7 / 42
7.女子力
しおりを挟むおかしい。
同じアパートの隣の部屋なのに、玄関からすでに違う空間にいるように感じる。これが女子力ってやつか。53万くらいありそうだ。強い。
部屋に上がって座って待つように言われるが、部屋中に満ち溢れる女子力に圧倒されて、落ち着かずにソワソワしてしまう。数分もしないうちに東雲さんが料理を運んできた。
「あの、そんなに見ないでいただけると助かります。あまり片付けてないので......」
「いや、よく片付いているじゃないですか。なんか、俺と同じ部屋のはずなのに、こうも雰囲気が変わるものなんだなあと思いまして......」
「お部屋って、住んでいる人の個性が出ますよね」
俺の部屋は誰かさんのせいで個性が侵食されまくったけどな。
気づけばテーブルの上には料理が揃っていた。味噌汁、肉じゃが、鮭はムニエルってやつだろうか。どれも見事なものが並んでいた。え、これ全部手作り?
「作ってしまってなんですが、西成さんは苦手なものとかありますか?」
「いえ、ないですよ。なんでも食べます」
「それは良かったです。お口に合うか分かりませんが、どうぞ食べてください」
「それじゃ、いただきます」
まずは味噌汁から。......え、うま。味噌汁なんてたまにインスタントの具材にお湯を注ぐだけのしか食べてないけど、そんなものとは比べ物にはならない。肉じゃがはホクホクで煮崩れしておらず、しかし味は中心まで染み込んでいる。お、白滝も入ってる。割と好きなんだよなぁ。ムニエルは外はパリッとしており中はフワフワ。バター醤油だがレモンも効いておりサッパリしている。ヤバい、寝起きであまり食欲はないと思っていたけど、これはご飯が進む。
「あの、どうでしょうか......?」
しまった。つい夢中で黙って食べてしまった。
「めちゃくちゃ美味しいです。これは箸が止まりません」
「それは言い過ぎですよ。でも、喜んでいただけて良かったです」
「いや、ほんとに。毎日でも食べたいくらいです」
「......えっ」
「えっ......あ」
やべ、つい本音が。東雲さんの顔は少し赤くなっているようにも見える。言った俺も恥ずかしい。その後も夢中になって完食した。
「ふう。ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。足りましたか?」
「はい。今日はあのあとずっと寝ていたので十分すぎるくらいです」
美味しくてついペロッと平らげてしまったが、本音を言うと少し苦しいくらいだ。美味しいというのは罪である。2人で一緒に片付ける。座っているように言われたが、作ってもらった上に片付けすらしないというのはさすがに申し訳ない。
ひと通り片付けると、東雲さんが食後のお茶を出してくれたので一息つく。なんかもう至れり尽くせりだ。
「あの、西成さんてお料理されるんですか?」
「え?たまーにしますけど、こんな本格的なものは作れないですね。実家から米が送られてくるので、消費するためにもやらなきゃとは思ってるんですけどね。スーパーやコンビニのおかずに頼りがちです」
「そうなんですね。昨日お邪魔した時にキッチンにお米らしき袋があったので気になったんです」
「親戚が米を作ってるんで、要らないと言っても送られてくるんです。おかげで全然減らなくて......。あ、もし良かったらいりますか?」
「......西成さん、提案があります!」
「は、はい、なんでしょうか」
東雲さんが唐突に少し大きな声を出したので少しビックリしてしまった。
「お米を分けていただく代わりに、私がおかずを作るというのはどうでしょう!」
「......え?それ、俺しか得しないんじゃ」
「そんなことないです!スーパーで買う以外のお米をお家で食べる機会なんてそうそうないです!それに、お米を買いに行くのも実はけっこう大変なんですよね......」
俺は米を買いに行くというのがないから分からなかったが、考えてみればそうかもしれない。10キロの米を買ってくるのはさすがに重くてしんどいし、もっと軽いのを買うとしたら軽くはなるが買う頻度が増えるということだ。そもそも自炊をするという前提というのがすごいと思うけど。
「俺としてはすごく助かるしありがたいんですけど、いいんですか?」
「いいんです!お料理は好きですし、誰かに食べてもらって美味しいと言ってもらえるのがすごく嬉しかったので......」
まさか、毎日でも食べたいという言葉が即現実になろうとは思わなかった。え、これ食べさせる相手俺でいいの?こういうのって彼氏の特権なんじゃないの?大丈夫?俺死ぬの?
「いや、そりゃ美味しいものは美味しいし、喜んで食べますけど......」
「じゃあ決まりですね!」
「えっと、じゃあ......よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
嬉しそうにほほ笑む東雲さんが天使に見える。いやもう女神様だ。後光がさしてるようにも見えてしまう。
おいくら納めればいいですかね。......とりあえず拝んでおこう。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる