メンヘラ疫病神を捨てたら、お隣の女子大生女神様を拾った。

もやしのひげ根

文字の大きさ
上 下
8 / 42

8.おかえり

しおりを挟む
 日曜日は部屋の荷物を片付けたり買い物に行ったりして夕食は東雲さんにごちそうになった。
 果恋の物が多すぎて仕分けるだけでも一苦労だ。あいつが占領してた寝室も片付けないとだけど考えただけでも気が重い。
 東雲さんと連絡先を交換して、土日に関しては昼はお互いの予定もあるし各自でとって夕食は一緒にということに決まった。これからあの美味しい料理が食べられると思うだけで頬が緩んでしまう。


 週が明けた月曜日。

「せんぱーい!別れたって本当ですか!?」

 自分でもわかるほど仕事が順調に進み迎えた昼休み。何を食べようかと考えていると後輩の皆実川みなみかわ紗雪さゆきに声をかけられた。

「ああ、本当だ。ようやく解放されたよ」
「良かったですね~!これで私とも遊びに行けますね!」
「まあ、そうだな。紗雪も透も誘い断ってばかりだったしな。そのうち飲みにでも行こうか」
「......むう。そうじゃないんだけどなぁ。ま、いっか。楽しみにしてますね」

 楽しみと言いつつどこか不満そうな顔。まあこれはいつものことだから気にしないほうがいい。


 午後も快調に仕事をこなしたおかげか今日は定時で帰ることが出来たので、真っ直ぐ帰宅してシャワーを浴びる。 果恋に汗臭いの嫌だからすぐに風呂に入れと言われてそうなったが、わざわざ手を洗う手間も省けるし着替えるなら風呂も済ませた方がいいとそれが当たり前になった。
 19:30ぴったりに東雲さんからメッセージが来て夕食の準備が出来たと連絡があった。部屋を出て隣のインターフォンを鳴らすとすぐに東雲さんが出てきた。

「おかえりなさい。お仕事お疲れ様です」
「た、ただいま?」

 あれ?俺死んだんだっけ?それとも夢?おかえりとかお疲れ様なんて言われたのいつぶりだろうか。
 仕事終わりにも、今日は定時で終わったことをメッセージで報告すると「お疲れ様です」と絵文字付きで返信があったが、やはり直接言われると全く違う。たったそれだけのことなのに思わず少しウルっときてしまう。
 東雲さんに促されて部屋に上がる。しかし本当にいいのだろうか。彼氏でもないのに毎日部屋にあがって手料理をご馳走されるなんて。しかも7つも年下のめちゃくちゃいい子。何もしてないのに罪悪感すら感じてしまう。
 最初、提案された時は作ったものをタッパーか何かで渡されるもんだと思っていた。しかし翌日呼ばれて東雲家を訪れてみれば、当たり前のように部屋に上げられてテーブルの上にはすでに料理が並べられていた。気まずければタッパーとかで渡してもらえれば......と言ってはみたが、

「1人で食べるのは寂しいじゃないですか。それに、一緒に食べて美味しいって言ってくれるほうが嬉しいです」

 なんて少し恥じらいながら言われてしまえば何も言えない。
 今日のメニューは、ハンバーグだった。俺の分と東雲さんの分で大きさが違うことから、市販のものではないことは一目瞭然だ。

「「いただきます」」

 2人で手を合わせてまずは味噌汁を一口すする。ああ、やっぱりこれめちゃくちゃ安心する美味さだ。疲れた体に染み渡る。メインのハンバーグを切り分けて口に入れて噛むと肉汁が飛び出てくる。

「......うまっ」

 ひと口食べただけで分かる。今まで食べたどのハンバーグのどれよりも美味しい。チルドや冷凍食品など、様々なメーカーから販売されていて気に入ったものを探すためにほとんどの種類を食べたことはあるが、全てが霞んでしまうくらい美味しかった。これはご飯が進んでしまうな。
 付け合わせのサラダも食べてみるが、ドレッシングがさっぱりしていてとても食べやすい。ハンバーグが濃厚なので相性もぴったりだ。箸が止まらずにハンバーグ、ご飯、サラダ、味噌汁と無限コンボをきめていく。
 気が付けば完食していた。美味しすぎて満足なのだが、もう食べ終わってしまったという残念な気持ちも少しある。しかし3日間毎日晩ご飯をご馳走になっているがどれも美味しすぎる。ただの大学生とは思えない。実は親が有名な料理人とか?気にはなるがあまり踏み込むのも失礼だろう。機会があればそれとなく聞くことにしよう。


「それでえっと......ひとつ、お願いがあるんですが......」

 そろそろ帰ろうというところで東雲さんがなにやら言い出した。

「はい?」
「これ、持っていて頂けないでしょうか......!」

 勢いよく差し出された手に乗っていたのは見覚えのある鍵。いやまさか......。

「これは?」
「うちの合鍵です。私うっかりしてることあるのでまた昨日みたいになるかも知れなくて......。それで西成さんに合い鍵持っていていただけたら安心かなって思って」

 いやいやいや。言いたいことは分かる。だが何故俺?男に合い鍵を渡すという意味を理解しているのか?なんか、うっかりというより危機感がないような......。やはり天然な説が濃厚だ。ちなみになくした鍵は友達の車に落ちていたらしく、鍵の交換は必要ないとのことだ。

「まあ、気持ちは分かりますが、その、あまり簡単に他人に合い鍵を渡すのはやめたほうがいいかと。なにかあってからじゃ遅いですし」

 ニュースでは恋人や家族間ですら痛ましい事件などの報道が後を絶たない。隣人だからと言って安易に信用してはいけない。本当に物騒な世の中になったものだ。

「大丈夫です!西成さんは信用できますから!」

 なんだろう、この自信はどこから湧いてくるんだ?はあ。まあいいか。俺が何もしなきゃいいだけだ。面倒ごとはもうごめんだしな。

「......分かりました。ではお預かりしておきます」

 玄関にでも置いておけば問題ないよな。ちょうどいいから毎朝鍵にお祈りすることにしよう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...