに広げたままの手紙を見つつ俺は口を開いた。

「名前は?」
「か、神楽坂かぐらざか......あかりです」

 名前の部分だけさらに声が小さくなった。聞き取るのがやっとなくらいだ。

「俺のことは聞いてるな?」

 隣を見ると、小さく首を縦に動かした。

「で、だ。お前はどうしたいんだ?」

 あかりは俯いたまま黙っている。言葉が曖昧だったか。

「聞き方を変えよう。お前はここに住みたいのか?」
「......や、やっぱり、迷惑ですか?」
「ああ、迷惑だ。ついでに言うと、俺はお前みたいのが嫌いだ」

 質問に質問で返されてややイラっとしてハッキリと言ってやると、彼女はビクッと体を震わせる。

「じゃ、じゃあ......私......」

 涙声になっているのは気のせいではないんだろうな。彼女がおそらく立ち上がろうとしたところで言葉を続ける。

「だけど、出て行かれて警察沙汰にでもなったらもっと迷惑だ」

 あかりはその体勢のまま動きを止める。

「どうせ行くアテなんてないんだろ?」

 あかりは黙ったまま動かない。そもそも行くアテがあったらここへ来てないだろうしな。

 と、手紙と一緒にテーブルに置いたままのスマホに通知が来ているのに気づいた。スマホを手にとると、あの男からメッセージが来ていた。


『その子の母親は、仕事をしながら女手ひとつで育ててきた』

『その子がイジメられているのを知り、後悔して参ってしまっている。俺はそれを見ていられなかった』

『相談に乗ったはいいが、俺にはどうすることもできなかった』

『どうか、その子を助けてやってほしい』

『荷物は土曜日に届く。生活費ももちろん振り込む』

『迷惑をかけて本当にすまない』


 そんな内容が送られてきていた。さっき電話を切ったからわざわざメッセージで送って来たのだろうが、最初から手紙に書いておけよと思う。
 いちいち面倒くさいことしやがって......と心の中で悪態をつきながら、俺はそのメッセージの内容に引っ掛かりを覚えた。


「——なぁ、なんでイジメられてたんだ?」

 単刀直入にその問いを発した瞬間、先ほどよりも大きく体を震わせた。

「......もしかして、名前のことなんじゃないか?」

 俺の予想を告げると、あかりは答える代わりに嗚咽を漏らして泣き出してしまう。やっぱりか。
 手紙にあった彼女の名前は、神楽坂 星。『星』と書いて『あかり』と読むらしい。
 名乗る時に名前の部分だけさらに声が小さかったこと、そして彼女の母親の後悔。気づくのは難しいことではなかった。
 もちろんイジメられたのはそれだけでなく彼女の性格等もあるだろうが、名前というのはその人を表すモノ。
 珍しい名前はバカにされやすいというのも、

 なるほど、こいつも親に狂わされた一人というわけか。......だからといって同情はしないけどな。


「お前はこのままでいいのか?そんなんじゃ学校を移ったってまたイジメられる可能性はあるんだぞ?」

 彼女はいまだ泣き止まぬまま、首を横に振る。
 俺は軽く息を吐き出し、彼女に告げる。

「......ここに住まわせてやってもいいが、条件がある」

 彼女はピクっと小さく反応した。


「お前の意思を言葉でちゃんと示せ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

【完結】偽りの告白とオレとキミの十日間リフレイン

カムナ リオ
青春
八神斗哉は、友人との悪ふざけで罰ゲームを実行することになる。内容を決めるカードを二枚引くと、そこには『クラスの女子に告白する』、『キスをする』と書かれており、地味で冴えないクラスメイト・如月心乃香に嘘告白を仕掛けることが決まる。 自分より格下だから彼女には何をしても許されると八神は思っていたが、徐々に距離が縮まり……重なる事のなかった二人の運命と不思議が交差する。不器用で残酷な青春タイムリープラブ。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

処理中です...