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それからの日々

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粛清後の裁判が粗方終わった頃から、二次的な裁判が始まった。

その中で、王妃付き筆頭侍女であったフランの汚名をそそぐための裁判も行われた。

証言をしたのは、当時王宮で王妃付きのメイドをしていたレティという中年の女性だったが、それはサティのもう1つの顔だった。

年齢よりも老けて見える姿のレティ(サティ)は、涙ながらに証言をした。

「私は…うぅ…家族がどうなってもいいのかと脅されて、ずっと言えずにいたことがあるのです。脅していた役人方が捕まえられたので、何としてでも伝えなければと思い、ここへ参りました。王妃殿下付きの筆頭侍女であられたフラン様は第2王子殿下を誘拐などしていなかったのです!あの日は不審者による暗殺騒ぎがありました。それは何とか防げたのですが、明らかに内部の者による手引きの痕跡があったので、王妃殿下は第2王子殿下をフラン様に託して逃がそうとなさったのです。本当に、本当に、あれは誘拐ではなかったのです!」

懺悔するように胸元で両手をキツく握りしめて言葉を絞り出すレティ(サティ)の迫真の演技は傍聴席の人々の心を打った。



「結局、宰相補佐の殺人罪は立証できなかったからこの路線になったの?」

王都にある裁判所で落ち合ったフィルとマイクとフレッドは、裁判の後、近くの公園で少し話すことにした。
フレッドの疑問にマイクが答えた。

「うん。サティの記憶だけの状況証拠しかなかったから、司法取引に持っていったんだ。宰相補佐の別口の弱味を掴んでそっちを固めて、それを公表しない代わりに秘匿裁判で殺人を認めさせて、そのことも非公表にすることになったんだって。だから王妃の死因についてもグレーゾーンのままだし、僕もフランと一緒に死んだことになってるまま」

「……その弱味って何?」

「読もうとしただろ、フレッド。僕も聞かされてない。裁判官と国王陛下とオーガストと宰相補佐とサティしか知らないことだ。ホントにホントの秘匿。でもフィル親方なら身内のことだから聞けば教えてもらえるかもしれないですよ」

「いや、姉の名誉が回復したからもういいんだ。それ以外の罪だけでも補佐は終身刑だし。俺、黒いオーラのやつはどうしたって黒いままだと思ってる。変わるかも、とか反省するかも、とか全く期待していない。ハリソンみたいに使いようのある悪党ならまだしも、あの補佐は危険過ぎる。ただ黒いだけじゃなくて渦巻いてる。関わりたくないんだ」

「それは言えてるかも。僕もあの補佐の心は読みたくない」

「もう表に出てくることは無いよ。しかしサティはスゴかったね」

「ああ、別人だったな」

「そうなんだ。僕はあの姿しか知らないからなあ。でも50ぐらいなんでしょ?国王陛下と同級生なら。年齢的には今日の姿の方が合ってるんじゃないの?」

「フレッド、お前、命知らずなことを…聞かれてたら殺されるぞ」

「誰が誰を殺すのかな?マイク」

「「サ、サティ!!」」

「ええっ?!サティさん?!…ってこんな綺麗な人だったんですか?!」

(上手く逃げたな、フレッド)

サティはもうレティではなく、年齢不詳の美女になっていた。

「ふふ、レティはあの後どうやって生きたのかしら、って想像したらああなったのよ。苦労したのよ、レティは。
で、ここからは独り言なんだけど、補佐はフランに対しては直接手は下してないのよねえ。布包みを奪われそうになった時にダミーを見破られたくなかったフランが…落ちていったんですって。他のことは話せないけどこのぐらいなら言えるかしらねえ」

「あ…ありがとうございます」

「フィルはもうランバードの姓は名乗らないの?」

「ランバードでの生は一族が途絶えた時に終えたと思ってます。ただの庭師の親方ですよ、俺は」

「そっか。ほら、今貴族が粛清で激減してるでしょ?ちょっと聞いてみただけよ。じゃあね」

「あ!サティ!またね!」

「サティさん、お元気で!」

「そうだ!俺からもさっきのお礼に情報提供しますよ。マイクに彼女が出来たんですよ!」

「親方?!」

慌てたマイクが、フィルを抑えようとしたが間に合わなかった。

「何それ、何それ!ちょっと詳しく教えなさいよ!」

「マイク?!いつの間に誰と?!」

「僕はもう帰るから!」

「「あ!逃げた!」」

走って帰るマイクを見送りながら、フィルはサティとフレッドに、マイクとサラとのあれこれを教えた。








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