庭師見習いは見た!お屋敷は今日も大変!

NO*NO(ののはな)

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番外編4不器用な大人たち

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○イグナス・ドルトレッド○

初めてメイベルに会った時、アンバランスな女だと思った。

紫がかったこげ茶色に近い波打つ豊かなブルネットの髪に、黒にも見える紫の瞳。
彫りの深い顔立ちに、長身で均整の取れたスレンダーな肢体。

俯いて立ち尽くす彼女は、その全てを否定したいように見えた。

笑えば魅惑的であろう唇は、簡単な自己紹介をしたきり引き結ばれていた。

男嫌いで魅了持ち。
それは辛い過去がもたらしたものだった。

メイベルの私に対する態度は頑ななものだったが、私たちには共通の目的があった。
そして彼女は、一度仲間と認めると、こちらが心配になるほど壁を壊して打ち解けてきた。

笑わなかった彼女から、恥ずかしそうな困ったような微笑みがこぼれ、弾みで満開の笑顔が飛び出し、悪戯を企むような忍び笑いが流れ出す。

いつから目で追うようになっただろうか。
いつから目が離せなくなっただろうか。

遠い昔に恋をしてから、もうあんな想いを抱くことは無いだろうと思っていた私の心には、いつの間にかメイベルがいた。

彼女は私を男として見てはいない。
年が15も離れている。

諦めようとして、フィルとの距離の近さに嫉妬して、離れようとして……無理だった。


ジャクリーンが、ミリーを伯爵家に送り込んできたことで転機は訪れた。

「騙されたと思ってミリーを使いなさい」

ジャクリーンは、メイベルの気持ちが私にあると見ていた。
そう言われて意識してみると、視線に意味があるような気がした。

もしかしたら、本当に?

私は当たって砕け……なかった。



そしてメイベルは今、私の腕の中にいる。



○メイベル・ネルソン○

男は嫌い。
怖くはない。対処出来ることを知っているから。

一生、父以外の男に気を許すことは無いと思っていた私は13の時にフィルと出会った。
フィルはその時18で、数年に渡る監禁と暴行で弱り果てて傷だらけだった。
姉の起こした事件の連座で一族が処分された時、逃げたとされていたフィルは、姉を追い落とした男に監禁されていたのだった。

傷付いて動けない少年の看病は私の担当になった。
フィルは男ではあったけれど、傷付けられる対象としてのシンパシーを感じたのか、嫌悪感は無かった。

傷が癒え、体力が付いて逞しく男らしくなっても、フィルの傍にいるのは平気だった。

男は嫌い。
でも、そうじゃない男もいると思えた。

恋愛感情では無かった。
私にはそういう感情が無いと思っていた。

そして、私たちは何者かに狙われ、屋敷を捨てて“辺境伯の子供たち”の“裏”の施設で保護された。

義兄のノーマン・ネルソンが犠牲になった時、私たちはノーマンの親友だという伯爵と手を組んだ。

少しウェーブがかかった長めの銀髪に、アメジストの瞳。
貴族らしい風貌の伯爵は物腰の柔らかさと威圧感を兼ね備えていた。

フィルが伯爵は大丈夫な人(オーラ)だと言ったから、男として意識せずに仲間として受け入れるつもりでいた。
私も接してみて、伯爵は“そうじゃない男”だなと思った。

厳しい目付きから突然ほころぶまなじりにときめいて、薄い唇がアンシンメトリーに歪む笑顔に目が吸い寄せられるようになっても、私はまだそれが恋だとは思わなかった。


母がミリーを送り込んできたことで転機は訪れた。

ミリーに嫉妬した。
伯爵の過去にも。

何だろうと思った。この腹立たしさは、焦燥感は、泣きたくなる気持ちは。

嫌だと、盗られたくないと…それでもまだ『恋』という言葉は浮かばずにいた。

「メイベル、私が怖いなら、嫌なら、いくらでも待つ。でも、そうでないなら、私と共に生きてくれないか」

そう言われた時、怖くない!嫌じゃない!私も共に生きたい!……好き!と心の奥から声がした。

「私…私、旦那様のことが…好き…です」



やっと気付けた私は今、イグナス様の腕の中にいる。








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