庭師見習いは見た!お屋敷は今日も大変!

NO*NO(ののはな)

文字の大きさ
上 下
26 / 36

嵐の後で

しおりを挟む
ある日の朝、宰相補佐は新聞を広げて快哉を叫んだ。

「とうとう来たか!」

新聞の一面は、“辺境伯の子供たち”が、不正、横領、密輸、麻薬栽培、人身売買などあらゆる犯罪に手を染めていて、一斉に摘発されて崩壊したという記事で埋められていた。

「宰相殿はやる時はやる男ですなあ。さてさて、それらの証拠が宰相殿による捏造だと知られたら今度は宰相殿が破滅する番ですなあ。“辺境伯の子供たち”が潰され、宰相殿まで消えてしまったら…ホッホッ、国王陛下も王太子殿下も私に頼るしかありませんなあ」

宰相補佐は意気揚々と手の内の者に指令を出した。

“辺境伯の子供たち”はその者らが、相手先に到着するのを待って一網打尽にした。

それを知らない宰相補佐は、国王陛下に謁見を申し込んだ。


~~~~~~~~



「宰相補佐。面を上げよ。用件は何だ?」

「はっ。国王陛下におかれましては…」

「良いから早く話せ」

いつになく圧が強い国王陛下に戸惑いながら、宰相補佐は話した。

「陛下は今朝の新聞をご覧になられましたか?かつては冤罪を許さない素晴らしい組織であった“辺境伯の子供たち”は時と共に堕落していました。それを追い詰めた宰相閣下の手際はお見事でしたが…しかし、私は知ってしまったのです。宰相閣下は功を焦る余り、必要以上に証拠を捏造し、あまつさえ自分の犯した人身売買の罪まで“辺境伯の子供たち”のせいにしたことを!
“辺境伯の子供たち”と宰相閣下を同時に失うことになりますが、私にお任せください。この国の危機を乗り越えて、より良き未来へと導いてみせます!」

決まった!と思った宰相補佐は無反応の国王陛下に気付いて、目線を宙に泳がせた。

「話はそれだけか?」

「は…はい!(何かマズいことを言ったか?いや、そんなことは…)」

「より良き未来、か。それはお前にとって、ということか?」

「い、いえ!この国の未来を思って私は…!」

「人身売買をしていたのはお前だろう?お前は宰相がノーマン・ネルソン子爵に人身売買の罪を被せようとしていることに乗っかって裏で取引していた。間に人を介していたことで証拠が掴めなかったが、とうとう捕まえた。横領と不正もしているな」

「は?!いえ!そんなことは私はしていません!証拠とは一体何のことでしょうか?!」

国王陛下が合図をすると謁見室の扉が開き、捕らえられた者たちが入ってきた。

「お、お前たち!…は誰だ?!」

「ほう、知らないと?」

「知りません!」

「ちゃんと見ろ。中にはお前の屋敷の使用人や従兄弟もいるようだが?」

「し……くっ!なんで、そんな…」

「あの新聞はよく出来ていただろう。記念に10部ほど印刷してもらったが、欲しいと言う者がいなくてな。ちょうどいいから持っていけ。牢の床に敷き詰めるといい。お前は綺麗好きだっただろう?」

「新聞は偽物?!ろ、牢?!では宰相は?!あの男が証拠を捏造していたのは本当のことです!宰相は?!」

「その捏造していた証拠というのは何処にも無い。一斉査察は入ったが“辺境伯の子供たち”による不正も横領も見付からなかった。お前の仲間のものは見付かったがな。もう観念して牢に入れ」

項垂れて仲間諸共牢に連れていかれた宰相補佐は、急転直下の現実を受け入れられなくて呆然としていた。


それを見送った国王は、背後からゆらりと現れたオーガストに、独り言のように話しかけた。

「あいつは口を割るだろうか」

「割らせてみせるさ。オランディーヌのためにも、フランのためにも」

「無理はしなくていい。証拠は無いんだろう?」

「それなんだが、サティが見付けた。オランディーヌが殺害された日に見かけた知らない怪しいメイドをずっと探していたんだが、先日見たんだと」

「そのメイドはどこに?!もう捕まえたのか?!」

「さっき捕まえた」

「は…?」

「宰相補佐の趣味は女装でな、ある特殊な酒場にいるのを見た時に分かったって。サティの記憶力は確かだが、男の時と女装している時では仕草が全く違っていたから気付かなかったらしい」

「……サティはなぜ、その特殊な酒場にいたんだ?」

「さあな。それは聞かないでやってくれ」



~~~~~~~~



その日、ドルトレッド伯爵家では内輪のパーティーが開かれていた。

マイラー・ネルソン前子爵、冤罪が晴れて子爵に戻ったノーマン・ネルソン、その息子のオスカー、ギルバード、フレッドは一同に会することが出来たことを喜んだ。

ジャクリーンとメイベルはそれを離れた所から見守っていたが、フレッドに手を引かれ、メイとマリに背を押されて、その輪に入った。

それを微笑ましく見ていたサラは、マイクに話しかけた。

「ふふ、メリー…じゃなかった、メイベルさんも嬉しそうで良かった。あんなのが父親だって分かって落ち込んでたから心配してたのよね。そういえばハリソンとセドリックはどうしてるの?無罪放免なの?」

「王宮で、扱き使われてるって。後始末が大変だから。仕事は出来るからね」

「そっか。オーガスト先生も戻っちゃったね。また庭師の親方募集しなきゃ」

「そうだね」

「元気無いね。寂しくなったの?」

「僕…王宮に行くことにした」

「………え?」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】黒隼の騎士のお荷物〜実は息ぴったりのバディ……んなわけあるか!

平田加津実
恋愛
王国随一の貿易商に仕えるレナエルとジネットは双子の姉妹。二人は遠く離れて暮らしていても、頭の中で会話できる能力を持っていた。ある夜、姉の悲鳴で目を覚ました妹のレナエルは、自身も何者かに連れ去られそうになる。危ないところを助けてくれたのは、王太子の筆頭騎士ジュールだった。しかし、姉のジネットは攫われてしまったらしい。 女ながら巨大馬を駆り剣を振り回すじゃじゃ馬なレナエルと、女は男に守られてろ!という考え方のジュールは何かにつけて衝突。そんな二人を面白がる王太子や、ジネットの婚約者を自称する第二王子の筆頭騎士ギュスターヴらもそれぞれの思惑で加わって、ジネット救出劇が始まる。

【完結】無能烙印の赤毛令嬢は、変わり者男爵に溺愛される☆

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ルビーは、見事な赤髪を持って生まれた。 「赤毛の子は一族の救世主」との伝承から、ルビーは大切に育てられるが、 至って平凡な娘と分かり、《期待外れ》の烙印を押されてしまう。 十九歳になったルビーは、伯爵の跡取り子息エドウィンと婚約したが、結婚式の二週間前、突如、破談になった。 婚約破棄を言い渡したエドウィンの隣には、美しい姉ベリンダの姿があった。 二人は自分たちの保身の為に、ルビーを他の男と結婚させようと画策する。 目をつけた相手は、《変人》と名高い、ラッド・ウェイン男爵。 ルビーは乗り気では無かったが、思いの外、男爵に気に入られてしまい…??  異世界:恋愛 (全27話) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...