庭師見習いは見た!お屋敷は今日も大変!

NO*NO(ののはな)

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マイクがいない夏

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春の終わりに、この国が始まって以来3度目となる粛清が行われた。

宰相補佐は、王家への心無い噂に対する民衆の不信や宰相の私怨などの裏で、犯罪に手を染めていたことを公に認めて終身刑となった。

自身の女装趣味の隠匿と引き換えに、王妃オランディーヌの殺害と王妃付き筆頭侍女フランの死に関わったことも秘匿裁判の中で認めた。

手引きした不審者の暗殺が失敗に終わった後の混乱に乗じて王妃を殺害し、その間に第2王子がサティに託されたことを知らずにダミーの布包みを抱いたフランの逃亡を助ける振りをして崖に追い詰めたことで、布包みを奪われそうになったフランは身を投げたのだった。

それを知ったフィルは、その崖から姉フランが好きだったガーベラの花束を投げて弔った。

弱みを握られてしまったハリソンは、レモネル国王陛下とオーガストに朝から晩まで扱き使われていたが、その最中に偶然サティと出会って励まされたことで夜中まで働くようになった。

オーガストは(恐るべし、美魔女…)と、少~しだけハリソンに同情した。

セドリックは、ジャクリーンとメイベルに面会を求めたが、メイベルは男嫌いな上、会ったこともない自分にプレゼントを贈り続けていたセドリックを気味悪がったため隣室待機して、ジャクリーンだけが、夫のマイラー・ネルソンと共に応じた。

「何をするのか知らされてなかったとはいえ、あなたを助けることが出来なくて申し訳なく思っています」

「知らなかったことを謝る必要はありません。あの男からは慰謝料をもらいましたし。もしかしてメイベルへのプレゼントは贖罪だったのですか?」

「いえ、あの…メイベル嬢は子爵の娘だと思っていたので、そうではなかったです。行商人として入り込んだお屋敷で貴女を見た私は舞い上がってしまって…すみません。宛名こそはメイベル嬢でしたが、選ぶ時に思い描いていたのは貴女でした。もしかしたら気に入って手に取ってくれるだろうか、と」

マイラー・ネルソンのこめかみがピキッとなるのを見たジャクリーンはマイラーの手に自分の手を乗せてそっと握った。

「私はこの通り幸せですので、もうこれ以上私たちに関わらないでください。メイベルがプレゼントしていただいた物は人に譲ったりして手元に無いそうなので返せませんが、金額を請求していただければ…」

「そんなことはしません!むしろ迷惑料を支払わなければならないことを私はして…」

「そんなものは要りません!……ならばこれで相殺ということですわね。では、ごきげんよう。…貴方も幸せになってください」

「……ありがとうございます」

隣室で自分の肩を抱いて聞いていたメイベルは、ホッとして肩の力を抜いた。
その後ろ姿を、イグナス・ドルトレッド伯爵は扉の陰から見守っていた。

ノーマン・ネルソンは冤罪が晴れたことで、閉鎖されていた屋敷を取り戻した。
オスカーとギルバードは王都暮らしだが、子爵家に戻ったフレッド、家を焼失してしまった前子爵マイラー・ネルソンと夫人のジャクリーン、“表”にはならないと決めた孤児の2人を養子に迎えた屋敷は以前にも増して賑やかになった。

以前働いていた使用人で戻ってきてくれた者だけでは足りず、粛清で主人を取り潰されて失職した者などを雇い入れた。

メイベル、メイ、サラ、マリ、フィルはドルトレッド伯爵家に残った。

マリは伯爵家の蔵書と薬草畑から離れたがらなかったし、フィルは結局、新しい庭師の親方になったからだった。



~~~~~~~~




初夏の眩しい日差しの中の水場で、メイは洗濯を、サラは掃除道具の洗浄を、マリは採取した薬草の手入れをしていた。

「フレッドは秋から学園に通うんだって」

子爵家のメイドと文通しているメイが、桶に入れたシーツを踏みながら言った。

「1年遅れだね。でもフレッドなら小柄だから大丈夫か」

モップを絞りながらサラが答えた。

「頭痛用と腹痛用の煎じ薬送ってあげようかな」

「「いいんじゃない」」

頬に土を付けたマリの言葉に、明るい笑い声が上がった。

(マイクは元気かしら)

サラはその思いを声に出せなかったし、メイとマリは時折寂しそうにするサラを気遣ってマイクのことを話題にはしなかった。

マイクのいない夏は、何事もなく過ぎていった。
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