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嵐の後で
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ある日の朝、宰相補佐は新聞を広げて快哉を叫んだ。
「とうとう来たか!」
新聞の一面は、“辺境伯の子供たち”が、不正、横領、密輸、麻薬栽培、人身売買などあらゆる犯罪に手を染めていて、一斉に摘発されて崩壊したという記事で埋められていた。
「宰相殿はやる時はやる男ですなあ。さてさて、それらの証拠が宰相殿による捏造だと知られたら今度は宰相殿が破滅する番ですなあ。“辺境伯の子供たち”が潰され、宰相殿まで消えてしまったら…ホッホッ、国王陛下も王太子殿下も私に頼るしかありませんなあ」
宰相補佐は意気揚々と手の内の者に指令を出した。
“辺境伯の子供たち”はその者らが、相手先に到着するのを待って一網打尽にした。
それを知らない宰相補佐は、国王陛下に謁見を申し込んだ。
~~~~~~~~
「宰相補佐。面を上げよ。用件は何だ?」
「はっ。国王陛下におかれましては…」
「良いから早く話せ」
いつになく圧が強い国王陛下に戸惑いながら、宰相補佐は話した。
「陛下は今朝の新聞をご覧になられましたか?かつては冤罪を許さない素晴らしい組織であった“辺境伯の子供たち”は時と共に堕落していました。それを追い詰めた宰相閣下の手際はお見事でしたが…しかし、私は知ってしまったのです。宰相閣下は功を焦る余り、必要以上に証拠を捏造し、剰え自分の犯した人身売買の罪まで“辺境伯の子供たち”のせいにしたことを!
“辺境伯の子供たち”と宰相閣下を同時に失うことになりますが、私にお任せください。この国の危機を乗り越えて、より良き未来へと導いてみせます!」
決まった!と思った宰相補佐は無反応の国王陛下に気付いて、目線を宙に泳がせた。
「話はそれだけか?」
「は…はい!(何かマズいことを言ったか?いや、そんなことは…)」
「より良き未来、か。それはお前にとって、ということか?」
「い、いえ!この国の未来を思って私は…!」
「人身売買をしていたのはお前だろう?お前は宰相がノーマン・ネルソン子爵に人身売買の罪を被せようとしていることに乗っかって裏で取引していた。間に人を介していたことで証拠が掴めなかったが、とうとう捕まえた。横領と不正もしているな」
「は?!いえ!そんなことは私はしていません!証拠とは一体何のことでしょうか?!」
国王陛下が合図をすると謁見室の扉が開き、捕らえられた者たちが入ってきた。
「お、お前たち!…は誰だ?!」
「ほう、知らないと?」
「知りません!」
「ちゃんと見ろ。中にはお前の屋敷の使用人や従兄弟もいるようだが?」
「し……くっ!なんで、そんな…」
「あの新聞はよく出来ていただろう。記念に10部ほど印刷してもらったが、欲しいと言う者がいなくてな。ちょうどいいから持っていけ。床に敷き詰めるといい。お前は綺麗好きだっただろう?」
「新聞は偽物?!ろ、牢?!では宰相は?!あの男が証拠を捏造していたのは本当のことです!宰相は?!」
「その捏造していた証拠というのは何処にも無い。一斉査察は入ったが“辺境伯の子供たち”による不正も横領も見付からなかった。お前の仲間のものは見付かったがな。もう観念して牢に入れ」
項垂れて仲間諸共牢に連れていかれた宰相補佐は、急転直下の現実を受け入れられなくて呆然としていた。
それを見送った国王は、背後からゆらりと現れたオーガストに、独り言のように話しかけた。
「あいつは口を割るだろうか」
「割らせてみせるさ。オランディーヌのためにも、フランのためにも」
「無理はしなくていい。証拠は無いんだろう?」
「それなんだが、サティが見付けた。オランディーヌが殺害された日に見かけた知らない怪しいメイドをずっと探していたんだが、先日見たんだと」
「そのメイドはどこに?!もう捕まえたのか?!」
「さっき捕まえた」
「は…?」
「宰相補佐の趣味は女装でな、ある特殊な酒場にいるのを見た時に分かったって。サティの記憶力は確かだが、男の時と女装している時では仕草が全く違っていたから気付かなかったらしい」
「……サティはなぜ、その特殊な酒場にいたんだ?」
「さあな。それは聞かないでやってくれ」
~~~~~~~~
その日、ドルトレッド伯爵家では内輪のパーティーが開かれていた。
マイラー・ネルソン前子爵、冤罪が晴れて子爵に戻ったノーマン・ネルソン、その息子のオスカー、ギルバード、フレッドは一同に会することが出来たことを喜んだ。
ジャクリーンとメイベルはそれを離れた所から見守っていたが、フレッドに手を引かれ、メイとマリに背を押されて、その輪に入った。
それを微笑ましく見ていたサラは、マイクに話しかけた。
「ふふ、メリー…じゃなかった、メイベルさんも嬉しそうで良かった。あんなのが父親だって分かって落ち込んでたから心配してたのよね。そういえばハリソンとセドリックはどうしてるの?無罪放免なの?」
「王宮で、扱き使われてるって。後始末が大変だから。仕事は出来るからね」
「そっか。オーガスト先生も戻っちゃったね。また庭師の親方募集しなきゃ」
「そうだね」
「元気無いね。寂しくなったの?」
「僕…王宮に行くことにした」
「………え?」
「とうとう来たか!」
新聞の一面は、“辺境伯の子供たち”が、不正、横領、密輸、麻薬栽培、人身売買などあらゆる犯罪に手を染めていて、一斉に摘発されて崩壊したという記事で埋められていた。
「宰相殿はやる時はやる男ですなあ。さてさて、それらの証拠が宰相殿による捏造だと知られたら今度は宰相殿が破滅する番ですなあ。“辺境伯の子供たち”が潰され、宰相殿まで消えてしまったら…ホッホッ、国王陛下も王太子殿下も私に頼るしかありませんなあ」
宰相補佐は意気揚々と手の内の者に指令を出した。
“辺境伯の子供たち”はその者らが、相手先に到着するのを待って一網打尽にした。
それを知らない宰相補佐は、国王陛下に謁見を申し込んだ。
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「宰相補佐。面を上げよ。用件は何だ?」
「はっ。国王陛下におかれましては…」
「良いから早く話せ」
いつになく圧が強い国王陛下に戸惑いながら、宰相補佐は話した。
「陛下は今朝の新聞をご覧になられましたか?かつては冤罪を許さない素晴らしい組織であった“辺境伯の子供たち”は時と共に堕落していました。それを追い詰めた宰相閣下の手際はお見事でしたが…しかし、私は知ってしまったのです。宰相閣下は功を焦る余り、必要以上に証拠を捏造し、剰え自分の犯した人身売買の罪まで“辺境伯の子供たち”のせいにしたことを!
“辺境伯の子供たち”と宰相閣下を同時に失うことになりますが、私にお任せください。この国の危機を乗り越えて、より良き未来へと導いてみせます!」
決まった!と思った宰相補佐は無反応の国王陛下に気付いて、目線を宙に泳がせた。
「話はそれだけか?」
「は…はい!(何かマズいことを言ったか?いや、そんなことは…)」
「より良き未来、か。それはお前にとって、ということか?」
「い、いえ!この国の未来を思って私は…!」
「人身売買をしていたのはお前だろう?お前は宰相がノーマン・ネルソン子爵に人身売買の罪を被せようとしていることに乗っかって裏で取引していた。間に人を介していたことで証拠が掴めなかったが、とうとう捕まえた。横領と不正もしているな」
「は?!いえ!そんなことは私はしていません!証拠とは一体何のことでしょうか?!」
国王陛下が合図をすると謁見室の扉が開き、捕らえられた者たちが入ってきた。
「お、お前たち!…は誰だ?!」
「ほう、知らないと?」
「知りません!」
「ちゃんと見ろ。中にはお前の屋敷の使用人や従兄弟もいるようだが?」
「し……くっ!なんで、そんな…」
「あの新聞はよく出来ていただろう。記念に10部ほど印刷してもらったが、欲しいと言う者がいなくてな。ちょうどいいから持っていけ。床に敷き詰めるといい。お前は綺麗好きだっただろう?」
「新聞は偽物?!ろ、牢?!では宰相は?!あの男が証拠を捏造していたのは本当のことです!宰相は?!」
「その捏造していた証拠というのは何処にも無い。一斉査察は入ったが“辺境伯の子供たち”による不正も横領も見付からなかった。お前の仲間のものは見付かったがな。もう観念して牢に入れ」
項垂れて仲間諸共牢に連れていかれた宰相補佐は、急転直下の現実を受け入れられなくて呆然としていた。
それを見送った国王は、背後からゆらりと現れたオーガストに、独り言のように話しかけた。
「あいつは口を割るだろうか」
「割らせてみせるさ。オランディーヌのためにも、フランのためにも」
「無理はしなくていい。証拠は無いんだろう?」
「それなんだが、サティが見付けた。オランディーヌが殺害された日に見かけた知らない怪しいメイドをずっと探していたんだが、先日見たんだと」
「そのメイドはどこに?!もう捕まえたのか?!」
「さっき捕まえた」
「は…?」
「宰相補佐の趣味は女装でな、ある特殊な酒場にいるのを見た時に分かったって。サティの記憶力は確かだが、男の時と女装している時では仕草が全く違っていたから気付かなかったらしい」
「……サティはなぜ、その特殊な酒場にいたんだ?」
「さあな。それは聞かないでやってくれ」
~~~~~~~~
その日、ドルトレッド伯爵家では内輪のパーティーが開かれていた。
マイラー・ネルソン前子爵、冤罪が晴れて子爵に戻ったノーマン・ネルソン、その息子のオスカー、ギルバード、フレッドは一同に会することが出来たことを喜んだ。
ジャクリーンとメイベルはそれを離れた所から見守っていたが、フレッドに手を引かれ、メイとマリに背を押されて、その輪に入った。
それを微笑ましく見ていたサラは、マイクに話しかけた。
「ふふ、メリー…じゃなかった、メイベルさんも嬉しそうで良かった。あんなのが父親だって分かって落ち込んでたから心配してたのよね。そういえばハリソンとセドリックはどうしてるの?無罪放免なの?」
「王宮で、扱き使われてるって。後始末が大変だから。仕事は出来るからね」
「そっか。オーガスト先生も戻っちゃったね。また庭師の親方募集しなきゃ」
「そうだね」
「元気無いね。寂しくなったの?」
「僕…王宮に行くことにした」
「………え?」
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