そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

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3.名前と後悔

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 ――ガチャ。

 玄関のドアを開けると、そこには先ほど見えたとおり黒髪の少女が俯いて立っていた。
 背は150センチちょいくらいだろうか。髪の毛が覆っているおかげで顔が全く見えない。

「何か用ですか」

 誰だか予想は付いているが、俺はなるべく冷たい声で問う。

「あ、あの......」

 消え入るようなか細い声。俺は彼女の言葉を待つ。

「わ、わたし、お義父とうさんにここへ行けって言われて......それで、今日からここに住むことになって......」

 ハァ......。

「まあいいや。とりあえず入って」

 時刻はまだ17時過ぎ。このまま玄関先で話して誰かに見られてあらぬ噂をたてられてもかなわん。
 背を向けてリビングへ向かうと、後ろから

「お、おじゃま、します......」

 という小さな声と共に少女が入ってくる。彼女はリビングまで来ると、立ったままモジモジしている。

「座れば?」

 と自分の隣を視線で指す。大きめのソファなので2人座っても少し余裕がある。
 俺としっかりと距離をとりつつおずおずと腰をおろすのを見届けると、テーブルに広げたままの手紙を見つつ俺は口を開いた。

「名前は?」
「か、神楽坂かぐらざか......あかりです」

 名前の部分だけさらに声が小さくなった。聞き取るのがやっとなくらいだ。

「俺のことは聞いてるな?」

 隣を見ると、小さく首を縦に動かした。

「で、だ。お前はどうしたいんだ?」

 あかりは俯いたまま黙っている。言葉が曖昧だったか。

「聞き方を変えよう。お前はここに住みたいのか?」
「......や、やっぱり、迷惑ですか?」
「ああ、迷惑だ。ついでに言うと、俺はお前みたいのが嫌いだ」

 質問に質問で返されてややイラっとしてハッキリと言ってやると、彼女はビクッと体を震わせる。

「じゃ、じゃあ......私......」

 涙声になっているのは気のせいではないんだろうな。彼女がおそらく立ち上がろうとしたところで言葉を続ける。

「だけど、出て行かれて警察沙汰にでもなったらもっと迷惑だ」

 あかりはその体勢のまま動きを止める。

「どうせ行くアテなんてないんだろ?」

 あかりは黙ったまま動かない。そもそも行くアテがあったらここへ来てないだろうしな。

 と、手紙と一緒にテーブルに置いたままのスマホに通知が来ているのに気づいた。スマホを手にとると、あの男からメッセージが来ていた。


『その子の母親は、仕事をしながら女手ひとつで育ててきた』

『その子がイジメられているのを知り、後悔して参ってしまっている。俺はそれを見ていられなかった』

『相談に乗ったはいいが、俺にはどうすることもできなかった』

『どうか、その子を助けてやってほしい』

『荷物は土曜日に届く。生活費ももちろん振り込む』

『迷惑をかけて本当にすまない』


 そんな内容が送られてきていた。さっき電話を切ったからわざわざメッセージで送って来たのだろうが、最初から手紙に書いておけよと思う。
 いちいち面倒くさいことしやがって......と心の中で悪態をつきながら、俺はそのメッセージの内容に引っ掛かりを覚えた。


「——なぁ、なんでイジメられてたんだ?」

 単刀直入にその問いを発した瞬間、先ほどよりも大きく体を震わせた。

「......もしかして、名前のことなんじゃないか?」

 俺の予想を告げると、あかりは答える代わりに嗚咽を漏らして泣き出してしまう。やっぱりか。
 手紙にあった彼女の名前は、神楽坂 星。『星』と書いて『あかり』と読むらしい。
 名乗る時に名前の部分だけさらに声が小さかったこと、そして彼女の母親の後悔。気づくのは難しいことではなかった。
 もちろんイジメられたのはそれだけでなく彼女の性格等もあるだろうが、名前というのはその人を表すモノ。
 珍しい名前はバカにされやすいというのも、

 なるほど、こいつも親に狂わされた一人というわけか。......だからといって同情はしないけどな。


「お前はこのままでいいのか?そんなんじゃ学校を移ったってまたイジメられる可能性はあるんだぞ?」

 彼女はいまだ泣き止まぬまま、首を横に振る。
 俺は軽く息を吐き出し、彼女に告げる。

「......ここに住まわせてやってもいいが、条件がある」

 彼女はピクっと小さく反応した。


「お前の意思を言葉でちゃんと示せ」

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