そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
2 / 52

2.よろしい。ならば——

しおりを挟む


 翌日。 俺はいつも通り学校へ行く。ゴールデンウィークが明けて少し気温も上がった気がするな。朝はいいが昼は暑くなるからほどほどにしてほしいものだ。
 校門をくぐっても教室へ入っても、誰も俺に声をかける者などいない――ハズだった。

「お、おはよう」

 だから耳に入ったその声もスルーして俺は窓側の1番後ろにある自分の席についた。ぼっちにとって窓際最後尾の席というのは最上級のポジションだ。前と右しか人と接してないし隣を誰かが通ることも無い。さらには登下校時は教室の後ろを通って障害も無く移動できる。

「......神谷君」

 そうそう、こんな風に話しかけられることだって無い——え?
 隣の席から聞こえてきたのは、たしかに俺の名を呼ぶ鈴のような声。視線だけを向けると、そこに座っているのは、如月きさらぎ愛衣あい——

 昨日に引き続きまだ何かあるのか?と訝しんでいると、

「おはよう?」

 と挨拶を投げかけてきた。おはようってなんだっけ。

「......おはよう」

 つい反射で返してしまう。久しぶりに「おはよう」なんて発したが、うまく発音できたようだ。

「ねえねえ神谷君、今日の数学の宿題やってきた?」

 ......は? なに? なんで会話が発生してるの?
 先にも述べたが、俺に話しかけるどころか挨拶すらしようなんて思うヤツもいない。俺もそれでいいと思っているし、それが俺の日常だ。だというのに、なぜこいつは俺に挨拶をしたうえでさらに会話を続けているんだ?

「ああ」

 脳内は混乱しているが、平静を装いつつ短く返事をする。

「ふふっ。さすがだね!」

 そう言って微笑む如月。こいつ......一体なにを考えているんだ?

 如月愛衣。
 彼女は茶色がかった髪で鈴を転がすような声の持ち主。まぎれもない美少女であり、それに加えて成績もけっこう良いらしい。それでいてコミュ力も申し分なしで、周りにはいつもが群がっている。
 そんなクラスの中心人物が、「ぼっち」である俺に挨拶をしてくる時点で異常なのだ。
 いつも一人でいる俺を哀れんで、という可能性もあったが、2年生になり1ヶ月も経った今更になってなぜ..........?

 それに加えて昨日の告白だ。あれはおそらくお友達との罰ゲームか、もしくは俺がOK出した途端にウソでしたー!と言って翌日以降から俺をイジるため、そのどちらかだろう。
 ということはだ。昨日の告白を台無しにされてプライドが傷ついた彼女は俺に接近して惚れさせ、俺が告白した時点でフるという俺への仕返しのつもりか?
 俺とは住んでいる次元が違うともいうべき彼女が、話しかけてくる理由なんてそれくらいしか思い浮かばない。

 俺はため息をついて決意する。

 ―――よろしい。ならば鎖国だ。




 その後、時折向けられる視線を無視しながらも授業を受ける。
 昼休みにスマホのバイブが着信を告げたが、表示された名前を見て顔をしかめ、無視した。

 授業を終え、いつもどおり誰よりも早く下校する。フッ、今日も帰宅部の活動をしてしまったぜ。自宅にたどり着くとポストに封筒が入っていた。手紙......?と思い差出人を見て、またも顔を顰める。
 そこにあった名前は、神谷幸太郎こうたろう。認めたくはないが俺の父親だ。昼の着信もこの手紙に関してなのだろう。

 学校から徒歩で約15分ほどの距離にあるマンションの206号室が我が家だ。間取りは2LDK。無駄に部屋があって掃除が大変だが、角部屋でキッチンが充実していて、お風呂には追い焚機能もついている。
 料理をする者にとってキッチンは大事だ。ここより狭い間取りの部屋だとコンロが1口しかなかったり、学校からかなり遠い場所にあったりと満足する物件が無かった。
 以上の理由でこの部屋に決めた。家賃?そりゃあ高いが、父親が気にしなくていいって言ったから気にしてない。

 玄関から入ってキッチンを横目に進むとリビングに着き一旦手紙を置いて隣の部屋に行って着替える。制服のまま過ごすと皺になるし料理をするときに臭いがついてしまうので、すぐに着替えるのがクセになっている。
 リビングに戻ってソファにかけ、封筒から手紙を出して読む。数分かけて読み終わると、大きくため息をついて頭を抱えた。


 手紙にあった内容はこうだ。

 ・電話はおそらく出ないので手紙を送ったこと。

 ・再婚したこと。

 ・再婚相手に子供がいること。


 ここまではまだいい。どうしようが俺の知ったことではない。問題は次だ。

 ・

 意味がわからない。手続きは父親がやるらしいが、なぜ一緒に住むことになるんだ......。
 嫌々ながらも、俺はスマホを取り出して電話をかける。数コールののち相手が応答した。

「もしもし」

 聞きたくもない声がスマホごしに聞こえる。

「これはどういうことだ」
「手紙は読んでくれたか。まあ、それに書いたとおりだ」
「説明になってねえぞ。なんで俺が一緒に住むんだよ。そっちで勝手によろしくやってればいいだろうが」
「俺もそのつもりだったんだが......色々あってな」
「その色々を聞かせろってんだよ」

 いちいち癇に障る言い方をするヤツだ。だから電話なんてしたくなかったのに。

「あー、その子な。今までいた学校でイジめられてたらしいんだよ。それで不登校になっちまって転校させることになったんだが、その状態で1人暮らしをさせるのも心配だしな」
「だからってなんで俺なんだよ! いつもいつもソッチの都合を俺に押し付けんなよ!」

 つい怒鳴ってしまう。

「......それは本当にすまないと思ってる。だけど、あの子を助けてやって欲しい。きっとお前ならあの子を」

 ブツッ。それ以上聞きたくなくて通話を切った。

 なんでこうも勝手なんだ。本当にイライラする。
 さんざん好き勝手やって家庭を壊しておいて、それでもまだ足りないというのか。の血を引いてるのかと思うと吐き気がする。



 ――ピンポーン。

 不意にインターホンが鳴る。時計を見ると、電話を終えてから30分近くが経っていた。
 ため息をついて玄関に向かう。覗き穴から見ると、俯いている少女が1人立っている。


 俺は再度ため息をついてドアを開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part2

平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女 彼女は、遠い未来から来たと言った。 「甲子園に行くで」 そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな? グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。 ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。 しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...