メンヘラ疫病神を捨てたら、お隣の女子大生女神様を拾った。

もやしのひげ根

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5.寝落ちと襲撃

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 その後もステージを変えキャラを変え対戦は続いた。
 東雲さんはめちゃくちゃ強かった。俺の知らないコンボ技を繰り出してきたり、俺のハメ技をあっさり抜け出したりと、実家でよくやっていたとかそんなレベルではない。もはやプロの領域なのでは?
 対戦に飽きたら、交互でソロモードのタイムアタックをやった。

「西成さん、スマシスの最終裏ボスって知ってます?」
「裏ボス?あの左手とかのです?」
「いえ、それはタダの雑魚ですね」

 指定の難易度で指定の時間以内に死なずにボスにたどり着くと途中参戦してくる裏ボスだ。それを雑魚扱いなんて......。

「他にまだいるんです?」
「ええ。実は条件はあるんですが、達成するととんでもなく強い最終ボスが現れるんです。私も未だに勝てたことがありません」

 おいおい、東雲さんが勝てないとかどんだけだよ。
 俺がプレイ中、肩にコテンと何かが当たった。何気なく見てみると、そこには俺にもたれかかって寝息を立てる東雲さんの姿。そりゃ眠いよな。俺はゲームを中断して東雲さんを抱えて寝室のベッドに寝かせる。
 さすがに俺も眠気が襲ってきたのでゲームの電源を切ってソファで横になる。アルコールが入ってさらにゲームで盛り上がったこともあってすぐに意識を手放した。


 翌朝、浅い眠りから覚めた。久しぶりに酒を飲んだせいか軽く頭痛を覚えながら、東雲さんを起こすべきが悩みながらウトウトしていると、玄関からピンポーンとインターホンの音が鳴る。こんな朝早くから誰だ?と思い玄関に向かう。
 覗き穴から確認してみると、そこに立っていたのは元カノの果恋かれんだった。そういやメッセージアカウントブロックしたんだっけ。めんどくせえ。しかもよりによって今とかマズいだろ。
 ベットの上には熟睡している女の子。女子大生。しかも隣人。ここで玄関を開けようものなら浮気だのなんだの騒ぐに決まっている。とうしたものか。寝不足の頭では思考がまとまらない。何か忘れているような......。
 あ、俺、この扉の向こうのやつとは昨日別れたんだった。なーんだ。だったら何もビビる必要は無い。
 荷物も捨てるのめんどくさいし持って行ってもらいたいが別に今でなくてもいい。......こうなったら居留守を決め込むしかない。
 その後数回インターホンを鳴らされるも無視。おい、あんまりうるさくすると東雲さんが起きちゃうだろうが。
 俺は玄関のドアにもたれかかってそのまま寝そうなのを我慢しながら早く諦めて帰れと念じていた。
 しかしながら、かの人はしつこかった。バッグを漁ってスマホを取り出して操作し始めた。

 ——ピリリリリ。

 部屋の奥から着信音が響いてくる。こんな時に着信!?クソ、一体どこのどいつだ、と思いながら静かに部屋の中に引き返す。急いでスマホの画面を確認すると、そこに表示されていたのは玄関の向こうにいる葛谷くずや果恋かれんの名前。しまった、メッセージアプリはブロックしたが、電話番号は着信拒否してなかった。
 これは出るべきか否か。出たところで怒声が飛んでくるのであろう。かと言って無視してもおそらく着信音が聞こえてしまっている。回らない頭でボーッとスマホを見つめていると、ふいに着信音が途切れた。
 ホッと安心してしまったが、俺はまだ気づいていなかった。



 ーーガチャ。

 弾かれたように俺は玄関を見る。そう、俺は果恋に部屋の合鍵を返してもらっていなかったのだ。固まって動けない俺をあざ笑うかのように開いていく扉。そして隙間から入り込んでくる朝日の光。玄関を開けて侵入してきた人物とバッチリ目があってしまった。

「なんだ、起きてるんじゃない」

 寝不足の上に予想外の事態。俺は何も考えることすら出来ずに、餌を食べる金魚のようにただ口パクパクさせることしか出来なかった。当たり前のように靴を脱いで上がってこようとする彼女が何かに気づいた。それは玄関にある、見慣れぬ女物の靴だ。スタスタと歩み寄ってきた彼女は固まっている俺ーーを通り過ぎて真っ直ぐ寝室に向かう。
 慌てて追いかけた俺の目に入ったのは、ベッドの布団を勢いよく剥ぎ取る果恋の姿だった。そこには小動物よろしく丸まって寝ている人物が1人。

「ふーん。やっぱりそういうことね」

 なんだ、冷や汗が止まらないぞ。ベッドの上では、布団を剥奪され目を覚ました東雲さんがびっくりして固まっている。

「いい度胸ね。私の彼氏を取ろうだなんて」
「おい、勘違いすんなよ。彼女とは別になんの関係もない!そもそもお前とは別れただろうが!」
「は?何言ってんの?ただケンカしただけで別れてなんかいないわよ。それに、こうしてベッドで寝てるのに何も無いとかそんな言い訳が通用するわけないでしょ」

 ヤバい、完全に目が据わっている。

「だったら何度でも言ってやるよ。俺と別れろ。俺はこれ以上お前のワガママに付き合う気は無い!」
「なんでそうなるのよ!あなたはこの女に騙されてるだけよ!この、いつまで寝てんのよ!さっさとそこから退きなさいよ!」

 東雲さんの胸ぐらをつかんで起き上がらせる。

「おいやめろ!彼女は何も関係ない!」
「黙ってなさいよ!この女が全て悪いのよ!アンタさえいなければ......!」

 右腕を振りかぶる。俺はその言葉に対して自然と体が動いた。果恋を後ろから羽交い締めにして東雲さんから引き剥がす。

「いい加減にしろよ!!」

 俺が殴られて済むのであれば好きにすればいい。だけど、全く無関係の東雲さんを責めて挙句の果てに手を挙げるのは認めるわけにはいかない。突然見知らぬ女に叩き起されて暴力を振るわれそうになった東雲さんはベッドの上で震えていた。

「この子は隣の部屋に住んでて鍵をなくしたから管理人さんと連絡が着くまでここにいるだけだ。勝手に勘違いしてんじゃねえ」
「そんなの関係ないわよ!彼女がいるのに他の女を部屋にあげるなんて信じられないわ!」
「お前とは昨日別れただろうが。お前が何を言おうともうやり直すつもりはない。何度も言わせんな」
「そうやって自分を正当化するつもり!?ホント、最低な男!」
「勝手に言ってろ。合鍵を置いてさっさと出ていけ」
「本気で言ってるの!?別れるなら死んでやるんだから!」
「はあ。またそれか。いつまでもそんな脅しが通用すると思うなよ。これ以上騒ぐなら彼女への暴力事件として警察呼ぶぞ」

 警察というワードを出した途端、見るからにそれまでの勢いは無くなった。

「な、なによそれ。結局私の事なんてどうでも良かったんでしょ!信じられない!」

 合鍵をテーブルの上にバン!と叩きつけて玄関に向かう果恋。


 最後にこちらを振り返らずに小さく「絶対許さないんだから」と呟いて去っていった。怖すぎる。

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