9 / 42
9.お買い物デート?
しおりを挟む定時で退社しいつものように電車に乗って最寄り駅に着く。駅から出たところで見た事のある——というか最近毎日見ている背中が目の前にあった。
しかし声をかけていいものか。もし声をかけてストーカーでも見るような目付きをされたら立ち直れないかもしれない。迷いながら声をかけられないでいると、本人がふと振り返った。
「あ!西成さん!同じ電車だったんですね」
「みたいですね」
まさか向こうから声をかけられるとは思ってなかったけど。センサーでも付いてるんか?少し立ち止まった東雲さんに追いついて2人で歩く。
「西成さんはいつもこの電車なんですか?」
「そうですね。残業とか飲みに誘われたりとか無ければこの時間です」
「その......時間が合う時は一緒に帰ってもいいですか?最近友達が痴漢に遭ったらしくて少し怖くて......」
「それはもちろん大丈夫です。たまにニュースでは見ますけど本当にいるんですね」
東雲さんは美人だし見た目は大人しそうだから狙われる可能性は十分にある。絶対に守らねば。本当なら、俺の方が乗る時間が長ければ安心なのだがそればかりは仕方ない。
「あ、すみません、今日買い物行かなきゃなので私はこのままスーパー行きますね」
「あ、じゃあ一緒に行きますよ」
「え、いえ、申し訳ないのでいいですよ」
「いやいや、東雲さんの料理は俺も食べてるわけですし、荷物持ちくらいはさせてください。何から何までやってもらってこちらこそ申し訳ないです」
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「はい。あ、どうせなら1度マンション寄って車で行きまょうか」
「そんな、いいんですか?」
「ええ。週末くらいしか乗らないですし10月とはいえ夜は冷えますからね」
どのみちスーパーはマンションを挟んで向こう側だ。
もうすぐ18時になろうかという時間帯のスーパーは混んでいた。車は停められたが店内は人が沢山いる。仕事帰り&夕飯前だしみんな考えることは同じか。食材を吟味する東雲さんの後について回る。すごいな。俺は野菜の善し悪しとか全然分からない。
ていうか、なんかこういうのいいな。お買い物デートっていうか。いや、デートは東雲さんに失礼か。でも果恋はスーパーなんて来ないしな。デートするっていっても大抵貢がされてただけだ。
「西成さん、今夜何が食べたいですか?」
今日はリクエスト制なのか。うーん、迷うな。東雲さんの料理って何食べても美味しいからなぁ。
あ、でもこないだの肉じゃがはメチャウマだったなぁ。和食ってthe家庭料理って感じするよな。作るのに時間がかかるイメージあるけど。辺りを見回すと様々な野菜や果物が並べられ、食欲の秋らしく旬という言葉が使われている。
「和食っぽいものが食べたいけど何って言われると悩むなぁ」
「和食、ですか。そうですね......お鍋なんていかがでしょう?それなら色々な食材が楽しめますし」
「お、いいですね。今夜は冷えますしちょうどいいですね。何入れましょうか」
いや待て。食材も大事だがスープを何味にするかによって相性も変わる。クッ、難しい選択だ。
「西成さんはお肉とお魚ならどっちが好きですか?」
「肉と魚ですか......。うーん。難しい選択ですね」
「......それなら両方入れちゃいましょうか」
東雲さんは顎に人差し指を当てて少し考えてからそう言った。
「え、両方なんていけるんですか?」
「お鍋ですから何を入れてもいいんですよ。味付けはお塩ベースにして、鶏肉とタラにしましょうか。他に入れたい物はありますか?」
「鍋となると白菜は絶対欲しいですね。あとは豆腐とか?」
「いいですね。あとは椎茸も入れましょうか」
結局俺は、和食と白菜と豆腐しか言ってないのに今日のメニューが決まってしまった。この女神様強すぎる......。
相談してから野菜コーナー、魚コーナー、肉コーナーと進んでいく。タラなんて初めて買うな。食べたこともないけど。完成した鍋を想像するだけでお腹が鳴ってしまいそうだ。
俺の持つカゴの中が食材で埋まっていく。明日以降使う食材も入っているんだろうけど、レシピとかメモとか何も見ないで入れているあたり慣れている。毎日料理していないと出来ることではないな。
2人で買い物を終えて帰宅する。いつもの時間に、ということで玄関で別れて俺は1度自宅へ。
シャワーを浴びて一息つけばすぐにご飯の時間になる。
東雲家の玄関を開けるとすぐにいい匂いが漂ってきて早くもお腹が鳴ってしまうそうだ。定位置に座ると、東雲さんが鍋のフタを開ける。すると大量の湯気と共に香りが爆発した。そして湯気が晴れると、鍋の中には美味しそうに揺れ踊る食材たち。思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。
東雲さんが取り分けてくれた器を受け取り、「いただきます」と手を合わせる。まずは白菜をひと口。......いやうまっ。なんでこの短時間でこんな味沁みてんの?そういえば鍋の素買って無くない?え、もしかして素から作ったの?凝ってるというか、いや嬉しいんだけどね。東雲さんの味付け俺の好みドンピシャだし。
お次はメインのタラ。......うわ。ふわふわだ。身が崩れるでもなく臭みも無い。買った鶏肉はどうやらお団子に丸められたらしい。中まで味が沁みていて噛むと旨味がはじけ飛ぶ。
もう夢中になって食べたね。器がなくなるタイミングでよそってくれるし、わんこそばでも食ってるような気分だ。
仕事帰りに一緒に買い物してご飯食べて。こういうのってなんかいいな。
少し肌寒いはずの夜は、心も体も温まって過ごした。
11
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる